2017年8月3日の日経新聞で「政府成長戦略、企業の稼ぐ力に別指標『ROA』」という記事がありました。
政府が本年6月に公表した成長戦略「未来投資戦略2017」で、「ROA」の改善が新目標として掲げられたようです。「未来投資戦略2017」では、大企業(TOPIX500)のROAについて、2025年までに欧米企業に遜色のない水準を目指すとしています。
ROA(総資産利益率)とは、総資産に対する収益性の指標であり、ROA = 利益÷総資産(%)で算出されます。
新聞報道では、ROAの算定式の分子の「利益」には「純利益」が使われていますが、「利益」に何を置くかは企業によって異なり、おそらく「営業利益+受取利息・配当金(金融収益)=事業利益」を「利益」とするのが本来適切かと思います。この点は後で触れますが、ひとまず、新聞の記事に併せて「利益」を「純利益」とおいて話を進めます。
これまで資本市場からはROE(=純利益 ÷ 株主資本(%))の向上が求められてきました。伊藤レポートでもROE8%以上を企業は目指すべきとされています。ROEをこれまで指標として重視してきた中でROAを政府が目標に加えた理由は何でしょうか。
新聞報道によれば、ROEをあまりに重視すると株主至上主義に陥ることになりがちで、企業の保有する資産に基づく収益性の向上に必ずしもつながらないということが背景にあるようです。
以前にブログでも書いておりますが、ROEは分解すると(デュポンシステムといいます)次の式になります。
ROE = 純利益 ÷ 株主資本 = 売上高純利益率 × 総資産回転率 × 財務レバレッジ
このため、純利益率が低い、また回転率が低くても、株主還元を行うことで財務レバレッジを高くすれば、ROEは向上します。しかし、株主還元とは、配当や自社買いを意味し、これにより利益を享受するのは当然株主に限定され、会社債権者などは利益を享受できません。つまりROEのみを重視すると、株主のみを偏重することにもつながりかねないというものです。
一方、ROAは次の算式になります。
ROA = 純利益 ÷ 総資産= 売上高純利益率 × 総資産回転率 (新聞報道に併せて分子を「純利益」としています)
算式を見て分かるようにROEとの違いは、財務レバレッジの点です。ROAはROEの構成の一部といってよいかと思います。
ROAを向上させるには、①売上高に対する収益性を高める(=売上高純利益率のアップ)②少ない資産で大きな売上高を上げる(=総資産回転率のアップ)が必要になります。
バランスシートの右側は、他人資本と自己資本で構成され、これら全てを活用して企業が効率的に利益を上げられるかの指標がROAになります。ROAの改善を目標にすることで、従業員や会社債権者といった株主以外のステークホルダーの目線にそって、効率的に稼ぐことが期待できるというものです。
さて、ここで、ROAの分子となる利益ですが、日経新聞の報道では純利益を使っていますが、「事業利益」とするのが本来より適切と考えます。
企業活動は大きく①営業活動と②金融活動・財務活動に分けられますが、株主資本と他人資本を活用した企業の収益性を見るというのがROAですので、とすれば、①と②を分子に入れないと分母と分子が一致しないと思います。
そして、①はPLで見ると、営業利益であり、②は受取利息・配当金といった金融収益になります。結果、ROA=事業利益 ÷ 総資産(%)となります。
純利益を分子にすると、特別損益が加減されるので、毎期純利益が変動し、ROAも不安定になります。ただし、ROEとの単純比較という点では、分子を純利益を使うことで、ROEとROAの比較がし易いというメリットは 一応あります。
ROAは、ROEと異なり公表している企業は多くないと思いますが、公表している企業によって、分子の利益に、営業利益を使用したり(この場合、企業の財務活動による収益である金融収益が入ってきません)、経常利益や純利益を使うケースなど色々とあり、企業間の比較をする場合には、その企業がROAの算定の分子に何の利益を使用しているのかを見ないと比較ができないので注意が必要になります。
今後、ROAの開示が決算短信や有価証券報告書において要求されることになるのかなど注視すべき事項と思います。
なお、「未来投資戦略2017」には、コーポレートガバナンス改革による企業価値の向上、経営システムの強化、中長期的投資の促進、事業再編の円滑化といった取組みが含まれているようですの、一度じっくりと読んでみたいと思います。