中長期的な企業価値向上のためのコーポレートガバナンス・アドバイザー / 長期での中小型株の割安株投資情報

最近のコーポレートガバナンスと資本市場の動向を踏まえ、上場企業実務の視点から中長期での企業価値向上に役立つ情報分析・発信をしていきます。個人投資家のコーポレートガバナンス力の向上による「意思のある投資」に役立つ情報発信もしています。また長期での割安株投資の情報も

議決権行使助言会社とは?

先日の日経新聞で「総会の黒子の正体」ということで議決権行使助言会社である米国のISSについて記載されていました。

ISSとはインスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズというのが正式名称で、業界最大手ですが、他には同業ではグラスルイスという議決権行使助言会社があります。

上場企業のIR部門の方、株主総会での議決権行使関連業務の方にはISS、グラスルイスのことは良くご存知のことと思いますが、そもそも議決権行使助言会社とは何であるのか、また、企業への影響について基本的なことを書いてみたいと思います。

1.議決権行使助言会社とは?

株主総会の際に機関投資家が議決権を行使する際に、賛否を推奨する議決権行使の助言をする会社です。

株主総会の際には、機関投資家がその所有する株式について株主総会で議決権を行使しますが(実際には、総会場に来場するのではなく、事前に書面で議決権行使するのがほとんどです)、この会社のこの議案には賛成又は反対かを機関投資家に推奨します。具体的には、議決権行使助言会社がレポートを発行し、機関投資家がそれを購入するということになると思います。

つまり、ある上場企業の取締役選任議案としてA氏という方が候補者になっているときに、機関投資家がA氏に賛成又は反対のいずれを投じるかを判断する際に、ISSなどの議決権行使助言会社の判断基準に従って判断します。機関投資家には、海外投資家と国内投資家がありますが、海外の機関投資家ISS、グラスルイスの基準をそのまま遵守するケースが多いと思います。

2.企業サイドに与える影響は?

端的にいいますと、助言会社の基準を充たしていない場合、議案の反対票が増えということになります。

では、企業としては、どうするかといいますと、まずは自社の議案が助言会社の基準を充足するかどうかを株主総会に先立ち確認をする必要があります。助言会社の基準を満たさない場合には、その議案について反対票が増えることになり、反対率が高くなると総会で議案が否決されることになります。

従って、外国人(法人)保有比率が高い会社は注意が必要になります。何故ならば、外国法人(=海外機関投資家)は先に書きましたようにISSなどの基準をそのまま採用するケースが多いからです。

一方、個人株主は議決権助言会社の基準を見ることは普通はないので(個人株主ではあるが、「私はISSの基準に沿って判断する」といったマニアは別ですが)、株主構成上、外国人比率が小さく、個人株主比率が高い会社は特に心配する必要はありません。もっとも、個人比率が高いということは、安定株主も低いということになるので、個人の賛否が全く読めないという別の問題が生じてはきます。

以上が概要になりますが、新聞にも書かれていましたが、議決権行使助言会社には批判も多いところでもあります。

それは何かといいますと、議決権行使助言会社は投資家の意向を踏まえて各国・地域ごとに賛否基準を作成していますが、その国・地域のある企業の個別事情はあまり考慮していないと点です。例えば、「ROEが5%以上でないと議案に反対」といったように一定の基準を設定しており、機械的に判断しているといわれています。

経営が順調で十分に利益が蓄積されている企業であれば、利益を還元して、ROEを高めよという主張は分かるのですが(=配当や自社株で利益還元することで純資産が減りますので、ROEは高まります)、資本を増強する必要があったり、将来の大型投資やM&Aに向けて資本を厚くしておききたい会社もあります。こういった企業の個別事情があまり考慮されず、基準を形式的に適用しているのではないかという批判です。

一方で、これはある意味では仕方ないという側面もあるかと思います。判断基準を作るには、一律の基準を設定する必要もあり、個社別の基準を作ると収拾がつかなくなるという現実もあります。実際に議決権行使助言会社の人的リソースもあると思います。

では、こういった環境下で企業としてはどうすべきかといいますと、積極的に議決権行使助言会社に自社を理解してもらえるよう努めるということになるか思います。

日本を代表するような一部の巨大企業・有名企業でない限り、自分から黙っているとまず理解はして貰えないのですから、なるべく対話をする機会を持って自社の事情を理解して貰うということがあるように思えます。転職の際と同じですね。

前職の証券会社時代に、日本の大手化学メーカーに勤務後にマサチューセッツ工科大学(MIT)でMBAをとってから、転職してきた同僚がいましたが、こういう一流の米国の大学でMBAを取得した方は何故か、時々、エグゼクティブ採用専門の人材会社から高待遇での転職のお誘いが頻繁にあるようですが(本人はMBA卒業リストが出回っているのではといってましたが)、そうでない大多数の一般の方は、転職したいとすれば自らプロフィールを作成して、現職より少しでも高い給料が貰えるよう、自分の成果やポテンシャルを売り込んでいく努力をしないと転職できないのと全く同じ考えです。

少し脱線しましたが、私の知る限りですと海外の機関投資家の中には、ISSなどの基準に必ずしも準拠することなく、自社独自の基準を設定する機関投資家もありますが、以前として大多数はISSの基準によるところが多いと思います。

とすると、企業サイドとしては、転職の場合と同じで、自社の業績や取り組み、今後のビジョンなどについて積極的にISSなどとの対話の機会をつくっていくことが大事だと思います。

ちなみに、少し前にグラスルイスの米国担当者のセミナーに参加したことがありますが、同社は日本では拠点は設けていないということでISSよりも日本では活動は小さいようです。