中長期的な企業価値向上のためのコーポレートガバナンス・アドバイザー / 長期での中小型株の割安株投資情報

最近のコーポレートガバナンスと資本市場の動向を踏まえ、上場企業実務の視点から中長期での企業価値向上に役立つ情報分析・発信をしていきます。個人投資家のコーポレートガバナンス力の向上による「意思のある投資」に役立つ情報発信もしています。また長期での割安株投資の情報も

脱株主第一主義と買収防衛策 - 「企業価値・株主共同の利益の確保又は向上のための買収防衛策に関する指針」は見直しすべき時期では?

昨日、フリージアマクロスによる日邦産業に対するTOBについて記事を書いている時にふと気になりましたので、本日はこのタイトルで記事を書きます。ブログの記事を書いている時にそもそもの買収防衛策の導入の意義についてあらためて考えてみました。買収防衛策の導入目的は、「企業価値・株主共同の利益の確保」のワードがセットになります。買収防衛策を導入する全ての企業がこの文言を買収防衛策の導入理由や買収防衛策スキームにちりばめています。

では、この言葉はどこから来ているのかというと、これは2005年に法務省経済産業省が策定した「企業価値・株主共同の利益の確保又は向上のための買収防衛策に関する指針」から来ています。同指針での該当箇所は次のとおりです。

買収防衛策の導入、発動及び廃止は、企業価値、ひいては、株主共同の利益(以下、単に「株主共同の利益」という。)を確保し、又は向上させる目的をもって行うべきである。株式会社は、従業員、取引先など様々な利害関係人との関係を尊重しながら企業価値を高め、最終的には、株主共同の利益を実現することを目的としている。買収者が株式を買い集め、多数派株主として自己の利益のみを目的として濫用的な会社運営を行うことは、その株式会社の企業価値を損ない、株主共同の利益を害する。また、買収の態様によっては、株主が株式を売却することを事実上強要され、又は、真実の企業価値を反映しない廉価で株式を売却せざるをえない状況に置かれることとなり、株主に財産上の損害を生じさせることとなる。したがって、株式会社が、特定の株主による支配権の取得について制限を加えることにより、株主共同の利益を確保し、向上させることを内容とする買収防衛策を導入することは、株式会社の存立目的に照らし適法かつ合理的である。

株主共同の利益とは、「株主全体に共通する利益の総体」と指針に記載されています。この指針が策定された当時は「企業は株主のもの」という考えを日本は米国から輸入した頃の時期で、従い敵対的買収は株主の利益を確保するためのものとされています。

しかし、時代は変わり、米国のビジネスラウンドテーブルで脱株主第一主義が宣言されました。つまり企業の目的は株主の利益の最大化のみでなく、企業に関係する全てのステークホルダーの利益向上も目的とされました。株主利益の確保のために制度設計されたはずの買収防衛策について、株主である機関投資家の多くが反対しているということはもはや買収防衛策は、機関投資家にとっては株主の利益確保のための施策とは見なされなくなっていると言えるのです。

では、買収防衛策は何のためにあるのかというと、株主のためだけでなく、株主をはじめ企業の様々なステークホルダー(得意先、従業員、サプライヤー、地域社会など)の共同の利益の確保のためにあるのです。

指針のフレーズを使うと、「買収者が株式を買い集め、多数派株主として自己の利益のみを目的として濫用的な会社運営を行うことは、その株式会社の企業価値を損ない、『株主を含む株式会社の全ての共同の利益を害する』」ので、これを防ぐため買収防衛策があると今では言えるのです。このことを買収防衛策の導入・継続更新を考える企業は堂々と主張し、開示文や株主総会議案に盛り込んでよいのだと思います。ただ、買収防衛策の導入を株主総会の決議事項としている以上は、株主である機関投資家が反対する以上は導入が難しいという状況に変わりはないのが大きな問題です。

というようなことを考えると、買収防衛策の指針について制定から15年以上が経過し、世の中も大きく変化してきたことを考えると、この指針も根本的に見直しをすべき時期にきているような気がします。経済産業省法務省は何か考えたりしていないのでしょうか。

社外取締役と投資家との対話が必要ないと考える会社は29%

昨日、フォローアップ会議が開催されたことを記事に書きましたが、資料をあらためて読むと事務局資料の中に社外取締役と投資家との対話の記載がありました。これは今回の改訂コーポレートガバナンス・コードの論点の1つでもあります。

事務局資料を見ると、エンゲージメントへの社外取締役等の参加として、社外取締役と投資家との対話について個別に対話の機会を作っている企業は約5%に留まる」との記載がありました。圧倒的に少数ですね。一方、社外取締役と株主の個別の対話は行っていないし、行う必要性を感じない」が29%にのぼります。なかなか凄い数字ですね。必要性は感じて欲しいところです。

社外取締役がエンゲージメントをすると困るという会社は多いと思います。理由はシンプルで勝手にぺらぺらと余計なことを遠慮なく話をされることが困るということだと思います。一方、投資家は、まさしく本音を知りたいのであり、社外取締役が考える会社の課題などについての率直な意見を聞きたいというところだと思います。

会社は自社の課題や恥を秘密にしておきたいし、投資家はありのままの姿を知りたいというところです。私も投資する銘柄の社外取締役の忌憚のない意見は聞いてみたいところです。今回のコーポレートガバナンス・コードの改訂においてどのような扱いになるのか関心の高い事項の1つです。

ところでいつも思うのですが、このフォローアップ会議で公表される資料に記載の情報は非常に参考になる有用な情報と思います。コーポレートガバナンスについて書かれてた本も書店に行くと沢山ありますが、一番良い勉強の教材は、このフォローアップ会議の資料と議事録であると思います。詳細を読む方はなかなかいないと思いますが、コーポレートガバナンスについて深く勉強したい方は是非お薦めです。私も本日は仕事の帰りに過去3回分の資料と議事録をコピーしましたので、あらためて明日から週末も使いじっくりと読んでいきたいと思っています。

株主総会の準備も近づいてきましたので、最近改正された会社法についても今後、ブログで記事にしていきたいと思います。

金融庁のフォローアップ会議が開催(2月15日) - 気候変動などの開示が今後注目

日経平均株価が昨日は3万円を超えました。3月期決算企業の通期決算の5月の発表内容如何によっては、3万2,000円もあるという報道もあります。大型株の株価上昇が日経平均株価の上昇を牽引しており、私の投資分野である中小型株は必ずしも大きな上昇をしているものばかりではないですが、業績の上方修正に伴い株価も上昇している銘柄もありますので(当然ですが)、しっかりと分析をして、果敢に買い増しをしたいと考えています。

昨日は東証より市場区分の説明会の案内がメールで配信されてきました。3月初旬に各区分の説明会をオンラインで行うようですね。時価総額が数千億円を超えている企業は大きな問題なくプライム企業に移行できますが、手続きを懈怠するとスタンダード市場になるので、一応気を付けて視聴してみたいと思います。

さて、前置きが長くなりましたが、昨日、金融庁のフォローアップ会議が開催されました。先週金曜日に資料は公表されていたので、週末にざっと眺めてはいたのですが、今回は気候変動の開示等にも焦点が当てられているようですね。なお、直近では次のとおりブログで記事を書いております。

昨日のフォローアップ会議の資料は次のURLのとおりです。

「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」(第24回)議事次第:金融庁

ESG要素を含む中長期的な持続可能性(サステナビリティ)について議論がされたようです。資料の中で、これまでのフォローアップ会議でのサステナビリティーにかかる議論の意見が次のとおり掲載されていました。ポイントになる箇所を太字にしました。

  • 今後はサステナビリティについても、執行に任せるだけではなく、サステナビリティ委員会を設けるなど、取締役会で議論する機会を持ち、サステナビリティの観点から執行を監督していくことが必要となっている。
  • 多様な人材で意味のある議論が展開されるように、器としてのサステナビリティ委員会といったものをきちんと置くということも、この段階で検討すべき。海外では設置がある程度当たり前になりつつあり、ヨーロッパ型のような監督機関側に置くということにこだわる必要はないが、執行側にもサステナビリティ委員会というものをきちんと置いて、多様な人材で議論する。そのためのサステナビリティ委員会の話もきちんと今回議論の俎上に上げて、明記すべき
  • ステークホルダーガバナンスやサステナビリティが、不適切な経営を覆い隠し、必要な変化を阻害するための隠れ蓑になれば、経済はより広く損失を被る」とのCIIの見解は、その通りである
  •  昨今サステナビリティというと、どうしてもESGの話題、環境問題等にいきがちだが、それに企業が関わっていくためには、そもそも企業自体がサステナブルでないといけないため、企業のサステナビリティというものをしっかり考える必要がある。短期的には財務的な価値として生まれるが、昨今、特に開示の世界において、非財務情報の開示が重視されており、これは何のためにしているかというと、企業の将来の価値、将来的な企業自体のサステナビリティというところにつながってくると思う。したがって、こういう企業自体のサステナビリティを少しプッシュしてあげるような施策、あるいは検討というものがガバナンス・コードでは必要

2月11日の日経新聞では、サステナブルファイナンス有識者会議での意見として有報で気候変動の影響を開示すべきではという意見の記事がありました。気候変動による企業業績に与える影響や取組みを法定書類に開示せよという意見のようです。

企業サイドは有報への開示となると必ず躊躇するのが常ですが、開示情報の一本化という流れの中では有報が今後重視されるので、有報への開示が求められる気がします。プラス、有報の早期開示と英文開示の流れもあります。企業の実務担当者はこのあたりの情報収集には今後留意が必要になります。

ちなみに、今回の金融庁の事務局説明資料は非財務に関する色々な情報が盛り込まれ、短時間で気候変動関係の大きな動きを理解するにはとても良い教材になるので、マネジメント層の方、実務担当者ともに読まれると良いかと思います。

中長期株式投資:自動車のEVシフトによるインパクトはまだ当分先の話です

最近、自動車の電動化についてビジネス誌でも色々と報道されています。今の旬な話題であり、マスコミの金儲けのネタですので競って記事にしています(私などはビジネス誌のいかにも購買意欲をそそる見出しにつられて、電動化の記事の雑誌を購入してしまいました)。

日経新聞でも色々と記事が出ていますが、そのまま鵜呑みには出来ないと思っています。所詮は新聞記者は実務経験がなく、つまり自動車業界の幹部経験者でもなければ、開発経験もない素人です。そういう素人の記者が色々なニュースソースを集めて書いているのが記事ですので、日経新聞とは言え、有用な情報の1つとして参考にはしても、鵜呑みにしてはいけないというのは鉄則かと思います。

さて、私も自動車業界の実務経験はなく、たいして精通はしていないのですが、投資銘柄の中でEVとなると影響を受ける可能性のあるものが2つほどあり、素人ながらに情報収集をしています。その中で気づいた点を整理したいと思います。

現状、電動化の流れは、欧米はEVを方針としており、一方、日本は2035年までに新車販売を全て電動車にするが、この電動車にはEVのほかにHVも含めています。次に中国はどうかといいますと、2035年を目途に新車販売を全て環境対応にすることを検討中ですが、2035年時点での新車販売の半分はHVするという方針です。中国はEV化推進の方策をとってきましたが、その中国が完全EVにしないということは完全EVがいかに現実に困難であるかということの証左かと思います。

で、次に考えるべきは、電動化の考えの違いは「欧米vs日本 / 中国」という構図は分かったが、「自動車の販売台数はどうなのか?」かという点です。グローバルの自動車の販売台数の9割が欧米であれば、これは完全に日本・中国に勝ち目がないからです。

ここで見るべきデータは日本自動車工業会自工会)のデータです。自工会がグローバルの地域別での自動車の販売台数と生産台数を公表しています。2019年の販売台数及び生産台数は次のとおりです。

販売台数:合計9,130万台

  • 中国 :2,577
  • 米国 :1,748
  • 日本 :  520
  • ドイツ:  402
  • インド:  382
  • ブラジル:279、フランス:269、イギリス:268

生産台数:合計9,179万台

  • 中国 :2,572
  • 米国 :1,088
  • 日本 :  968
  • ドイツ:  466
  • インド:  452
  • ブラジル:294、フランス:220

これを見ると、中国の台数がダントツのトップです。そして中国は当分の間はHVも製造することを考えると、EVが自動車販売台数全体に占めるシェアは、将来も決して高くないという予想が出来ます。そもそもとしてEVは値段が高く、インドはじめ東南アジアの新興国の中間所得層が購入できるかという問題があるほか、現実では技術面の課題も多いと言われています。

先日、トヨタ自動車の社長が昨年12月18日に自工会会長として、全面EV移行に懸念を示す意見の動画を見ました。政府やマスコミの報道のレベルの低さを指摘するとともに、HVの課題を分かりやすく説明しています。分かりやすく、またとても説得力のある意見かと思います。

欧米がEV化に取り組んでいるのは、HVでは日本に完全に負けているのが理由でもあります。自動車産業においてアジアのメーカーに負けることが屈辱ということが背景にあります。トヨタ自動車には、HV車を中心に世界を席巻して欲しいところです。

というようなことをつらつら考えると、EVで自動車関連業界には今後変化が起こるでしょうが、それはまだ当分先の話と言える気がします。勿論、この先20年後も銘柄を保有するのであれば、自動車関連銘柄の投資は避けた方が懸命かも知れませんが(HVにより、内燃機関がモーターに置き換わるため、部品点数が確実に減るため)、少なくともこの先10年で考えた場合、EVは何ら恐れるに足らずと言えるのだと思います。

そもそも米国の大統領、日本の首相ともにお爺ちゃんですので、任期を全うできるか疑問であり、仮に任期を全うしても再選はせず、交代するので、後任者次第で脱炭素化の政策が180度変わる可能性もありますので、20年先を見越して、EV関連銘柄を探して先に投資をするということの方がリスクが高いような気もします。

極めてシンプルな開示の戦略方針 - ジャパンディスプレイ(6740)の決算説明会資料より

テレビ東京のビジネスオンデマンドを有料視聴しており(月額500円)、昨夜のワールドビジネスサテライトジャパンディスプレイ(5740)の第3四半期決算説明会資料の紹介がありました。ジャパンディスプレイとは有名な中小型液晶パネル大手企業です。

この会社のホームページにも掲載されているのですが、2020年度第3四半期決算説明資料にある「戦略方向性」について、26ページの資料があるのですが、とても面白いことにA4枚のパワーポイント資料に1つの言葉しか書かれていないのです。決算説明会資料は次のURLのとおりですが、資料に書かれている言葉は次のとおりです。

https://www.j-display.com/ir/library/pdf/Presentation-Slide_20210210_01.pdf

  • GAME CHANGE PersonalTech企業として 新たなJDIへ
  • 当社の現状
  • 世界トップクラスの技術
  • 世界トップクラスの人材
  • 世界トップクラスの顧客信頼
  • にもかかわらず、長年の赤字体質
  • この現状を打破するには何が必要か
  • 1. 原点回帰 社会価値・顧客価値の創出は当社の存在意義
  • 2 唯一無二
  • 3 抜本改革 
  • 徹底的なコストコトロール
  • 身の丈経営
  • 「3倍」のスピード
  • 販売価格の適正化と製品ミックスの改善
  • これらの変革により、2021年度第4四半期のEBITDA黒字転換を図る
  • 4  事業転換
  • 当社が長年培ってきた世界トップクラスの技術を新事業の基盤に
  • ディスプレイを超え
  • 既存の事業モデルを超え
  • 技術の進歩は人間に寄り添うものであるべき
  • 人々の生き方をより豊かにするPersonalTech企業へ
  • 今までにない発想と、限りない技術の追求をもって、人々が躍動する世界を創造し続ける
  • 独自のキーデバイスを軸に、サービス、ソリューション、プラットフォーム等を2021年中に複数事業化小規模でスタートし、成功に応じて迅速に事業拡大
  • ビッグデータを用いた事業展開も視野に
  • 唯一無二の技術 唯一無二の顧客価値 唯一無二のPersonalTech企業

上の言葉が1枚に1つずつ資料のど真ん中に書かれているだけです。以前からこうなのか知りませんが、なかなか面白い説明会資料です。はじめてみました。

将来の事業戦略は投資家にとって投資のモノサシとして重要ですが、資料に細かいことを盛り込みすぎている資料も良く見かけます。それよりも、ずばっとシンプルに記載しているもよいように感じています。ジャパンディスプレスも資料はシンプルですが、説明会で社長が自分の言葉で語るのでしょう。勿論、この資料に書かれている言葉で説明が終わるとなると、さすがにこれではあまりに抽象的でまずいとは思いますが。

そもそも5年先の事業戦略など精緻に描いても、5年後のことなど誰も予想できないのであって、そんな先のことを鉛筆をなめて詳細に書く意味は正直乏しいと思います。私は仕事上、欧米の企業数社の四半期決算を定期的に分析していますが、欧米企業の将来見通しの記載は非常にシンプルでです。骨太の戦略の方向性がずばり書いてあるだけで、将来見通しに関する細かい具体的な数値はざっくりと書いてあるか、もしくは書いていないケースが多いような印象を持ちます。

サラリーマン社長の場合には任期が決まっているので、具体的な数値なり細かいことを開示したいインセンティブがあることは良く分かります。しかし、一方、任期のないオーナー社長の企業の場合には、社長は10年、15年と長期で事業戦略に責任を持つわけなので、あまりに詳細なことは語らずに定性的で結構ですので、大きな事業の方向性を語ることで足るように感じます。中計では大きな方向性を描き、それを説明会で社長の言葉で語ることで、投資家の心に響くかどうかがポイントだと思います。

ということで、このジャパンディスプレイの開示を1つの参考にしてみてはいかがでしょうか。

中長期株式投資の銘柄分析:ベントナイト大手のクニミネ工業(5388)の2020年度業績の上方修正の可能性

昨日、トヨタ自動車が10-12月期決算を公表しました。純利益が1.9兆円で業績予想を上方修正しました。日本車5社が上方修正するなど自動車の回復が見られます。

さて、これまで何度かクニミネ工業(5388)について紹介しましたが、10-12月期の決算を踏まえての今後の見通しについて簡単に説明したいと思います。なお、直近での同社に関する記事は次のとおりです。

同社の2020年度の各四半期の売上高及び営業利益は次のとおりです。単位は百万円でパーセントは前年同期比を示します。

  • Q1 売上高 3,122(▲11.6%) 営業利益 304(▲ 4.4%)
  • Q2 売上高 3,164(▲13.4%) 営業利益 409(+15.9%)
  • Q3 売上高 4,308(+ 3.8%) 営業利益 891(+35.4%)

一方、2020年度の通期予想は、売上高14,419百万円、営業利益2,176百万円となっています。この通期予想から、4月から12月までの9ヵ月間の実績を引くと1-3月期であるQ4の予想値になりますが、売上高が3,825百万円(▲6.8%)、営業利益が572百万円(▲5.1%)となります。同社は過去業績を見るとQ4は営業利益は低下する傾向にありますが、このQ4の572百万円はQ3の891百万円に比べて大きな減益の数値となります。同社の主力事業セグメントはベントナイトであり、鋳物関係、土木建築関係ですが、自動メーカーの業績上方修正に鑑みるとQ4の業績は大きく増えるように予想します。

現在のクニミネ工業のPERは2020年度の通期予想をベースにすると約13倍で、過去10年の同社のPERが6倍~9倍程度であることを考えると少し高いですが(市場全体のPERと比較すると13倍はかなり低いですが)、2020年度の通期予想が上方したと仮定すると高い水準ではないと思います。同社の同社の今後の事業機会、財務の健全性を考えると買い推奨と思います。

バーチャル株主総会が可能になります - 産業競争力強化法の改正が閣議決定

2月に入り本年の定時株主総会の準備を開始する企業もそろそも増えてくる時期かと思います。私は20代の頃に某化学素材メーカーの法務部で商事法務を担当しており、商事法務が株主総会の事務局をしていたことから(20年前の話になりますが)、2月に入ると株主総会の大日程作成から始まり、当時の上司と6月下旬頃まで毎日遅くまで西新宿にある某超高層ビルの49階のオフィスで仕事をして、帰りにJR新宿駅の近くで二人で軽く酒を飲んで帰った日々が今でも総会シーズンになると思い出されます。

2月5日に産業競争力強化法等の一部を改正する等の法律案が閣議決定されました。本法律案の中に産業競争力強化法があり、上場会社のバーチャルオンリー株主総会の開催が特例的に可能となります。

つまり、上場企業は産業競争力を強化することに資する場合、経産省令・法務省令で定める要件に該当すれば、経済産業大臣及び法務大臣の確認を受けて、場所の定めのない株主総会とすることが出来る旨を定款で定めることができるとされました。なお、今年から2年間は特例で定款を変更せずともバーチャル株主総会が可能になるようです。

また、経済産業省は今回、「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド(別冊)実施事例集」を本年2月3日に公表しました。次のとおりです。

「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド(別冊)実施事例集」を策定しました (METI/経済産業省)

私は個人投資家としての立場では、バーチャル株主総会の開催には大賛成ですが、事業会社の方にとっては大変な作業かと思います。まだこの実施ガイドは読めておりませんので、週末に読みたいと思います。この手の法改正や実施事例集はアクティビストや知識の豊富な個人投資家は確実に読み込んでいるので、企業の株主総会の実務担当者は内容を一読される必要があるかと思います。

アクティビストのエフィシモ・キャピタルがサンケン電気(6707)にTOBを実施

昨日は日経平均株価終値が前日比+609円の29,388円となりました。1990年8月以来となる2,9000円を超え、企業業績の改善などが背景ということかと思います。

さて、昨日、アクティビストであるシンガポール投資ファンドであるエフィシモ・キャピタルがサンケン電気(6707)にTOBをすることを公表しました。プレスを見ますと、エフィシモは既に10%のサンケン電気株を保有しているところ、これにプラス20%の取得(TOB後のエフィシモの保有割合は30%)を目指してのTOBということのようです。

サンケン電気の株主構成について、2019年度の有価証券報告書を見ると、外国法人が38%、金融機関35%、個人が19%となっています。TOB価格は1株について5,205円です。サンケン電気の株価の終値は4,445円です。20%の取得ですので、株主構成を考えると比較的容易に成立しそうです。算定の経緯について、プレスでは次のとおり記載されています。

公開買付者は、本公開買付価格を決定するために、本公開買付けを実施することについての公表日である本日の前営業日である 2021年2月5日の東京証券取引所市場第一部における対象者普通株式終値(4,525 円)、同日までの過去1か月間(2021 年1月6日から 2021 年2月5日まで)の終値の単純平均値(4,838 円)、同過去3か月間(2020 年 11 月6日から 2021 年2月5日まで)の終値の単純平均値(4,309円)、同過去6か月間(2020 年8月6日から 2021 年2月5日まで)の終値の単純平均値(3,422 円)を参考にいたしました。そして、公開買付者は、本公開買付けに対してより多数の応募がなされるように、公表日の前営業日である 2021 年2月5日の東京証券取引所市場第一部における対象者普通株式終値(4,525 円)を基準とした上で、一定のプレミアムを付すこととしました。プレミアムの算出にあたっては、2018 年1月1日から 2020 年 12 月 31 日までに開始された発行者以外の者による株券等の公開買付けで買付予定の株券等の数に上限が付された事例(但し、公表日の前営業日の終値に対してディスカウントが付されている事例を除きます。)の公開買付価格に付与されたプレミアムの平均値(公表日の前営業日の終値、同日までの過去1か月間の終値の単純平均値、同過去3か月間の終値の単純平均値、同過去6か月間の終値の単純平均値に対して、それぞれ、約 31%、約 32%、約 33%、約 30%のプレミアム)を参照しつつ、公開買付者が対象者に対してデュー・ディリジェンスを実施しておらず、対象者の非公開情報を有していないこと、公開買付者が中長期的な企業価値の向上に伴う対象者普通株式の株価の値上がり益や配当を享受することが可能な範囲とすることをも総合的に考慮した上で、本公開買付けの買付予定数まで応募が期待できるプレミアム水準について検討した結果、公表日の前営業日の終値に 15%程度のプレミアムを付すことが適切であると判断いたしました。上記の検討結果を踏まえ、公開買付者は、本公開買付価格を1株あたり 5,205 円と決定いたしました。

最近、投資ファンドによるTOBが活発化しています。個人投資家としては、村上ファンドはじめアクティビストの保有銘柄を買うということは、TOB公表で株価が一気に上昇するので、てっとり早くキャピタルゲインを得ることができますのでいわゆるコバンザメ投資も有用かと思います。

カゴメが買収防衛策の廃止を公表 - 有事導入型の買収防衛策の法的有効性は?

先日、ライオンが本年更新期限を迎える事前警告型の買収防衛策を廃止することを公表しましたが、今度は、2月3日にカゴメが事前警告型の買収防衛策を廃止することを公表しました(私の場合、M&Aニュースでプレスが自動配信されてきます)。カゴメの2月3日付の廃止のプレスの一部を紹介すると次のとおりです。

当社は、当社の企業価値・株主共同の利益を確保し、向上させることを目的として、2018年3月 28 日開催の定時株主総会において、本対応策の更新について株主の皆様のご承認を頂き現在に至っています。本対応策の有効期間は、2021年3月 26 日開催予定の当社第 77 回定時株主総会終結の時までとなっておりますが、それ以降は、本対応策を継続しないことを決定いたしました。これは、買収防衛策を巡る動向や、株主の皆様のご意見などを踏まえ、慎重に検討を重ねた結果、当社の企業価値・株主共同の利益の確保・向上にあたって本対応策の必要性が低下したと判断したことによります。なお、当社株式の大量取得行為を行おうとする者に対しては、当社の企業価値・株主共同の利益を確保・向上する観点から、当該大量取得の是非を適切に判断するために必要かつ十分な情報の提供を求めます。当社は、それに対する当社取締役会の意見等を開示し、株主の皆様が検討するために必要な期間および情報の確保に努めます。また、金融商品取引法会社法その他関連法令に基づき、適切な措置を講じてまいります。当社は、本対応策の廃止後も、中長期的な企業価値の向上に全力をあげてまいります。

買収防衛策を廃止した日本製鉄、東京製綱、ライオンをはじめ多くの企業が太字のような表現をしているところです。これはブログでも何度か書きましたが、敵対的買収者が出現して取締役会決議で有事導入型の買収防衛策を発動した場合でも、法務省経産省の買収防衛ガイドラインで求める「事前開示の原則」を充足することを主張するためにこの文言を入れているのです(芝浦機械が村上ファンドとの有事導入型買収防衛策の導入・発動を巡る攻防で主張したとおりです)。勿論、有事導入型の買収防衛策の法的有効性を示す判例が出たわけではないのですが、事前警告型の買収防衛策の法的有効性も判例が出たわけでないことを考えると、両者とも、つきつめると法的有効性は必ずしもはっきりしていない買収防衛策という点では共通とも言えます。

ところでカゴメは何故廃止するのでしょうか?同社の本日2月7日時点のホームページに掲載の株主構成を見ると、金融機関16.8%、その他法人11.2%、外国法人等7.3%、個人63.6%となっています。買収防衛策に反対するのは、国内機関投資家と外国人機関投資家です。仮に金融機関16.8%の全てが国内機関投資家であると仮定しても反対するのは、24%ですので議案の可決には全く問題ないはずです

個人が63.6%もおり、個人は議決権の行使率が低いのが少し悩ましいのですが、インターネット行使で最近は行使率もだいぶ上がっており、また行使すると基本は議案賛成ですので、いずれにせよ可決の可能性は極めて高いのです。しかし、そういう中で廃止したのは、保有することでのステークホルダーからのレピュテーションリスクと有事導入型の買収防衛策の有効性を期待しているのだと思います。

今年の株主総会で買収防衛策の更新期限を迎える企業の数は分かりませんが、廃止企業は増えるのでしょう。とすると保有する企業に対する風当たりを益々強くなりますので保有する理由のより具体的な理由の開示などが求められるようになるかも知れません。

さて、話は変わりますが、最近機関投資家と会話をするとESG投資関係では今後は人権に関する関心がグローバルでは高まってきているようです。以前にブログで有報で人権リスクを開示する企業が増えているという新聞記事を取り上げ、その必要性に疑問を感じる旨を記事に書きましたが、どうも私が不勉強でその認識には誤りがあるようです。人権は、欧州と日本とで意識が大きく異なるところですが、今後は日本企業も意識していく必要があると思いますので、来週以降でブログでも少し触れたいと思います。

カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略 - 原子力産業の扱い

本日は、この1週間の保有銘柄の株価値動き、決算発表分析をしています。日経平均株価の昨日終値は前日比+437円の28,779円でしたが、各社の決算短信を見ていると2020年度通期決算の業績予想の上方修正をする会社が多いですね。なお、東証の発表した1月の東証1部企業のPERは22.8倍です。これは2013年10月~2014年3月の期間のPERと同じ程度です。当時は日経平均株価が1万4000円~1万5,000円程度でした。

今回、業績の上方修正予想をしていない銘柄もありますが、この銘柄の場合、通期の業績予想からQ1~Q3の実績値をひいてQ4数値を予測すると良いと思います。この数値を見ると通期予想を低く予想しており、実績はこれを上回るか否かが予想できると思います。アナリストがカバレッジしていない中小型銘柄の場合、単純ですが、こういう分析を丹念にしていない個人投資家はかなり多いので、今後の株価の動きのある程度の予想が出来るかと思います。

さて、前置きが長くなりましたが、本日は昨年に公表されたグリーン成長戦略の中で原子力産業に関する記載を紹介します。

(4)原子力産業
2050年のカーボンニュートラル実現に向けては、原子力を含めたあらゆる選択肢を追求することが重要であり、軽水炉の更なる安全性向上はもちろん、それへの貢献も見据えた革新的技術の原子力イノベーションに向けた研究開発も進めていく必要がある。原子力は安定的にカーボンフリーの電力を供給することが可能な上、更なるイノベーションによって、安全性・信頼性・効率性の一層の向上に加えて、再生可能エネルギーとの共存、カーボンフリーな水素製造や熱利用といった多様な社会的要請に応えることが可能である。現行軽水炉では、中露が政府ファイナンスをバックに市場を席巻しており、米英加を始めとした先進国では小型炉、革新炉に活路を見出し、2030年前後の商用化を目指して大規模政府予算を投入して R&D を加速している。目標として、①2030 年までに国際連携による小型モジュール炉技術の実証、②2030年までに高温ガス炉における水素製造に係る要素技術確立、③ITER 計画等の国際連携を通じた核融合 R&D の着実な推進を目指す。

小型モジュール炉(SMR)の取組みは次のとおりとなっております。

2020年代末の運転開始を目指す米英加等の海外の実証プロジェクトと連携した日本企業の取組を、安全性・経済性・サプライチェーン構築・規制対応等を念頭に置きつつ、積極的に支援する。海外で先行する規制策定を踏まえ、技術開発・実証に参画する。SMR で採用されている革新的技術の技術開発課題の克服について協力を行うとともに、優れた設計・製造技術をもって脱炭素技術である SMR の実現に貢献する。これらの取組を通じて、SMR の設計・製造技術をより高めるとともに、主要サプライヤーとしての地位を獲得し、SMR のグローバル展開に合わせた量産体制を確立していく

高温ガス炉については次の取組みとされています。

世界最高温度を記録した試験炉 HTTR を活用し、安全性の国際実証に加え、2030年までに大量かつ安価なカーボンフリー水素製造に必要な技術開発を支援していく。並行して、IS 法やメタン熱分解法等を含む超高温熱を活用したカーボンフリー水素製造方法についても開発を支援する。開発支援に当たっては、安全性・経済性・サプライチェーン構築・規制対応等を念頭に置きながら、技術開発・実証に参画し、海外の先行プロジェクトの状況を踏まえ、海外共同プロジェクトも組成していく。また、試験炉 HTTR の建設・運転・再稼働を通じて、規格基準策定の点でも海外に先行している状況を踏まえ、日本の規格基準普及に向けた他国関連機関との協力を推進する。

核融合についての取組みは次のとおりです。

ITER 計画については、2025年運転開始、2035 年の核融合運転開始を目指している。BA 活動においても 2021 年春の JT-60SA の運転開始やその他の研究開発を核融合原型炉に向けて着実に実施する。これらを通じ、主要機器の工学的実証とエネルギー出力状態の長時間維持技術を確立し、核融合エネルギーの実現を目指す。合わせて日本での核融合原型炉建設計画に向け各種設計や技術開発を行い、21世紀中葉までに、核融合エネルギー実用化の目処を得るべく研究開発を推進。また、核融合エネルギーへの興味喚起と相互理解を目指すアウトリーチ活動等を通じて、核融合の裾野の拡大を図ることにより、長期的な観点でより多くの企業に参加を促すとともに、海外プロジェクトに国内のベンチャー企業等が参画することを目指す。更に、発電にとどまらず、核融合炉の高温を活用したカーボンフリーな水素製造プロセスなど、カーボンニュートラルに貢献する基盤技術の研究開発を推進する。

原子力産業に私は全くの素人ですが、この内容を読む限り、再生可能エネルギーの中でも原子力の活用を政府は考えていると言えるでしょう。風力発電や蓄電池産業が新聞報道では注目されますが、ニッチな原子力関連銘柄を長期で保有することの1つの判断材料になるかと思います。

日本製鉄による東京製綱へのTOB - 敵対的買収に発展。これを契機に今後は確実に事業会社による敵対的買収は増えるでしょう

本日、東京製綱が日本製鉄によるTOBに反対する旨を公表しました。反対の意見の理由について、プレスリリリース(全部で16ページ)に6つほどあげられています。

今週も仕事が多忙で、じっくり読む余裕はないので、週末にでも詳細を読んでみたいと思いますが、ぱっと見て目についたのは、プレスの冒頭に今回の反対意見は取締役全員の一致と付記されている点です。長年トップに居座り続ける日本製鉄出身の会長に反対する人も社内ではいるのではと思いましたが、形式的には取締役会の満場一致で反対ということです。

この東京製綱のお知らせに対して、即座に日本製鉄はコメントをホームページに公表しました。恐らく反対することを予想して準備していたのだと思いますが、一部抜粋すると次のようなことが書かれています。

本公開買付けは、対象者の自律的なガバナンス体制・経営体制の再構築を促し、経営改善による企業価値の回復・向上を支援することを目的としたものです。対象者の取締役会の皆様にそうした本公開買付けの目的をご理解いただけず、対象者の取締役会として、現状のガバナンス体制・経営体制に問題がないとのご判断の下、本公開買付けに対して反対の意見を表明されたことは、当社として残念です。

特に、対象者が、当社が対象者の業績不振やガバナンス体制の機能不全等の経営上の問題に対して有効な対応策を講じられていない状況について問題提起を行っている中で、まずもって当社が対象者の一般株主の皆様と利益が相反する立場にあるとの説明をされていることには、違和感を禁じ得ません。当社としては、これまで母材供給者かつ共同開発のパートナーとして、対象者の顧客を含めた製品共同開発等を通じて「線材と加工技術との掛け合わせ」を深化させることで、対象者の競争力を強化することに貢献してきたと考えており、こうした取組みをさらに強化し、業績悪化によって毀損された対象者の企業価値を回復・向上させていくことが、対象者の株主や各ステークホルダーの共同の利益に適うものと考えております。

また、対象者は、業績悪化に陥っている中で、社外取締役による対象者の経営陣に対する評価や、それに基づく指名・再任のプロセスが適切に機能していないといったガバナンス体制の機能不全の問題に関して、2019年5月に東京証券取引所が発刊したコーポレート・ガバナンス白書2019の統計データに基づき、対象者の社外取締役が取締役9名中2名にとどまる事実のみで直ちに問題があるといえるものではない等としていますが、当社が実質的なガバナンスの機能不全について問題提起を行っている中で、こうした形式的な点のみを指摘する姿勢も、対象者のガバナンス体制が適切な機能を失ってしまっていることの証左の一つと捉えております

さて、今後ですが、どうなるのでしょうか。東京製綱は、日本製鉄によるTOBには応じないで下さいとだけ言ってみたところでTOB価格は1,500円で市場価格を大きく上回ること、また、TOBが10%程度の取得であることを考えると、このまま放置していればあっさりとTOBは成立するのは必至です。

あとは買収防衛策を発動して(東京製綱は「ステルス型の買収防衛策」があるように想像します)日本製鉄の議決権比率を希釈化することも一応考えられます。もっとも、希釈化されても、巨大企業である日本製鉄はまたTOBをすればよいのですが。

ひと昔前であれば、日本を代表する企業である日本製鉄が敵対的買収をするとなると世間で大きな批判を浴びたと思います。しかし、いまやそういう時代ではなくなっています。日本製鉄が東京製綱に敵対的TOBをしたということは、敵対的TOBが完全に解禁されたと言えます。「あの日本製鉄もやっているのだから」ということで、確実に今後、敵対的TOBが増えます。

東京製綱は本気でTOBを止めたいのであれば、TOB価格1,500円の応募を株主に踏みとどまらせる魅力的な施策を提案する必要があります。さて、東京製綱は何らかの施策を打つのでしょうか。

 

 

書籍紹介「兜町の風雲児 - 中江滋樹 最後の告白」

久しぶりに本日は1冊書籍を紹介します。先週購入した本ですが、中江滋樹氏と親交のあった雑誌記者が同氏について書いた本です。新潮社から出ています。中江滋樹という名前を知らない方もいるかと思いますが、1954年生まれの相場師です。

小学生で始めた株投資で巨額の金を動かし、20代で東京・兜町の風雲児ともてはやされた希代の相場師と言われ、人脈は政財界、スポーツ芸能界まで広がるも、株の不正売買である「投資ジャーナル事件」で逮捕、出所後は暴力団関係のマネーで再起を図るも、海外逃亡し、その後日本に戻り2020年に小さいアパートの一室で寝たばこが原因で焼死しました。アパートの火災で死亡した時には日経新聞に記事が出ていました。

巨額のマネーを動かした方の人生が書かれており、なかなか面白い内容です。世界でも著名な投資家は数学にかなり強い方が多いですが、中江氏も高校生の時に数学の全国模試で全国3位をとるなど数的才能があったようです。

巨額のマネーを動かし、大手証券会社から疎まれ、逮捕により自身の会社が破綻した後は、ヤクザマネーの運用を行い、その後命を狙われるのでは海外逃亡し、最後は生活保護を受け、東京のはずれにある小さいアパートで再起を図ろうとしていた中で亡くなるという激動の人生を送っています。

この本の最後の章に「金と相場の魔力」として中江氏が語り遺したことが書かれておりますが、その中に相場のコツとして次の記述があります。

相場のコツは、勇気を持って売れるかどうか。上昇の場面で買うのは誰でも出来るが、その場合も、まだ上がるだろうと我慢しないで売ること。売るタイミングを読まないと相場で勝つことはできない。

 相場の格言にも似たような言葉はありますが、「そうだよな」と思う言葉です。投資単位が数千万を超えるような場合、どのタイミングで売却するかにより、儲けが大きく変わります。中江滋樹氏自身は、生涯において本を書いたことはないため、同氏の人生や相場感について書かれた唯一の本と言えるかと思います。 

中長期投資としての銘柄分析:フィットネス関連のFY20.Q3決算

コロナ禍でフィットネス関連銘柄の四半期決算の推移を注視しているのですが、1月下旬にホリデイスポーツクラブを運営する東祥(8920)が10-12月期の決算を発表しました。同社はスポーツクラブ、ホテル、不動産の事業セグメントになりますが、主力事業はスポーツクラブ事業です。

Q1からの3ヵ月毎に数値を纏めますと次のとおりです(単位は百万円 / 括弧内の数値は前年同期比)。

       売上高         営業利益     営業利益率

  • Q1 2,923(▲59.1%)  ▲74(  ー  ) ▲2.5% 
  • Q2 5,017(▲29.2%) 533(▲69.1%) 10.6%
  • Q3 5,093(▲29.4%) 583(▲71.2%) 11.4%

前年同期比では、売上高のマイナス幅は縮小していますが依然として大きく低迷しており、営業利益も大幅低迷となっています。FY20通期業績予想は売上高18,000百万円(対前年▲47.8%)、営業利益2,000百万円(▲79.3%)としています。

この通期予想値からQ1~Q3の実績値を引いたQ4の予想値は、売上高が4,967百万円(対前年Q4▲61.9%)、営業利益958百万円(対前年Q4▲77.0%)となります。しかし、1月~3月は非常事態宣言が続くことを考えると、Q4はQ3よりかなり落ち込むように私は予想し、Q4の営業利益958百万円の達成は相当厳しような印象を持ちます。

ちなみに、株価は昨年の1月頃のコロナ前には2,500円近くありましたが、3月下旬には1,000円程度まで下がり、その後回復し、現在は1,500円ほどになっています。予想PERですと約83倍です。この段階で東祥を買うかとなると注意すべきは今後の見通しです。

世の中にあるスポーツクラブはじめフィットネスクラブの利用者の大半は高齢者であることを考えると(東祥は利用者の年齢層の開示が見当たりませんでした)、フィットネスクラブは、この先もかなり暗い見通しのように私は感じます。最寄駅にある大手フィットネスクラブの様子を外から眺めると今だにガラガラです。コロナ禍前には賑わっていたことが嘘のような状況です。高齢者がワクチンを接種した後、すぐに密室のフィトネスクラブに行くかというとそんなことはまずないと思います。恐らくウォーキングであったり、野外での運動へと今後は大きく変わるのだろうと思います。

フィットネスクラブの今後決算発表日程は、セントラルスポーツ(4801)が2月5日、ルネサンス(2378)が2月9日となっていますので、この2社も後日決算分析をしたいと思います。

中長期投資としての銘柄分析:ベントナイト大手のクニミネ工業(5388)- FY20.Q3決算

クニミネ工業が1月29日にQ3決算を公表をしました。既に上方修正を公表していたので29日の発表による市場へのインパクトはあまりなかったかと思います。直近でのブログ記事は次のとおりです。

Q1~Q3の3ヵ月毎の数値を分析すると次のとおりです(単位は億円)。<売上高> Q1:31.2、Q2:31.6、Q3:43.1、<営業利益> Q1:3.0、Q2:4.1、Q3:8.9、<営業利益率>  Q1:9.7%、Q2:12.9%、Q3:20.7%と順調に回復しています。

同社は3つの事業セグメントに分かれていますが、主力事業であるベントナイトの内訳の売上高構成はFY19ですと、鋳造部門が35.0%、土木建築が31.3%、ペット関係が5.0%となっています。鋳造部門の構成比は3年前は40.8%ありましたが、最近は土木建築に比重をおいているようです。

鋳物関係でのリスクはやはり自動車のEV化です。昨日の日経新聞でも米ゼネラルモーターズが2035年にガソリン車を全廃し、ハイブリッドも手掛けず、全車種EV車にすることを発表しました。

日本勢はハイブリッドを頑張っていますが、どうも世の中はEV化の潮流にあるようで、これで市場が形成されると日本勢もEV車に舵をきるかも知れません。トヨタがハイブリットで世界トップですので、欧米勢がこれを追い落とすためにEV車を今後の主力にしようとしているようにしか思えないのですが、何とかハイブリッドも今後主力になれるよう日本の自動車メーカには頑張って欲しいところですが、もはや難しい気もします。

EV車となると、ガソリン車に必要なエンジンや吸排気系の部品が不要になるので、3万点の部品が1~2万点に減ります。当然鋳造品も減少し、クニミネ工業の鋳造部門にも大きなマイナス影響になると思います。ここはクニミネ工業も、(当たり前ですが)大きなリスクと感じている模様です(IR部門にメールで質問し交信)。

一方、クニミネ工業の扱うベントナイトは「千の用途」を持つと言われており、現在、同社は将来の事業化に向けていくつかの新規の取組みをしています。ガスバリア材料もそうですが、2年ほど前に日刊工業新聞が取り上げた電池材料の開発もあります。2019年11月4日の日刊工業新聞の記事は次のとおりです。。

【いわき】クニミネ工業は山形大学工学部C1ラボラトリーの伊藤智博准教授らと共同で、粘土鉱物「ベントナイト」の粒子自体が電気を通したり、電気をためたりする特性を解明した。新たな蓄電デバイスの材料になることが期待できる。今後、詳細なメカニズムの解明を進めていくとともに、2023年にも実用化へ向けた開発に乗り出す。ベントナイトは分子が規則的に並ぶ性質を持つ。研究グループはベントナイトの結晶の向きがそろうこと(配向)によって電気が流れる現象を見つけ出した。電圧をかけることによって配向状態に変化が生じ、止めれば再び元と同様な配向状態に戻る。こうした一連の作用が、粘土鉱物が電気を通し、ためることに寄与していると想定している。これまで粘土鉱物が電気を通すことは知られていなかった。これまでの実験で、粘土鉱物を分散液の状態にしたところ、一つのセルで1ボルト程度の電気を流すことができた。電解液としての価値が見込まれる。自然乾燥状態では電気をためる傾向があるため、誘電体としての価値があることも解明した。誘電率はチタン酸バリウムの倍以上という。今後は協力企業と一体となって電池材料として実用化を進める。「電池では電解液代替での利用、コンデンサーでは誘電体での利用など、既存の電池材料をしのぐ性能の実現が期待される」(クニミネ工業いわき研究所)粘土の構造特性が、新しいタイプの蓄電デバイスの実現につながる可能性を示している同社はベントナイトの採掘から加工、販売までを手がけ、土木・建築や化成品、農業などさまざまな分野へ製品を供給している。

その後、詳細な公表はありませんが、数ヵ月前に特許出願も公表され、開発は進んでいる模様ではあります。勿論成果になるかどうかは何とも言えません。山形大学の記事も注視しています。

クニミネ工業は時価総額が130億円程度でアナリストがほとんどカバレッジしていない銘柄ですが、個人的には注目している銘柄です。再生可能性エネルギーでは、風力発電が注目されていますが、地熱発電も今後進むと、ボーリング関連で土木関係でベントナイトの需要も伸びると思います。ベントナイト自体が環境と非常に親和性があるので、ESGという点でも潮流にのっている印象を持ちます。

ということで、今後の新規用途開発、再生可能エネルギー地熱発電原子力関係が同社の今後の成長のキーというところかと思います。

ライオンが買収防衛策を廃止

昨日、業務上の必要があり、有価証券報告書での各社の買収防衛策の開示内容を確認しており、その際にライオンの開示もチェックしていたのですが、その後、夕方にライオンが買収防衛策の廃止を公表しました。本年3月30日開催予定の 定時株主総会終結の時をもって更新期限を迎えるところ継続せずに廃止するということです。廃止の理由についてプレスでは次のとおり記載されています。

当社は、2009年3月 27 日開催の第148 期定時株主総会において、企業価値向上とともに株主の皆さまの共同の利益を確保するために本プランを導入し、その後3回の更新を経て現在まで継続してまいりました。当社は、本プランの有効期間の満了を迎えるにあたり、買収防衛策に関する近時の動向、当社を取り巻く経営環境の変化等を踏まえ本プランの取扱いについて慎重に検討してまいりました。かかる検討の結果、本定時株主総会終結の時をもって、本プランを継続せず、廃止することを決議いたしました。なお、当社は、本プランの廃止後(本定時株主総会終結後)においても、企業価値向上とともに株主の皆さまの共同の利益確保に取り組んでまいります。また、当社株式等に対して大規模買付行為が行われた場合には、当該大規模買付行為の是非を株主の皆さまが適切に判断するための十分な情報および検討のための時間を確保するよう努めるなど、会社法および金融商品取引法等の関係法令に則り必要かつ相当な措置を講じてまいります。

廃止をするほとんどの企業と同じ内容の開示文です。日本製鉄、東京製綱をはじめ廃止する企業が最近必ず文言に入れているのが太字の部分です。前にもブログで記事に書きましたが、この文言は、事前警告型の買収防衛策は廃止はするが、大量買付者が出現した場合には、買収防衛策と同様の対抗措置を発動しますということを意味しています。

ライオンのホームページでの株主構成を見ると、金融機関41.53%、外国人23.21%、その他法人17.69%、個人・その他17.69%となっています。金融機関にはメインバンク等の商業銀行のほかに、国内機関投資家が含まれていますが、その割合は不明です。仮に半分程度が国内機関投資家とすると、この国内機関投資家の持分と外国人の持分が全て反対票になると想定すると総会議案の可決が過半数ぎりぎりになるか、場合によっては50%を下回り否決される可能性もあるので、議案の株主総会への上程を見送ったということだと思います。賢明ですね。

株主総会で否決されても「上程してみて下さい!」などという意見を数年前に何かの雑誌かネットで見たことがありますが(どこかの中小のシンクタンクのレポート?)、大手企業の実務を全く理解していない考えと思います。

時価総額の大きな企業はブランドイメージをとても重視しています。従い、慎重に票読みをして、否決のリスクがあれば、議案に上程しないというのが少なくとも時価総額が1,000億円を超える企業の常識かと思います。もし、ライオンが買収防衛策の継続議案を総会で上程したが、総会で過半数の賛同が得られず否決された場合、日経新聞の朝刊で確実に記事になり、また「社長は票読みをしなかったのか?」などとビジネス誌でも取り上げられる可能性も大です。

一方、上場企業とは言え、時価総額が500億円以下の中小型銘柄企業は、資本市場からのレピュテーションリスクを気にすることなく、少しでも総会で可決の可能性があるのであれば、総会議案に買収防衛策の議案を上程すべきと考えます。否決されてもそもそも企業規模が小さいので、日経新聞等で取り上げられたり、世間の注目を浴びることもないです。それよりも時価総額が小さい分、敵対的買収にあうリスクの方が大きいので、実質重視すべきと思います。