中長期的な企業価値向上のためのコーポレートガバナンス・アドバイザー / 長期での中小型株の割安株投資情報

最近のコーポレートガバナンスと資本市場の動向を踏まえ、上場企業実務の視点から中長期での企業価値向上に役立つ情報分析・発信をしていきます。個人投資家のコーポレートガバナンス力の向上による「意思のある投資」に役立つ情報発信もしています。また長期での割安株投資の情報も

改訂CGコードで国内機関投資家の関心の高いテーマ

旬刊商事法務の9月5日号に、スチュワードシップ研究会理代表理事の木村祐基 氏という方が改訂CGコードを受けて、国内機関投資家約20数名にヒアリングを行い、機関投資家の関心の高い項目について説明した記事がありました。

ネットで検索すると、木村氏は、野村総研企業年金連合会金融庁総務企画局企業開示課なので勤務経験がある方のようです。

上場企業は年末から年明けにかけて機関投資家を訪問しての対話を開始することになると思いますが、今後の対話に向けて機関投資家の関心が分かる興味のある記事でしたので紹介します。

記事によれば、ヒアリングを受けた機関投資家が関心あるテーマは、次のとおりとのことです(以下は記事の内容を私がサマリーしたものですので、原文とは異なります)。

ヒアリングでの投資家の主な意見>

◎資本コスト

・経営陣が理解しておく必要あり。資本コストの数値は変動するが、算出根拠となる前提条件や方法を理解すること
・中期経営計画策定や新規投資で資本コストの考えが入ることになるが、資本コストの数値自体が絶対ではなく判断要素の1つとして検討

◎政策保有株式

保有銘柄は最小限であるべき。そもそも戦略的提携、資本提携の相手は数社である(前提として単なる取引目的の保有はNG)
・今後のエンゲージメントでは政策保有保有検証が大きな関心事項であり保有するのであれば詳細説明求める

◎CEOの後継者計画

・計画内容は取締役会全体で社外取を含めて検証すべき。原案はCEOが作成してよいが、内容は取締役会又は指名委員会での審議が重要
・計画内容は広く開示することを望むが、開示しない場合、対話において説明すべき

◎CEOの解任

・解任ケースは、①企業不祥事、②長期に亘る業績低迷・経営指標の未達成③株主還元軽視等の継続
・企業不祥事の内容は、東証が出している「上場会社における不祥事対応のプリンシプル」で第三者委員会を設置する場合の例としてあげらている要件が1つの参考になる

◎取締役会の多様性

・女性や外人は必須でない。出身背景の多様性の担保が肝要

私が機関投資家が関心を持つであろうと考えていた事項とおおむね同じでした。

特に株主資本コストの詳細な数値は、機関投資家によって異なるので数値が重要というより、数値の算定の考えをきちんと経営陣が理解すべきという点はそのとおりであろうと思います。

前回、改訂CGコードを受けての個人投資家目線からの政策保有株式の議決権行使について記載しましたが、引き続き、上のような事項に焦点を当てて、来週に少しずつ掲載していきたいと思います。

個人投資家目線からの改訂CG報告書の読み方:政策保有株式の議決権行使基準

本年6月1日改訂のコーポレートガバナンス・コード(改訂CGコード)に基づくコーポレートガバナンス報告書(改訂CG報告書)の提出期限は本年12月末までとされていますが、上場企業各社の来年の定時株主総会の目玉は間違いなく、改訂CGコード対応かと思います。

改訂CG報告書もいくつか提出されていますが、今回は、個人投資家の目線から見た投資先企業の改訂CG報告書の見方について、政策保有株式の議決権行使基準について説明したいと思います。

ご存知の個人投資家の方も多いかと思いまますが、改訂CGコードでの規定は、政策保有株式に対する「具体的」な議決権行使基準を策定し、その内容を開示するとともに、策定した行使基準に従い適切に議決権を行使せよということです。「具体的」というのがポイントになります。

従前より基準の策定と開示は求められていますが、開示内容が極めて抽象的内容で、適切に投資先企業の株主総会で議案を精査して議決権を行使しているのか分からないという批判が改訂の背景にあります。

改訂CGコードを踏まえた改訂CG報告書の開示ですが、最近ですと、メガバンク以外の事業会社(東証1部の大手企業)の中では、花王が8月30日に次のような内容で開示をしています。

「政策保有株の議決権に関しましては、適切なコーポレート・ガバナンス体制の整備や発行会社の中長期的な企業価値の向上に資する提案であるかどうか、また当社への影響等を総合的に判断して行使します。必要に応じて、議案の内容等について発行会社と対話します。2017年度に開催された保有先会社の株主総会に対する議決権に関しましては、当該会社の企業価値を毀損する懸念のある提案は無かったため、全て賛成行使しました。」

個人的には、記載が少し抽象的な気がします。議案毎に会社が判断するポイントは異なると思います。例えば、取締役選任議案であれば、不祥事の有無、剰余金処分議案であれば、過去数年純損失の場合には反対をする、配当性向が著しく低い場合には反対をするなどがあるはずです。

花王は詳細な議決権行使基準を内規としておそらく持っていると推測されますが、詳細な開示までは控えた気がします。

ちなみに、みずほフィナンシャルグループ三菱UFJフィナンシャルグループの開示内容を見ますと重点的に検討すべき具体的な議案を列挙しています。ただし、列挙しているだけで、これらの議案に対するより具体的な判断要素までは開示していません。

さて、個人投資家は改訂CG報告書に記載されている政策保有株式の議決権行使基準をどのように見たらよいでしょうか。次の3つの視点かと考えます。

1 議決権行使基準が議案毎にどういう基準をとっているか分かりやすくなっているか
2 分かりやすくなっていない場合には、どういう議案が本年は投資先企業から提案されたのか
3 その議案に対してどういう行使基準に従い、賛否のいずれを行使したのか。特に、不祥事があった企業の役員選任議案に対する賛否行使、配当性向やDOEの低い企業の剰余金の処分議案に対する賛否行使はどうであったのか。また、どうしてそういう行使をしたのか

このような観点から政策保有株式の議決権行使の適切性を企業に投げかけることが出来るように思います。

要するに政策保有株式を持つにしても、適切な議決権行使をしていないのであれば、資本市場の要望にこたえていないのではないかということです。

本日は、改訂CGコードのうち、議決権行使基準に焦点を当てましたが、次回以降、また改訂CGコードの実務対応について気付いた点があれば、ブログに書いてみたいと思います。

2019年度予算の概算要求に見る投資テーマ

財務省が8月31日に2019年度予算に対する各省の概算要求を締め切ったようです。要求総額は過去最高の102兆円となる見通しです。

概算要求で重点を置いたのは、日本が抱える3つの不足への対応ということで、9月1日の日本経済新聞記事によれば、「人手不足」「防災の不足」「仕事と育児の両立支援機能の不足」の3点があげられています。

1つ目の「人手不足」ですが、これは、少子化に伴う外国人労働者の受け入れ拡大です。外国人の受け入れの教育やクレジットカードなどのキャッシュレスが今後整備されるのかも知れません。

2つ目の、「防災の不足」ですが、国土交通省が災害対策費の大幅な増加を求めているようです。水害対策では、堤防かさ上げや浸水対策を重視しており、土砂災害対策では、遊砂地や砂防ダイムの整備を求めております。

3つ目の「仕事と育児の両立支援機能の不足」ですが、保育所の増加と夜間講座やeラーニングを充実させ、また、育児休暇中の女性が休職しやすいようマザーズハローワークも拡充するようです。

これらは概算要求であり、財務省は9月から要求内容の精査作業に向け年末に予算編成をすることになるかと思いますが、いずれにせよ、カジノに加えて、これらの3つのテーマは今後の株式投資でも大きく関連するところかと思います。

本日は、外国人関連で、外国人の家事代行関連銘柄のスクリーニングを行いましたが、来週は引き続き、投資候補選定のため(個人投資目的です)、外国人の派遣、外国人への教育、外国人の衣食住関連の銘柄スクリーニングを行う予定です。

企業価値向上表彰50社の公表と資本コストの整理のすすめ

昨日、東証企業価値向上表彰の50社の公表を行いました。

これは、毎年、東証が実施しているもので、資本コストをはじめとする投資家の視点を深く組み込んだ経営の実践を通じて、高い企業価値の向上を実現している上場会社を表彰する制度で2012 年から実施しています。

今回の表彰50社の社名は公表されており、大手企業では、住友化学、クボタ、ダイキン工業、味の素、明治ホールディングスなどがありますが、中小型銘柄企業も多く公表されています。

東証の説明によれば、これら50 社は、過去5 年間にわたり自己資本コストを上回るROE を安定的に計上しており、かつ、経営目標や資本コストなどを確認する選考アンケートの結果及び資本コストを上回る企業価値の創出額等の算定結果が優れた企業として選定したとのことです。

表彰に先立つ企業に対するアンケートでは、① 自社の資本コストを認識し、実際に数値を算出しているか、② 資本生産性を踏まえた経営目標を設定しているか、 ③新規投資及び事業撤退の基準をもち適用しているかを重視しているようで、「資本コストを上回る企業価値の創出額」は、所定の算式により算出した「① ROA-資本コスト」又は「② EP(Economic Profit)」で評価しており、本年度における選抜のボーダーラインの目安は、次のとおりとのことです。

ROA-資本コスト:9.7%程度 ② EP(Economic Profit):480 億円程度

ROA-資本コストが9.7%というのは非常に高い数値かと思います。資本コストを仮に7%とするとROAが17%近いということです。ROAの分子の数値は分かりませんが、おそらく事業利益のような気がいたします。

このように資本コストを明確に意識して経営を行っている企業が表彰の対象になったようです。

WACC等の資本コストについては、改訂コーポレートガバナンス・コードと同時に制定された「投資家と企業の対話ガイドライン」においても指摘されており、今後は、企業の投資の意思決定において、資本コストについての考えが機関投資家から求められることと思います。

しかし、私の感覚では、大手企業でも総合商社、メガバンクなどを除いて資本コストを明確に理解している企業はかなり少ないように思われます。資本コストと株主資本コストの違いも分かっていない企業が多いのではないでしょうか?

最近のガバナンス改革の動きで株主資本コストの言葉は社内資料で使ったりしても、ROEやROICがまずありきで、単純にこれを下回る数値として資本コストを適当に捉えており、仮に目標ROEが7%であれば、「当社の資本コストは5%又は6%である」という具合に考えている企業が意外に多いのではないでしょうか。非常にお粗末な話です。

ではどうすれば良いかということですが、資本コストや株主資本コストが何であるのかを理解できていない企業のIR担当や経営企画担当の方は、今後、機関投資家から説明が求められることを考えると、大手証券会社の投資銀行部門や大手会計事務所に一度株主資本コストのレクチャーをお願いするのが1つの手段として良いかと思います。

ただし、資本コストをどう考えるかは機関投資家によって算式が異なることもあるので、レクチャーにより資本コストを理解・整理した上で、機関投資家との対話を通じて、資本コスト数値の見直し・レビューをし、資本市場から見た自社の資本コストを把握するということが必要になるように感じます。

その上ではじめて自社の目標とすべきROE、ROICが設定できるということになります。まず、ROEやROICが最初にありきではないので、そのあたりをきちんと理解しないとなりません。

議決権行使助言会社の「眼力」よりも機関投資家の「眼力」が重要では?

先日の日本経済新聞で「助言会社 問われる眼力」というタイトルで大塚家具のお家騒動の際に、娘である子供と父親のいずれに議決権行使助言会社は賛成したのかとの記事がありました。

娘を支持することに議決権行使助言会社であるグラスルイス及びISSは推奨し、その理由は、娘の方が取締役の多くに専門性の高い人材を外部登用し、小売業のコンサルタントマーケティングの専門の人材を揃え、また、女性取締役比率が高かったことにあるようです。娘は、「最高のガバンス体制」とアピールしたものの、結果としては周知のとおり業績低迷の有様で、助言会社の力量は如何か?という内容です。

助言会社の推奨判断を機関投資家は採用することが多く、そのことを助言会社は認識しているのですから、賛成推奨に助言会社は責任を負う必要があるともいえます。記事もそのような趣旨かと思います。

しかし、助言会社は、企業のビジネスに精通しているものではなく(勿論、議決権行使推奨というビジネスには精通していますが)、賛成を推奨する取締役個々人のビジネスの能力を判断するのは不可能です。そのため、外形的な基準で判断せざるを得ないのです。

とすると、どうすればよいのでしょうか。

私は、機関投資家が助言会社の賛否推奨基準に依拠することなく自ら判断し、それをアセットオーナーに説明できる力をつける必要があるように思えます。

最近のアナリストは、新人時代から企業の決算数値と業績予想を見ることに重きが置かれ、企業の営む事業のSWOT分析や企業経営陣と深く対話できる経験が積めていないということを以前にある運用機関のベテランのアナリストから聞いたことがあります(勿論、アナリストの全員がそうであるとは思ってはおりません)。

機関投資家は短期での運用実績を求められているのですから、四半期毎の決算数値に目が向くのは当然のことと言えば当然かも知れませんが、もう少し数値以外の本質を見抜く眼力が機関投資家には必要になるように思えます。

なお、先日、トランプ大統領が米国で四半期業績開示を廃止することをSECに検討するよう命じたとの報道がありました。四半期決算は機関投資家の投資のショートターミズムを促進する最たる要因でもあります。

そうであれば、四半期決算を廃止することで、機関投資家は短期数値にとらわれることなく、企業の本質を中長期的観点から見る十分な眼力をつけることが出来るのかも知れません。

健康経営銘柄をご存知でしょうか

本日は「健康経営銘柄」について書いてみたいと思います。

健康経営銘柄とは、2014年度から経済産業省が「国民の健康寿命の延伸」を目的に東証と共同して行っている取組みの1つで、戦略的に健康経営に取り組んでいる企業を「健康経営銘柄」として選定・公表しています。

公表により健康経営に対する上場企業の取組みが株式市場で評価されるという狙いです。まだまだ一般的な知名度は低いのかも知れません。

経済産業省のHPに次のような記述があります。

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<以下、経済産業省のHPより記述抜粋>

経済産業省は、東京証券取引所と共同で、従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に取り組んでいる企業を、原則1業種1社「健康経営銘柄」として選定しています。本取組では、東京証券取引所に上場している企業の中から「健康経営」に優れた企業を選定し、長期的な視点からの企業価値の向上を重視する投資家にとって、魅力ある企業として紹介することを通じ、健康経営に取り組む企業が社会的に評価され、より「健康経営」の取組が促進されることを目指しています。なお、この取組は、「未来投資戦略2017」に基づく施策の一つとして実施するものです。
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2018年健康経営銘柄には26社が選定され、経済産業省のHPで社名が公表されています。各業種1社で、味の素、花王TOTO東京海上コニカミノルタJFE丸井グループ塩野義製薬などが選定されています。ESGに力を入れている企業が多いような印象を持ちました。

健康経営銘柄に選定されるメリットとしては、健康経営に力を入れている企業と見られ、採用活動やその企業の製品・サービスの購入にプラス影響があると言われています。ミレニアル世代が関心の高いエシカル消費にも繋がるものと思います。

本年8月下旬に健康経営銘柄2019の選定に関する調査票が経済産業省のHPで公表される予定ですので、健康経営ひいてはESGに力を入れている企業は、本銘柄選定に積極的に取組むことと思います。

 

カジノ関連銘柄の情報収集開始しました

この夏季休暇中に今後の株式投資にあたり、色々と新聞情報や雑誌情報を眺めていますが、今後の株式投資のテーマとしてカジノ関連について、情報収集・整理をはじめましたので、基本的なことについて今回は書いてみたいと思います。

カジノ関連は、2016年12月15日に「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律」(いわゆる「IR推進法」)が成立しました。その後、2018年7月20日に特定複合観光施設区域整備法(いわゆる「IR整備法」)が成立しました。

本日の日本経済新聞の社会面にもギャンブル依存症という見出しでカジノに関する記事がありましたが、カジノ関連での現状のポイントは、次のとおりです。

1 開業場所は3箇所を整備。自治体が誘致を申請し、国が選定

2 日本人の入場は週3回までとし、月10回までとする

3 入場料は6000円で、マイナンバーカードで本人確認

4 カジノの収益の30%を国が徴収し、自治体と折半

その他の報道によれば、東京、大阪、長崎などが候補地として名乗りをあげていますが、上の4の点で採算が取れないのではとの声も出ているようです。

とりあえず、現時点では、私はこの程度の情報しかまだ把握していませんが、カジノ関連銘柄は、色々あります。

不動産関連、建設関連、アミューズメント関連、パチンコ関連、警備関連等です。インターネットで「カジノ関連銘柄」で検索すると色々な企業が出てきます。

カジノとセットで、犯罪増加の可能性、ギャンブル依存症が必ずありますので、外国人の増加ともあいまって警備関係銘柄、ギャンブル防止関連の銘柄も今後注目をされるかと思います。また、開業地が決定されれば、その地域の観光や小売などの地域に特化した企業の株価も大きく注目されるかと思います。

IR整備法が制定されてから、2019年夏頃を目途に基本方針を策定・公表されるようですが、その内容が具体的されることで、カジノ関連銘柄が更に大きく動きそうな予感がします。

バリュー投資では、株価が安値の段階で仕込むことが重要ですので、今後は投資テーマとして、カジノ関連を追いかけて、カジノ関連情報が公表された時点で関連銘柄を速やかに買えるように、予めカジノ関連銘柄を精査しておくのが個人投資家には良いかも知れません。

色々と割安株を探す中で、やはり化学、半導体、IT、電機等は自分には良く分からないところがあります。投資の基本的姿勢は、自分自身が投資先企業の業界や業界の今後、ビジネスモデルについて理解できることが重要かと思います。その観点からは、私のような文系人間には、カジノというのは、比較的理解しやすいようにも感じています。

7月20日に成立したIR整備法をネットで検索したところ罰則まで含めて251条まである比較的ボリュームのある法令ですが、一度全文を読んでおきたい思います。

カジノ関連は今後ブログに掲載して行きたいと思います。

GPIFがESG投資の年間収益率を公表

今週は1週間夏季休暇のためブログの更新が遅れておりましたが、8月14日の日本経済新聞に、ESG投資に関する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)のESG活動報告が公表され、2017年度の年間収益率は13~15%台で、ベンチマークとするTOPIXを下回ったとの記事がありました。GPIFは、今回はじめてESGに関する取組みを「ESG活動報告」として発表しました。

記事によりますと、GPIFが採用する3指数のうち、最も収益率が低かったのは、リーダーズ指数で13.74%で、収益率が高かったのは、女性活躍指数で15.29%との
ことです。

女性活用比率の高い企業は業績も好調であるという意見も一部ありますが(実のところは、女性登用と業績に因果関係はなく、業績が良くキャッシュに余裕のある大手企業が、女性活用を世間にアピールするためCSR部門、コンプライアンス部門などのビジネスの本流から離れた部署に女性幹部を登用して数を増やしているというのが現実かも知れませんが)、それを裏づける結果ともいえそうです。しかし、それでも、TOPIXの15.87%を下回っているということに変わりありませんが。

ESG投資の効果は、短期での収益率で見るのではなく、長期での視点で見る必要があります。つまり、GPIFのように国民の年金を長期で運用するところでは、投資先企業の短期的な業績ではなく、何十年先を見る必要があり、そのためには、企業のESGの要素が重要ということがESG投資の根底にあります。企業の10年後の業績などは、企業の現経営者ですら分からないのであって、であれば、業績以外のESG要素を見ていこうという極めて単純な発想とも言えます。

従って、今回の記事にあるように、TOPIXの収益率を下回るということは特に大きな問題ではありません。ただし、長期の投資といっても、やはり短期でも収益率が低いよりは、高い方がよいのが運用委託者の本音かと思います。

運用機関に長期での運用を委託するといっても、毎年の運用実績が低いとさすがに運用先を見直すというのこともあるかと思います。その観点からは、現在、GPIFは運用機関の3指数を使っていますが、今後も収益率が低い場合には、この指数の見直しをする可能性も出てくるように個人的に思います。

GPIFのESG活動報告は今回がはじめての公表で、今後毎年発行する方針とのことですが、私は肝心のESG活動報告がまだ読めていませんので、出来ればこの週末にでも目を通して、関心のある事項があれば、ブログで紹介したいと思います。

技術研究組合の活用

8月6日の日本経済新聞に技術研究組合の記事がありました。複数の企業・大学が技術研究組合を活用して、共同で産業技術の試験研究を実施する動きが広がっているとのことです。

経済産業省のホームページで次のように技術研究組合の紹介がされております。

技術研究組合は、複数の企業や大学・独法等が共同して試験研究を行うために、技術研究組合法に基づいて、大臣認可により設立される法人で特徴は次のとおり。
<組合>
①法人格を有する大臣認可法人
②組合が賦課金で取得した設備は税制上の圧縮記帳可能(適用期限H33年3月末)
③組合から株式会社等へのスムーズな移行が可能
<組合員>
支払う賦課金について、①試験研究費として費用処理②法人税額から20%の税額控除が可能

また、上記以外に中小企業にとって有利なのは、事業上の意思決定に際して1組織1票が原則とされる点です。

通常の株式会社であれば、出資金額により議決権割合が決まりますので、どうしても高い技術力は有するが、資金力の乏しい中小企業にとっては、経営への影響力が小さくなります。つまり、大企業Aが800万円を投資し、中小企業Bが200万円を出資となりますと、経営に対する支配力はAが80%、Bが20%となります。資本の論理に従い、持つ影響力も決まるということです。

しかし、技術研究組合では、1組織1票ですので、資金力の乏しい中小企業にも有利ということになります。まだ、利用はそれほど多くないようですが、今後、より使いやすい制度とすべく、国立大学が技術研究組合が設立した株式会社の株を持てるようにするなどの環境整備が必要になるということのようです。

ESGアクティビズムとミレ二アル世代

7月23日号の日経ビジネスに「ESGアクティビズムに屈する企業」との記事がありました。

内容は、米スターバックスや米マクドナルドなどでプラスチック製ストローの使用をやめる動きが加速しており、この背景には規制強化の動きだけでなく、「ESGアクティビズム」が企業の背中を後押ししていることが背景にあるということです。

スターバックスにおいては、本年7月9日に米ESG投資推進NGOのAs You Sowがプラスチックストロー禁止の株主提案を行い、機関投資家などの多くの株主が支持をした
ようです。提案自体は否決されたが、30%弱の高い支持を得た模様です。

アクティビストは、事業カーブアウトを提案して業績改善を提案する、キャッシュリッチ企業に対して配当増や自己株式の取得を提案して、株主還元を求めるという提案がほとんどです。

しかし、ESG投資の拡大の動きを背景に、必ずしも株主還元には直結しない環境・社会・コーポレートガバナンスの改革を上場企業に促すESGアクティビズムの活動が米国では増えているようです。

投資ファンドのジャナパートナーズがカリフォルニア州教職員退職年金基金(カルスターズ)と一緒に、米アップル社に対して、子供がスマホに夢中になり勉強に集中できないので、アクセス制限等の対策を講じることを提案したということが少し前の日経新聞にありました。

このESGの動きにはミレニアル世代の関心が高いともいわれています。ミレニアル世代とは、1980年代以降に生まれた世代をいいますが、エシカル消費に関心が高いといわれています。

エシカル消費とは、社会問題の解決に取り組む企業の製品を優先的に購入・消費する考えをいいます。勿論、ミレ二アル世代が全員そうというわけでは当然ないですが、そういう傾向が他の世代と比べて強いということです。

企業にはESG関連の情報の開示が求められておりますが、ESGをないがしろにするとこういった世代からの評価を得ることができず、それだけにとどまらず、ESGアクティビズムにより、企業が予想しない方向に流されていくリスクもあると思います。

ESGの中のE(環境)に関していえば、化学品メーカーなど環境への影響が大きい企業はビジネスの環境への負荷の現状の開示やそれに対する対策を開示すること、また、S(社会)に関していえば、グローバルで発展途上国で安い労働賃金を使いビジネスを行ってる企業は、児童労働規制に違反していないことなどを積極的に開示することが益々大切になってきます。

経産省のCGS研究会(第2期)第8回が開催

経産省のCGS研究会(第2期)の第8回会議が7月24日に開催されました。

この会議は、第5回(4/24)より議事録は公表されないようになっていますので、今回も会議資料のみの公表ですが、資料を読む限りにおいては、次のような討議がなされているようです。

1 グループとしての企業価値向上のためにグループ管理実効性を高める上での参考になるベストプラクティスとしての実務指針
2 実効的な子会社管理のための実効的な方法についての共通項の整理
   - 親子会社双方におけるグループ管理規定の整備
   - 事故・不正の未然防止と早期発見のための情報収集仕組み作り
3 有事対応。不祥事等の有事の場合、グループ企業価値毀損をミニマムにするための親会社の対応についての一定の指針作成

などグループとしてのガバナンス体制が議論されたようです。不祥事などは親会社がグループとしての対応をしていくことがあると思います。

直近ですと、日立製作所の子会社の日立化成という中堅化学メーカーが非常用電源に使う産業用鉛電の検査成績書に不適切な数値を記載する不正行為があったと発表しております。この会社も時価総額6,000億円の大手企業ではあるのですが、親会社である日立製作所のグループ管理能力が問われるような報道がされている印象を持ちました。

5月18日にCGS研究会(第2期)の中間整理が公表されていますが、そこではグループガバナンスについては触れられていなかったかと思いますが、6月22日開催の第7回会議からグループガバナンスが議題になっているようです。

次回は9月5日に第9回会議が開催され、CGSガイドライン改訂案がそこで討議される予定のようです。

公表されているスケジュールでは、2019年2月にガイドライン素案が出て、3月にガイドライン取り纏めとなっておりますので、上場企業にとっては、改訂コーポレートガバナンス・コードに引き続き、また来年も6月の定時株主総会の直前に色々と検討することが増えそうです。

機関投資家の議決権行使基準を詳細に把握することの重要性

7月27日の日本経済新聞に「機関投資家の目 厳しく」とのタイトルで、野村アセットマネジメントの投資先企業の株主総会における株主提案への賛成率が記載されていましたので、これについて触れたいと思います。

本年の4月から6月に開催された定時株主総会についての野村アセットの議決権個別開示結果によりますと、株主提案への野村アセットの賛成率が12%と昨年より5%増えたようです。全129議案の12%に当たる株主提案に賛成したようです。

記事によれば、役員報酬の個別開示や取締役会議長とCEOの分離提案などに賛成したようです。個人的に関心が高いのは、アルパインに対する香港の投資ファンドによる大幅増配の株主提案がアルパイン株主総会では否決されましたが(30%程度の賛成にとどまった)、この株主提案に対して野村アセットは賛成していたようです。

アルパインの財務諸表を見る限りでは、同社は十分なキャッシュリッチで、投資ファンドの提案は極めて論理的な提案であるのですが、否決されたのは、株主提案を理解する能力の乏しい個人株主と「人情」の論理が優先されたことと思いますが、野村アセットは論理的な判断をしたようです。

では、野村アセットの議決権行使基準はどうような規定になっているのでしょうか。

野村アセットは他の機関投資家と異なり、賛成する株主提案の内容を次のとおり明確に定めています。

<野村アセットの議決権行使基準(2017年11月改訂)からの一部抜粋>

株主提案が次のいずれかに該当する定款変更議案であって、かつ、明確で具体性を備えていると判断される場合には、原則としてこれに賛成する。
・役員選任議案における重要な情報の開示を求めるもの
社外取締役を取締役会議長とすることを求めるもの
最高経営責任者が取締役会議長を務めることを禁止又は排除するもの
・取締役でない相談役・顧問等の廃止を求めるもの
企業価値向上と持続的成長の観点から問題と見られる保有株式の売却を求めるもの
・政策保有株式の議決権行使結果の開示を求めるもの

剰余金処分に関する株主提案については、会社提案と比較して判断する

つまり、上記のような株主提案があった場合には、野村アセットは賛成する可能性が高いということです。この基準に照らし判断したことが今回の株主提案への賛成率増加になったのです。

私の知る限りでは、株主提案に対する明確な賛成基準を掲げている機関投資家は現時点では少ないと思いますが、今後、野村アセットのように明確な議決権行使基準を制定する機関投資家が増えるのかも知れません。

国内機関投資家各社は、毎年12月頃から来年の株主総会の議決権行使の判断基準の見直し作業に入りますが(機関投資家は毎年見直しをします)、上場企業各社はそのタイミングで機関投資家とのエンゲージメント(対話)を実施して状況をウォッチしておかないと、機関投資家の議決権行使基準に照らした株主提案が自社の機関投資家からなされ、この対応で多大な労力を割くことになる可能性があります。

これまで一般の事業会社では、3月末と9月末時点の自社の株主の実質株主判明調査を業者に依頼して分析結果は把握しているかと思いますが、その後、各実質株主(=機
関投資家)の議決権行使機基準まで詳細分析することは少ないと思います。この議決権行使基準の精査が今後重要になります。

一方、個人投資家の目線で見ると、機関投資家の議決権行使基準を丹念に分析した上でその基準に即した株主提案をすれば(単独又は複数株主の合計で300単位必要です)、それに賛同する機関投資家も増え、自分の株主提案で企業に色々と提案が出来ることになります。個人投資家投資ファンドと同様に「物言う株主」になれます。

このように企業及び個人株主の双方にとって機関投資家の議決権行使基準は、今後ますます重要な情報となると思います。

海外・日本の投資規制について②

前回米国の海外からの投資規制について説明しましたが、今回は、EUと日本の海外からの投資規制についてポイントのみ説明します。

EUですが、ドイツ、フランス等の各国で外資規制はあり、最近改正がされています。しかし、新聞報道にもあるとおり、現在は、さらに欧州統一の審査規制を制定する方向での議論が進んでいるようです。つまり、各国ごとに異なっている現在の基準を統一するということです。

次に日本の投資規制についてみると、外為法があり、海外投資家が一定の業種の日本企業の株式を10%以上取得する場合には、事前に財務大臣及び事業所管大臣に届出を行い、取得可否の審査を受けることが義務付けられています。

この外為法の投資規制は昨年10月に改正され、届出なく株式を取得した場合には売却命令等を行うことができることになりました。しかし、売却命令を無視した場合には、当該売却自体を取消すまでは出来ません。

米国の場合には、事前審査を得ないでなされた投資については、取引のクロージング後でも中止させる効力があるのですが、この米国の規制と比べて日本の規制は弱いことが指摘されています。

米国・EUでの投資規制強化の背景には、中国投資家対応があります。

では、その中国の様子はどうなっているかといいますと、中国政府は2015年5月に産業政策「中国製造2025」を公表しています。これは、次世代情報技術やロボット等の10の重点分野を設定し、製造業の高度化を目指す野心的な計画といわれています。

中国製造2025は長期戦略の第1段階といわれており、次のような3つの段階があります(日経新聞 2018年7月2日)。

第1段階(2015年~2025年)世界の製造強国の仲間入り(中国製造2025))
第2段階(2025年~2035年)世界の製造強国の中等水準へ上昇
第3段階(2035年2049年)世界の製造強国の先頭グループへ躍進

このように中国政府の方針の下、中国企業は今後製造業を強化していく方向にありますが、この脅威もあり、米国・欧州の投資規制は強化されています。

とすると、中国企業は、投資先としては規制の緩い日本企業に向かうような気がどうしてもいたします。

 

海外・日本の投資規制について①

先日、新聞記事を整理していたところ、6月20日の日本経済新聞に「中国M&A阻止の動き」とうタイトルで外資による対内投資規制として、米国・欧州・日本の規制についてごく簡単に触れていました。

本年の6月株主総会の企業では、買収防衛策議案の反対率が2桁台とダントツで高かったようですが、買収防衛策継続の理由として日本の対内投資規制が弱いことを、明言しないまでも、実質的な理由にあげている企業も多いと思いますので、本日は、日本・海外の投資規制について、2回に分けて説明したいと思います。

まず米国ですが、米国では規制に関しては、対米外国投資委員会(CFIUS)があり、CFIUSは米国の国家安全保障に影響がある外資による米国企業の投資について、大統領に取引停止・中止命令の発動を促します。

CFIUSの申請をしないでM&Aがあった場合には、取引のクロージング後であっても大統領はM&Aを阻止することができます。対象になる取引は政治的動向により左右されることもあるようです。

2016年以降に中国企業による米国企業の買収において、大統領が取引の停止を求めた事例が数件ありますが、水面化ではこの2年間で数十件の取引を断念させてきたようです。2017年は、約20件の取引が事実上制限され、特に中国資本による米国企業への投資に厳しいといわれています。

なお、米国では、現在、CFIUSの権限許可の法案が昨年11月に両議院に提出され、現在審議中です。

改正は、最近の中国資本による米国企業への投資への懸念が背景にあるといわれており、米国のテクノロジー関連の領域、特にスタートアップ段階のベンチャー企業を保護することが狙いの1つとされているようで、現在は中止権限はあくまで大統領ですが、改正法では、CFIUS自体に中止権限を付与することなどが検討されている模様です。

このように米国では現在も強い規制があるところ、更なる規制に向けて動いているようです。

次にEUと日本ですが、これは纏めて次回、説明したいと思います。

投資先企業の利益剰余金が少ない場合の配当原資の見方(資本剰余金を原資とする配当)

先日、「配当性向だけでなく配当原資を良く理解しましょう」というタイトルの記事を書きましたが、これに関連して、今回は利益剰余金が少ない又はマイナスの場合の剰余金の配当原資について説明したいと思います。

バランスシートを見ると、当期純利益が大赤字で利益剰余金が小さくなっており、投資先企業が無配とした場合、「やむを得ない」と考える個人投資家の方も多いと思います。しかし、配当原資は会社法上、利益剰余金だけではありません。

剰余金の配当は、通常は、バランスシートの利益剰余金から行うのが一般的です。

では、利益剰余金が十分でない企業やマイナスになっている企業は配当できないのでしょうか。例えば、当期純損失が数期連続し、利益剰余金が大きく毀損してしまっている場合です。

この場合であっても資本剰余金からの配当が検討できます。

資本剰余金とは、増資などの際に株主から払い込まれた出資金のうち資本金に組み入れられなかった分をいいます。より正確にいいますと、資本剰余金は、「資本準備金」と「その他資本剰余金」で構成され、資本準備金からは配当できないので、「その他資本剰余金」が配当原資ということになります。

利益剰余金が例えばマイナスの場合であっても安定配当を配当施策として表明している企業は、資本剰余金からの配当を検討することがあります。

資本剰余金を原資とする剰余金の配当を実施している企業をいくつかあげますと、TSIホールディングスフィスコスシローグローバルホールディングスユニデンホールディングスなどがあります。

この中でユニデンの2018年3月期の決算短信でバランスシートの株主資本の内容を見ると次のようになっています。

資本金    18,000百万円
資本剰余金  28,851百万円
利益剰余金      59百万円
自己株式   -7,335百万円
株主資本合計 39,575百万円

これを見ると、利益剰余金が少ないため資本剰余金を配当原資としたことに納得できるかと思います。

ただし、資本剰余金を原資とする配当は、株主から払い込まれた「資本の払い戻し」に当たりますので、通常の利益剰余金を原資とする配当と異なり、税務上は「みなし配当益」のほかに「みなし譲渡益」が生じます

配当に絡む税務は、私は不勉強のところがあるので、あまり詳細は語れませんが、税法上は、「みなし配当」と呼ばれる利益配当の部分と「みなし譲渡」と呼ばれる株式譲渡対価部分に区分され、株主の手続が少々面倒なようです。

個人投資家の方は、投資先企業のバランスシートを見て、利益剰余金が少なくても資本剰余金が一定程度あり、かつ、バランスシートの資産の部(左側です)に十分な現金があるのであれば、「この企業は配当余力があるのではないか」との観点から投資先企業を見る必要があるかと思います。

とは言ってもだまって見ているだけで配当が実施されるものでもありませんので、個人投資家は、「資本剰余金が潤沢にあるのでこれを原資に配当を実施せよ」ということを株主提案することが必要になると思います。