アクティビストである投資ファンドのストラテジックキャピタルが株式会社浅沼組に株主提案をしていましたが、5月22日に株主提案を一部取り下げるとのプレスリリースを出しています。
同社の2019年5月17日付の2019年3月期決算説明会資料を見ると「2020年3月期業績予想」に資本コストについて、次の記載があります。
- 支払利息 189百万円
- 有利子負債 11,694百万円
- 負債コスト 1.62%
- 10年国債利回り △0.082%
- β値 1.058
- 市場期待利回り 7.00%
- 株主資本コスト 7.41%
- 時価総額 19,833百万円
- 税率 30.4%
- 資本コスト(WACC) 5.1%
資本コストとは、会社債権者と株主が会社に対して求めるリターンになります。この低金利の時代、負債コストは低いのでポイントは株主資本コストになります。
株主資本コスト=リスクフリーレート+リスクプレミアム(β×マーケットリスクプレミアム)です。
リスクフリーレートは、上の数値ですと10年物国債利回りで、マーケットリスクプレミアムとは、キャッシュフローの変動するリスクを負担することに対する見返りで、リスクに対するリターンの割増をいいます。
ハイリスク、ハイリターンがリターンの考えの基本ですので、キャッシュフローの変動の高い企業に投資する株主は、高いリターンを求めるということになります。
WACCとは負債コストと株主資本コストの加重平均です。株主資本コストを下げるには、成長性、収益性、予見可能性、経営力について資本市場に理解して貰う必要があります。
一方、同社のROE(自己資本利益率)は同資料によれば、2019年3月期が11.5%で、2020年3月期予想が10.6%となっています。
ROEと比較すべきは資本コストではなく、株主資本コストです。株主資本コストが株主が投資先企業に求めるリターンですから、最低でもROEはそれを上回る必要があります。
ストラテジックによれば、浅沼組との面談において、代表取締役は株主資本コストとその計算根拠を今後も継続的に開示することを約束したということのようです。
株主資本コスト、資本コストなどはコーポレートファイナンスの超基礎的な事項ですので開示していなくても、機関投資家などのファイナンスに精通している方であれば当然に知っていますが、会社に表明させることで、淺沼組が達成すべき最低のROEが明確になります。
会社に株主資本コストを表明させることで、ROEがそれを下回る場合には、投資ファンドは合理的なアクションを提案し、それに対して他の機関投資家の賛同を得やすくなるという点がポイントかと思います。
ROEを高めるための配当増、自社株買のアクションの提案がとおいやすくなるということです。そういう意味では、株主資本コストを開示している会社は、株主還元が期待できる銘柄と言えるのかも知れません。