先日の日経新聞でウシオ電機の創業社長であった牛尾治朗という人が取締役を退任したという記事がありました。
ウシオ電機は牛尾氏の創業した企業として勿論社名は知っていましたが、私の保有銘柄でもないので、財務や役員状況は全く知りませんでしたが、2019年度の有価証券報告書を見ると、この方は、1964年に社長に就任して以来、長年に亘って取締役をされていたようです。
とすると、普通に考えると「老害の極み」のように思う方も多いと思います。この方の息子さん(1968年生まれ)が取締役をしており、一方、社長はサラリーマンです。創業オーナーとその息子の役員の前では、サラリーマン社長は、ヒラの取締役と実質においては同じ立場ですので、コーポレートガバナンス上の問題などは一切言えなかったのだろうとサラリーマンの方であれば普通に想像すると思います。
では、89歳の取締役に対して株主はどう見ていたのでしょうか。株主がどう判断したかは、株主総会での取締役選任議案での賛成率を見て判断することになります。
EDINETでウシオ電機の臨時報告書を見れば分かりますが、2020年のウシオ電機の株主総会での取締役の各人別の賛成率が掲載されており、牛尾治朗の賛成率は92.50%となっています。つまり、多くの株主の賛同を得て選任されています。
同社の2020年3月末の株主構成を見ると、外国人(=海外機関投資家)が32%です。そして、安定株主比率も高くはないようです。安定株主(安定株主とは会社議案に無条件で賛成する属性の株主)比率が高くない中、多くの株主から賛同を得て選任されていることになります。つまり、89歳という高齢で取締役に就任することに対して、ウシオ電機のステークホルダーは「何ら問題なし」と判断したと言えます。
ではなぜでしょうか。創業オーナーとしてやはり取締役会への貢献があったのだと思います。そして、それを機関投資家とのエンゲージメントで説明して機関投資家が納得していたのだと思います。機関投資家は議決権行使基準で取締役の在任期間が長期にわたる場合(オーナーの場合と思います)には反対方針とするところも多いのですが、合理的な説明がつけば必ずしも行使基準から形式的に判断するだけではないと言えます。
そのためには、会社サイドとしては、機関投資家とのエンゲージメントであったり、取締役会での議論の状況などの積極的な開示に努めることが重要と思います。