中長期的な企業価値向上のためのコーポレートガバナンス・アドバイザー / 長期での中小型株の割安株投資情報

最近のコーポレートガバナンスと資本市場の動向を踏まえ、上場企業実務の視点から中長期での企業価値向上に役立つ情報分析・発信をしていきます。個人投資家のコーポレートガバナンス力の向上による「意思のある投資」に役立つ情報発信もしています。また長期での割安株投資の情報も

サーベラスの西武HDの全株式売却の報道に見る企業の今後の株主政策

8月17日の日経新聞で米投資ファンドサーベラス・グループが西武ホールディングス保有株式全株を売却したとの報道がありました。サーベラスは2006年頃に西武HDの株式を約30%保有して、その後、色々な提案を西武HDに行ってきましたが、その後、段階的に売却を売却し、保有比率が低下していました。

サーベラスとは米国のアクティビストファンドであり、いわゆる物言う株主になります。サーベラスが大株主になることで、西武HDの業績にどういう影響があったのかまでは把握していませんでしたが、新聞報道によると、サーベラスが投資した1,000億円が元手になりホテル事業が復活し、「既存ホテルの平均客室単価を引上げる戦略も成功。営業利益は2006年度から10年で5割増の624億円まで回復した」とあります。

この報道を受けてあらためて思ったのは、企業にとっては、物言う株主は、自社の経営に口を出す部外者という意識が強いと思いますが(当然ですが)、一般の株主にとっては物言う株主の存在は自分たちにとって都合が良い存在と映る可能性が大ということです。

これは想像ですが、もし、サーベラスが投資をしていなかった場合、西武HDが現状のような業績回復が出来ていたでしょうか。出来ていたかも知れませんが、簡単には思いきった投資などはできずに、回復に時間がかかったかも知れません。

サーベラスが会社に対して積極的な提案をしたという「外圧」があったからこそ同社の企業価値の向上につながり、結果、一般の株主も株価上昇による恩恵を受けたといえるような気もします。

とすると、前にも何度かブログに書いていますが、物言う株主に賛同する一般株主は増える傾向にあるということになります。特に、合理的に判断する外国人株主や国内機関投資家といった株主の株式保有比率の大きい企業は、物言う株主の提案に賛同するケースが多く、個人株主も、オーナー一族を除けば、物言う株主の提案が自己の利となるのであれば、物言う株主の提案に賛同する方向に確実に向かいます。

以前に日経ビジネスか何かの雑誌で「一億総アクティビスト時代」といった用語を目にしましたが、投資ファンドが口火を切ることで、全ての株主がアクティビストになるということが言えるようにあらためて感じました。

話は少し変わりますが、約1週間の夏季休暇中に、今週末に東京ビックサイトで開催される日経IR・投資フェア2017の出展企業の中で中小型株銘柄に該当する時価総額数百億円規模の企業15社ほどの財務諸表を眺めました。

バランスシートを見ると内部留保が潤沢であり、総資産に占めるネットキャッシュ比率がかなり高く、配当性向は30%台はあっても「更なる増配の余地も十分あるのでは?」と見受けられる企業が散見されました。

また、総資産に占めるネットキャッシュ比率が高く、市場で株価が割安に評価されていると考えられる企業も散見されました。ちなみに割安株の判断基準は、PBR、EV/EBITDA倍率、ネットキャッシュ/時価総額比率などの指標があります。

EV/EBITDA倍率で1桁程度の倍率で、ネットキャッシュ/時価総額比率がかなり高い企業もありました。これは市場で株価が割安に評価されていることを意味します(PBR、EV/EBITDA倍率、ネットキャッシュ/時価総額比率の指標の意味については、少し長くなるので、次回はこの3つの指標について紹介いたします)。

そして、全ての企業では勿論ないですが、これらのキャッシュリッチ、割安株の企業の外国人比率を見ますと数パーセントから10%台が多いです。

本来こういった企業は、増配や自己株買いの要求が株主からあったり、割安を理由に買収されるリスクのある企業と言えますが、外国人比率や国内機関投資家による株式保有比率が小さいため、現実には物言う株主の提案に賛同する株主がいないため、そういったリスクを懸念する必要はないのかも知れません。

しかし、将来、外国人株主の比率が高まった場合や、持合解消の動きの中、自社の株式を保有している取引先が株式を売却し、機関投資家や個人株主の比率が大きく増えた場合には、サーベラスのようなアクティビストが株式を保有して提案をしてきた場合、この提案に賛同する株主が多くなることを考え、あらためて株主政策については考える必要があるのではないでしょうか。

これまではIRや株主政策にあまり目を向けてこなかった企業は、昨今の資本市場の変化の中、単に社外取締役を増やすといった形式的なことで満足するのではなく、社外取締役が出席する取締役会で資本政策、株主政策をきちんと検討すべき時期に来ていると思います。

次回はPBR、EV/EBITDA倍率、ネットキャッシュ/時価総額比率などの割安株の指標について簡潔に、かつわかり易く解説をいたします。