中長期的な企業価値向上のためのコーポレートガバナンス・アドバイザー / 長期での中小型株の割安株投資情報

最近のコーポレートガバナンスと資本市場の動向を踏まえ、上場企業実務の視点から中長期での企業価値向上に役立つ情報分析・発信をしていきます。個人投資家のコーポレートガバナンス力の向上による「意思のある投資」に役立つ情報発信もしています。また長期での割安株投資の情報も

割安かつキャッシュリッチ銘柄企業に株主アクティビズムを行う際の視点②

前回2月7日のブログにおいて、アクティビズムを行う際の視点を紹介し、投資先企業への提案を検討する視点としては、次の2つをあげました。

視点① 配当増の要求
視点② 株価向上施策の実施の要求

視点①については前回2月7日に書きましたが、週末に考えを整理して纏めたので、今回は視点②について書きます。基本的考え方は、現状の株価が理論株価より低いことを指摘し、株価向上に結びつく施策の実施を促すというものです。

1.PBRの数値の確認
まずはPBR(=株式時価総額÷株主資本)が1倍を下回ることを確認します。要するに株価が割安であることを確認するというものです。

2.理論株価の算定

1で市場株価が割安であることを確認しましたが、では、本来あるべき株価(理論株価)はいくらであるのかを把握します。

まずはマルチプル法です。同業他社のEV/EBITDA倍率、PER倍率の平均を出してそれを対象会社の数値に掛け算をしてEV、ひいては株式価値を算出します。以前にもマルチプル法については書きましたので、ここでは詳細は書きません。

次にDCF法による株価算定を行います。DCF法はだいぶ以前にも書きましたし、一般の書籍でも書かれているので、ここではDCFの算定の方法は触れませんが、実務面のポイントだけを1点いいます。

フリーキャッシュフローを現在価値に割引く際の割引率であるWACCを構成する株主資本コストですが、正確に判定するにはブルームバーグなどの数値を使う必要がありますが、ここはざっくりと7-8%程度と考えてよいかと思います。

伊藤レポートで日本企業はROE8%を目安にすることが言われていますが、これは機関投資家が投資で求めるリターンが8%ということです。従い、投資先企業のキャッシュフローが技術革新の変化でブレが大きいといった特段の事情がない限り、ざっくり8%を目安にすればよいかと思います。

また、マルチプル法に戻りますが、複数の事業を行う企業の場合には、Sum of the partsによって各事業の同業他社のEV/EBITDA倍率をかけて算出することも手法として有効です。

3.株価低迷の原因の特定
1及び2の結果、市場株価が理論株価より低い理由を特定します。株価が低い要因は簡単に指摘することは難しいものですが、ここではPBRを分解することが1つの考え方として有効かと思います。

PBR=ROE×PERです。ROE、ROAをそれぞれ分解しますと、
ROE=ROA×財務レバレッジ ROA=売上高利益率×総資産回転率となります。

これから、PBRをあらためて分解しますと次の算式になります。

PBR=売上高利益率×総資産回転率×財務レバレッジ×PER

PBRが課題であるとなると、上記算式の中の指標のどこに問題があるのかを把握していくことになります。

つまり、対象企業の競合他社と各指標を比較してどこが低いのかを分析します。競合他社を正確に調べることは簡単なようで結構難しいので、投資先企業の代表番号に電話して「当社の株主であるので教えて下さい」又は「貴社の株式購入を検討しているので教えて欲しい」と適応に理由をつけて言えば、IR部門につないでくれるはずです。

上の算式から、売上高利益率が低いのか、総資産回転率が低いのかなどを考えます。

対象企業が複数の事業を営んでいる場合には、事業別のROAを算出すると問題の事業がどこかが分ります。有価証券報告書に事業セグメント毎の売上高、営業利益、資産が開示されています。企業全体でROAの分解数値を算出した後に更に各事業セグメント別のROAの分解を行うことで全体のROAの足かせとなっている事業を洗い出すことができます。

結果、特定事業の改善、売却、他社とのアライアンス、収益改善の方向策の検討を促すことの提案が可能になります。

4.ガバナンス上の課題を指摘
3で洗し出した課題について、ガバナンス機能の不全を併せて指摘することも考えられます。この場合に考えられる視点は、次のとおりです。

①取締役会における社外取締役の員数
社外取締役が一定数いないために戦略的な意思決定ができないのではないかということです。ちなみに、東証1部で3分の1以上の社外取締役のいる企業の比率は30%台となっています。社内取締役が多いと社内の論理でしか物事を進められないため、この問題を指摘するのです。

②3分の1以上の社外取締役がいる場合
この場合には、社外取締役の属性を問題視します。経産省が策定したCGSガイドラインでは、社外取締役には1名以上の経営経験者がいることが提案されています。ミドルキャップ、スモールキャップの企業では弁護士と会計士のみを社外取締役にしている企業も多く目にします。弁護士や会計士も必要かも知れませんが、それ以上に重要なのは企業経営経験者です。

③社長・CEOが機能していないのではないか
CGSガイドラインにおいて、企業を引っ張るのはCEOといわれており、CEOの器以上に会社は大きくならないとも書かれています。とすると、CEOの選解任方針はどうなっているのか、また、CEOの後継者計画はどうなっているのかも指摘できます。

4について1つずつ話をしていくとだいぶ長くなるのでしませんが、要するに、政府や資本市場が上場企業に求めるコーポレーガバナンス改革の動きに即した対応を対象企業がしていないことが問題であるとの主張になります。

一連のコーポレートガバナンス改革は、日本企業のROE低迷、ひいては株価低迷の改善が前提にあり、CGSガイドラインなどの経産省の指針はこの改善を目指したものであります。このため、CGSガイドラインなどに即した対応を企業がしていない場合、それが株価低迷の原因であると論理的に主張できるはずです。

このあたりは次の3つを一度じっくりと読むことお勧めします。いずれもネットで検索すると簡単にアクセスできます。一連のガバナンス改革の背景及び考えがここに凝縮されています。
・伊藤レポート2.0(持続的成長に向けた長期投資研究会報告書)
・改訂コーポレートガバナンス・コード(2018年6月1日 東証
・投資家と企業の対話ガイドライン(2018年6月1日金融庁
・コーポレート・ガバナンス・システムに関するガイドライン(2018年9月28
日改訂 経産省

以上になりますが、気をつけるべきことは、視点②の指摘は投資先企業の経営陣を批判することになるという点です。

現役のサラリーマンが株主総会に参加してこれらをネチネチとつつくと、一昔前の総会屋のように思われ、投資先企業が自分の勤務先会社の得意先であったような場合には、自身のサラリーマン人生に甚大なマイナス影響を与えることは確実です。

前回ブログでも書いた視点①は、会社に溜まった金を吐き出して還元せよと迫るもので、至極、当然な主張であり個人が利を得る活動として合理的と整理できます。

何かいわれても「自己資金を使って個人の利を得る活動なので大きなお世話」と反論できますが、さすがに視点②のように取引先の事業面、役員体制を指摘するのはリスキーです。

個人で事務所を構えている弁護士や独立している経営コンサルタントなどであれば、何でも自由に出来ますが、一般サラリーマンの悲しいところは、あまり表立って目立つ行動が出来ないところにあります。

したがって、視点②を指摘するのであれば、投資先企業の経営陣の素晴らしさを持ち上げつつもやんわりと指摘するか、または、自分の勤務先と全く関係のない業界の企業に投資して、その企業を何の遠慮もなくがんがん攻めるという選択肢のいずれかになると思います。

以上、少し長くなりましたが、思うところを書いてみました。