数日前の日本経済新聞の記事によれば、取締役候補者の「スキルマトリックス」を作成する上場企業が増えているとのことです。
2019年の株主総会で20社がスキルマトリクスを導入し、2018年の6社から3倍超に増えているようです。とはいっても、上場企業全体数から見たらまだまだ少ないですが。
スキルマトリックスとは、取締役全員の名前が縦軸に記載され、横軸に専門分野・領域(設計、開発、購買、営業、財務、企画など)が記載され、各候補者毎に該当する箇所に「〇」が記載されているマトリックス表です。
これは何に使うのかというと、株主総会の取締役選任議案で使います。
取締役選任議案では、候補者の氏名以外に、略歴と候補者とした理由について記載することになりますが、多くの企業では数行にわたって文章で選任理由が人数分、書かれています。
しかし、機関投資家は総会シーズンには、膨大な数の投資先企業の招集通知を短時間で見て、取締役選任議案に賛否の判断をすることになりますが、文章だと読むのに時間がかかるので、簡単なマトリックスで時間をかけずに判断したいということが背景にあります。
米国では、記事によれば、2018年時点でS&P500採用銘柄の中、100超がマトリックスを導入しているようです。
元々が米国で主流の方法ですので、日本ではまだ数は少なく、現時点では躊躇する日本企業も多いように思います。その理由は良く分かりませんが、役員選任という重大な理由を単純なマトリックスという図にしてしまうことになんとなく違和感を覚えるのかも知れません。
しかし、現実には多くの日本の上場企業の招集通知を見ると、一般的なことしか記載されていません。私の投資銘柄のある小型銘柄の本年の株主総会の招集通知の取締役選任議案を見ると、次のような内容になっていいます。
「XXXX氏は、主力事業であるベントナイト事業に関する幅広い知識と豊富な経験を有するとともに、長年の営業経験から取引先からの信頼も厚く、それらの専門的見地を当社グループの経営に活かしていくため、引き続き取締役候補者といたしました。」
他の候補者も基本的にこれと同じようなことが書かれています。
人数分の候補理由の文章を最後まで読んでもこの程度しか記載されていないのであれば、読む時間は可能な限り短くしたいというのが、機関投資家の切実な願いかと思います。
「信頼も厚く」と書かれていても、信頼の程度などはそもそも何ら客観的な判断ができない事項であり、ましてや個人商店でもないので、個人の信頼の有無どうのこうのを記載するのではなく、取締役会でどのような役割を果たせるかを記載すべきです。
纏めますとこの程度のことを文章でつらつら書くのであれば、短時間で議案の賛否を決めるためには、マトリックスにして、取締役全員のスキルが分かるようにしてくれというのは当然な考えかと思います。
なお、ごく一部の企業は、個人毎の過去に関わった具体的なプロジェクト、達成した内容などを記載している会社がありますが、こういう企業であれば文章にして読んでもらいたいという意識は良く分かります。
基本的にコーポレートガバナンスは、米国の動きが数年後には日本でも一般的になるのが常ですから、来年の株主総会ではスキルマトリックスはさらに増えるかも知れません。