コーポレートガバナンス、M&A、企業価値、IRなどに関する実務ニュース

コーポレートガバナンス、M&A、企業価値、IR等の新聞記事について、投資銀行・東証1部事業会社での実務経験を通じて気づいた観点を踏まえて分かりやすく解説していきます

複数事業を営む企業のPERについて

9月1日の日経新聞で「業種別PERを疑え」との見出しの記事がありました。

記事を引用しますと「同じ業種でも一律の投資指標で比較しきれない『隠れ異業種』銘柄が浮かび上がる。これまでとは違った投資尺度を当てはめれば、割安と評価できる可能性もある。」との内容です。

例を挙げて説明したいと思います。

仮に、複数の事業を営む企業(A社)がありA社は主力事業が化学事業として、PER(=時価総額÷純利益)が化学業種の同業のPERの平均倍率(仮に13倍とします。化学業種の実際の平均PERは分かりません)を上回り15倍あるとします。

これだけを見ると株価が割安に評価されているとはいえません。しかし、A社が従来からの主力事業である化学事業の他に非鉄金属事業、輸送用機器事業があり、非鉄金属事業の利益がA社の全体利益に占める割合も高く成長している場合、非鉄金属事業の業種の企業の平均倍率を見る必要があります。

非鉄金属事業で見た場合、自社と同規模の企業のPERが仮に30倍となっている場合、A社は化学業種で見た場合には業界平均であるも、非鉄金属事業で見た場合には低く、株価は割安に評価されている、つまりもっと市場株価は上がってもよいはずという内容かと思います。

 新聞記事では、神戸製鋼所のケースが出ていましたので、同社の2018年3月期の第1四半期の決算短信、決算説明資料をホームページからぱっと眺めてみました。

セグメント別の売上高と経常損益の数値があり(事業セグメントが10もあることをはじめて知りました)、2017年度のセグメント別の売上高予想で高い順に事業セグメント4つを上げると、売上高及び経常利益は次のとおりになっています。   

         売上高     経常利益   
鉄鋼           7,100億円     150億円 
アルミ銅      3,450億円     140億円 
建設機械      3,350億円     100億円 
機械             1,780億円       50億円  

会社全体での予想売上高は18,800億円、予想経常利益は550億円となっています。

これを見ると鉄鋼セグメントの全体売上高・経常利益に占める比率が大きいですが、アルミ・銅や建設機械の占める比率も大きいことが分かります。

ここで9月5日の株式時価総額を分子に、第1四半期決算短信に記載の2018年3月の予想当期純利益を分母に神戸製鋼所のPERを算出すると次のとおりになります。

PER = 4,751億円 ÷ 350億円(2017年度業績予想) = 14倍

業種別日経平均の「鉄鋼」は約12倍のようですので、平均より高いといえます。

次に建設機械の観点から見てみたいと思います。

建設機械の大手では、コマツ日立建機がありますが、各社のPERを各社の2018年3月期の第1四半期決算短信にある2018年3月期の予想純利益を分母にして、算出してみました。なお、時価総額は2017年9月5日の各社の株価終値ベースです。

コマツ  PER = 28,551億円 ÷ 920億円(2018年3月期連結業績予想)  = 31倍
日立建機 PER =   6,647億円 ÷ 180億円(2018年3月期連結業績予想)  = 37倍

新聞記事では、コマツ日立建機のPERは30倍を越えるとありましたが、その通りです。

とすると、神戸製鋼についても、全体としては、建設機械の同業種と比較した場合には、PERが低いので割安であるということも言えるのかも知れません。

勿論、PERの数値だけで割安かどうかは必ずしも判断できるものではなく、PBRなどの視点からも検討する必要があるように思いますが(ただし、PERが1桁台であれば株価か確実に割安といえると思います)、前述のとおり、会社の全体利益の中で大きな割合を占める事業がある場合、その事業を営んでいる同業他社と比較してPERが大きく下回っている場合には、割安と考えられるということです。