中長期的な企業価値向上のためのコーポレートガバナンス・アドバイザー / 長期での中小型株の割安株投資情報

最近のコーポレートガバナンスと資本市場の動向を踏まえ、上場企業実務の視点から中長期での企業価値向上に役立つ情報分析・発信をしていきます。個人投資家のコーポレートガバナンス力の向上による「意思のある投資」に役立つ情報発信もしています。また長期での割安株投資の情報も

企業の環境・社会問題に対する機関投資家目線での考え方

年末を迎えるに当たり、これまでに切り取った新聞記事を整理していましたが、11月30日の日本経済新聞に、本年5月に米エクソンモービル株主総会で、「気候変動規制の業績への影響を詳しく開示せよ」との株主提案があり、この議案への賛成率が60%を超えたとの記事がありました。

ニューヨーク州退職年金基金などが提案をしていたようで、これに、ブラックロックやバンガードなどの米国有力運用会社が賛成票を投じたようです。

物言う株主の提案は、従来、増配要求、自己株式の取得といった比較的単純な要求が多かったのですが、最近は低収益事業の分離といった事業面について精緻な分析を行い、企業に提案を行うケースも増えているのは認識していましたが、環境や社会問題の提案にも幅を広げているようです。

ESG投資に関しては、欧州を中心とした運用会社の関心が高い中、環境や社会問題に対する合理的な提案をする場合には、これに賛同する運用会社が増えているということかと思います。ブラックロックは運用資産も巨額で、670兆円あり、同社はESG投資で長期的投資を志向するファンドであるので、こういった環境関連の株主提案にも賛同をしたということかと思います。

ここで考えなければならないのは、単純に環境問題や社会問題について企業に提案、賛成するだけでは物言う株主には、メリットはないということです。彼らは株式を取得し、その後、企業に色々と提案をして、株価を上げ、その後に保有株式を売却して投資回収を図る、つまりキャピタルゲイン(売却益)を得ることを狙いとしています。

とすると、純粋な環境問題や社会問題には関心はなく、それを改善することで、株価が上昇するということが予測されることではじめて賛成票を投じることになります。

ESGの改善が株価にどの程度の影響を与えるのかは、まだ分からないところがありますが、これが企業価値、ひいては株式価値である株価向上に結びつくということであれば、提案に対する賛成票が増えるのかも知れません。

なお、企業価値と株式価値の理解が出来ていない方も多いと思いますが、株式価値とは、ファイナンス上は「企業価値-ネットデット」で算定され、これを発行済株式数で割ったものが理論株価(現実には市場株価と一致はしません)になります。

また、記事によれば、環境・社会問題の専門家でないファイナンスのプロである機関投資家が、専門外の分野で企業に方向転換を促すのはリスクが高いというある運用会社のコメントもありました。

ここで上場企業として何をなすべきかということですが、環境問題や社会問題について外部からつつかれるというリスクを想定して、自社の環境・社会問題について、「株価に影響を与える」課題を把握し、それに対する理論武装をするということが重要になるのではないでしょうか。

企業規模にもよりますが、CSR部門といった部門をおいて環境・社会問題に取り組んでいる企業もあるかと思います。とすれば、より詳しい情報を持つ企業が予め環境・社会問題を認識して、分析しておけば、それを株主提案として形で提案されても、きちんとした反論をすることができます。

ただ、環境・社会問題となると非常に幅広いこともあり、企業としてはどこに手をつけてよい分からず、とりあえず世間で関心のある環境・社会問題に取り組んでそれを開示している企業も多いかと思います。しかし、機関投資家対応という点では、それは本質から大きく外れていると思います。

機関投資家は、慈善事業に投資している訳ではなく、あくまで投資先企業がもうかって株価が上昇することに関心があるので、株価への影響の極めて乏しい事項には関心は示しません。

私は環境や社会問題には疎いのですが、社会活動として地域のゴミ広いを取り組んでいるといったことを全面的にPRしている企業も見たことがありますが、慈善事業としては大変に素晴らしいことと思います。個人の社会活動にはどうしても限界があるところ、企業でなければこういう問題に取り組めないので、こういった社会奉仕活動は、企業が率先して行うべき活動と思います。しかし、その一方で、機関投資家は全く関心を示さない活動でもあります。

上場企業は、自社の業績、ひいては株価に影響を与える環境・社会問題は何であるかをきちんと把握して、物言う株主対応という視点から、きちんと対策を事前準備することが環境・社会問題のリスク対策として重要になってくると思います。