中長期的な企業価値向上のためのコーポレートガバナンス・アドバイザー / 長期での中小型株の割安株投資情報

最近のコーポレートガバナンスと資本市場の動向を踏まえ、上場企業実務の視点から中長期での企業価値向上に役立つ情報分析・発信をしていきます。個人投資家のコーポレートガバナンス力の向上による「意思のある投資」に役立つ情報発信もしています。また長期での割安株投資の情報も

資本コスト(WACC)の開示が意味するところ-ストラテジックキャピタルが株式会社浅沼組に対する株主提案を取り下げ

アクティビストである投資ファンドのストラテジックキャピタルが株式会社浅沼組に株主提案をしていましたが、5月22日に株主提案を一部取り下げるとのプレスリリースを出しています。

同社の2019年5月17日付の2019年3月期決算説明会資料を見ると「2020年3月期業績予想」に資本コストについて、次の記載があります。

  •  支払利息          189百万円
  •  有利子負債      11,694百万円
  •  負債コスト          1.62%
  • 10年国債利回り      △0.082%
  • β値                 1.058
  • 市場期待利回り                 7.00%
  • 株主資本コスト            7.41%
  • 時価総額       19,833百万円
  • 税率                 30.4%
  • 資本コスト(WACC)          5.1%

 資本コストとは、会社債権者と株主が会社に対して求めるリターンになります。この低金利の時代、負債コストは低いのでポイントは株主資本コストになります。

株主資本コスト=リスクフリーレート+リスクプレミアム(β×マーケットリスクプレミアム)です。

リスクフリーレートは、上の数値ですと10年物国債利回りで、マーケットリスクプレミアムとは、キャッシュフローの変動するリスクを負担することに対する見返りで、リスクに対するリターンの割増をいいます。

ハイリスク、ハイリターンがリターンの考えの基本ですので、キャッシュフローの変動の高い企業に投資する株主は、高いリターンを求めるということになります。

 WACCとは負債コストと株主資本コストの加重平均です。株主資本コストを下げるには、成長性、収益性、予見可能性、経営力について資本市場に理解して貰う必要があります。

一方、同社のROE(自己資本利益率)は同資料によれば、2019年3月期が11.5%で、2020年3月期予想が10.6%となっています。

ROEと比較すべきは資本コストではなく、株主資本コストです。株主資本コストが株主が投資先企業に求めるリターンですから、最低でもROEはそれを上回る必要があります。

ストラテジックによれば、浅沼組との面談において、代表取締役は株主資本コストとその計算根拠を今後も継続的に開示することを約束したということのようです。

株主資本コスト、資本コストなどはコーポレートファイナンスの超基礎的な事項ですので開示していなくても、機関投資家などのファイナンスに精通している方であれば当然に知っていますが、会社に表明させることで、淺沼組が達成すべき最低のROEが明確になります。

会社に株主資本コストを表明させることで、ROEがそれを下回る場合には、投資ファンドは合理的なアクションを提案し、それに対して他の機関投資家の賛同を得やすくなるという点がポイントかと思います。

ROEを高めるための配当増、自社株買のアクションの提案がとおいやすくなるということです。そういう意味では、株主資本コストを開示している会社は、株主還元が期待できる銘柄と言えるのかも知れません。

2019年6月以降に発行される上場企業の有価証券報告書の見るべき改正箇所-第3回

 

2019年3月期の有価証券報告書の記載事項が大きく変更されるということで前回、政策保有株式の開示について紹介しましたが、本日は役員報酬の開示の変更について紹介したいと思います。

役員報酬には、固定報酬と業績連動報酬があるところ、欧米と比較して、日本企業は固定報酬の割合が非常に大きく、業績連動報酬の割合が低く、これについて資本市場から批判を受けています。

つまり、固定報酬が多いということは、会社業績が良くても悪くても安定的に報酬を受け取れることになります。

しかし、役員は法律上は経営陣であり(「役員」とはいっても、常務又は専務クラスにならないとそれほど大きな権限は持っていない企業もかなり多いかとは思いますが)、業績に責任を負うのであり、従って、業績が低迷した場合には報酬も下がる業績連動型の報酬制度が望ましいということが言われているところです。

では、2019年3月期の有価証券報告書から役員報酬の開示はどのよに変わるのでしょうか。詳細は内閣府令に規定されていますが、つい先日の5月20日の日本経済新聞にも分かりやすく記載されていました。新しい開示内容を分かりやすくポイントだけを以下あげます。 

  • 役員報酬の決定・支給方法やこれらに関する考え方
  • 業績連動報酬と業績連動報酬以外の報酬等の支給割合の決定方針
  • 業績連動報酬の指標と当該指標を選択した理由
  • 業績連動報酬に係る指標の目標及び実績
  • 報酬を決めている者、権限の内容 など

非常に細かい内容の開示が求められております。業績連動報酬に係る指標の目標と実績の開示などは、目標未達の場合には、役員の報酬との関係性がかなり明確になるのではないでしょうか。

 私の感覚だと大手企業は業績連動報酬に対する意識も最近高くなってきていますが、私が株式投資する中小型銘柄の企業は、有価証券報告書コーポレートガバナンス報告書を見ると固定報酬がかなり多いのが現状です。

中小型銘柄企業は、取締役といってもオーナー社長を除けば、大手企業の部長(場合によっては課長)クラスの年収しかない企業もかなり多く、その場合、更に業績連動などとすると年収が減る場合も出てくるかと思います。そういうことを考えると業績連動報酬の割合を増やすことは、なかなか難しいところがあるとは思います。

 しかし、私もそうですが、投資先企業の株価と配当にしか関心がないのが投資家であり、上場企業は、今後はTSR(株主総利回り)をより強く意識をしないと、今後は役員報酬をネタに色々と株主かはじめ投資家からつつかれることになると思います。

いずれにせよ、本年6月の定時株主総会後に開示される各社の有価証券報告書の記載が関心のあるとことです。

最近はESG関連を役員報酬の業績変動指標に入れる企業もありますので、このあたりを次回または次々回に紹介したいと思います。

外資規制の強化の動き

5月11日の日本経済新聞で、財務省経産省がIT分野での外資による投資規制を強化する方向の動きとの報道がありました。

米欧と歩調を併せてサイバーセキュリティーを高めるとのことです。新聞報道によれば、追加される主な業種として、次があげられています。

  • 半導体モリーメディア製造
  • 集積回路製造
  • 光ディスクや磁気ディスクなど製造
  • 携帯出電話製造
  • パソコン製造
  • 有線通信機器製造など

 対内投資規制とは、日本の場合、外為法で規制されているもので、一定の種の企業を海外資本が10%以上の株式を取得するときに事前に国の認可を得る必要があるというものです。

これに反して取得した場合、取得者に対して株式売却命令が出来ます。欧米でも中国企業による投資規制を念頭に投資規制の強化の動きにあります。海外と日本の投資規制の詳細比較はしておりませんが、日本の場合には欧米の投資規制よりかなり緩いといことが言われております。

今回はIT分野を対象に加えるということですが、それ以外の分野に関する投資規制について、経産省はどのように考えているのか知りたいところです。

最近、買収防衛策を廃止する企業がとても増えています。

背景は、買収防衛策について、海外機関投資家の反対に加えて、国内機関投資の反対が強くなってきたことがあります。本年6月の株主総会で更新期限を迎える企業の中、私が認識する限りで、現時点で少なくとも35社ほどが廃止しています。

 この場合、何が今後起こるかというと、海外企業や海外の投資ファンドによる敵対的買収やアクティビズムが増えることが想像されます。

経済産業省の方針としては、企業は、事業ポートフォリオを見直し、不採算事業は売却して、利益を向上させ、ひいては株価向上を求めているところです。株価が上がれば、買収リスクも低くなるであろうというところかと思います。

しかし、事業ポートフォリオの見直し、つまり事業の売却・整理は、一定の時間を要するものです。事業は人が行うものであり、収益が悪いから即座に人ごと売却すると簡単にパッパと判断できるものではありません。

とすれば一定の検討期間を企業に与え、その間は外資投資ファンドなどにより日本企業が翻弄されることのないように政府は法整備などを行うことを検討する必要があるようにも思えます。

そうしないと政策保有株式の縮減や買収防衛策の廃止の中で、投資ファンドが株価向上施策を強引に提案することで、企業の株価は向上しますが、整理された事業はどこかが引き取るわけですので、事業自体が衰退するものであれば、引き取った企業の株価はかえって下がることにもなりかねません。

とすると日本市場全体として株価がどうなるかということを考えると必ずしも明るい話にはならないような気もします。

複数の事業セグメントを持つ上場企業は理論株価を定期的に分析することが必要 ~投資銀行でなくても出来る株価算定(バリュエーション)

有価証券報告書の改正の中、役員報酬について記載する予定でしたが、今回は簡単に別ネタについて紹介したいと思います。

5月8日の日本経済新聞朝刊で「最高益も市場は低評価」とのタイトルの記事で、ソニーの事業は8つに分かれているところ、事業別の収益力をもとにソニー企業価値を測り株式価値を算定したところ、市場株価よりだいぶ低いとのことでした。コングロマリットディスカウントとのことです。

株式価値算定の手法は、8つの各事業について、各事業の競合会社のEV/EVITDA倍率の平均値をベースにして算出した各事業価値を合算して、ネットデットを控除して株式価値を算出するというサム・オブ・ザ・パーツ(SOTP)の手法です。

以前にブログで紹介したこともありますが、複数の事業セグメントのある企業で企業価値、株式価値を算出する際に使う手法です。

証券会社の投資銀行に依頼して企業価値、株式価値を算定する際にも良く使わる手法です。以前にもSOTPの手法はブログで書きましたが、再度簡単に紹介します。

  • A会社は甲事業と乙事業の2つの事業セグメントがあります
  •  甲事業のEBITDA(営業利益+減価償却費)が30億円、乙事業のEBITDAが10億円とします
  • 甲事業の競合会社(上場会社)の平均EV/EBITDA倍率が10倍、乙事業の競合会社(上場会社)の平均EV/EBITDA倍率は8倍とします(EV=株式時価総額+ネットデットです。これをEBITDAで割るとEV/EBITDA倍率が算出されます)
  •  この競合会社の数値から甲事業、乙事業のあるべきEVを算出します。甲事業のEV=30億円×10倍=300億円 / 乙事業のEV=10億円×8倍=80億円
  •  この2つの数値からA会社の全体のEVは380億円になります。これにA社のネットデットを引くと理論上の株式価値になり、これを発行済株式総数で割り、理論株価が算定できます。

以上により算定された理論株価が市場株価と比べて大きいか小さいかを比較することになります。

市場株価の方が低いと、「低収益事業を抱えているためコングロマリットディスカウントの状況にある」、「株価向上のためEBITDAの低い事業を売却せよ」という方向になります。いかがでしょうか。簡単に出来ると思います。

投資家と企業の対話ガイドライン経産省で議論中のグループガバナンスガイドラインにおいても、事業ポートフォリオの果断な見直しが求められております。

複数の事業セグメントを持つ企業は、半期、年度末頃に各セグメントの競合企業のEV/EVITDA倍率を算出して、自社の理論株価を把握しておくことが大切です。

機関投資家も簡易的には、この手法も使用していますので、この方法で算出しておけば、大きな目線はすりあうと思います。他にDCF法でバリュエーションすることも重要ですが、まずは、このSOTPの手法で理論株価を算出して、自社のCEOはじめ関係するマネジメント層と共有しておくことをお薦めします。

投資会社レノの株式会社ヨロズへの株主提案に対するヨロズの会社回答はこれで足るの?

村上ファンド関係者の運営する投資会社のレノが株式会社ヨロズに株主提案をしていますが、それに対して先日、ヨロズが会社見解を公表しました。

本日は、その中で2つほど紹介するとともに、会社回答に対して「この回答で足るの?」と私が個人的に考える内容について紹介したいと思います。

以下は2019年5月9日付のヨロズの「株主からのレター受領に関するお知らせ」からの一部抜粋とそれに対する私の考えです。

 レノの提案1:買収防衛策の廃止

「株価純資産倍率(PBR)1倍を下回る株価水準にありながら、買収防衛策を維持することは経営陣の保身行為と評価せざるを得ず、企業価値や株主価値の向上の機会を損ねるものである」

→ (会社回答)

「当社の買収防衛策は、大規模買付者に対して事前に大規模買付行為に関する必要な情報の提供及び考慮・交渉のための期間の確保を求めることによって、当該大規模買付行為に応じるべきか否かを株主の皆様が適切に判断されること、当社取締役会が当該大規模買付行為に対する賛否の意見又は代替案を株主の皆様に対して提示すること、あるいは、株主の皆様のために大規模買付者と交渉を行うこと等を可能とし、もって当社の企業価値又は株主の皆様共同の利益を確保・向上することを目的とするものであり、当社の経営陣・取締役会の保身を目的とするものではない」

→(会社回答に対する個人的印象)

経営陣の保身行為でないことを回答しなければなりませんが、かなり不十分のように私は考えます。同社の買収防衛策を見ていないので詳しくは言えませんが、独立委員会や特別委員会があるのであれば、委員会の委員の独立性であったり、対応措置発動の際の取締役会の決議の際の決議の厳格化、取締役会の判断において外部専門家の意見を求めること等を強調していかないと「経営陣の保身行為ではない」ことの反論理由としてはかなり弱いかと。もっとも買収防衛策に対する国内外の機関投資家からの批判は高く、どの理由をあげても買収防衛策に対する賛同を得るのは難しい気はします。

 

レノの提案2:政策保有株式の売却

「当社のコーポレートガバナンスガイドラインの記載が、コーポレートガバナンス・コードにおける「政策保有株式の縮減に関する方針・考え方など、政策保有に関する方針を開示すべき」との規定に照らし具体性に欠ける、保有の合理性に乏しい銘柄は直ちに売却すべき」

 →(会社回答)

「当社は、保有する政策保有株式については、そのリターンとリスクなどを踏まえた中長期的な経済合理性や将来の見通しを検証し、主要な政策保有株式の現状について四半期毎に取締役会へ報告をするとともに、有価証券報告書においてこれを反映した保有のねらい・合理性について具体的な説明を行っております。本年以降に提出する有価証券報告書においては、2019年1月31日に改正された企業内容等の開示に関する内閣府令に従って、政策保有株式の保有の合理性の検証方法等についても具体的な開示を行います。」

 →(会社回答に対する私の個人的所感)

政策保有株式の縮減の動きの強化の中、保有の合理性の検証の具体的内容がほとんど分かりません。ヨロズのコーポレートガバナンス報告書を見ても、検証の内容が全く書かれておりません。ヨロズは、改正開示府令の適用される本年の有価証券報告書(開示府令の改正と政策保有株式の開示は先日のブログで紹介のとおりです!)で具体的な開示を行うとありますが、2018年3月期のヨロズの有価証券報告書での政策保有株式の開示の1つの例として、2銘柄の保有目的を見ると次のような記載になっています。

  •  スズキ㈱ 「主要な得意先であり、伸張するアジア市場において更なる信頼関係を築いていくため」
  • 日産自動車㈱ 「長年にわたる得意先であり、これまで築いてきた良好な信頼関係を今後も維持・発展させていくため」

 次回の有価証券報告書から具体的な開示を行うということですが、どこまで詳細な開示が期待できるのかなと思います。多くの企業もそうですが、政策保有株式の保有の合理性はないというのが正直なところである気がします。無理やり理由をつけて合理性をあまり詳しく記載すると、今度は、保有先企業の保有理由との整合性の有無を指摘されるリスクもあります。とすると、これは想像ですが、ヨロズの本年の有価証券報告書でも、結局のところ、2018年3月期の有価証券報告書で記載されている内容に少し毛が生えた程度の開示内容にしかならないのではないでしょうか。これは私の勝手な想像です。

レノもそうですが、最近の投資ファンドの株主提案は、金融庁経産省東証が上場企業に求めるコーポレートガバナンスの要請に即した合理的なものであるとつくづく感じます。

私はヨロズの株式は持っていないのですが、持っていれば、株主総会に出席して、レノの意見に強く賛成する立場から、総会で議長に色々と突っ込んだ質問をしてみたいところです。

2019年6月以降に発行される上場企業の有価証券報告書の見るべき改正箇所-第2回

前回の更新日からだいぶ日が空いてしまいましたが、本日は、有価証券報告書の記載の改正箇所の中、政策保有株式について紹介いたします。

従前より、有価証券報告書コーポレートガバナンスの概要の箇所においては、政策保有株式の概要を記載することになっており、おおまかに言いますと、政策的に保有する上場会社株式について大きい順に上位30銘柄を記載せよというものです。これが本年3月期からの有報証券報告書では、次のように改正されます。

  •  純投資と政策投資の区分の基準や考え方の開示
  • 政策保有に関する方針、目的や効果、保有の合理性を検証する方法や取締役会等における議論の状況 
  • 開示基準に満たない銘柄も含め、売却したり、買い増した政策保有株式について、減少・増加の銘柄数、売却・買い増した株式それぞれの合計金額、買い増しの理由等
  • 個別の政策保有株式の保有目的・効果について、提出会社の戦略、事業内容及びセグメントと関連付けた定量的な効果の説明
  • 個別銘柄の開示対象を30から60に拡大
  • 提出会社が政策保有株式として株式を保有する相手方による当該提出会社株式の保有の有無

 大きな改正かと思います。

開示銘柄数が60銘柄に増えることも大きいですが、4つ目にある「個別の政策保有株式の保有目的・効果について、提出会社の戦略、事業内容及びセグメントと関連付けた定量的な効果の説明」と6つ目にある「提出会社が政策保有株式として株式を保有する相手方による当該提出会社の保有の有無」が対応が苦慮されると思います。

 4つ目の方ですが、定量的な効果の開示が求められておりますが、そもそも政策保有株式は定性的な理由から保有しているケースが圧倒的に多いのが現状かと思います。

政策保有株式の保有の合理性については、昨年6月に改訂のコーポレートガバナンス・コードに基づき、一応、上場企業は、定量面と定性面の両面から保有の合理性を検証していますが、この2つの中で各社が重視しているのは「定性評価」です。

定性評価とは、要するに数値以外で評価するわけですから、過去の保有の経緯や取引の重要性などの「ふわっとした」理由から総合的に考慮して「保有の意義がある」とするものです。

昨年の12月までに改訂コーポレートガバナンス・コードを踏まえたコーポレートガバナンス報告書を見ると、検証の内容があまりに抽象的な企業がほとんどです。

私が投資している時価総額120億円のある銘柄のコーポレートガバナンス報告書を見ると、「保有株式については、保有目的が適切か、保有に伴う便益やリスクが資本コストに見合っているかなど、取締役会で定期的かつ継続的に検証し、その結果に基づいて政策保有株式の継続または縮減を決定します。」とあります。

 どういう検証をしたのか不明で、意味不明です。

中小型銘柄で政策保有株式を潤沢に保有するコーポレートガバナンス報告書を見ると、ほとんどの企業の開示が、これと大差ないものばかりです。

政策保有株式などは過去の経緯があり保有している、または保有させられているのですから(中小型銘柄企業の場合には保有させられているケースの方が圧倒的に多いでししょう)、保有の合理性などはなく、検証など出来ないことは当然と言えば当然ではあります。今後は、定量的に効果を開示しろということになるので非常に開示の内容が悩ましいかと思います。

次に6つ目ですが、これも大変に悩ましい対応が求められると思います。開示自体は、保有の有無を記載すれば足ります。問題は次のステップです。

保有の意義を投資家から説明が求められた場合、互いの企業の説明に齟齬があると、「保有の意義はあるの?」という指摘を受けることになります。従い、双方の企業間で、保有の意義について一定程度の擦り合わせをしていないと、政策保有株式の解消を目論むアクティビストなどが攻撃をしてくる場合には、耐えられません。

かといって細かい擦り合わせをするのも大変でしょうから、結局は、「取引の重要性に鑑み保有」などといった「ふわっとした」回答をすることになるのだと思います。

 このように今回の改正では、政策保有株式を保有し続けることのハードルが一段と高くなってきていると思います。

 政策保有株式は現金と同じに見られるため、ネットキャッシュが大きい場合には、政策保有株式は売却して、キャッシュは株主に還元せよという株主提案が株主からあった場合、機癇投資家もこれに賛同せざるを得なくなるという流れが益々加速するように思います。

 次回は、政策保有株式と同じく19年3月期の有価証券報告書から適用される役員の報酬について紹介します。

2019年6月以降に発行される上場企業の有価証券報告書の見るべき改正箇所 - 第1回

2019年1月31日に企業内容等の開示に関する内閣府令の改正があり、有価証券報告書での開示事項が改正されました。

今回から数回に分けて、株主・個人投資家の方が、本年6月下旬以降に発行される(3月末決算期の場合)投資先企業の有価証券報告書の見る上での参考になればと思い、改正概要及びポイントについて紹介します。

本日は、まずは概要について紹介します。主な改正事項は、次の6つです。

(2019年3月期から強制適用)

  • 主要な経営指標等の推移(株主総利回り(TSR)、株価推移)を記載
  • 役員報酬に係る情報:経営陣の報酬内容、報酬決定プロセス、業績連動報酬の指標等を記載
  • 政策保有株式(株式の保有状況):個別の政策保有株式の保有目的・効果、合理性検証の取締役会の議論の状況等を記載

(2020年3月期から強制適用)

  • 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等 :企業構造、市場状況、競合他社との競争優位性、顧客基盤等について記載
  • 事業等のリスク:主要リスクについて、当該リスクの顕在化する可能性の程度・時期、当該リスクが顕在化した場合の経営成績等の状況に与えるリスク、当該リスクへの対応策等の具体的かつ分かりやすい記載
  • 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析(MD&A):経営方針・戦略等の内容のほか他の記載項目の内容と関連づけて記載する

2020年3月期の改正についていいますと、要するに各社の現状の開示がひな型的かつ形式的な内容になっており、具体性が欠けているので、それをより投資家に分かりやすい具体的な開示にせよというものです。

「事業等のリスク」などは、投資家にとって自分の投資先企業のリスクで重要な情報かと思います。しかし、多くの企業の現在の開示内容を見ますと、為替リスク、テロのリスク、訴訟リスク、貸倒リスクなどが非常に沢山、かつ、つらつらと書かれています。

そもそも、テロなどは、いち民間企業が対応できるリスクの範疇を超えており、また、貸倒リスクなどは現金商売でもしていない限り、全ての企業が抱えるリスクです。

そんなものを有価証券報告書のリスクにあげている真意は不明ですが、とりあえず、リスクと思われるものは何でも書くことで、万一、リスクが発生しても「当社は有価証券報告書にリスクとして開示していました。その上で投資されたんですよね」とリスク回避の反論をしたいのかも知れません。

いずれにせよ、ここを真剣に読んでいる投資家などいないのが現状かと思います。私も自分の投資先企業のこの箇所の記述について真剣に見たことはありません。

ちなみに、良い開示例をしている企業として、金融庁が2019年3月19日に「記述情報開示の事例集」を公表しています。それによると「事業等のリスク」の開示については、次の企業が良い事例としてあげられています。 

三菱商事ソニー日本郵船日本航空日本たばこ産業三井化学住友化学三井物産カゴメ、キリンホールディングなど」

 私は、個人的には、改正事項の中で、役員報酬の開示と政策保有株式の開示が非常に企業に影響が多いように感じています。

政策保有株式の開示の改正については、企業の安定株主の解消が一層進む気がしますし、役員報酬の開示の改正については、業績低迷する役員の報酬に益々厳しい目が向けられることになるかと思います。

機関投資家及び個人投資家の双方にとって、投資先企業の今後の在り方を把握する上で、また、その上で株主として投資先企業に質問や法的な提案をする上でも、有用な材料かと思います。

 次回、政策保有株式と役員報酬の箇所の改正について、詳しく紹介したいと思います。

 ところで、有価証券報告書の改正の話をしても、肝心の有価証券報告書を読んだことがないという人には全く意味不明の内容になります。今週末から10連休に入る方も多いと思いますので、この連休中に自分の投資する企業の直近の有価証券報告書を一度じっくり読み、どういうことが記載されているのかを理解すると改正内容もよく分かると思います。

経産省のコーポレートガバナンス改革と脱藩浪士組のCEO

LIXLが前CEOの解任を巡ってもめています。機関投資家はオーナー家の社長より、いわゆる雇われ社長の方の方が手腕があると評価しているのだと思います。

先日の「週刊ダイヤモンド」にLIXIL最高経営責任者である潮田氏のインタビュー記事が掲載されており、それを見ると、解任された社長は赤字続きで能力不足であったから解任したと書かれております。これが本当であれば、機関投資家が、無能なCEOを呼び戻し続投を求める理由は何であるのか、など色々と疑問が出てきます。

さて、これと直接の関係はないのですが、数日前の日本経済新聞に「社長たちの群像」として社長をいくつかのタイプに分けた簡単な記事がありましたので、紹介します。

社長のタイプとして4つあり、「純粋培養組」、「派遣社長組」、「脱藩浪士組」、「起業家社長組」の4つです。なかなか面白い言葉です。言葉の意味は記事によれば、次のとおりです。

純粋培養組とは、日本の大手上場会社の圧倒的多数のケースで、男性・日本人・60代・転職経験ゼロのプロパー社員上がりの社長です。派遣社長組とは、新しく社長が選任されることにより、その期や前後の年齢層の役員がグループ会社に出され、そこで決定権のない社長をする社長のことをいいます。

起業家社長組はその名のとおりでリスクをとって事業を成功させた本物の経営者です。興味深い言葉は、脱藩浪士組です。

これは所属企業のくびきから離れ、自らの意思でかつて所属して藩(会社)を離れ、活躍する経営者です。かっこよくいうと「プロ経営者」ですが、プロといえるには数社の経営を経験していなければプロとは呼べないと思いますので、クラブの雇われママと本質は同じですので、「雇われ社長」といったところでしょうか。

さて、経産省は、従来の純粋培養型の社長を選定してきたことが日本企業の稼ぐ力の長引く低迷の1つの要因でもあり、だからこそ社外取締役を増やして社外の目線を経営に入れろと指摘しているわけですが、最近、自分の子供たちが新学期を迎え、新しい環境で成長していく姿を見て、経産省の指摘することも「なるほどな」と実感しています。

子供は小学校、中学校と進学していきますが、その都度、それまでの慣れ親しんだ環境から離れ、新しい環境を迎えます。そこで色々と刺激を受け、気付き成長していくことになります。このように子供は単に年齢を重ねるだではなく、環境が変わることにより、大きく成長していくのだと思います。

もし、幼稚園や小学校の入学から大学卒業までの長い期間、全くまわりの友人・先生が変わらないとしたら、どうでしょうか。何でも分かりあえる「あうん」の呼吸で通じ合える友人関係が出来ますが、一方で、それは、他人を寄せつけない、また他人の意見を聞かない極めて閉鎖的な関係であり、世間を知らない人間に必ずなるはずです。

これを社会人に当てはめると、大学を出てから30年、40年と入社した時と同じ会社でサラリーマン人生を送るというのは、幼稚園入学から大学卒業まで同じ友人・先生と毎日過ごすことと全く同じことになります。

社会人は、子供ではないので人格が出来上がっていますので、子供ほどの大きな成長はありません。しかし、20代、30代、40代、50代と各年代で考えることは大きく違うので、つまり、社会人になっても日々、少しずつではあるにせよ人は成長しているのだと思います。

こういうことを考えると、社会人がその成長をより実りあるものにするには、子供がいくどかの環境の変化を経て成長するのと同様に他社の経験が有用なのかも知ません。

特に、社長のような経営トップについては、脱藩浪士組のようなタイプが、企業によっては、強く求められるようにも思います。

経産省は企業経営の舵取り行うのはCEO・社長であると明確に言っていますが、こういう脱藩浪士組のCEOが、日本企業にはまだまだ極めて少数ですが、今後は少しずつ増えていくのかも知れません。

 

スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議の意見書(4)のドラフトが提示

金融庁のフォローアップ会議が、4月10日に開催され、意見書のドラフトが提示されました。まだドラフトですが、フォローアップ会議で今後議論していく課題が記載されております。次のような内容です。

 <スチュワードシップ>

  • 運用機関に議決権行使結果以外に企業との対話プロセス及び結果公表を促すこと
  •  集団的エンゲージメントの強化
  •  企業年金のスチュワードシップ活動を後押しするための取組の促進

議決権行使助言会社

  • 運用機関の議決権行使に与える影響が大きいことに鑑み、①助言会社の人的・組織的体制の整備や基準策定プロセスの公表 ②助言会社自らによる企業との対話の積極的実施

 <コーポレートガバナンス

  • 資本コスト意識経営、政策保有株式等の改訂コード踏まえた企業の取組みの検証
  • 内部監査部門が経営陣から独立した監督機関への直接報告の仕組み確立
  • グループガバナンスの在り方の検討

議決権行使助言会社への規制が強化されるようです。

議決権行使助言会社といえばISSです。ISSの各銘柄の議決権行使の賛否推奨判断は、機関投資家の議決権の賛否行使に与える影響が大きいところ、ISSは個別銘柄の企業の実体を正確に把握せず議案への反対推奨を出すこともたまにあると言われており、「これではいかん」ということで、ISSが人的リソースを充実すること、企業と対話をすることを促すことのようです。

第18回のフォローアップ会議資料によれば、約4割の機関投資家議決権行使助言会社を活用しており、その中で、議決権行使助言会社の賛否推奨レポートを参考にしているが44%、賛否推奨レポートに沿って議決権行使を指示しているのは30%となっています。

機関投資家である運用会社は、各社、自社の議決権行使基準を有しています(各社のホームページで公表されています)。

にも関わらず、運用会社は、個別銘柄の議決権行使に当たって議決権行使助言会社のレポートを参考にするということは、自社の基準で明確に判断出来ないケースもあるので、その場合に推奨レポートの意見を採用するということでしょうか。

本来、アセットオーナより運用資金を預かっている機関投資家が自身の判断で投資先企業の総会議案を判断して議決権の行使をすべきですが、それを期待するのはなかなか難しく、そうであれば、議決権行使助言会社をしっかりした体制にしていこうということかと思います。 

CEOのしっかりとした後継者計画が必要な企業は?

コーポレートガバナンス改革において、上場企業は社長・CEOの後継者計画を指名委員会、取締役会を関与させて策定・監督することが求められています。

しかしながら、まだ計画の策定中という企業も多く、そもそもどうやって策定すべきか迷っている企業も多いと思います。コーポレートガバナンス報告書においても、後継者計画について規定しているコーポレートガバナンス・コードの原則4-3①のコンプライ率(「遵守しています」という率)は約69%と低い数値になっています。

 本日考えるべきことは、そもそも明文化したきちんとした後継者計画は、全ての上場企業に果たして必要なものなのでしょうかということです。

 この点は、何故、後継者計画が必要であるのか、経産省のCGSガイドラインでの記載事項を見る必要があります。

CGSガイドラインの33ページの「4..1社長・CEOの指名と後継者計画」に明確に書かれています。その内容を紹介します。

  •  社長・CEOは、企業経営の舵取りを行い、その持続的成長と中長期的な企業価値向上を果たす上で中心的役割を果たす。誰が経営トップになるかにより、企業価値は大きく左右される。経営トップの交代と後継者の指名は企業経営における最も重要な意思決定の1つ
  • 日本経済がグローバル化やデジタル化等に伴い「革命的」とも言える経営環境の非連続で破壊的な変化の進む今の時代においては、経営課題は複雑化し、既存路線の単なる継続や延長線上の対応では足りず、慣性の力に抗して大胆な経営改革を行うことも求められる。こうした経営改革はトップダウンで行うほかなく、「トップの経営力」が成否の鍵を握る
  • こういうことは、特にグローバル展開の進む企業において顕著であり、経営トップの役割は一層重要性を増し、同時に、そのような役割を担うことのできる優れた後継者を確保することの重要性も増している。

 後継者計画の策定・運用については、CGSガイドラインの別紙4にかなりのページを割いて書かれています。

 さて、上の内容でいっていることは、社長・CEOは経営の舵取りを行うところ、既存路線の継続や延長だけでは足りない業界においては、後任のCEOはきちんとした後継者計画に沿って適切な能力ある者を選任せよというものと思います。

 ここから、後継者計画の準備が必須な企業はどういう企業かといいますと、技術変化等の経営環境の変化の激しい業界にある企業とオーナーが社長を努める企業の2つであると思います。詳細は次のとおりです。

 

経営環境の変化の激しい業界にある企業

  • これは前述のCGSガイドラインで規定されるとおりです。不連続な変化の起こる業界においては、CEOの先を読む力、その上での大胆な投資等の経営判断が必要とされます。このため、CEOには高い能力と経験が求められるのであり、そういうCEOを育成して、選任することが必要になります。

オーナー社長の企業

  • 前者のケースと異なりオーナー企業ではCEOは超重要です。オーナー企業においては、CEOの権限があまりに強大で、それ以外の役員は、会社法上の役員とっいっても、その実体においては、多くの案件についてCOEにお伺いをてたるケースが多いかと思います。
  • となると、役員といいながらも、その実態においては部長クラスの従業員と変わらないケースも多く、こういう「なんちゃって役員」からCEOを選任するとなると企業の存続が危うくなります。勿論、オーナ企業であれば、息子や娘婿が次のCEOになるケースも多いとは思いますが、今の時代、株式の数パーセント程度しかもっていないオーナー一族というだけでCEOが勤まるはずもなく、サラリーマン社長がCEOになるケースも今後は多いと思います。

  一方、上のいずれにも当らない企業のサラリーマン社長の企業には、それほど精緻な後継者計画が必須とまでは言えないように私は思います。

経営環境が大きく変化することのない業界では、サラリーマン社長は数年で定期的に交代するという前提でしっかりとした堅固な組織体制が出来ており、もし、現CEOの好き嫌いで、CEOが選任されたとしても、そのCEOは一定の能力があり、かつ、組織もしっかりしているので、現実には大きな問題は起きることはないと思います。

オーナー社長等の有名経営者が退任すると株価が下がるケースもありますが、それ以外の多くの企業では、サラリーマン社長が交代しても株価が大きく変化することはないかと思います。

それはCEOの後継者が誰であるのかにさほど資本市場は敏感になっていないことの証でもあります。

 従って、まとめますと、経営環境の変化の激しい企業やオーナー社長の企業の後継者が誰であるかは株価に影響を与えるので、機関投資家は、その企業の後継者計画に関心がありますので、これらの企業はきちんと後継者計画を策定し、機関投資家に納得していただく必要があります。

内閣府の景気ウォッチャー調査(2019年3月調査)が公表

コーポレートガバナンス関係でCEO・社長の後継者計画について書く予定でいましたが日常の業務でマクロ経済関連のデータ収集をここ数日している関係で、後継者計画は週末に書くことにして、本日もマクロ経済関係の情報を紹介します。

 今回は景気ウォッチャー調査です。内閣府景気ウォッチャー調査(3月分)を公表しています。

景気ウォッチャー調査とは、3ヵ月前と比べた身の回りの景気状況について、①良くなっている②やや良くなっている③変わらない④やや悪くなっている⑤悪くなっているの5つから選択します。

その結果を集計し、DIとして計算し、DIが50を上回れば景気が良く、下回れば景気が悪いと回答した人が多いことを意味します。 

この統計は、タクシーン運転手、コンビ二の店長などの「街の人」が回答者に選ばれ、仕事を通じて感じた景気の現状について回答するものです。景気ウォッチャー調査レポートにも次のような記述があります。 

「地域の景気に関連の深い動きを観察できる立場にある人々の協力を得て、地域ごとの景気動向を的確かつ迅速に把握し、景気動向判断の基礎資料とすることを目的」

さて、肝心の3月調査結果ですが、次のような内容になっています。

全部で28ページの資料ですが、これを全ページ読んでも眠くなってしまうので、私は最初のサマリー程度しか見ていませんが、サマリーには次のようなことが書かれています。

  • 3月の現状判断DI(季節調整値)は前月差2.7ポイント低下の44.
  • 家計動向関連DIは、サービス関連等が低下したことから低下
  • 企業動向関連DIは、製造業等が低下したことから低下。雇用関連DIについては低下
  • 3月の先行き判断DI(季節調整値)は、前月差0.3ポイント低下の48.
  • 家計動向関連DIが上昇したものの、企業動向関連DI及び雇用関連DIが低下
  • 原数値でみると、現状判断DIは前月差0.0ポイントの46.7となり、先行き判断DIは前月差2.0ポイント低下の47.
  • 今回の調査結果に示された景気ウォッチャーの見方は、「このところ回復に弱さがみられる。先行きについては、海外情勢等に対する懸念もある一方、改元や大型連休等への期待がみられる」とまとめられる。

 なお、4月10日に日本工作機械工業会が2019年3月の工作機械受注額(速報値)を公表しています。前年同月比28.5%減の1,307億円で前年割れは6ヵ月連続。内需・外需ともに28.5%で中国需要の減退とスマートフォン向けの需要減が主な要因とあります。

 

日銀の「さくらレポート」が公表

本日の日本経済新聞に日銀の「さくらレポート」の概要の記事がありましたので、本日は、これについて少し触れたいと思います。

さくらレポートとは、日銀の支店長が四半期毎に集まり景気動向を議論し、公表するもので、「地域経済報告さくらレポート-」という名称です。今回は4月8日に公表されています。

約50ページ程度のレポートになります(表紙が桜の絵があるピンク色で読み手に柔
らかな印象を与えます)。総括判断を見ると次のような内容が記載されています。

  • 全ての地域で引き続き、景気は拡大又は回復している
  • 2019年1月時点の調査と比較すると、輸出・生産面で海外経済の減速の影響が指摘される中、3地域(東北、北陸、九州・沖縄)が判断を引き下げ
  • 5地域(関東、東海、近畿、中国、四国)は判断を据え置き
  • 北海道は地震の下押し圧力が解消したことから判断を引き上げている

海外経済の減速が見られるものの、企業収益が総じて良好な水準を維持する下で、設備投資は増加傾向を続けているほか、個人消費も雇用・所得環境の着実な改善を背景に緩やかに回復というような纏めかと思われます。

なお、今回判断を引き下げた3地域に関するレポートでの記述は次のとおりです。

東北:一部に弱めの動きが見られるものの、緩やかな回復を続けている
北陸:緩やかに拡大している
九州・沖縄:緩やかに拡大している

日銀が、各地域の企業にヒアリングした声も掲載されております。日本国内の地域経済の概要が分かるので、時間をあまりかけずにさっと眺めると良いかと思います。

社外取締役ではなく中途入社社員などのマネジメント層への登用が本来のあるべき姿~経産省のCGSガイドラインを読み解く

3月期決算企業は本年の株主総会の本格準備に入っているかと思います。

2018年度は、コーポレートガバナンス・コード、コーポレートガバナンスシステムガイドラインCGSガイドライン)の改訂などコーポレートガバナンス関連で大きな変化のあった年と思います。ということは、今年の株主総会の目玉の1つになるということです。

今回は、経産省CGSガイドラインで気になる事項について、上場企業の方があまり気付いていないのではと思える事項について紹介したいと思います。

 コーポレートガバナンス改革において社外取締役の増員がフォーカスされているところはご存知のことと思います。

では、何故、社外取締役である必要があるのでしょうか。大まかな趣旨は認識しているかと思いますが、社外取締役の活用の狙いについて、CGSガイドラインでの記述を紹介したいと思います。ガイドラインの28ページから29ページに記載されています。

  • CEOが経営の執行にあたって取締役会で戦略を策定することが重要
  • 日本の場合、新卒採用された従業員が社内で職業経験を積み、内部昇格により取締役となることが多い
  • どうしても社内で蓄積された経験に頼り経営を行うことになるが、急速な時代の変化の中で社外の知見を活用しながら成長している内外の企業との競争にか勝つことは容易でない(これが稼ぐ力が弱いままである)
  • 今後は、経営の仕組みを、必要な資質を備えた社外取を確保し、その知見・経験を活用する

 では、経産省社外取締役だけが望ましいと考えているのかと言えば、必ずしもそうではないようです。この点、見落としがちなのですが、CGSガイドラインの28ページの脚注において次のような記述があります。

  • 長期的に見ると、従業員レベルでの雇用の流動化や経営陣への外部招聘などの取組が進めば、社外の知見・経験が経営に反映されることとなるが、その実現には時間を要する。より足元でできる取組として社外取締役の活用が考えられる。

つまり、 経産省は、社外取締役ありきと考えているわけではなく、雇用の流動化により、中途採用者が経営陣に入るのであればよいが、日本の上場企業(特に大手)は、その会社しか経験のないプロパー社員しか役員になれず、中途入社の従業員が経営に携わるのは難しいので、まずはてっとり早くできる社外取の活用を進めるということを言っています。

この脚注の記述を知りませんでしたが、なるほどと思いました。

 残念なことに、日本の伝統的な企業では、プロパー社員よりもかなり上のランクの大学を卒業していたり、また、企業規模の大きい会社でレベルの高い業務経験があっても、中途入社である以上は役員になるのは、かなりハードルが高いのが現実かと思います。

理由は単純で、平社員時代から顔見知りで、同じ会社で飯を食べ、一緒に酒を飲みサラリーマン人生を歩んできた部下の方が親しみを持て、扱いやすいということにつきます。これは仕方のないところです。

しかし、経産省が雇用の流動化によるマネジメント層の創出を真剣に考えるのであれば、コーポレートガバンナス・コードで取締役会の構成で、「国際性」とか「女性」とか正直どうでも良いことを掲げるのではなく、転職者(勿論、男女を問わず)を経営幹部に登用すべきというようなことを規定しても良かった気がします。もっとも、コーポレートガバナンス・コードは、金融庁が管轄ですが。

 というように、本日は、経産省は必ずしも社外取締役が最良の手段として考えているわけではないということを紹介しました。

 さて、次回ですが、CGSガイドラインでは、後継者計画についても詳細触れられています。しかし、あらためて良く考えると後継者計画は必要ない会社も多いと私は考えます。このあたりについて、CGSガイドで書かれている後継者計画の内容と併せて、趣旨に立ち返り紹介したいと思います。

投資ファンドのストラテジックキャピタルの株主議決権行使基準を読みました

先日、アクティビストと言われている投資ファンドのストラテジックキャピタルパートナーズが投資先企業の蝶理企業価値向上に関する特別ホームページを開設しました。

 そこで、同社のホームページにアクセスしたところ議決権行使基準がありざっと読んでみました。これまでに同社の投資先企業に対する株主提案は見ており、おおよその思想は理解していましたが、あらためて読んだ内容について、以下、一部を紹介いたします。

 ◎取締役の選任に関する議決権行使基準

 次のいずれかに該当する場合、新任取締役を除く全取締役に反対する。

  • WACC及びその算定根拠を開示していない
  • 過去3期平均のRORが株主資本コスト未満、かつ、株主資本コスト以上のROEを経営目標にしていない
  • 政策保有株式を保有し、売却完了期限などの具体的処分案を示していない
  • 買収防衛策が存在し、撤廃方針を公表していない
  • 経営陣幹部・取締役の報酬決定方針と手続が未公表
  • 代表取締役経験者が顧問、相談役等に就任している
  • 指名委員会等設置会社であって、真正社外取締役が取締役総数の過半数でない 等

 アクティビストといわれる投資ファンドの議決権行使基準としては何ら驚くべき内容ではありませんが(エフィッシモキャピタルは取締役選任基準にTSRを入れておりますがストラテジックは入れていない)、事業会社の方は1つ念頭に置く必要があります。

 それは、上の基準は最近の機関投資家各社の議決権行使基準と本質において同じであると言えるという点です。

だからこそ、投資ファンドの提案に機関投資家が賛同するケースも増えているのです。蝶理に対する提案の詳細はまだ読めていませんが、ストラテジックの該当ホームページの冒頭箇所を見ますと政策保有株式の売却等を求めています。

 ちなみに、ストラテジックの代表である丸木強氏は、東京大学法学部卒、野村證券を経て村上ファンドの村上氏と一緒に仕事をされていたこともあるようです。

ところで、村上氏もそうですが、こういう投資ファンドで活躍する方は、東京大学一橋大学といった超一流大学を出ている方が多いです。そもそもとして、今の40代、50代の方で一流大学を出た優秀な文系の人の多くは、製造業などには普通は就職せず、総合商社かメガバンク、生損保などの大手金融に就職しているので、当然と言えば当然ではありますが。

さて、 次回は、経産省が昨年9月に公表した改訂コーポレートガバナンスシステムガイドライン(CGSガイドライン)を読み解くという題目で数回に分けて気付いたことを紹介します。

3月期決算企業は、株主総会の時期も近づいてきているので、何かの参考になればと思います。

英文開示強化の動き~今後、有価証券報告書の英訳の動きも進むか?

先日の日経新聞東証の上場基準の再編の記事がありましたが、この中で東証1部企業には英文開示を求めることを検討する方向とのことが書かれていました。

JPX日経400の銘柄登録には英文の決算短信が必要ということになっており、本年からは、英文のコーポレートガバナンス報告書の開示が求められているところですが、東証1部全体では、英文開示をしているのは約30%程度ということも以前に新聞で書かれていた気もします。

先日、東証の担当者による英文開示のセミナーがあり参加したのですが海外の機関投資家から日本企業の開示を求める声が強いとのことでした(セミナー自体は、あまりに内容が薄く期待はずれのセミナーではありました)。

 あるコンサル会社の調査結果によれば、海外機関投資家は日本企業の開示にして次のような結果のようです。

  • 日本企業の英文開示に対して不満を持つ投資家が50%超
  • 海外投資家はベンダーから英訳を入手できるが、情報の正確性と迅速性の観点からは、企業の英訳を望んでいる
  • 英文開示情報の有無や内容が海外投資家にとっての差別化になっている

 この中で、3つの目の点を企業は気にする必要があると思います。英文開示がないということは海外機関投資家の投資対象にならないため、株式の需要が増えないため、結局PBRも1倍を下回る状況が改善しないことになります。

ちなみに、3月8日に金融庁が英訳した有価証券報告書を自社ウェブサイトに掲載している会社を公表しています。

日清製粉、太陽ホールディングス、コマツ楽天TDKなど16社ですが、今後も定期的に取り纏め掲載する予定のようです。

これは金融庁のディスクロジャーワーキンググループ報告で、日経25銘柄企業の約9割で英語版のアニュアルレポートがある一方、有価証券報告書の英語版はほとんどないためといった報告があり、公表されたものです。

 なお、英文開示はそれなりに大変です。日本文の開示も、開示にあたっては社内のしかるべき会議体で議論する会社も多いと思いますが、実務者は、開示直前や有価証券報告書などが最終原稿を外部業者に提出するぎりぎります文章内容を考えることも多いかと思います。

そういう中、日本文と同時に英訳を準備するのは、担当者が相当に英語に精通していない限り難しいとは思います。その点では、開示書類の迅速な英訳が出来る外部業者のニーズや自動翻訳を行う会社のニーズは益々高まるような気がします。