コーポレートガバナンス、M&A、企業価値、IRなどに関する実務ニュース

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議決権行使助言会社ISSがオアシスのアルパインに対する大幅な増配要求に対して賛成を推奨

前回、議決権行使助言会社ISSについて書きましたが、先日の日本経済新聞でカーナビなどの自動車部品メーカーであるアルパインに対してアクティビストであるオアシスマネジメントが1株当たり325円の期末配当の株主提案をして(会社提案は1株当たり15円)、これに対してISSが賛成推奨したとの報道がありました。

アルパインには、親会社であるアルプス電気との経営統合を巡って、オアシスが色々と提案をしていることは新聞報道で周知の方も多いと思います。

今回の記事を見て、アルパインの2018年3月期の決算短信で財務状況を見てみました。大幅な増配を要求しているわけですから、アルパインのキャッシュがどの程度あるのかとの観点からの分析になります。以下は、2018年3月期のアルパイン決算短信の連結バランスシートから見た数値になります

現金及び預金 538億円
投資有価証券 285億円
有利子負債  0
利益剰余金  950億円
株主資本比率 65.8%

ネットキャッシュ(現金及び預金+投資有価証券-有利子負債)は823億円で、時価総額、総資産に占める比率は次のとおりとなります。なお、投資有価証券はコーポレートガバナンス・コードでは縮減が求められており、上場企業各社に対するアクティビストの株主提案でも投資有価証券は売却による現金化をすることを提案していることを考え現金及び預金と同じものとみなします。

ネットキャッシュ  / 時価総額 約 55%(ベース 時価総額1,500億円)
ネットキャッシュ  / 総資産  約 37%(ベース 総資産  2,190億円)
手元流動性比率       約 4ヶ月(ネットキャッシュ ÷ 月商)

これを見ると、キャッシュが潤沢であることはわかります。それだけ財務状況が良いという証であります。

オアシスは1株当たり325円の期末配当を要求しておりますが、これによると配当額は次のとおりとなります。

期末配当金額=325円 × 発行済株式数 68,952,260(自己株式除く)=約224億円

2918年3月期の純利益が93億円ですので、配当性向は約240%となります。会社提案は期末配当が1株当たり15円で、これに発行済株式数を乗じると総額約10億円ですので、約214億円増となります。

前述のとおり、ネットキャッシュも潤沢であることから、224億円の配当をしても十分なキャッシュがありアルパインの財務に与える影響は低いように思えます。1株当たり325円の増配にISSが同意したという記事だけを読むと少々驚きますが、あらためて財務諸表を読むと、財務に大きな影響はなくISSは論理的に当然の判断をしたと見ることもできるのではないでしょうか。

次にこれに賛同する株主の可能性ですが、アルパインの2018年3月末の株主構成は公表されていませんので、2017年3月期の有価証券報告書を見ると、次のとおりです。

その他法人41.85%、外国人株主 37.99%、金融機関13.43%、個人その他 5.76%

その他法人は親会社であるアルプス電気かと思います。

ISSが賛成を推奨するということは、多くの海外機関投資家ISSの推奨を参考にするので、外国人株主の多くは株主提案に賛同する可能性が高いです。総会の決議を通すための過半数の賛同を得るには、個人株主や国内機関投家の賛同がどこまで得られるかがポイントかと思います。

ところで、このISSの賛成推奨に対して、6月8日にアルパインが反論を東証に開示しています。

要約しますと、事業運営はグローバル展開であり、実際の現預金管理は多数拠点で複雑に管理されていること、投資有価証券は中長期的に円滑な取引関係を維持するために必要な戦略投資であり、これらのアルパイン固有の資金需要がISSの判断には考慮されておらず、追加配当を行った場合には事業運営に著しい制約を与えるという反論になります。

しかし、個人的な印象としては、表現が抽象的かつ定性的な域を出ず、反論としては非常に弱い印象を受けます。アルパインのバランスシートを見れば、財務・会計に相当疎い人でない限り、キャッシュリッチであることが容易に分かります。とすると、株主還元をせずにキャッシュを保有する理由の正当性を投資家に説明するわけですから、設備投資やM&Aなどの成長投資にいくら使うとかの具体的な数値をあげないと、説得性の乏しい反論であるような印象を持ちました。

経済合理性のある株主提案は益々増えております。本件がどのように進んでいくか、今後、少し関心をもって見ていきたいと思います。