中長期的な企業価値向上のためのコーポレートガバナンス・アドバイザー / 長期での中小型株の割安株投資情報

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改訂コーポレートガバナンス・コードを反映したコーポレートガバナンス報告書の提出

6月株主総会シーズンが近づき、先日の日経新聞企業統治指針として改訂コーポレートガバナンス・コード(改訂CGコード)に関する記事が掲載されていました。

これまで改訂CGコードについては、何度か書いているので、改訂CGコードの詳細は今回は書きませんが、改訂CGコードへの対応は本年12月末までとされている中、6月1日以降改訂CGコードを踏まえたCG報告書を提出している会社も数社あるようですので、その簡単な紹介と今後企業が開示に当たって留意すべき事項について書きたいと思いま
す。

6月1日以降にCG報告書を提出している会社は、アサヒグループHD、セブン&アイカゴメ、Jフロントリテイリングなど1部上場企業では数社のようです。

政策保有株式については、カゴメが次のような内容を開示しています。

「当社は、直近事業年度末の状況に照らし、保有の意義が希薄と考えられる政策保有株式については、できる限り速やかに処分・縮減していく基本方針のもと、毎年、取締役会で個別の政策保有株式について、政策保有の意義、経済合理性等を検証し、保有継続の可否および保有株式数を見直します。なお、経済合理性の検証の際は、直近事業年度末における各政策保有株式の金額を基準として、これに対する、発行会社が同事業年度において当社利益に寄与した金額の割合を算出し、その割合が当社の単体5年平均ROAの概ね2倍を下回る場合には、売却検討対象とします。また、簿価から30%以上時価下落した銘柄及び、当社との年間取引高が1億円未満である銘柄についても、売却検討対象とします。その上で、得意先企業のうちこれらの基準のいずれかに抵触した銘柄については、毎年、取締役会で売却の是否に関する審議を行い、売却する銘柄を決定します。見直しの結果、2018年度に一部保有株式を売却いたしました。」

縮減を基本方針として、保有の合理性の検証方法まで具体的に記載しています。

政策保有株式については、大手企業では、これまでも保有検証を実施している企業も多いと思いますが、ここまで踏み込んだ開示はあまり見たことはありません。カゴメと同じレベルで他社も今後開示するか分かりません。

ただし、留意すべきは改訂CGコードを公表した際に東証パブコメに対する見解を公表しており、その中で、次のことが書かれています。

・「検証の結果、全ての銘柄の保有が適当と認められた」といった、一般的・抽象的
な開示ではなく、取締役会における検証に際し、コードの趣旨を踏まえ、例えば、次
のような具体的開示が行われることが期待される
-  保有の適否を検証する上で、保有目的が適切か、保有に伴う便益やリスクが資本コストに見合っているかを含め、どのような点に着眼し、どのような基準を設定したか
-  設定した基準を踏まえ、どのような内容の議論を経て個別銘柄の保有の適否を検証したか
-  議論の結果、保有の適否について、どのような結論が得られたか

これを踏まえますと、カゴメの開示は決して詳細なものでもなく、東証の求める内容であるとも言えます。

とすると、次に企業が考えるべきことは、ここまで開示するとして、今、実施している保有の合理性の検証が果たして十分なものであるかの確認が必要になるような気がいたします。他社がどういう検証をしているのか詳細は分からないと思いますが、自社のこれまでの検証方法が、資本市場関係者に対して合理的な検証であると言えるのかの再確認が必要になるのではないでしょうか。