コーポレートガバナンス、M&A、企業価値、IRなどに関する実務ニュース

コーポレートガバナンス、M&A、企業価値、IR等の新聞記事について、投資銀行・東証1部事業会社での実務経験を通じて気づいた観点を踏まえて分かりやすく解説していきます

会社役員の巨額損害賠償リスク

4月28日の新聞報道で、オリンパス粉飾決算事件に関して旧経営陣陣に対する株主代表訴訟東京地裁の判決があり、590億円の賠償命令が出たとのことです。過去2番目の高額の賠償額とのことのようです。

株主代表訴訟とは、役員が会社に対して損害賠償義務を負う場合に、会社に代わって株主が訴訟を提起して、役員に会社に対して損害を賠償することを求める訴訟です。会社法上、役員(取締役や執行役です。ちなみに「執行役員」は、各社自由に制度設計できる「擬似役員」であり、会社法上の役員ではありません)は会社との間では委任関係にあります。従って、受任者として善管注意義務に基づき職務を行う必要があるところ、業務上、不正行為を行ったり、または役員としての業務監督責任を怠り会社に損害を与えたような場合には、会社に対して損害賠償義務を負います。

そして、本来であれば、監査役または監査委員が会社を代表して役員に対して損害賠償請求をするのですが、実務上、身内に対して賠償請求をすることは期待できません。そこで、登場するのが、会社の株主です。つまり株主は、会社が損害賠償請求を行わないのであれば、自らが会社に代わり、役員に損害賠償請求をして、損害について会社に補填するよう裁判を起こすのです。裁判で勝っても株主にはお金は入るわけではなく、会社に訴訟で負けた役員からお金が支払われることになります。これが、株主代表訴訟の構図になります。

では、役員はこのような巨額の賠償を支払うことが出来るのでしょうか?

オリンパスでは6名の元役員が訴えられているようですが、単純に6人で590億円を割ると1人当たりの賠償額は100億円近くになります。まず個人では払えない金額かと思います。もっとも、通常は、地裁の判断はこのような天文学的な数字の賠償命令が出ても、訴えられた役員サイドが控訴して、高裁で和解に至ったり、またはまともな高裁判決が出て賠償額が下がるケースが多いのですが、それでも総額で数十億から数億円という金額になります。

大企業の役員クラスでも会社のサラリーだけを生活の糧としている場合、数千万円の支払は、個人としては間違いなく大変大きい負担かと思います。仮に支払えたとしても、個人の人生設計が破綻するか、大きく人生設計の変更が必要になります。

そこで役に立つのが、会社役員損害賠償責任保険です。つまり、会社が予め役員の賠償責任に備えて、保険会社との間で役員が損害賠償を負うことになった場合に保険でカバーできるよう保険会社との間で締結する保険契約です。通称、D&O保険と呼ばれており、上場企業では、多くの会社が保険会社と締結していると思います。従い、株主代表訴訟で損賠賠償義務を命ぜられても役員はD&O保険でカバーされます。

しかし、D&O保険も万能というものではなく、保険内容によって異なるかと思います。
私の経験上は、自ら不正行為を行った役員は付保されない、つまり保険でカバーされないケースが多いような印象を持ちます。とすると、オリンパスのような巨大企業では当然D&O保険は結んでいるかと思いますが、今回の対象者全員が付保されるのかはなんとも言えないようにも思えます。

サラリーマン人生では、会社の大小の規模はさておき、自分の所属する会社組織という「村」において役員になることが1つの成功であることは間違いないですが、このように役員になると、損害賠償義務を会社法上負うリスクが生じます。

従い、役員になる場合には、そこで得られる報酬とリスク、そしてリスクのカバーがどうなっているかをしっかりと理解されることが大切と思います。

上場企業と言っても、売上高が数兆円を超える大企業から、売上高十億円から数百億円規模の中小規模クラスまであり、中小規模クラスの役員は(オーナー一族は別ですが)、大企業の課長クラスを下回る年収しかないというケースもだいぶ多いと思います。中小規模クラスで50歳を過ぎて役員になり、ようやく大企業の課長クラスの年収程度になっただけなのに、株主代表訴訟が提起され、仮に年収の10年分の損害賠償義務を負わされたら全く割に合わないですね(ちなみに、2016年度の中小企業白書を見ると日本の会社数は、約380万社あり、東証での1部上場企業はこの中でも3500社程度です)。

役員であれば自社のリスクや不祥事など世間には言えない内部情報に接する機会も多いと思います。そのような情報に接した場合には、自分を守るには、そのリスクを摘み取る努力をすることが自身のリスクヘッジとして大切になります。

経理や経営企画等の管理部門出身の方は、株主代表訴訟などについて十分に認識されているケースが多いですが、営業や技術の経験しかない方は、通常は株主代表訴訟といわれても、全く門外漢であるのが通常です。とすると将来会社に損害を与えるきっかけとなる情報の端緒を認識しながらも、自分の担当外だから放置しようという考えを抱く方もいると思います。

しかし、役員である以上は、部長クラスといったような一般従業員とは異なり、会社の経営全体への監督義務というものがあり、問題の端緒を放置して、それが後日大きな問題に発展した場合には、自分が株主代表訴訟の被告になる可能性もあり得るのです。

特に、数年前に会社法制度が変わり、株主は金銭的な負担を強いられることなく簡単に株主代表訴訟を提起できますので、他人事と思わず、十分な注意を払う必要があると思います。

以上、オリンパス株主代表訴訟の新聞報道も見て思うところを書いてみました。