中長期的な企業価値向上のためのコーポレートガバナンス・アドバイザー / 長期での中小型株の割安株投資情報

最近のコーポレートガバナンスと資本市場の動向を踏まえ、上場企業実務の視点から中長期での企業価値向上に役立つ情報分析・発信をしていきます。個人投資家のコーポレートガバナンス力の向上による「意思のある投資」に役立つ情報発信もしています。また長期での割安株投資の情報も

ESG投資家が企業の株価に及ぼす影響

先日の日本経済新聞に「物言うESG投資家」のタイトルの記事が掲載されていました。

記事の内容は、フェイスブックが利用者の個人情報が不正に第三者に渡っていた疑惑を受けて、海外のある運用会社が、運用するESG上場投資信託で3.9%と上位組入銘柄のフェイスブック株を除外すると発表したようで、約5億円分の売りが出る計算になるとのことです。

ここでいまいちどESG投資について整理します。

ESG投資とは、ESG(環境・社会・ガバナンス)に積極的な企業に投資する投資です。個人投資家がESG情報にそれほど注目しているとは思いませんが、一部の運用機関はESGに注視して投資をしており、これが「ESG投資家」ということになります。

今回のフェイブックもそうですが、ESGに積極的に取り組む場合には、運用機関の投資対象になりますが、その後、不祥事があったような場合には、ESG対象銘柄から外されることになります。

外されるということは、投資金額にもよりますが、今回のように5億円の売りが出ると株価は需給のバランスで決まるので、株価が下がることになります。

ESG投資は世界規模で2016年に約23兆ドルと言われているようで、地域で見ると欧州の投資規模が最大ですが、日本でも着実に増えるといわれてはいます。しかし、日本の運用会社の中には、ESG情報は企業の業績とは必ずしも関係なく、そのため消極的に見ているところも多いような印象を持ちます。

一方、GPIFのように国民年金を運用するところでは、超長期的視点で運用するため、そのためには、短期的な企業業績よりも長期での企業の本当の体力を測るESG情報が重要といわれています。

短期目線で運用をする運用会社にとっては、企業の株価があがるかどうか、つまり業績が良いか悪いかに関心があるのであり、一方で、10年、20年のスパンで運用する運用会社は、投資先企業の業績がこの先2~3年絶好調であっても、その先の業績は読めないのが通常であり、となるとその判断の拠り所はESG情報ということかと思います。

しかし、よく考えると、企業のESG情報を見ても企業が将来長期に亘って存続するのかどうかの判断はとても難しく、その上、運用会社は事業運営の経験・ノウハウがない中で、企業のESG情報をどこまで判断できるのか疑問があります。ガバナンスがしっかりしていれば、企業が長期に亘って存続するというものでもないかと思います。

そのためには、企業がESG情報を開示するのも重要ですが、開示した情報を十分に理解できるよう運用会社のアナリスト等の担当者の能力向上も同時に必要になります。

今の運用会社は、新人でさえ「来期の着地見通しは?」というように数値しか投資先企業との対話で質問しないことがほとんどで、このため、企業の事業について理解できる能力を持つアナリストが極めて少ないということも時々耳にします。

事業を良く理解していない運用会社が、良く分からないESGのインデックスを設定して、それに企業が引きずられないようにするには、企業も運用会社との対話を通じて、事業の戦略、事業の方向性等を積極的に開示し、ある意味、「運用会社を教育していく」ということが自社が適切に資本市場から評価される上において、今後重要になってくるのかも知れません。