中長期的な企業価値向上のためのコーポレートガバナンス・アドバイザー / 長期での中小型株の割安株投資情報

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㈱内田洋行への投資会社による株主提案に対する取締役会の反対意見

2017年9月11日付の㈱内田洋行のプレスリリースによれば、同社の株主である株式会社ストラテジックキャピタルより、本年10月開催予定の定時株主総会にて株主提案が出されており、それに対して内田洋行の取締役会が反対意見を決議したとのことです。

2017年9月11日付のプレスリリースに記載されている株主提案の内容を見ますと大きく次の2つになります。

1.内田洋行の定款に、純投資目的以外の目的で保有している上場株式は、来期中に速やかに売却することの規定を設けること
2.剰余金の配当として、株式1株当たり、2017年7月期の連結上の1株当たり当期純利益の金額を配当すること

端的にいうと政策保有株式は速やかに売却して、キャッシュを株主に還元せよという提案内容かと思います。

ここで、プレスリリースに記載されている株主提案に記載の内田洋行の財務状況を見ますと、2017年4月20日現在で次のようになっているようです。

・現預金 203億円、投資有価証券 79億円
・有利子負債(デット) 71億円
・ネットキャッシュ(=現預金 + 投資有価証券 - 有有利子負) 211億円

プレスリリースによれば、2017年4月20日現在で、純資産は364億円でPBR(株価純資産倍率)は1倍を大きく下回るということのようです。ヤフーファイナンスで検索したところ、4月20日時点の株価は終値で2,403円、発行済株式総数が10,419,371株ですので、時価総額は約250億円になります。

この数値をベースに算出するとPBRは0.67倍(=250億円÷364億円)となり、たしかに1倍を下回り株価は割安といえます。

また、時価総額に対するネットキャッシュの比率を見ますと、ネットキャッシュ / 株式時価総額=84%(211億円÷250億円)となっており、これを見ても、株価は割安に評価されているといえます。

ストラテジックキャピタルがいつ株式を取得したかは不明ですが、割安な株式を取得して、用途が明確でない潤沢な余剰資金を還元しろという主張のようです。割安でキャッシュリッチな企業の株式を取得して、株主還元を要求し、増配によって株価の上昇を目指すといういわゆる物言う株主による一般的な主張内容になります。

内田洋行ROEは5.2%ということで、日本企業の平均8%を下回るのでこの点でも株主還元を主張する論理性はあるかと思います。

ここで、1つ政策保有株式の主張について関心がありましたので、少し説明します。

政策保有株式は、コーポレートガバナンス・コードでも指摘されており、取引先との安定的・長期的な取引関係の構築、協働ビジネス展開の円滑化等の観点から、中長期的な企業価値向上に資すると判断される場合には、保有できるとされています。

これに対して、株主提案では、次のような理由で、保有の意義はないとストラテジックキャピタルは主張しています。

1.取引先の株式を保有していると何故に取引関係の構築等ができるのか、その因果関係が不明
2.取引先との関係構築等は、株式保有に頼るものではなく、会社の提供する役務等の品質向上によるべき

上記の2つの株主提案に対しての内田洋行の取締役会の意見は、簡単にまとめますと次のとおりです。

1.(定款変更の提案については)政策保有株式の全株の売却は、今後の株式投資全般も制約しかねず、柔軟な事業提携や協業等への投資を阻害するものであり反対
2.(剰余金処分については)中核事業の再構築のための事業改革を進め、次に事業基盤確立に向けて継続的な投資を行うことを検討しており、財務基盤の確立が経営課題の1つであり、増配提案は株主の中長期の利益を損うことになり反対

今後は、株主提案内容と取締役会決定のいずれに他の株主が賛同するかになりますが、内田洋行の直近での株主構成をは分かりませんが、2016年7月20日の有価証券報告書を見ますと外国人株主比率は18%となっております。

外国人株主(海外機関投資家)は経済合理性に即して判断するので、株主提案が理にかなっていると判断する場合には、何の躊躇もなくこれに賛成するとなります。

一方、国内機関投資家の株式保有比率は分かりませんが、個別開示の方針を各社打ち出している中、株主提案に賛成する国内機関投資家も増えるのではないでしょうか。なお、個人的には政策保有株式の取得には、どこまで意義があるのかは懐疑的です。わずか1~2%程度の株式を保有しただけでは、対象会社の経営権に影響を及ぼすこともできず、いわば「名刺」の意義しかないのではないでしょうか。その点では、ストラテジックキャピタルの主張に私は論理性があるように感じています。

内田洋行は、今後、株主総会に向けて会社提案に賛成するよう機関投資家に働きかけ、自社主張の正当性を説明したり、また安定株主にも賛成票を投じることをお願いすることになるのでしょうが、ポイントは国内機関投資家になります。

議決権の個別開示を各社採用する中、機関投資家の多くが株主提案に同調するようなことになると、先般の黒田電気の株主提案が可決されたように、株主提案が可決されることになる可能性もあります。

もし、そうなった場合には、これををきっかけに物言う株主にが勢いがつき、今後、上場企業にとっては、厳しい環境に向かう流れに向かうかも知れません。