コーポレートガバナンス、M&A、企業価値、IRなどに関する実務ニュース

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最後の岩盤である政策保有株式の解消のゆくえ

先日の日本経済新聞に「最後の岩盤を崩すのは投資家」との記事がありました。

要するに、政策保有株式の弊害は大きく、これを崩すことを投資家に期待するという記
事です。

政策保有株式については、昨年12月20日にもブログで「新しい経済政策パッケージの下での政策保有株式の解消の予想」というタイトルで簡単に書いていますが、日経新聞の記事もありましたので、あらためて書いてみます。

政策保有株式に対する資本市場・国による批判が高い理由は何でしょうか?

企業は、政策保有株式として投資・保有する投資先規企業の株主総会においては、これまでの取引関係から、適切な議決権行使をしてこなかった、つまり会社提案議案に対しては100%「賛成」とするのが暗黙の了解となっています。

結果、機関投資家や個人株主が、投資先企業の株主総会の議案に対して、反対を表明してもがっちりと安定株主で固められているため、過半数の株式を有する株主の賛成を得ることができず、少数株主の意思が経営に反映されないことが問題とされています。つまりエクイティ・ガバナンスを効かせることができないということです。

より具体的にいいますと、政策保有株式として仮にA社の株式を取引先であるⅩ社が2%保有し、同じく機関投資家Y社もA社の株式を2%保有するとします。

この場合、A社の株主総会での取締役選任議案において、不適任者が取締役候補者として提案され、これに対してY社が株主総会で反対票を投じても、それが可決される可能性は低いのです。何故ならば、A社の株式を保有する取引関係のある事業会社は、X社以外にも多く存在し、仮に2%を保有するA社の取引先企業が15社いるとすると、30%(=2%×15社)が安定株主として、A社の株主総会議案には確実に賛成する株主としてY社に立ちふさがります。

極端な話、A社に不祥事があり資本市場からの退出が要求されていても、A社は決して反対されない安定株主でがっちりと固められているため、A社は安泰ということで、これが問題ということです。

昨年12月8日に内閣府が公表した「新しい経済政策パッケージ」によれば、コーポレートガバナンス改革として、現在進められている「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」での検討を踏まえて、2018年6月の株主総会シーズンまでに、「政策保有株式を持たせている側の理解」の取り組みを促すためのガイダンスを策定するとともに、必要なコーポレートガバナンス・コードの見直しを行うとされています。

昨今の政策保有株式に対する批判の高まりを考えますと、大きな改正に向かうような印象も持ちますが、一方で、政策保有株式には日本的な商慣習もあり、この短期での解消には色々と課題もあり、大きな解消にはまだ進まないのではないかという声も一部聞こえてきたりします。

しかし、短期での解消を国が強制的に促すことまでは難しいとしても、中長期的には解消する方向にあるというのが多くの機関投資家の意見でもあると思いますので、この動きは止まることはないはずです。

ちなみに、政策保有株式の多い企業は売上債権も増加するとも一部では言われています。結果、運転資本が増加するためフリーキャッシュ・フローにマイナス影響となり、また、バランスシートも膨らむので資産効率性も悪化し、ROEも悪化ということになります。

将来的には、上場企業は、政策保有株式については、①その保有する理由をコーポレートガバナス報告書でより説得的に開示し、②機関投資家が議決権行使に当たって、賛否の行使基準を設けていますが、同様に企業にも投資先企業に対して、自社の議決権行使基準を設けて適切な議決権行使をするようなことまで必要になってくるかもしれません。

企業にも機関投資家と同様に、投資先企業に対する議決権行使結果の開示を求めるべきという意見もありますが、ここまでの要請が法律やガイドラインで規制されるとは思えませんが、少なくとも投資先企業に不祥事があったような場合には、これまでは100%賛成としてきたところ、CEOに反対するなどの公正な議決権行使が求められていくのではないでしょうか。

一方で、企業は、政策保有株式の解消により、経営の安定度がなくなるわけですから、安定株主対策をあらためて見直すか、そもそも株主から横槍をいれずに経営するには上場を廃止するということを真剣に検討することもあるかと思います。

新聞記事によれば、有名な経営共創基盤の富山氏が持ち合い株式について、「日本の株式市場に残った最大の岩盤」とのコメントが書かれていますが、この岩盤がどのタイミングでどこまで崩れるのかは不明ですが、今後の重要課題と思います。