中長期的な企業価値向上のためのコーポレートガバナンス・アドバイザー / 長期での中小型株の割安株投資情報

最近のコーポレートガバナンスと資本市場の動向を踏まえ、上場企業実務の視点から中長期での企業価値向上に役立つ情報分析・発信をしていきます。個人投資家のコーポレートガバナンス力の向上による「意思のある投資」に役立つ情報発信もしています。また長期での割安株投資の情報も

投資会社レノの株式会社ヨロズへの株主提案に対するヨロズの会社回答はこれで足るの?

村上ファンド関係者の運営する投資会社のレノが株式会社ヨロズに株主提案をしていますが、それに対して先日、ヨロズが会社見解を公表しました。

本日は、その中で2つほど紹介するとともに、会社回答に対して「この回答で足るの?」と私が個人的に考える内容について紹介したいと思います。

以下は2019年5月9日付のヨロズの「株主からのレター受領に関するお知らせ」からの一部抜粋とそれに対する私の考えです。

 レノの提案1:買収防衛策の廃止

「株価純資産倍率(PBR)1倍を下回る株価水準にありながら、買収防衛策を維持することは経営陣の保身行為と評価せざるを得ず、企業価値や株主価値の向上の機会を損ねるものである」

→ (会社回答)

「当社の買収防衛策は、大規模買付者に対して事前に大規模買付行為に関する必要な情報の提供及び考慮・交渉のための期間の確保を求めることによって、当該大規模買付行為に応じるべきか否かを株主の皆様が適切に判断されること、当社取締役会が当該大規模買付行為に対する賛否の意見又は代替案を株主の皆様に対して提示すること、あるいは、株主の皆様のために大規模買付者と交渉を行うこと等を可能とし、もって当社の企業価値又は株主の皆様共同の利益を確保・向上することを目的とするものであり、当社の経営陣・取締役会の保身を目的とするものではない」

→(会社回答に対する個人的印象)

経営陣の保身行為でないことを回答しなければなりませんが、かなり不十分のように私は考えます。同社の買収防衛策を見ていないので詳しくは言えませんが、独立委員会や特別委員会があるのであれば、委員会の委員の独立性であったり、対応措置発動の際の取締役会の決議の際の決議の厳格化、取締役会の判断において外部専門家の意見を求めること等を強調していかないと「経営陣の保身行為ではない」ことの反論理由としてはかなり弱いかと。もっとも買収防衛策に対する国内外の機関投資家からの批判は高く、どの理由をあげても買収防衛策に対する賛同を得るのは難しい気はします。

 

レノの提案2:政策保有株式の売却

「当社のコーポレートガバナンスガイドラインの記載が、コーポレートガバナンス・コードにおける「政策保有株式の縮減に関する方針・考え方など、政策保有に関する方針を開示すべき」との規定に照らし具体性に欠ける、保有の合理性に乏しい銘柄は直ちに売却すべき」

 →(会社回答)

「当社は、保有する政策保有株式については、そのリターンとリスクなどを踏まえた中長期的な経済合理性や将来の見通しを検証し、主要な政策保有株式の現状について四半期毎に取締役会へ報告をするとともに、有価証券報告書においてこれを反映した保有のねらい・合理性について具体的な説明を行っております。本年以降に提出する有価証券報告書においては、2019年1月31日に改正された企業内容等の開示に関する内閣府令に従って、政策保有株式の保有の合理性の検証方法等についても具体的な開示を行います。」

 →(会社回答に対する私の個人的所感)

政策保有株式の縮減の動きの強化の中、保有の合理性の検証の具体的内容がほとんど分かりません。ヨロズのコーポレートガバナンス報告書を見ても、検証の内容が全く書かれておりません。ヨロズは、改正開示府令の適用される本年の有価証券報告書(開示府令の改正と政策保有株式の開示は先日のブログで紹介のとおりです!)で具体的な開示を行うとありますが、2018年3月期のヨロズの有価証券報告書での政策保有株式の開示の1つの例として、2銘柄の保有目的を見ると次のような記載になっています。

  •  スズキ㈱ 「主要な得意先であり、伸張するアジア市場において更なる信頼関係を築いていくため」
  • 日産自動車㈱ 「長年にわたる得意先であり、これまで築いてきた良好な信頼関係を今後も維持・発展させていくため」

 次回の有価証券報告書から具体的な開示を行うということですが、どこまで詳細な開示が期待できるのかなと思います。多くの企業もそうですが、政策保有株式の保有の合理性はないというのが正直なところである気がします。無理やり理由をつけて合理性をあまり詳しく記載すると、今度は、保有先企業の保有理由との整合性の有無を指摘されるリスクもあります。とすると、これは想像ですが、ヨロズの本年の有価証券報告書でも、結局のところ、2018年3月期の有価証券報告書で記載されている内容に少し毛が生えた程度の開示内容にしかならないのではないでしょうか。これは私の勝手な想像です。

レノもそうですが、最近の投資ファンドの株主提案は、金融庁経産省東証が上場企業に求めるコーポレートガバナンスの要請に即した合理的なものであるとつくづく感じます。

私はヨロズの株式は持っていないのですが、持っていれば、株主総会に出席して、レノの意見に強く賛成する立場から、総会で議長に色々と突っ込んだ質問をしてみたいところです。