中長期的な企業価値向上のためのコーポレートガバナンス・アドバイザー / 長期での中小型株の割安株投資情報

最近のコーポレートガバナンスと資本市場の動向を踏まえ、上場企業実務の視点から中長期での企業価値向上に役立つ情報分析・発信をしていきます。個人投資家のコーポレートガバナンス力の向上による「意思のある投資」に役立つ情報発信もしています。また長期での割安株投資の情報も

物言う株主(アクティビスト)の視点からのコーポレートガバナンス・コードの読み方(第8回) ー 非財務情報の開示。非財務の意義

これまでコーポレートガバナンス・コードの第1章の「株主の権利・平等性の確保」について、資本政策の基本方針、政策保有株式、買収防衛策、MBOについて個人投資家がアクティビストの視点から投資先企業を分析・提案するポイントを書いてきました。これら各事項は、投資ファンドであるアクティビストが株主提案をする際に頻繁に用いる重要視点ですので、個人投資家の方はしっかりと勉強されることをお薦めします。

本日は、コーポレートガバナンス・コードの「第3章 適切な情報開示と透明性の確保」について話をしたいと思います。

ここは第1章のように投資先企業を攻める細かい論点があるというわけではありません。ここは大きな観点から、会社が非財務情報の開示を行う際の基本的な考えが記載されています。従い、個人投資家の方は、第3章は企業に物申すためのピンポイントの武器とするのではなく、ベースにある考え方として理解することが大事になります。

まず非財務情報とは何でしょうか。反対用語は財務情報です。とすれば決算短信等に記載の決算に関する情報以外の情報が非財務情報とまずは言えます。次に、非財務情報の開示が何故重要になるのでしょうか?

ここは投資家のタイプに分けて考える必要があります。数ヵ月から1年程度といった短期間で株式の売買をする投資家にとっては、会社の四半期決算の数値が一番大事です。数値以外の情報は必要性ゼロと言ってもよいかと思います。こういう投資家にとっては非財務情報=価値ゼロとなります。

一方で、3〜5年といった中長期の期間で株式投資をする投資家にとっては、四半期決算情報は実は大きな意味がありません。だって企業の業績はその時々の状況によって良い時もあれば、悪い時があるのが普通です。今年度の1Qの決算数値が良くても、その後の2年後後の決算の数値が良いとは言えません。このように四半期決算を見ても3年後の業績は予測が出来ないのです。

それはそうですよね。将来、技術革新が起こるかも知れないし、競合他社が技術開発をしたり、またはM&Aで競争力を高めたりする可能性もり、また法規制が大きく変わる可能性もあります。それによって企業業績は大きな影響を受けます。

短期の好決算情報は数年後に好業績を約束してくれるものでないのです。ここで、3年~5年後の企業業績の大きな良し悪しを現時点で判断する情報として非財務情報が出てくるのです。つまり、短期の業績数値では企業の将来業績は分からず、このため、現時点においては数値化されていない情報に目を向けようというのが非財務情報です。

では、「非財務情報の概念は分かったが、具体的には何がこれに該当するのか?」という疑問が次に出てくるかと思います。少し長くなりますのでここからは次回、掲載したいと思います。

物言う株主(アクティビスト)の視点からのコーポレートガバナンス・コードの読み方(第7回)(追加) ー 有事導入型買収防衛策に対する個人投資家の判断ポイントは

7月2日に有事導入型買収防衛策(以下、有事導入型と略します)について記事を書きましたが(最後に再掲しています)、本日、読み直したところ、何故か、企業としてどうすべきかという結論で終わっていました。

このシリーズは、個人投資家コーポレートガバナンスを武器に投資先企業の企業価値をいかに高める行動をすべきかという視点から記事を書いています。従い、有事導入型を企業が導入しようとする場合、個人投資家はどう判断したらよいかという視点から本日は説明を加えたいと思います。

有事導入型は「後出しジャンケン」で、数年前までは「言語道断である」という考えが普通でしたが、この1~2年で大きく状況が変わりました。ものすごく簡単にいうと、有事導入型であっても株主総会に諮り、過半数の株主の賛同が得られれば有効という方向にあります。

とすると、株主としては、株主総会で有事導入型の議案に賛成又は反対のいずれの議決権行使すればよいでしょうか?

それは、経営陣が自社の理論株価をいくらと考え、敵対的買収者のTOB価格を上回る理論株価に市場株価がいつ到達できるかをコミットしているか否かで判断すべきと思います。有事型の導入での争いにおいては、経営陣はTOB価格は低廉であり、自社の理論株価は高いということを株主に納得してもらい、賛同を得るわけです。

ということであれば、TOB価格を超える理論株価はいくかであるか ②理論株価に市場株価が追いつくのはいつであるのかの2点を明確にコミットすることが大事になります。TOBを阻止するのであれば、このコミットが本来あるべき姿と私は思います。

時期がいつ頃になるのかは重要です。仮にTOB価格が1000円として、企業側が理論株価が1200円で、それに市場株価が到達するのは5年後という回答をした場合はどうでしょうか? これは駄目ですね。お金の価値は時間の経過により変わります。5年後の1200円は現在の価値に戻すと1000円を下回ることもあります。

企業にコミットを求めると、「明確なコミットは無理だ。株価は色々な要因で決まるところ、目標に到達できないと株主からの訴訟提起のリスクがある」と言われることがあるかも知れません。けどこれは「本当?」と疑ってかかった方がよいかも知れません。だって日本企業の場合には、中期経営計画で具体的な数値目標を掲げているところ、それが未達に終わっても株主から訴訟を提起されたということは、まず耳にしたことはありません。これと同じです。訴訟リスクを考えて、コミットできないというのは言い訳に過ぎないとも言えます。

ということで、有事導入型を投資先企業が検討した場合、個人投資家は上記視点から議案への賛否を判断することが大事になるのではないでしょうか。

政策保有株式の縮減 ー 保有金額が高いと株主総会で経営トップへの反対増のリスク

7月22日の日経新聞に政策保有株式の縮減について、次の記事が掲載されていました。

政策保有株、三菱商事は58銘柄減 資本コストを意識: 日本経済新聞

三菱商事などの総合商社が政策保有株式の縮減を進めているという内容の記事です。ブログでも何度か記事を書いていますが、政策保有株式を持つことは物言う株主、アクティビストから狙われるリスクがあり、これも背景の1つにあり、各社とも保有銘柄数の縮減を進めているのだと思います。

政策保有株式を多く保有していると機関投資家から来年の株主総会で経営トップへの反対票が増えるリスクもあります。議決権行使助言会社のISSは、純資産の20%を超える政策保有株式の金額の場合に経営トップへの反対推奨をしています。グラスルイスは10%の基準です。この結果、これらに抵触する企業は、ISSやグラスルイスの基準をそのまま採用することが多い海外機関投資家が反対するリスクが増えます。

一方、国内機関投資家はどうでしょうか? 国内機関投資家は今のところ明確な定量基準を設けているところは少ないです。けど、議決権行使助言会社の判断基準などを参考に来年からは基準を策定するという声を複数の機関投資家から聞いたこともありますので、これは私の想像ですが、来年の総会からは比較的厳しい議決権行使基準を設定するのではないかと思います。

政策保有株式の銘柄数には変動はなくても、株価が上昇すると政策保有株式の金額も上昇します。結果、機関投資家の議決権行使基準に抵触し、経営トップへの反対が増えるという事態も今後は十分にあります。来年の議決権行使基準の動向について機関投資家に確認しつつ、必要に応じて、早い段階から政策保有株式の縮減を検討することが企業には求められるかと思います。

個人投資家の中長期投資のための有価証券報告書の読み方 ① ー はじめに

来週から3月期決算の上場企業各社の1Q決算発表が本格化しますね。前にブログで書いたとおり、私は保有銘柄の四半期決算を見た後に、この3ヵ月間のその企業の周辺関連情報を踏まえて、必ず投資先企業のIR部門に疑問的を結構細かく質問をして、株式保有の前提に大きな変化がないかを確認するようにしており、これは個人投資家に出来る重要な作業かと考えています。

これに加えて、この時期であれば、既に6月末に公表されている2021年度の有価証券報告書(以後、有報と略します)の分析も重要かなと思います。私は、社会人1年目から仕事で有報の作成に関与してきましたが、株式投資をするようになってからは、他社の有報なども興味深く見るようにしています。この2~3年で有報の記述情報の記載も拡充していますが、幸いにして実務に関わっているので、各社の有報のポイントも比較的容易に理解できます。

ツイッターにも書いたのですが、本日の日経新聞で次の記事がありました。有報が投資判断と重要な材料ということです。

有価証券報告書で投資判断: 日本経済新聞

個人投資家も2つに分類されるかと思いますが、短期投資をしている方には有報は読む必要はゼロですが、中長期投資をしている方には重要な投資の判断材料と思います。このほかに物言う株主的な行動をしたいと思っている方にとっても重要な情報です。特に有報で重要なのは、記述情報と言われる非財務情報です。

財務情報は通期決算短信や決算説明会資料で細かい開示がされますが、それ以外の情報が細かく開示されているのが有報です。大型株に該当する企業であれば、統合報告書やアニュアルレポートを作成しており、そちらの方がより充実した非財務情報が開示されていますので、有報よりそちらの方が価値がある場合も結構あります。けど、中小型銘柄の企業の場合、統合報告書を作成していない企業も多く、また作成していても極めてしょぼいケースが多いです。そういう企業の場合、非財務情報を知るには有報は貴重な情報になります。

機関投資家の方は、有報を非常に細かく分析されていますが(当然ですが)、個人投資家の方は見たこともないし、見ても何が記載されているのか全く分からないという方がほとんどではないでしょうか?上場企業で本社で財務・経理の実務を担当されている方は、詳しくかとは思いますが。ということで、今後、不定期にはなりますが、個人投資家の方が有報を読む上で重要と思われる視点をブログでも書いて行きたいと思います。

GMOインターネットが買収防衛策のスキームを変更 ー 導入企業は今後スキームの見直しが必要かも知れません

3月期決算企業の1Q決算発表が来週から本格化します。私の場合、四半期決算発表の都度、投資先企業の決算短信と説明会資料を見て、IR部門に中期経営計画の進捗や期末の決算説明会動画での経営トップの発言の進捗を細かく質問をしているのですが、今週から情報を整理して、週末に質問の下準備をする予定です。

さて、本日の日経新聞にも記事がありましたが、GMOインターネットが事前警告型の買収防衛策のスキームの一部変更をするようです。次のとおりプレスリリースが公表されています。

https://ir.gmo.jp/pdf/irlibrary/gmo_disclose_info20220719_01.pdf

GMOの事前警告型は株主総会ではなく、取締役会の決議のみで継続更新するのですね。少し前に買収防衛策を廃止したエーザイと同じタイプですね。事前警告型では珍しいタイプです。

今回どこを変更したのかというと、取締役会が一定の場合には、対抗措置の発動の是非について株主の意思を確認するための株主総会を招集し、株主ご意思を確認することができることを明記したようです。変更前後の対比表がないので、どこかどう変わったのかは細かくは良く分かりませんが、GMOのスキームでは、大規模買付者が大規模買付ルールを遵守しない場合には、次のとおり記載されています。太字は私がハイライトしました。

①取締役会の判断により対抗措置を発動する場合
大規模買付者が大規模買付ルールを遵守しない場合、具体的な買付方法の如何にかかわらず、当社取締役会は、当社株主の皆様の共同の利益及び当社の企業価値を守ることを目的として、会社法その他の法令及び当社定款が取締役会の権限として認める措置(以下、「対抗措置」といいます。)を講じ、大規模買付行為に対抗することがあります。対抗措置は原則として、新株予約権の無償割当てによるものとしますが、その時点で相当と認められるものを選択することになります。なお、具体的な対抗措置として新株予約権の無償割当てを行う場合の新株予約権の概要は、別紙3記載のとおりとします。新株予約権の無償割当てを行う場合には、新株予約権に、対抗措置としての効果を勘案した行使期間及び行使条件(大規模買付者を含む特定グループは当該新株予約権を行使できないものとする等)を設けることがあります。
②株主意思確認株主総会の決議に基づき対抗措置を発動する場合
上記①の場合のほか、当社取締役会は、(a)大規模買付者が大規模買付ルールを遵守しない場合であっても、対抗措置の発動の是非について株主の皆様のご意思を確認するための株主総会(以下、「株主意思確認株主総会」といいます。)を招集し、対抗措置の発動の是非について株主の皆様のご意思を確認することが適切であると当社取締役会が判断した場合、又は、(b)下記4.(2)に定める当社取締役会からの諮問に対して特別委員会が株主意思確認株主総会を招集することを勧告した場合には、株主意思確認株主総会を招集し、対抗措置の発動の是非に関するご判断を株主の皆様に行っていただくことができるものとします。 

このあたりが今回の変更箇所でしょうか? この1年間の有事型の買収防衛策の裁判例から、対抗措置の発動においては株主総会で株主の賛同を得るのがポイントになっています。GMOもこれらの判例を踏まて、株主総会に諮ることをスキームに織り込んだのかも知れません。

来年、買収防衛策の更新期限を迎える企業は、夏休み明け頃から社内検討を開始することになるのだと思います。事前警告型に対する機関投資家の判断は、厳しい状況が続くとは思いますが、株主総会過半数の賛同が得られる限り継続更新したいという企業も多いかと思います。

この10年間は事前警告型のスキームの大きな変更は必要ありませんでした。理由は簡単で裁判例がなかったからです。けど、この1年間で大きく状況は変わりました。来年更新期限を迎える企業はこの1年間の裁判例を踏まえて、スキームの見直しが必要になるかも知れません。

機関投資家が企業に求めるROE基準は? ー 個人投資家は投資先企業のROEを見ましょう

本日から3連休です。保有銘柄のこの1週間の関連情報の収集・整理と、久しぶりに伊藤レポート2.0を読み込む予定です。伊藤レポートはコーポレートガバナンスの下敷きとなっていますが、この3連休で知識を整理するため、久しぶりに読み直したいと思います。個人投資家の方もコーポレートガバナンス・コードを読むに先立ち、この伊藤レポート2.0とその前に出された伊藤レポートをしっかりと読むとよいかと思います。

先週は国内主要機関投資家の議決権行使基準の整理をしていましたが、機関投資家が取締役選任の賛否で基準とするROEの基準は、個人投資家の方はご存じでしょうか?

基本的に5%です。正確には、ROE5%未満が過去3期連続して、かつ業種内で下位にある場合などの場合、経営トップはじめ3年以上在任の取締役に反対するというケースが多いです。議決権行使助言会社であるISSもROE5%未満が過去5期連続等の場合に反対としています。

分かり易くいいますと、ROE5%を下回る企業の取締役は経営陣として不適任ということを機関投資家議決権行使助言会社は言っているわけです。「あれ、伊藤レポートでは8%では?」と思われた方もいると思います。個人投資家でここまで理解されている方は、コーポレートガバナンスを少しは勉強されている方かと思います。

そうです、伊藤レポートでは8%を求めていますが、日本企業にとって8%はまだハードルが高いので、機関投資家は今のところ5%という基準を設定しています。なお、先ほどのISSは、この数年はコロナのため特例として5%の基準の適用は停止していますが、国内の機関投資家は今年の株主総会では厳格に適用しています。結構厳しいですね。最近のインフレはじめ海上運賃アップを考えると、企業の利益は厳しいところがあり、「ここ数年はROEは少し大目に見てよ」というのが多くの企業の声だとは思いますが、機関投資家はそうは見ていないということですね。

個人投資家の方は、機関投資家はROE5%未満が続く企業の経営陣は不適切という理解をしているということをまずはしっかりベースに理解することが大事です。自分の投資先の企業のファクトブックなどでROEを見て、低い場合には投資先企業のIR部門に「ROEの低い理由は何であるのか?」「株主資本コストを下回っているのではないか?」といった質問をするのは、極めて合理性のある行動と言えます。IR部門の方からすると「この個人投資家の方は良く勉強をされているな」と思うはずです。勿論、5%を下回っているから駄目とは短絡的に考えるのもNGです。

低い理由は一過性のものか、企業として今後のROE向上をどう考えているのか等をしっかりと確認して企業と対話をするという姿勢が企業と個人投資家双方にとって重要なのだと私は思います。

上場企業は「ファン株主」作りがより大事になります ー 株主優待?いや違います

先日、株主提案の件数増加の記事を見ていて、企業にとって今後重要な株主政策は個人株主の中でファン株主をいかに増やすことであると思いました。ファン株主の言葉を聞いたことがない方もいるかも知れませんが、野球やサッカーの特定チームにそれぞれファンがいるように、特定企業のファンである株主をいいます。個人株主は、大きく短期投資目的の株主とファン株主に分かれます。株主提案があった場合に会社を守るには、ファン株主が大事になるのです。

では、ファン株主を作るにはどうすれば良いでしょうか? 株主優待を手段にしている会社もあるかと思います。その会社の製品やサービスを受けとると何となくその会社が好きになるということもあるのかも知れません。けど、私はそれは小手先だけの施策に過ぎないように思います。そういう株主は株主優待を貰うことにしか関心はなく、株主提案にも平気で賛同することも十分あります。

ではファン株主を作るにはどうすればよいかというと、株主総会での経営トップとの質疑応答をする機会を会社が積極的に作ることがとても大事に思います。個人株主は機関投資家と異なり決算説明会に出て経営トップに質問をする機会がないのです。そういう中で、唯一、トップと会話を出来る機会が株主総会です。では株主総会に出席すれば気軽に質問できるでしょうか?

これは「NO(ノー)」です。「え、株主総会で自由に質問できないの?」という疑問を持たれたかも知れませんが、物理的には質問の障害は一切ありません。当然ですね。では何の障害があるのかというと、心理的な障害です。心理的なハードルといった方が分かり易いかも知れません。

役員がずらり並んだセレモニーのような静かな場所で一般の個人株主が質問をするというのはそれなりに勇気がいります。特にわずかに数百株~1000株程度しか持っていない株主は、自分のような少額投資の株主が質問することは恥ずかしいという気持ちを持つ方も多いと思います。1万株程度保有するのであれば、「俺は株主だ」という気持ちにもなるかとは思いますが。

そういう株主の気持ちを汲んで、株主総会では質問しやすい環境を作り、質問をした個人株主に対して経営トップが時間をかけて、丁寧に回答することが大事なのだと思います。たいしたことでないかも知れませんが、これは大事です。

これにより、自分が大事に扱われていると感じることで、その企業のファンになるのです。人間関係と全く同じですね。是非、上場企業の経営トップの方は、来年の総会に向けて、本当のファン株主を作ることを早めに考えた方がよいかと思います。

機関投資家は当社を理解してくれているのでは?② ー 機関投資家の議決権行使基準

昨日の日経新聞に今年の株主総会での株主提案の件数や特徴について記事が掲載されていました。先日の日経ヴェリタスと同じ内容の記事ですが、上場企業の方は目を通された方がよいかなと思います。この記事を見て思うには、個人投資家物言う株主として企業に対して行動を行う環境が整備されつつあるなと思いました。

前回、機関投資家の議決権行使基準について、企業サイドは機関投資家に議決権行使基準と異なる行動を期待してしまうことが多々あるという記事を書きました。けど、現実には、機関投資家はそういう行動をとることはなく、議決権行使基準を遵守した議決権行使をすることにならざるを得ないということです。その理由は何でしょうか?

これについて、旬刊商事法務の7月5日号に某機関投資家の担当者が参考になる記事を書いております。それによれば、機関投資家の議決権行使基準は機関決定されたものであり、そもそも年金基金等のアセットオーナーとの資金委託契約時に提示して確定しているため、位置づけは重く、基準の遵守が原則ということです。これって基本的ですが、とても重要なことかと思います。私もこの記事を読んで「そうだよな」とあらためて思いました。

ということであれば、機関投資家の方は、対話の際に「異なる判断をすることもあるよ」などという企業に期待を持たせる発言はしないで欲しいところではありますが、基準と異なる議決権行使は現実には非常に例外的ということのようです。

では、企業としてはどうするかですが、先ほどの旬刊商事法務に2点ほど紹介されています。1つは企業の実態の改革であり、もう1つが判断基準のオーバーライドということです。

最初の実態の改革は理解は簡単ですね。議決権行使基準にそった内容に改善するということです。けど、実務上は困難ですね。ROEを5%以上にせよといっても企業の資本政策に関わることであり、簡単には出来ないことと思います。

とすると、あとはオーバーライドですね。要するに、基準に達していないが、企業が改革途上にあること、そして近い将来に基準を達成すると投資家が判断する場合には、例外的に賛成の判断をする場合もあり得るということです。そのためには、企業は機関投資家と十分な対話を早期に実施して、企業の現状、今後の取り組み、改善の見通しについて理解して貰うことが必須になります。

対話をしても成功する可能性は低いかも知れませんが、対話をしてまずはお互いの理解を深めるということが大事です。投資家との非財務情報の対話を実施していない企業は、まずは実践してみることが大事だと思います。では、「どういうことをやるの?」ということですが、前にもブログで書いたことがありますが、また別の機会にブログであらためて記事を書きたいと思います。

コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針の改訂 ー 物言う株主にとっての新たな武器ですね

本日の日経新聞で次の記事が掲載されていました。

「投資家を社外取に」提言 経産省、市場と相互理解促す: 日本経済新聞

経済産業省のCGS研究会がこれまで複数回開催されてきましたが、先日、「コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針」の改訂版のドラフトが公表されました。本文は非常に長いので、読む気が失せる方も多いと思いますので、エグゼクティブサマリーを紹介します。

https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/cgs_kenkyukai/pdf/3_006_03_00.pdf

この手の指針が出ると、企業の方は「所詮ソフトローだろ」「役所も企業実務が分からないまま色々な指針を作るなよ」という不満を持つ方は多いと思います。結果、この指針も見まないで終わるケースが圧倒的に多いかと思います。その気持ちも良く分かります。けど、注意すべきは、この指針は物言う株主にとっての武器になるという点です。

今年は新聞報道にもあるように株主提案の件数が過去最高でした。アクティビストではなく、穏健な運用会社も株主提案を出しています。一般の運用会社は、株主提案者が誰であるかではなく、提案内容に合理性があるかないかを是々非々で判断して、株主提案を判断しています。

結果、株主提案への賛成率も高い結果に終わっています。つまり、企業価値向上につながる株主提案への賛同が大きく増えた1年と言えます。そして、この指針も企業価値向上に資するものとして改訂されています。

個人投資家もこの実務指針をじっくりと読んで、来年の株主総会シーズンには自分の投資先企業の株主総会に出席して、指針に基づく質問や提案をすることも真剣に考えてもよいかなと思います。コーポレートガバナンス機関投資家だけが勉強すべきものではないです。

私は、常々、個人投資家も投資力アップのためには、コーポレートガバナンス・コードをはじめコーポレートガバナンスに対する知識を深めることが必須であると考えています。これにより、個人投資家の投資先企業への物言う力が高まるのです。株を購入した後は、株価が上昇するのをただ待つだけという弱者の立場から個人も脱却すべきと思います。近いうちに、コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針の読み方をブログでも掲載して行きたいと考えています。

機関投資家は当社を理解してくれているのでは?① ー 機関投資家の議決権行使基準

明日はある銘柄の買い増しをする予定で、本日は夕方頃に周辺情報の整理をしていました。明日もオフィスで業務のため、仕事上にPCから堂々とネットで株取引をする勇気は私にはないので、株取引をするのは、昼休みの1時間の時間帯や午後の業務の合間のスキマ時間しかないところではあります。この銘柄は、ある理由で株価が大きく下げたのですが、中長期で見ると確実に収益は拡大するはずですので、保有銘柄を売却しながら、買いを進めているところです。

さて、明日は仕事上の必要があり、国内主要機関投資家7~8社の議決権行使基準の整理をする予定ですが、この議決権行使基準について本日は書きたいと思います。

本年の定時株主総会が終わり、議案の賛成率が低い結果に終わった企業もそれなりに多かったと想像します。統計を整理しているわけではないので、数は分かりませんが、不祥事があったり、不祥事はないが業績が低迷している企業は、経営トップへの賛成率が低いところが多かったのではないでしょうか。

となると、「機関投資家は画一的な判断しかしないではないか」と不満を持つ企業も必ず出てきます。昨年、ある大手企業の実務担当者と会話をした時、このような不満を漏らしていました。特にROEが低迷していることを理由に役員への反対率が増えた企業は、機関投資家の議決権行使スタンスに不満を持つこともあるようです。

ROEが低迷しているといってもここ2年はコロナの影響があったし、また、2021年度だってウクライナ侵攻で供給網が混乱しているし、海上運賃もえらく上がっているので、やむを得ないところであり、このあたりの事情をどうして機関投資家は分かってくれないのかなという不満です。私も事業会社のサラリーマンなので、先ほどの他社の実務者の話を聞いた時は、そのように思っていました。

機関投資家と対話をすると「議決権行使基準はあるが、必ずしも基準どおりに行使するわけではなく、企業との対話の結果を踏まえて基準と異なる議決権行使をする場合もありますよ」という言葉を時々聞きます。事業会社の方はこの言葉に安心してしまうことが多いのだと思います。

「ウチはROEが業種の中で低いけど、複数の事業を抱えており、その中の特定事業の利益率が低いのが原因であり、これは機関投資家は十分に理解してくれているはずである」といったことです。従い、「ウチに対して機関投資家が議決権行使基準を画一的に行使することはないであろう」という根拠のない安心感です。特に、非財務情報について機関投資家と定期的に対話を実施しているような企業は、「対話の実施=お互い理解している」と思うことが多いかも知れません。

けど、この考えはあらためる必要があります。続きは次回、お話をします。

物言う株主(アクティビスト)の視点からのコーポレートガバナンス・コードの読み方(第8回)ー MBO(マネジメント・バイアウト)

旬刊商事法務の第2299号にニッセイアセットマネジメントの井口氏の執筆した「来年の株主総会機関投資家の賛同を得るために」の記事がありますが、これは興味深かったです。機関投資家の議決権行使基準の考えを知りたい方は一読をおすすめします。週末に余裕があれば、これに関連してブログでも触れてみたいと思います。

前回の第7回に続いて、本日はコーポレートガバナンス・コードの第1章「株主の権利・平等の確保」の中にあるMBOについて、物言う株主から企業に主張する場合のポイントのお話をします。コーポレートガバナンス・コードの原則1-6に次の規定があります。

【原則1−6.株主の利益を害する可能性のある資本政策】支配権の変動や大規模な希釈化をもたらす資本政策(増資、MBO等を含む)については、既存株主を不当に害することのないよう、取締役会・監査役は、株主に対する受託者責任を全うする観点から、その必要性・合理性をしっかりと検討 し、適正な手続を確保するとともに、株主に十分な説明を行うべきである。

MOBでは最近、物言う株主が色々と主張をして不成立に終わる場合も増えていると思います。MBOについては、経済産業省が次のとおり2019年6月28日に「公正なM&Aの在り方に関する指針」を公表しています。

https://www.meti.go.jp/press/2019/06/20190628004/20190628004_01.pdf

これを拠り所にして、MOBでの価格の妥当性を攻撃して、即ち「MBOでの株式価値が低すぎる」と主張して、MOBの価格見直し(アップ)を狙ったり、場合によってはMBO自体が不成立に終わるケースも増えています。上記の原則でいうと「必要性・合理性が検討されておらず、適正な手続が確保されていない」ということになります。

前にもブログで記載したことがありますが、MBOをしたい経営陣はなるべく低い株式価値を算定したいが、一方、対象会社の経営陣としては自社の株主に対してなるべく高い価格で株式価値を算定して売却する義務があるということで、相反する立場にあるという点が一番の大きな課題です。

企業がMBOを選択する際に物言う株主として主張できるポイントは、大きく2つあるかなと思います。1つは、対象企業の株価が低いことを理由に「プレミアムをもっと高くせよ」という主張です。

市場株価が低い場合、つまりPBRが1倍以下の場合やPERが低い場合、株価にプレマムを付けたところでベースとなる株価が低迷しているので、「価格が低すぎるではないか」と主張することです。「株価が割安なのは経営陣のせいであり、市場退出の際にプレミアムをこれだけ乗せましたと胸を張るのは笑止千万」という主張です。

2つ目は、株価価値の算定方法が適切ではないという主張です。

株式価値の算定の1つにDCF法があります。このDCF法というのは、実は結構適当な手法なのです。3年から5年間の事業計画の最終年度の損益数値をどうするかで算定額が大きく変動します。けど、3年~5年後の損益の数値などそもそも予想することがナンセンスであって、会社が先行きの見通しが暗いと考えてDCF法で算定すると株式価値は低くなるのです。

この場合、同業他社のバリュエーションが対象企業よりも高い場合に物言う株主は狙い目です。つまり、DCF法で算定して株式価値が低い結果であっても、同業他社の指標をベースに算定するマルチプル法(EV/EBITDA倍率、PER倍率)で算定すると高くなるとすると、「マルチプルで株式価値を算定すれば高くなるではないか。株式価値の算定は会社の都合の良い算定方法でやっているのでは?」と主張できます。この点は前にブログで記事を書いていますので、最後に再掲します。

纏めると、要するに株価の低迷している企業がMBOをしようとする場合には、物言う株主には色々とチャンスがあるということです。株主としては、保有銘柄と同業他社についてEV/EBITDA倍率、PER倍率は調べておくことが大切かと思います。

 

コーポレートガバナンス・コードの制定の狙い ー 「日本再興戦略」改訂2014より

コーポレートガバナンス・コードの制定は2015年で、2018年と2021年にそれぞれ改訂がされています。今現在は制定から7年が経過しており、昨年の改訂を担当した上場企業各社の担当者や責任者は、2015年の制定時には関与していなかったという方もかなり多いと思います。

私も実はそうであり、2015年の制定当時に担当していた方と会話をすると深いところで自分の理解が足りていないなと思うときがたまにあり、制定のベースとなった2014年の日本再興戦略を先日、じっくりと読みました。

コーポレートガバナンス・コードを制定する狙いが明確に書かれています。「日本再興戦略」改訂2014の該当箇所を抜粋すると次のとおりです。

日本企業の生産性は欧米企業に比して低く、特にサービス業をはじめとする非製造業分野の低生産性は深刻で、これが日本経済全体の足を引っ張っている状況にある。また、グローバルな市場で戦っている産業・企業には、市場環境の変化への対応が遅れ、苦戦を強いられているケースも多い。第2次安倍内閣発足後のマクロ環境の改善により企業業績は回復しつつあるものの、競合するグローバル企業との比較では、未だ十分とは言い難い。サービス分野を含めて生産性の底上げを行い、我が国企業が厳しい国際競争に打ち勝って行くためには、大胆な事業再編を通じた選択と集中を断行し、将来性のある新規事業への進出や海外展開を促進することや情報化による経営革新を進めることで、グローバル・スタンダードの収益水準・生産性を達成していくことが求められている。企業の「稼ぐ力」の向上は、これからが正念場である

コーポレートガバナンスの強化) 日本企業の「稼ぐ力」、すなわち中長期的な収益性・生産性を高め、その果実を広く国民(家計)に均てんさせるには何が必要か。まずは、コーポレートガバナンスの強化により、経営者のマインドを変革し、グローバル水準の ROE の達成等を一つの目安に、グローバル競争に打ち勝つ攻めの経営判断を後押しする仕組みを強化していくことが重要である。特に、数年ぶりの好決算を実現した企業については、内部留保を貯め込むのではなく、新規の設備投資や、大胆な事業再編、M&A などに積極的に活用していくことが期待される。(途中省略)今後は、企業に対するコーポレートガバナンスを発揮させる環境を更に前進させ、企業の「稼ぐ力」の向上を具体的に進める段階に来た。これまでの取組を踏まえて、各企業が、社外取締役の積極的な活用を具体的に経営戦略の進化に結びつけていくとともに、長期的にどのような価値創造を行い、どのようにして「稼ぐ力」を強化してグローバル競争に打ち勝とうとしているのか、その方針を明確に指し示し、投資家との対
話を積極化していく必要がある。同時に、銀行、機関投資家等の我が国の金融を担う各プレーヤーが、長期的な価値創造と「稼ぐ力」の向上という大きな方向に向けて、それぞれが企業とよい意味での緊張関係を保ち、積極的な役割を果たしていく必要がある。

要するに日本の稼ぐ力を取り戻すという命題があり、コーポレートガバナンス・コードを制定したということです。この基本的なところが十分に理解できていないとコードの本質の理解は難しいと思いますので、読まれていない経営トップ、担当役員、担当者の方がいれば、一度該当箇所に目を通されることをおすすめします。

株主還元向上だけでは株価は持続せず ー 資本政策の基本方針が大事ですね

本日は2週間ぶりの在宅勤務でした。人の目もないので、保有銘柄の周辺情報の整理、副業に向けた知識習得、仕事に関連する書籍の読み込みの3点に集中する予定でしたが、オンライン会議と資料作成に追われ、株価を見る余裕もなく一日が終わってしまいました。

そういえば、アイ・アールジャパンHDの株価が上昇していますね。役員のインサイダー疑惑の報道を受け、株価が約4500円程度あったのが1800円程度まで下落しましたが、本日の終値では2112円まで戻しています。物言う株主の増加を考えるとアイ・アールジャパンは今後も存在が必須な企業かと個人的には思います。

さて、本日は6月30日の日経新聞の記事を紹介いたします。

「株主還元ありき」にそっぽ 投資家、資本戦略を注視: 日本経済新聞

株主還元の引き上げだけでは株高は持続しにくいという内容です。たしかに株主還元をアナウンスすると株価は一時的に上昇するかと思います。けど、株主還元だけでは駄目ということですね。

株主還元をどうするかは企業の資本政策ですが、キャッシュフローの使途をどうするかに関連します。つまり成長か還元かですね。

中長期投資の投資家は、会社が事業に投資をして成長し、本業で儲けてくれるのを期待しています。キャッシュフローを成長投資にどう使うか、つまり設備投資、研究開発投資及びM&A等への使途はどうか、その上で余剰資金があれば、株主還元ということを期待しています。成長投資が本年度は少ないということであれば、株主還元を増やせということになるのだと思います。

一方、企業の開示を見ると未だに「安定配当を心がけます」「配当性向は30%です」「総還元性向は50%です」といった意味不明な開示が多く見られます。けど、これどでは物言う株主の恰好の材料です。キャッシュフローをどう配分するかの開示が大事です。

会社の成長への投資が明確でなければ、運転資本分を除いて、株主還元せよと主張されます。「M&Aに使います」などと開示で簡単に触れている企業もありますが、これは駄目ですね。どういう領域でどの程度のM&Aを実施するのか、また陣容はどうかなどの具体性が欠けています。配当についても、安定させる必要はなく、成長投資がない場合には、沢山還元せよということになるのだと思います。コーポレートガバナンス・コードで次の原則があります。

【原則1-3.資本政策の基本的な方針】 上場会社は、資本政策の動向が株主の利益に重要な影響を与え得ることを踏まえ、資本政策の基本的な方針について説明を行うべきである。

上場企業各社は、対物言う株主の視点で自社の資本戦略の開示を良く考えた方がよいかと思います。成長か還元かの方針を明確にするということです。

株主総会後に機関投資家との対話がスタートします ー 投資家との対話のすすめ

この2週間、毎日出社でしたので、今週は火曜日を在宅勤務にする予定で明日は諸々オフィスで雑務を済ませて、火曜日はじっくりと情報のインプットに時間を費やす予定です。保有銘柄の有価証券報告書の精読や株式投資情報の整理も在宅勤務の日に実施します。人の目がないので在宅は何をやってもよいので楽ですね。1週間に数日程度しか会社に来ない人も世の中、多いですが、40代~50代の中高年層のサラリーマンの多くは(勤務先で取締役にはなれず、部長や課長(人によっては係長)どまりで先が見えている層)、自宅では日中さぼっており、夕方頃になってからメールを打ち始める人も相当多いのだと聞いたことがあります。単にさぼるだけになると時間の無駄ですので、人の目のない在宅勤務で専門知識の充実に励み、副業の準備でも真剣にすればよいのにと思います。

私の場合、過去2回のコーポレートガバナンス・コードの改訂は実務でも主体的に深く関与しているのですが、2015年の制定時には別の部署にいたため、導入時の経緯の知識が少しかけており、このため、今週の在宅勤務の際には、コーポレートガバナンス・コードの制定のきっかけになった日本再興戦略や2015年3月に出されたコーポレートガバナンス・コードの序文などもしっかりと目を通したいと考えています。出来れば今後1~2年以内に副業を開始したく、その備えです。

さて、前置きが長くなりましたが、6月30日の日経新聞に次の記事がありました。

[社説]企業と株主は総会後も一段と深い対話を: 日本経済新聞

総会だけが株主との対話の場ではなく、上場企業は総会後も投資家との対話を継続すべきといった趣旨の記事です。全くその通りと思います。

通常の四半期決算後のIRの決算ミーティングを除いて機関投資家と対話をしている企業はどの程度あるでしょうか?株主総会の少し前に総会の議案について、機関投資家に説明する企業は多いかも知れませんが、それ以外の時期に対話をしているでしょうか? 

総会議案とは別に機関投資家と非財務情報の対話をすることは非常に重要と思います。今年の株主総会で企業不祥事を理由に経営トップへの賛成率が低かった企業、ROEが3期連続で低迷したため経営トップへの賛成率が低かった企業などは世の中、沢山あるかと思います。また、株主提案を受け、提案自体は否決されたものの、株主提案への相当の賛成票があった企業もかなり多いかと思います。

これらの結果について、機関投資家と対話をして、来年の株主総会に向けて意見交換をして改善するのが総会後です。例えば、企業不祥事があった企業であれば、再発防止策の現状について機関投資家と対話をする、ROEの低い企業であれば、今期及び来期のROEの改善施策について対話をするのです。そして、機関投資家から有用なアドバイスがあれば、それを社内検討するのです。

これを来年の2月、3月といったタイミングで実施しても来年の総会準備に入ってしまっており、機関投資家からの意見を検討しようとしても時間切れです。ということを考えると、今年の総会で議案の賛成率が低かった企業は、議案の賛否や他社の総会の結果を7月、8月にしっかりと整理して、秋頃から年内にかけて一度、機関投資家と対話をする必要があると思います。

これとは別に、年末や年明け早々にこの1年間の非財務情報全般の変化や今後の事業戦略等の対話をすることも重要です。機関投資家に来年の総会を意識してもらうためにも、このタイミングかなと思います。敵対的買収といった有事の場合や株主提案の場合に機関投資家を味方につけるためにも、こういう対話を平時の段階から実施しておくことが重要と考えます。普段は何らコミュニケ-ションがないのに、有事の際に機関投資家に助けを求めても投資家は助けてくれません。

物言う株主(アクティビスト)の視点からのコーポレートガバナンス・コードの読み方(第7回) ー 有事導入型の買収防衛策は?

前回の第6回で事前警告型の買収防衛策の問題についてお話をいたしました。その際に最近は有事導入型が増えていることに触れましたが、今回はその有事導入型についてお話をしたいと思います。

有事導入型とは、平時には導入していないところ、株式の大量買付者が出現した時に取締役会の決議で急遽、買収防衛策を導入することです。大量買付者にとっては不意打ちとなるため、少し前までは「後出しジャンケン」と言われたりしていました。最近、この有事型の導入・発動の案件が増えています。背景は何でしょうか?

敵対的買収の増加が背景にあります。以前には、敵対的買収はこの15年ほど極めて少なかったのですが、ここ最近は増えています。敵対的買収でアドバイザーを引き受ける証券会社も増え、また、スチュワードシップ・コードで議決権行使結果の個別開示が求められ、敵対的買収に対しても機関投資家は、経済合理性に基づき議決権行使をすることが求められていることがその背景です。

敵対的買収の増加にあって、事前警告型を導入していない企業が企業防衛をするには有事導入型しかないというわけです。

買収防衛策は平時に株主総会で株主の賛同を得ておくべきというのがこの10年の実務でしたが、この1年間で有事導入型の有効性を認める裁判例も出てきました。詳しいところは、「旬刊商事法務」という法律雑誌に大手法律事務所の弁護士や会社法専門の大学教授が記事を書いているのでそちらを読んで頂ければと思いますが、ごく簡単にいうと、取締役会決議で導入した後に、速やかに株主総会を開催して、そこで買収防衛策の導入と対抗措置の発動について株主の過半数の賛同が得られた場合には、裁判になっても対抗措置発動が有効とされることが多いです。

最近の例ですと、富士興産とアスリードキャピタルの事例、東京機械製作所アジア開発キャピタルの事例などで有事導入型で会社が勝訴しています。いずれも、有事に導入した後に株主総会で株主の賛同を得ております。

では、有事導入型については機関投資家はどう判断するのでしょうか?事前警告型には反対だから有事導入型にも反対なのでしょうか?

全ての機関投資家の議決権行使基準を見たわけでないのですが、有事型はケースバイケースで判断する機関投資家が多いと思います。つまり、その事案毎に敵対的買収者の提案に合理性があれば、総会での買収防衛策議案には反対し、会社側の企業価値向上施策に合理性があると判断すれば、買収防衛策議案に賛成するということです。

「有事導入型の有効性も認められているのだから、事前警告型は不要ではないか」という意見も機関投資家からは出ています。けど、会社側としてはその時になってみないと勝つか否か分からないと有事型は不安ですよね。そういうことを考えると、有事でない平時の場合にとりあえず買収防衛策を導入しておきたいということになります。気持ちは非常に良く分かります。けど事前警告型は批判が強いのです。

では、企業はどうすべきかというと、2つあると思います。

1つ目は何が何でも、極端な話、総会での議案賛成率が51%であっても事前警告型を導入しておくということです。50%台の賛成率を恥と考える上場企業の経営トップは非常に多いと思います。それが普通の感覚だとは思います。けど、そんなことは気にしないのです。過半数あれば法的には何の問題もないのですから。という精神で可決することに注力するということがあります。

2つ目は、有事の際に備えて、有事導入型を発動できるよう準備をするとともに、常日頃から自社の中長期保有機関投資家とコミュニケーション(エンゲージメント)を密にとっておくことです。そうすることが、有事型の場合に、企業側の企業価値向上施策に機関投資家が賛同を示す可能性を高めることに繋がります。常日頃から会社の事業の現状や見通しについて、理解して貰うということです。個人的には2つ目の施策をお薦めします。以上で買収防衛策のお話はこれで終わりになります。