中長期的な企業価値向上のためのコーポレートガバナンス・アドバイザー / 長期での中小型株の割安株投資情報

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社外取締役を取締役会議長にする上場企業が増加する傾向

1月18日の日本経済新聞社外取締役を取締役会議長にする上場企業が増えているとの記事がありました。

JPX日経インデックス400構成企業のうち、社外取締役を議長にしている企業は、14社となり、前年より3%増加したとあります。

まず、社外取締役を議長にする必要はどこにあるのでしょうか。

現状、経営トップである社長が取締役会議長を兼務している企業が圧倒的に多いかと思います。

しかし、この場合の課題として良く言われていることは、取締役会の議長は議題の決定、議事進行などを行う役割があるところ、社長が議長を行うと社内の論理優先で判断されてしまう恐れがあるという点です。

取締役会で議事の討議を継続しようとしても、議長である社長が議事が十分つくされたと判断すれば「採決に移ります」と決定できます(現実には、社長が法的には必要とされる採決をとっている企業も少ないかとは思いますが)。これでは、本来取締役会に求められる戦略策定機能やモニタリング機能が十分に果たされず、活発な議論が阻害され、ひいては株主の利益に反する結果をもたらす可能性もあります。そこで、活発かつ公正な議論が出来るよう、社外取締役を議長にすべきというのが、分離を要求する理由かと思います。

ちなみに、コーポレートガバナンス改革の動きの中、取締役会議長と社長(CEO)の分離は議論にも出ているところでもありますし、野村アセットマネジメントの2017年11月1日改訂の日本企業に対する議決権行使基準でも、社外取締役を取締役会議長にすることの定款変更に関する株主提案については、原則「賛成」との考えを示しています。

一方、社外取締役を議長にすることの理想は分かりますが、実務上は、この対応は骨の折れることになるかと思います。

社外取締役が議長となり議事進行をするわけですから、基本的に議案の内容について、精通している必要があります。

このため、企業によっては、事前に社外取締役である議長に十分に説明する必要があり、また、議長にも多くの時間を割いてもらう必要が出てきます。社長であれば、社内用語や暗黙の了解で認識していることも、社外取締役にはそれは通用しません。

ただし、これは最初に相当程度の時間を割けば、解決する問題のようにも思われます。それより、社外の方の意見を入れることで、これまで気付かなかった視点を戦略策定に取り入れることができ、市場に目を向けた議論をすることに繋がるという点で有益なのかも知れません。

ちなみに、私が最初に勤務していた某化学素材メーカーでは、私は一時期、秘書室に勤務していた時に取締役会の議事メモ係として列席していたこともあり、取締役会自体が経営会議、要務会、常務会といった社内会議で決定した事項の追認という形式的な会議体になっていました。

社外取締役=お客様との扱いで、社外取締役も2、3の簡単な質問をして、それに対して議長である社長と、その議題を説明する担当取締役のみが発言し、会は終了となっていました。前にもブログに書いたこともありますが、取締役会とは厳かな雰囲気の中で行われる儀礼なのだなと当時は認識していました。

しかし、コーポレートガバナンス改革がその後大きく進む中、このような考えは古く、今では、機関投資家などは、投資先企業の実体を知る上で、社外取締役の果たしている役割を重視しており、戦略策定機能やブレーキ機能としての社外取締役の具体的な貢献度合いを知りたいというのが大多数かと思います。

今後は、日本企業では取締役会の構成員のダイバーシティはじめ、大きく変わることと思いますが、その流れの中で、5年後、10年後には社外取締役が議長というのが一般的な企業のスタイルになる可能性があるかも知れません。