中長期的な企業価値向上のためのコーポレートガバナンス・アドバイザー / 長期での中小型株の割安株投資情報

最近のコーポレートガバナンスと資本市場の動向を踏まえ、上場企業実務の視点から中長期での企業価値向上に役立つ情報分析・発信をしていきます。個人投資家のコーポレートガバナンス力の向上による「意思のある投資」に役立つ情報発信もしています。また長期での割安株投資の情報も

今後はTSR(Total shareholder return(株主総利回り))の注目度が高くなるか

TSR(Total shareholder return)という言葉について最近耳にする方も多いかと思いますが、今回はTSRについて書いてみたいと思います。

TSRとは日本語でいうと株主総利回りです。次の式で算出されます。

TSR=(株価の上昇額+1株当たり配当額) ÷ 当初株価(%)

株価の上昇額とは、一定の評価期間をとった場合の評価終了時の時価-評価開始時時価(当初株価)をいいます。具体的な数値をあげた方が分かりやすいかと思います。

2017年6月にある会社の株式を1,000円で取得して、2018年6月に1,300円に株価が上昇し、この間に1株当たり50円の配当が1回あったとします。

この場合の2018年6月時点におけるTSRは、次のとおりになります。

TSR=((1,300円-1,000円)+50円)÷1,000円=35%

TSRは評価期間の始点をどうするかで異なります。通常は、評価終了時点から遡ること、1年、3年、5年といった一定期間でのTSRを算定することになります。

さて、このTSRですが、これは株式投資に際して誰でも考える当たり前のことです。株式投資をするのは、キャピタルゲインインカムゲインを得て儲けるためであり、これをわざわざ難しくTSRという英語で言っているだけの話とも言えます。

なお、その企業のTSRだけを見てもそれがよいのかどうかは分かりません。企業の株価はマーケット全体の動きと連動するので、同じ期間のTOPIXの数値を比較することなどが必要になります。これにより、市場全体の動きと比較してその企業のリターンが勝っているのか、負けているのかがわかります。

世間ではアクティビストといわれている投資ファンドのエフィシモキャピタルが取締役の選任議案でこれまではROEを指標にしていたところ、今後、これをTSRに変えるということが先日の新聞報道にありました。

投資先企業の経営陣にはTSRを強く意識することを求め、TSRを意識しない取締役には、反対するということです。

ところで、新聞報道はされていませんが、エフィシのTSRに関する考え方がシンプルで参考になりますので、ここで紹介します。

  • コーポレートガバナンスとは企業が正しい意思決定をするために必要
  • 正しい意思決定をするには、目的が必要であり、その目的が意思決定をする主体と意思決定の効果を受ける主体との間で共有される必要あり
  • 意思決定の効果を受ける主体は株主。株主以外にも企業にはステークホルダーはいるが、他のステークホルダーは法律や契約により財産が保護されている一方、株主は保護されていないため主体は株主
  • そして、株主の目的は経済的利益を得ることであり、経済的利益とはTSRである。従って、TSRが株主と企業の意思決定をする経営陣の間で共有される必要あり

たしか、このようなことを前に言っていた気がします。

エフィシモが言うところの考えは全く目新しいことではないのですが、TSRをコーポレートガバナンスに絡めてシンプルに言い表しており、とても分かりやすいなと思いました。

私が知る限りでは、TSRを役員の選任の議決権行使と結び付けている機関投資家はエフィシモのほかは知りませんが、今後、増えるような気もします。日本企業のROEは一定程度向上したので、今後は、TSRによる具体的リターンを投資家から求められるのかも知れません。