前回のクローバック条項に関する紹介のブログの中で、経営判断の原則について少しだけ触れましたが、本日は、経営判断の原則が適用される上で役員会の討議などの進め方について、触れてみたいと思います。
前回ブログで、「企業経営の判断は、不確実かつ流動的で複雑多様な諸要素を対象にした専門的、予測的、政策的な判断能力を必要とする総合的判断」と書きました。
株主の利益を図るには経営陣は果断な経営判断を行う必要があり、結果、判断に誤りがあり会社に損失を与えた場合に責任を負うとなると経営判断に萎縮するため、通常の経営判断の下で損失が発生しても法的責任は問われないというものです。
それでは、経営判断の原則はどういう場合に適用されるのでしょうか?
違法行為を会社が行った場合には適用されないことは容易に想像できるかと思いますが、それ以外の経営陣の意思決定はすべて経営判断の原則が適用されるのかといいますと、それは違います。一般的には次のような条件が必要と言われています。
つまり、十分な情報を集め・分析をして、きちんと社内で意思決定プロセスを踏んで合理的な判断をした場合、その判断が失敗し、会社に損害が生じても経営陣は責任を負わないで済むということです。つまり、十分な討議もつくさず、会社に損失が発生した場合には経営判断の原則の適用ケースではないのです。
そこで、会社とした重要なことは、十分な資料に基づく討議をするとともに、その結果を詳細な議事メモに残しておくことかと思います。
通常の社内会議のメモは、会議の議題、結論、その結論に至るポイントのみを簡単に記載しているところも多いかと思います。会社によっては、場合によったら、経営会議、要務会といった会議体のメモも簡単に済ませてしまっているケースがあるかも知れません。
しかし、大きな損失が発生した場合に合理的な資料に基づき、合理的な意思決定を行ったことが必要になるので、討議資料も詳細な分析(程度問題はありますが)の上、どういう討議がなされたかが分かる詳細メモを作成しておくことが、万一の訴訟に備えて必要のような気がします。
特に社外取締役の方などは、求められる役割も大きくなる中、取締役会以外の会議体にも参加するケースも増えているかと思います。この場合、自分の発言などを詳細に議事録に記載しておかないと訴訟になった場合には、責任を負わされることにもなりかねないと思われます。
ちなみに、経営判断の原則は米国では次の場合に適用されるようです(西村あさひ法律事務所「M&A法大全(上)P531)」より)
- 取締役が実際に意思決定を行ったこと
- 取締役が十分に情報を有した上で、当該意思決定を行ったこと
- 当該意思決定が誠実になされたものであること
- 当該意思決定について取締役が経済的な利害関係を有していないこと
議事メモの詳細化もそうですが、社内の経営の意思決定プロセスが合理的になされていることが一番重要ですので、その意味で、社外取締役は、ビジネスに精通した企業経営経験者、ファイナンスに精通した専門家(投資銀行などの金融出身者)の存在は不可欠になってくるように思います。