中長期的な企業価値向上のためのコーポレートガバナンス・アドバイザー / 長期での中小型株の割安株投資情報

最近のコーポレートガバナンスと資本市場の動向を踏まえ、上場企業実務の視点から中長期での企業価値向上に役立つ情報分析・発信をしていきます。個人投資家のコーポレートガバナンス力の向上による「意思のある投資」に役立つ情報発信もしています。また長期での割安株投資の情報も

企業年金連合会と大手金融機関4社による集団的エンゲージメント(対話)の開始

企業年金連合会三菱UFJ信託銀行三井住友信託銀行りそな銀行三井住友アセットマネジメントが共同での企業とのエンゲージメント(日本語では「対話」といいます)を行うことになり、企業統治の改善などを求め、連名での書簡を年内にも投資先に送るとの報道がありました。合計の日本株運用総額は30兆円を超え、日本株全体の5%を超えるとのことです。

集団的エンゲージメントとは、機関投資家が単独でなく、複数で協調して企業への対話を求めることです。共同対話は国際的な潮流で、日本においては、スチュワードシップコードにおいて、次のような記載があります。

「必要に応じて他の機関投資家と協同して対話を行うこと(集団的エンゲージメン
ト)が有益な場合も有り得る」

ちなみに、海外での集団的エンゲージメントについては、たしか米国では「適切に他の機関投資家と協同すべき」、EUは「適切な場合には、他の投資家と協調して行動すべき」とあります。文脈の全体を読んでいませんので、一概には言えないかも知れませんが、協同を義務付けているような様子で、日本よりもより積極的な印象を受けます。

フェアディスクロージャー・ルールもそうですが、欧米は先行しているので、多分、欧米の方がより積極的と思います。いずれにせよ、日本も欧米にならう方向に向かっていることは確実です。

では、集団的エンゲージの効果は何でしょうか。

単独で企業と対話をするのではなく、機関投資家が複数で企業との対話を行うことで企業への発言力が高まるということになります。企業としても、運用機関各社と個別に対話をするより、纏めて対話をすることで対話の労力が減り、効率が高まるということはプラスの側面かと思います。

一方、企業には留意すべき点があります。それは、運用機関が企業に要求する事項が共通する内容であれば、その要求内容を充足しない企業は、株主総会での議案の反対率が増えるということになると思われます。

統一的な基準を機関投資家が要求するのであれば、それを充足する企業にはプラスに働き、それを充足しない企業にはマイナスに働くということです。

報道では、株主総会の議決権行使は各社が独自に判断し、共同の株主提案はしないということのようですので、これだけ読むと、各社独自の基準により総会で議決権は行使するということですが、集団で企業との対話に臨む以上は、各社とも考えのベースは同じになると理解すべきかと思われます。

今回の集団的エンゲージメントは、日本では初めての試みのようですが、企業にとっては、機関投資家との対話をこれまで以上に充実させ、対話を踏まえて企業統治を見直すなどの改善が必要になります。