中長期的な企業価値向上のためのコーポレートガバナンス・アドバイザー / 長期での中小型株の割安株投資情報

最近のコーポレートガバナンスと資本市場の動向を踏まえ、上場企業実務の視点から中長期での企業価値向上に役立つ情報分析・発信をしていきます。個人投資家のコーポレートガバナンス力の向上による「意思のある投資」に役立つ情報発信もしています。また長期での割安株投資の情報も

三東工業社への合同会社M&Sによる株主提案の結果

滋賀県に本社のある建設会社で三東工業社(東証JQS)という会社があります。時価総額15億円程度の中小企業ですが、投資ファンド合同会社M&S(以下M&S)が同社に株主提案をしていました。

M&Sのホームページを見ると、2016年6月から投資を開始しているようです。提案内容は、剰余金の処分、取締役の解任、取締役の選任になります。ちなみに、M&Sは「強く意思ある投資で、世界経済にインパクトを与える」と掲げており、私はこの言葉がとても気にいっています。

本年9月に三東工業社の株主総会が開催されましたが(この会社の決算期は6月末のため9月が株主総会です)、結果、M&Sの株主提案はいずれも否決されました。株主提案の賛成率については、10月3日に提出の臨時報告書で開示されています。

次のとおりになります。
剰余金の処分 25.33%
取締役の解任 24.15%
取締役の選任 24.23%

有価証券報告書で6月末の株主構成を見るとM&Sは12.23%保有しており、外国人は0.2%、個人55.66%、その他法人36.32%となっています。

M&S以外の賛成率が約12%程度ということになります。国内機関投資家保有比率は不明ですが、外国人が1%以下ということでなかなか賛同を得ることが難しかったと思います。

M&Sが10月4日付で「三東工業社第64回定時株主総会の結果について」とのレターを公表しております。一部抜粋しますと次のような内容が記載されております。

 

<以下、レターからの一部抜粋>

「結果として前回より多くの議決権数を集めることができましたが、否決された要因として、上位株主に位置する元会社関係者や三東工業社取引先等の賛成票を得られなかったことが挙げられます。今回の提案に際して、多数の株主とコンタクトを取り元会社関係者や三東工業社取引先等から一定数の議決権を獲得する等、弊社提案内容に理解を示していただきましたが、法人や従業員を中心に三東工業社との関係上、賛同できないといった回答をされる方もおられました。一方で、三東工業社との利害関係が薄い個人株主様や一部取引関係のある法人からも、直接お会いし弊社の説明に納得いただいたうえで、ご賛同いただくことができました。
また、この度の委任状勧誘に際して、弊社提案理由の正当性をご理解いただくべく、三東工業社の株主にお会いしたところ、一部の株主から「三東工業社側から株式を取得の上、会社側に賛同するよう求められた」といった意見が複数ありました。これが事実であれば、上場企業としてあってはならない経営陣の保身と見受けざるを得ない行動です。株主総会における質疑応答の際に、会社関係者に対して持合い株式の取得を迫ったことに関して、事実関係と認識の有無について質問したところ、「取引関係を円滑にするための協力会というものはあるが、株式の追加取得及び会社側への賛成を直接的には促していない。しかし、間接的には影響しているかもしれない。」という回答をいただきました。コーポレートガバナンス・コードが改定され、上場企業の持ち合い株式の縮減が推奨されている中で、上記のような行動をとることは、企業価値向上の観点から、到底容認できるものではなく、今後も一株主として積極的に経営陣に改善を要求していく所存でございます。また、三東工業社の株主の皆様が今一度企業価値向上のため、どのような基準に基づき議決権を行使する必要があるのかを再考できるよう、株主として行動してまいります。」

 

この中で気になるのは、三東工業社は与党株主を集めるため株式を持ってもらったという箇所です。詳細は不明ですが、第三者割当増資をしたわけでもないと思いますので、市場で流通する株式をあらたに買ってもらって賛成する株主を増やしたということでしょうか。

三東工業社の株主が上場企業の場合(仮にA社とします)、会社提案に漫然と賛成する
ことは、A社が、自社の株主から賛成の理由を求められます。安定株主対策のため、株式を引き受けた先が上場企業であるのか関心のあるところです。

ちなみに、三東工業社の2018年3月期の有価証券報告書を見ますと、大株主の第3位に滋賀銀行(4.08%)があり、三東工業社も政策保有株式として滋賀銀行株式を保有しています。相互保有です。

銀行による政策保有は厳しく見られ、メガバンクは売却の方向かと思います。地銀の動きはウォッチしておりませんが、地銀も同様に政策保有株式の売却の動きにあるとすると、今後はM&Sの動きにプラスになるのかも知れません。