中長期的な企業価値向上のためのコーポレートガバナンス・アドバイザー / 長期での中小型株の割安株投資情報

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戸田建設と英国の投資ファンドであるシルチェスターの攻防の行方~買収防衛策の発動の可能性

今回は、私も株主である安藤ハザマのコーポレート・ガバナンスの観点からの課題(政策保有株式)を記載する予定でしたが、少し分量が多くなり、文章を作るのに結構時間がかかるので、週末に考えるとして、前回、少し触れたシルチェスターと戸田建設の買収防衛策について、本日は簡単に触れてみたいと思います。

アクティビスト(物言う株主)であるシルチェスターが戸田建設の株式を13.1%保有しています(2019年7月2日の大量保有報告書)。一方、戸田建設は、2017年に株主総会の承認を経て買収防衛策を継続更新しています。

買収防衛策の詳細は、プレスリリースを開示していますが、私がさっと斜め読みをしてポイントをあげると次のとおりです。

  •  対抗措置を発動できる場合は、20%以上の株式取得の場合(市場内外の取得問わず)
  • この場合には、戸田建設は大量買付者には一定の情報提供などを求める
  • 大量買付者が戸田建設企業価値・株主共同の利益を損うと取締役会が判断する場合、独立委員会の勧告を受け、取締役会で対抗措置発動の是非を決議する など

買収防衛策は大量買付者を含め全株主に新株予約権を無償で割当てるが、大量買付者のみが新株予約権を行使できず、結果、大量買付者の保有比率を稀釈化させるというものです。

しかし、買収防衛策の問題は(戸田建設のスキームは多くの企業の買収防衛策のスキームと同じですが)、有効性が必ずしも保証できないという点です。そもそも、極めて差別的な行使条件を付けた対抗措置であり、株主平等の原則の点で懸念があります。

勿論、2008年に発行された企業価値研究会レポートなどを踏まえての内容ではありますが、事前導入型の買収防衛策が裁判になった事例がなく、検証のしようがないのです。2008年前後のブルドックソース事件やニッポン放送事件等から、事前警告型の買収防衛策を、日本の大手法律事務所が策定したのですが、買収防衛策の適用事例がないため、裁判で争われた場合の有効性は不明です。

シルチェスターが20%以上の株式を取得することになり、戸田建設が買収防衛策を発動し、シルチェスターが裁判で差止めを求めた場合、どちらが勝つか分からないということになります。

 シルチェスターが13%まで株式を保有している状況下では、戸田建設は、買収防衛策に基づく対抗措置発動も視野に入れて、大手法律事務所と万一の発動に向けての詳細やりとりを進めているようにも想像できます。

これが発動になった場合、非常に注目を浴びると思います。

最近は、買収防衛策に対する機関投資家の反対も強く、株主総会での賛成が得られないことを理由に買収防衛策を廃止する企業も増えていますが、この行方にも影響を与えます。

戸田建設とシルチェスターの攻防は、安藤ハザマと香港の投資ファンドのオアシスマネジメントの攻防と同様に今後も注視したいと思います。