中長期的な企業価値向上のためのコーポレートガバナンス・アドバイザー / 長期での中小型株の割安株投資情報

最近のコーポレートガバナンスと資本市場の動向を踏まえ、上場企業実務の視点から中長期での企業価値向上に役立つ情報分析・発信をしていきます。個人投資家のコーポレートガバナンス力の向上による「意思のある投資」に役立つ情報発信もしています。また長期での割安株投資の情報も

日本生命、第一生命等の生保10社各社が集団的エンゲージメント(企業との対話)を開始

日本生命、第一生命が投資先企業に対して、集団的エンゲージメント(対話)を開始するとの報道が先日ありました。

集団的エンゲージメントは、2017年4月に改訂されたスチュワードシップコードにお
いて「集団的エンゲージメントも有益である」として評価をされています。報道によれば、情報開示などで一定水準以下にある投資先企業約100社に対して、改善を促す書簡を連名で送付するということのようです。

最近の報道ですが、シンガポールの投資会社であるCGIが投資先の日本企業との対話に重点を置くといった報道や米国の運用会社であるブラックロック日本株は約30兆円運用)が一定比率の株式を保有する投資先の日本企業に、コーポレートガバナンスの改善を促す書簡を送るとの報道もありました。

機関投資家とのガバナンスを中心とした対話の動きが非常に活発化していると感じます。

勿論背景には、政府が主導するコーポレートガバナンス改革で日本企業の中長期的な企業価値向上を図る上で、ガバナンス等の非財務情報の対話が必要と言われていることがあります。

今回の報道でこの集団的エンゲージメントに参加するのは、他に明治安田生命保険住友生命保険を含めた大手4社のほか、かんぽ生命等の合計10社が参加する予定とのことです。

集団的エンゲージメントについては、以前にもブログで触れましたが、具体的には議決権行使まで一緒に行うことはないように考えます。投資先企業に質問のみならず、共同で議決権行使まで行うとなると大量報告報告書も共同で提出することになるので法的にも問題ということでしょうか。たしか、以前にある機関投資家もそういうことを言っていました。

従って、生保各社は、投資先企業のガバナンス情報を収集した上で、自社の議決権行使基準に従って、個別に議決権を行使することになるのではないかと想像します。

機関投資家各社は、投資先の個社企業別に分析をして対話をするよりも共同で対話をした方が効率性が良いということは当たり前のことですので、この動きは今後増えると思います。

GMOインターネットに対する香港投資ファンドのオアシスからの株主提案(3/21に株主総会開催)

GMOインターネツト㈱(以下「GMO」)の本年3月21日に開催される定時株主総会(12月決算期)において、香港の投資ファンドであるオアシス・マネジメント・カンパニーが株主提案を出していましたが、3月6日付でGMO株主総会の招集通知を発送しており、その中で株主提案に対するGMOの取締役会の回答が公表されていました。

株主提案に対しては、取締役会は全て反対するという内容です。株主提案はいくつかありますが、買収防衛策に限定しますと、次のような内容です。

<オアシスによる株主提案の内容>
1 GMOの持つ買収防衛策の廃止
2 GMOが買収防衛策を継続するとしても、買収防衛策の導入継続については株主総会の決議を条件とするスキームに変更する定款の一部変更

それぞれに対するGMOの回答は、インターネットで招集通知をご覧頂ければと思いますが、簡単に1と2についてのみポイントのみを記載します。

GMOの取締役会の回答サマリー>

1について
・買収防衛策があることで、買収者が出現した場合、取締役会の意見が適切に株主に提供できるので株主の共同利益に資する
・買収防衛策の発動にあたっては、取締役会は独立委員会の勧告を最大限尊重し、取締役全員の賛成を発動条件としており、恣意的発動ができない設計
・金商法による手続きだけでは、株主の判断に資する十分な情報の収集・提供は不十分
上記理由から、買収防衛策の廃止の提案には反対
2について
上記1と同じような理由

いずれも反論としては一般的に良く言われていることで、何ら目新しいものではなく、個人的にはこの程度の理由付けで、機関投資家を十分に説得するのは難しいように感じました。

GMOの1の回答に関していいますと、機関投資家などからは、買収への応募の是非は自分たちで判断できるので、いちいち会社から情報を提供してもらう必要などないということは良く言われます。これは買収防衛策を不要とする機関投資家の多くの意見であり、もっともな指摘かと思います。

また、2については、ただでさえ買収防衛策に対する機関投資家の判断が厳しくなる中、取締役会の決議で導入・継続できるというスキームでは機関投資家の納得は得られないのではないでしょうか。

買収防衛策を廃止する上場企業が増える中、廃止提案に対して機関投資家を論理的に説得するということ自体が今や非常に難しいので、今回のような理由にならざるを得ないことは十分に理解します。しかし、理由付けは極めて一般的かつ形式的なものとの印象を持ちます。

このように会社側の理由が非常に説得性の乏しいものですが、ポイントは、安定株主がどの程度存在し、GMO側に立ってくれるかにつきます。

GMO株主総会招集通知に記載の株主構成比率を見ますと、外国人株主比率は32%となっております。

外国人とは海外機関投資家と考えますが、海外機関投資家は、ISS、グラスルイスの議決権行使推奨に従うことが多いところ、ISS、グラスルイスとも買収防衛策議案は反対を推奨することから、外国人株主の多くはオアシス側にまわると推測されます。

また金融機関は13.87%となっています。これはいわゆる都銀、地銀等の普通銀行とともに国内機関投資家が含まれているかと推測しますが、国内機関投資家は、今や買収防衛策には反対が大勢です。したがって、オアシス側に立つと推測します。

とすると、残りの国内法人31.51%と個人・その他の20.74%のどの程度がGMO側に立つかにかかってきます。

ここで大株主をみると、筆頭株主に「株式会社 熊谷正寿事務所 31.03%」となっております。これが国内法人に分類されているとすると、国内法人の31%はGMO側になります。

あとは個人ですが、熊谷正寿 氏が第2位の大株主で9.94%をもっていることを考えると、国内法人の31%とこの約9%をあわせて40%近くはGMO側に立つということになります。

買収防衛策の廃止は、会社法で特別決議事項と規定されてはいませんので、普通決議事項として50%の賛成が必要になることを考えると、GMOはあと10%程度のGMOに賛同する株主を確保すれば足ることになります。

有報等を詳細に見ていないので、正確な数値に誤りがあるかも知れませんが、もし、あと10%程度の賛成を確保することで足るのであれば会社側に分があるかも知れません。

いずれにせよ、議決権の個別結果開示の環境下、買収防衛策に対して厳しい目を向ける国内機関投資家がどういう判断をし、結果、どうなるのか関心のあるところです。

万一、株主提案が通ると、それが上場企業に対する買収防衛策の実務に与える影響も大きく、これを契機に日本企業に買収防衛策廃止の株主提案をしてくるアクティビストも増えるのではないかと想像します。

3月21日開催のGMO株主総会の結果を待ちたいと思います。

政府が女性取締役の「1名以上起用」の企業統治の方針を公表

先日の日本経済新聞で、金融庁は上場企業に女性取取役の起用を促す方針との記事が掲載されました。

金融庁コーポレートガバナンスのフォローアップ会議のこれまでの議事録を見てきましたが、女性取締役の起用の話は出ていませんでしたので、どこから出た方針なのかと思っていましたところ、昨日の新聞でも、安陪首相が女性取締役を1名以上起用することを促すと正式表明したとの記事がありました。

フォローアップ会議は、出席委員が議論してコンセンサスを得るという場ではなく、あくまで金融庁有識者を招いて、その意見を参考にしながら方針を決める場と理解していますので、たまたま会議ではこの論点が出なかったのかも知れません。または、2月15日開催の第14回フォローアップ会議の議事録がまだ公開されていませんが、その中で、はじめて女性取締役の論点が出たのかも知れません。

いずれにせよ、政府が表明している以上、結論には変わりはないことになります。

女性取締役の必要性についてはブログでも何度か触れており、上場企業によって起用が必要な企業とそうでない企業があることとは思います。しかし、そもそもとして、上場企業の中高年の幹部クラスの中で女性の割合が極めて少ないのが多くの上場企業の現状かと思います。

これはどういうことかと言うと、子供が2人以上いる女性はフルタイムで働けない環境にあるということです。複数の子供を持つ女性は能力が高くても、非常に残念なことですが、退職をして家庭に入ってしまっている例が多く、私の大学時代の女性友人を見ても、自分の周りを見てもそうです。つまり、「働ける環境にある女性が働いている」というのが多くの日本企業の実情です。

自分より偏差値の低い大学を出ている男性や女性が、フルタイムで働けるという理由であるがゆえに昇格し、自分は彼らまたは彼女より、かなり上のランクの大学を出ているにもかかわらず、子供が2人いるため、退職せざるを得なかったと非常に悔しい思いをしている女性もかなりいると思います。

とすると、選定する母集団の小さい中から、あえて取締役を選定するとなると能力の極めて乏しい人材が役員になるという非常におかしな話が出てきます。すると、「この政府の方針はおかしい?」と非常に多くの上場企業の経営層や幹部層の方は考えるのが極めて普通かと思います。

ちなみに、上場企業で女性役員(取締役・監査役)の占める比率は、米国で18%程度で、フランスが30%超で、日本は3~4%であったと記憶しています。

ただし、女性取締役の起用はコーポレートガバナンス・コードで規定されることになりますが、コードは遵守が強制されるものでなく、また、上場企業は遵守が出来ない場合にはその理由を説明すれば足ることとされています。

従って、多くの企業では、女性取締役の即起用は出来ない理由を説明することになるもの思います。

しかし、女性や役員起用の流れが強まることは確実ですので、上場企業としては、中長期では女性の役員への起用を考えざるを得ません。とすると、現状のように母集団の小さい中から、やむなく不適格な人材を選ぶという過ちを防止するには、企業としては、選定する女性の母集団を大きくする必要があります。

女性が子供を2人以上出産しても、男性と全く同じように何の躊躇なく働けるという、本来であれば極めて当然の環境を今から考え始めることが必要になってくるのではないでしょうか。

なお、個人的な話ですが、私は子供が2人おり、うち1人が女の子ですので、10年後には、このように女性が男性と全く同じように働ける環境が整備されていればよいなと思っております。

「コーポレートガバナンス改革」の言葉に安易に流されないための視点

先日の日本経済新聞によれば米国の上場企業数が3600社となり、一方、日本の上場企業数は、3700社で米国を上回ったとのことです。

米国では、ピーク時の1990年代には7000社ほどあり、その時に比べて半減したとのことのようです。半減の理由としては、次の2つが一般的に言われています。

1.サーベンス・オクスリー法により上場基準の厳格化
2.アクティビストの活発化に伴う企業のM&Aによる上場企業の未上場化

日本では上場企業数が増加していますが、問題は上場の意義の低い企業が増加している点です。

つまり米国に比べて、PBR(=株式時価総額÷株主資本)が1倍を下回る企業が多いということです。1倍を下回るということは、バランスシート上の株主資本より市場での評価の方が低いということになります。

バランスシートには、企業の研究開発力、人的資本、ブランドなどの無形資産は計上されていませんので、株主資本が時価総額より低いということは、これらの無形資産が市場で評価されていないことになるわけです。

このことは何度かブログで繰り返し書いていますが、基本的に新聞記事を見て思ったことをブログで書いているわけですので、つまり、それだけ同じようなことが繰り返し新聞でも報道されているということです。

新聞記事では、米国の大手年金基金のカルスターズの最高責任者のコメントで「コーポ
レートガバナンスなどの市場の規律は企業価値の向上につながる」との記述がありま
した。

ここで今更ですが、あえて企業価値コーポレートガバナンスの関係について述べたいと思います。

昨今のコーポレートガバナンス改革の狙いは、企業価値の向上にあります。そして、企業価値とは株式時価総額+ネットデットです。

このため、企業価値を高めるということは、株式時価総額を高める、すなわち、株価を高めることになります。株価は需給のバランスですので、株価が高まるということは、企業の将来業績に投資家が期待するということです。

企業の業績が好調であれば、PLの当期純利益が増え、結果株主は、配当というリターンを得ることが出来るのです。このため、あらためてコーポレートガバナンス改革で企業は具体的にどういうガバナンス施策を行えばよいかというと、利益向上に結びつく施策を講じることです。

コーポレートガバナンスというと、最近は取締役会の多様性ということで、女性の取締役を増やすとか、社外取締役の員数を増やすということに目が行きがちですが、それではいけません。

自社の利益アップ、ひいては株価向上に響く施策を講じることがコーポレートガバナンス改革です。取締役会の多様性が叫ばれているのは、そうすることで企業の収益、ひいては利益が向上する可能性があり得るから言われています。

しかし、当たり前ですが、日本国内だけでビジネスしている企業は外国人の取締役などは全くもって不要だし、BtoBのビジネスしている企業には女性取締役がマストかと言うとかなり高い確率でそれも違います。

ついつい分かり易い言葉に流され、形式的な瑣末なことに目を向けるのではなく、自社の市場株価にプラスに働くコーポレートガバナンス改革の施策は何であるかの原点に戻り、自社にとって本当に必要なことを考えることが肝要と思います。

「 上場会社における不祥事予防のプリンシパル」と機関投資家と企業の対話

シンガポールの政府系投資会社であるGCIが投資先である日本企業との対話を進め、経営改善を働きかける方針であるとの記事がありました。

日本企業の相次ぐ不正に対して、コーポレートガバナンスに関する経営陣の考え方を更に変える必要があるということのようです。

GCIは、運用総額は数十兆円程度で、そのうち日本投資の割合は12%程度のようです。

以前にブラックロックのラリーフィンク会長のコメントでも、投資先の日本企業に対して書簡を送るとして基本的な見解を述べていましたが、GCIも同様に積極的な対話を求めるようです。

記事を読む限り、企業の不正会計などの不祥事について日本企業のガバナンス面の改
善を求めていくようです。

不祥事に関しては、本年2月21日に東証が「上場会社における不祥事予防のプリンシ
パル」(案)を策定しました。現在、パブリック・コメント手続きを実施しています。

東証は2016年2月に「不祥事対応のプリンシパル」を策定しています。これは、不祥
事に直面した上場企業の信頼回復と企業価値再生に向けた指針となっています。一方、今回のプリンシパルは「不祥事予防」となっております。

原則が6つほど掲げられていますが、項目のみを列挙すると次のとおりです。

原則1 実を伴った実態把握
原則2 使命感に裏付けられた職責の全う
原則3 双方向のコミュニケーション
原則4 不正の芽の察知と機敏に対応
原則5 グループ全体を貫く経営管理
原則6 サプライチェーンを展望した責任感

数ページ程度の内容ですので、上場企業のCSR部門の方、法務部の方などは通常の業務とも関連するので、是非一度読まれると良いと思います。

今回のGCIの記事を読むと、今回の東証のプリンパルなども彼らが対話を求める1つの
材料になるように個人的に感じています。

最近のコーポレートガバナンス改革は、日本企業に対する機関投資家の対話の動きに追い風になっていることは周知のとおりですが、東証のこの方針もこれに関連すると思われます。

アクティビスト(物言う株主)に狙われる中堅上場企業

昨日の日本経済新聞で、企業向けIRを支援するアイ・アールジャパン(東証1部)が、会社が物言う株主に狙われ易いかどうかをAIを使って分析するサービスを開始したとの記事がありました。

アイ・アールジャパンは、過去10年間に大量保有報告書に登場したアクティビストの動き約100件をまとめ、AIで傾向を分析したようです。記事によれば、アクティビストの主な注目点として次のことが掲載されています。

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アクティビストの主な注目点(アイ・アールジャパン調べ)

大企業(時価総額5,000億円以上)
株式投資における収益性の低さ(過去10年)
ROEの低さ(過去5年や最新)
・外国人の株式保有比率の高さ

中小企業(時価総額100億円~1000億円未満)
・取締役会の社外取締役比率の低さ
時価総額に比べた現金・有価証券の高さ
・株価の低さ(PERの低さ)
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ここで今回注目したいのは、中小企業(上場企業)についてです。

中小企業というと日本企業の圧倒的大多数を占める未上場の企業を普通は示すので、記事では「中小企業」とされていますが、一応上場企業ですので、以下、中堅企業といいます。

さて、中堅企業の場合には、社外取締役の低さといったガバナンスリスクが狙われるポイントとして掲げられています。

社外取締役については、現在検討中の会社法改正案でもその設置の義務化の要否が議論されていますが、金融庁で議論されているSSコード及びCGコードのフォローアップ会議でも社外取締役の資質が討議されています。また、現金の活用、政策保有株式の縮減もフォローアップ会議でのホットな話題であります。

中堅企業では最近のコーポレートガバナンス改革の動きを十分に把握されていない企業も多く、そもそも時価総額も小さいことから機関投資家との対話などをしている企業も多くないと思います。

このため、資本市場の動向に精通しておらず、後になって法的に義務付られた最低限のガバナンス対応しか出来ないことが多いかと思います。このため、業績・株価パフォーマンス面、株主還元の面から課題がある企業は、物言う株主からガバナンス面の課題も併せてつつかれるリスクがあるということになります。

誤解ないようにいいますと、業績も好調、十分な株主還元をしている、株価も高いという中堅企業であれば、社外取締役といったガバナンスリスクを気にする必要はありません。ガバナンスリスクは財務面・事業面で課題がある場合にそれを後押しする材料となります。

ただし、業績パフォーマンス、株価は当然ながら変動するものですから、将来、財務面での課題が発生した時にガバナンスリスクをつつかれないようにするという観点からは、平時においてもガバナンス面の課題をクリアにしておく必要があると思います。

コーポレートガバナンスというと、中堅企業では「コーポレートガバナンスなんて企業の業績には関係ないので、法令に反しない程度で必要最低限のことをやっておけばよい」と考えることも多いと思います。中堅企業では、人的リソースも限られており、特にスタッフ部門に割けるリソースもさらに限定されると思います。

しかし、リスクを出来るだけ減らしておくという観点からは、資本市場の動きはウォッチして、常に先行して取り組んでいく、または、取り組まないまでも何が資本市場でホットな話題になっているかは上場企業であれば、常にウォッチしておく必要があります。


そうしないと、3月期決算企業は株主総会も近づく中、3月末の株主名簿を締め、実質株主の判明調査をしたところ物言う株主が株式を1~4%程度保有していたことが判明し、バタバタした対応に追われる可能性も出てきます。

先日、伊藤レポート2.0を書いた、一橋大学の伊藤邦雄教授の講演会に参加しましたが、その中で、「本年はアクティビスト元年になる」ということを言っておられました。

アクティビスト元年とは、以前にも新聞報道で見たこともあり目新しい言葉ではありませんが、国をあげて進めているガバンナンス改革がアクティビストの後押しにもなっているとの報道も散見されますので、上場企業は今一度、自社のガバナンスが資本市場の動きから課題はないかを見直す必要があると思います。

「投資家と企業の対話ガイドライン(案)」における政策保有株式の扱い

「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」が開催されており、2月15日に第14回会議が開催されました。

ここ数回の議論では、本年の株主総会シーズンまでに投資家と企業との対話ガイドラインを策定すること、コーポレートガバナンス・コードの見直しの検討が行われていますが、第14回会議では、対話のガイドライン案が提示されております。

金融庁のHPにガイドライン案が掲載されていますが、上場企業各社の関心の高い政策保有株式に限定して、ガイドライン案を要約しますと次のような内容になります。

<投資家と企業との対話ガイドライン案>

1.政策保有株式の適否の検証

・ 保有目的がステークホルダーに理解できるよう分かりやすい説明

・ 保有に伴う便益が資本に見合っているか具体的勘案の上、取締役会での意思決定

・ 保有銘柄の異動含む保有状況の分かりやすい説明

・ 政策保有株式に係る議決権の行使についての適切な基準の策定

・ この 基準に基づく適切な議決権行使

・ 方針の開示において、政策保有株式の縮減に係る方針・考え方の明確化 など

2.政策保有株主との関係

・ 売却申入れをした場合、取引縮減を示唆する等の売却を妨げられることの有無

・ 取引の経済合理性の十分な検証ないまま取引の継続の有無

 

 ガイドライン案によれば、上記内容が今後の機関投資家と企業との対話のポイントになり、つまり投資家はこのような内容について企業に意見を求めていくということ、これらを反映したコーポレートガバナンス・コードの改訂を検討するということです。

勿論、これは第14回会議で事務局が提出したガイドライン案であり、これをベースに第14回会議でどのような討議がなされたかは分かりません(会議の議事録は金融庁のHPに必ず掲載されるのですが、このブログ掲載時点ではまだ掲載されてはいません)。

しかし、大きく方向性は変わることはないと思いますので、上場企業の実務担当者は政策保有について今後実務対応をどうするか関心を払う必要があるようです。

ところで、おさらいになりますが、政策保有株式の問題のポイントですが、大きく次の点になります。

1.企業に対するエクイティガバナンスを効かせることができない

政策保有株主が安定株主として存在するため、少数株主の意見を投資先企業の経営に反映させることができないということです。つまり政策保有株主が「企業を守る岩盤」となってしまっており、投資先企業の経営陣を交替させたいと少数株主が提案してもこの提案を通すことができず、結局、エクイティガバナンスを効かせることが出来ないということです。

2.資産効率の悪化によるROEの低下

政策保有株式を潤沢に持つということはバランスシートの資産が膨らむということになります。とすると、資産効率が悪化します。ROEは分解すると、当期純利益率 × 総資産回転率 × 財務レバレッジであるところ、資産が重くなることで総資産回転率が悪化し、ROEの低下の要因になります。

3.配当性向の向上の制限

政策保有株式を解消して売却すれば現金になります。そうすると、この現金を成長に必要な設備投資やM&A投資に使い、残りを配当として株主に還元できます。一方、政策保有株式として保有していると株主は還元を受けられません。

以上が大きなポイントになります。

しかし、上場企業は日本で約3700社程度あると思いますが、こういった政策保有株式の話をしてもピンと来ない企業が圧倒的に多いのが現実と思います。上場しているものの、時価総額が数十億円から数百億円程度の企業は(非常に多いと思います)、アナリストがカバーしておらず(アナリストレポートが発行されていない企業ということ)、当然にアナリスト説明会も開いておらず、上場はしているものの、資本市場との対話などとは縁のない企業です。

先日のブログで書いた、教育関連企業、今のところ学習塾の上場企業の数社の財務分析しか出来ていませんが、教育産業業界は中小型銘柄しかありませんので、この規模の企業は、「コーポレートガバナンス改革って何?」の意識しかない企業も多いのではないかと想像します。

そのため、物言う株主が本気になって攻めていけば、教育関連銘柄企業などはいくらでも突っ込まれどころの「宝の山」がある業界の気もいたします(推測です)。

以上が政策保有株式の議論ですが、今後、金融庁は、コーポレートガバンス・コードの見直しに入ると思いますので、またブログでアップデートして行きたいと思います。

「人づくり改革」と学習塾・幼児教育・介護・学習補助・リカレント教育関係の銘柄

新しい経済政策パッケージが昨年12月8日に公表され、その中でコーポレート・ガバナンスについて記述があることは以前にブログでも書きましたが、本日は、同パッケージの中の目玉の1つであります「人づくり革命」について紹介します。

新しい経済政策パッケージよりますと「人づくり革命」として次の点が挙げられています。

1 幼児教育の無償化
  2020年4月から全面実施予定
2 待機児童の解消
3 高等教育の無償化(「貧困の連鎖を打ち切り、格差の固定化を防ぐ」)
  2020年4月より実施予定
4 私立高校の授業料の無償化
5 介護人材の処遇改善
  2019年10月より実施
6 リカレント教育(「いつでも学び直し、やり直しのできる社会」)
  2018年夏に向けて検討開始 

以上になります。「 」の箇所は経済政策パッケージで記載の文章の引用になります。

詳細は、インターネットで「新しい経済政策パッケージ」ということで検索をすると出てきますので、是非一度読んで頂ければと思います。

さて、ここから、何が言えるかですが、この経済政策によって、株式投資に目を向けると事業拡大のチャンスとして、保育所・介護・学習塾・学習補助・リカレント教育関係
の銘柄の株価が伸びているということです。

私も、たまたま偶然に学習塾関連の銘柄を持っているのですが、今後は少しこの分野で企業分析をして行きたいと考え、新聞から記事を拾うなどの情報収集を始めました。

学習塾関連の上場企業の2、3社の有価証券報告書を眺めますと、少子化が今後の事業上のリスクと記載しております。いずれも事業領域が日本国内というドメスティックでありますが、日本の市場が少子化で縮小するのであれば、この企業は、「海外に活路を見出すことは考えないのか?」と思いました。

一方、学研ホールディングス時価総額600億円(2018年2月9日時点))は、海外に活路を見出し、ミャンマーでの学習塾を約2倍に増やすとの記事がありました。

学習塾業界の上場企業は、売上高数百億から数十億の中規模銘柄で、しかも、外国人比率も10%以下とあり、グローバル化とは無縁の業界のようです。今後、海外展開を進めないと生き残りは難しい業界の最たるものではないでしょうか。まだ勉強していませんので、単なる個人的印象ですが。

私は、これまでは特に教育関連ビジネスに関心があるわけでもなく、知織も持っていませんでしたが、今後の株式テーマとして保育所・介護・学習塾・学習補助・リカレント教育関係の関連企業銘柄を重点的に分析するとともに、少しこの分野の株式投資をして行きたいと思います。

仮に自分が、「物言う株主」に立った場合、投資先企業に株主としてどういった様々な要求をつきつけることが出来るかといった観点で、学習塾・保育所リカレント教育関連業界のマクロ分析、各社の財務分析、コーポレートガバナンス分析をこの先数ヶ月をかけてじっくりと進めたいと思います。都度気付いた点は、ブログで掲載する予定です。

ESGアクティビズムの動き

2月6日付の日本経済新聞で「ESGアクティビズム」の記事がありました。
 
ESGアクティビズムとは、特に正式な法律用語などではなく、ESG情報をベースに上場企業にアクティビズム活動、つまり物言う株主として提案をすることをいいます。
 
記事によれば、米アップルの取締役会に「子供がスマートフォンをしすぎて勉強しないので規制などの対策が必要」との提案をしたとのことです。そして、この提案をしたのが、物言う株主であるジャナ・パートナーズとカルフォルニア州教職員退職年金基金のカルスターズとのことで、公的年金とアクティビストが歩調を揃えている点が非常に注目すべき事項とのようです。

公的年金は、ヘッジファンドと異なり長期で企業の株式等を保有することになりますが、長期保有においては、単に目先の業績だけでなく長期に亘って企業の成長を見る必要があります。「ESG投資」はリターンとの関連性はないというのが多くの機関投資家の意見であるかと思いますが、一方、「ESG情報」自体は企業の長期での成長においては、土台となる非財務情報になります。公的年金は超長期で資金を運用する機関投資家ですので、超長期の株式運用では、ESG情報に当然ながら関心があります。
 
要するに、アクティビストに運用資金を委託するアセットオーナーである公的年金は長期での運用を志向しており、アクティビストは、この公的年金の後ろ盾もあり、ESGに関する要求をしながら、この「要求の箱」の中に事業のカーブアウトや株主還元など色々と企業をつつくネタを入れてきて、要求を通すということになるかと思います。さらにESG投資をさらに後押しするのが、ミレニアム世代といわれています。
 
ミレニアム世代とは1980~2000年生まれの世代をいいますが、この世代は物事を金銭価値の側面だけで見るのではなく、企業に透明性をより強く求める傾向が強いと言われています。企業の透明性を見る上では、ESG情報といった非財務情報はベースの情報になり、ミレニアム世代はESGの考えに親和性をもっているので、公的年金のいうESGの意見とベクトルがあっています。

ESGという言葉を懐疑的に見ており、「ESG情報の開示など関心なし」と見ている企業も大変多いと思います。しかし、この点はあらためて、きちんと考え直す必要があります。
ESG情報の開示とは何も新しい取り組みをする必要はなく、企業で日常当然のこととして扱っている非財務情報を開示すればよいのではないでしょうか。これらの情報は、社内では当り前の情報ですが、社外の投資家から見た場合には、分からないのです。つまり情報の非対称性が大きいということです。
 
このあたり前の情報を開示しないと、アクティビストが変な要求をしてきて、企業で想定していないような社会問題・環境問題対応を企業は迫られるリスクがあります。
以前には、米エクソンモービルに対するアクティビストによる「気候変動の規制の業績に対する影響を開示せよ」との株主提案に対して、株主の62%の賛同を得たということもあります。
 
この事例の詳細まではわかりませんが、ここから言えることは、投資家が必要とする情報を開示していない場合、株主から提案があると他の株主も何も情報がないため、勢い賛成にまわってしまうということが言えるのではないでしょうか。「何だか分からないけど、とりあえず『環境について開示せよ』との株主提案であるので、とりあえず賛成しておくか」ということです。
アクテビストの意見に株主が賛同する前に、企業は資本市場で求められていることを察知し、アクティビストに先んじて必要な情報を日常から開示しておくのが大事になると思います。
 
ESG情報の開示に過度に力を入れる必要もないのですが、上場企業は、ESGといった非財務情報についてどのような開示や取り組みが資本市場で求められていることをきちんと把握し、この資本市場での要求を充足する必要最低限の開示対応をしておくことは、必須になるのではないでしょうか。

最後の岩盤である政策保有株式の解消のゆくえ

先日の日本経済新聞に「最後の岩盤を崩すのは投資家」との記事がありました。

要するに、政策保有株式の弊害は大きく、これを崩すことを投資家に期待するという記
事です。

政策保有株式については、昨年12月20日にもブログで「新しい経済政策パッケージの下での政策保有株式の解消の予想」というタイトルで簡単に書いていますが、日経新聞の記事もありましたので、あらためて書いてみます。

政策保有株式に対する資本市場・国による批判が高い理由は何でしょうか?

企業は、政策保有株式として投資・保有する投資先規企業の株主総会においては、これまでの取引関係から、適切な議決権行使をしてこなかった、つまり会社提案議案に対しては100%「賛成」とするのが暗黙の了解となっています。

結果、機関投資家や個人株主が、投資先企業の株主総会の議案に対して、反対を表明してもがっちりと安定株主で固められているため、過半数の株式を有する株主の賛成を得ることができず、少数株主の意思が経営に反映されないことが問題とされています。つまりエクイティ・ガバナンスを効かせることができないということです。

より具体的にいいますと、政策保有株式として仮にA社の株式を取引先であるⅩ社が2%保有し、同じく機関投資家Y社もA社の株式を2%保有するとします。

この場合、A社の株主総会での取締役選任議案において、不適任者が取締役候補者として提案され、これに対してY社が株主総会で反対票を投じても、それが可決される可能性は低いのです。何故ならば、A社の株式を保有する取引関係のある事業会社は、X社以外にも多く存在し、仮に2%を保有するA社の取引先企業が15社いるとすると、30%(=2%×15社)が安定株主として、A社の株主総会議案には確実に賛成する株主としてY社に立ちふさがります。

極端な話、A社に不祥事があり資本市場からの退出が要求されていても、A社は決して反対されない安定株主でがっちりと固められているため、A社は安泰ということで、これが問題ということです。

昨年12月8日に内閣府が公表した「新しい経済政策パッケージ」によれば、コーポレートガバナンス改革として、現在進められている「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」での検討を踏まえて、2018年6月の株主総会シーズンまでに、「政策保有株式を持たせている側の理解」の取り組みを促すためのガイダンスを策定するとともに、必要なコーポレートガバナンス・コードの見直しを行うとされています。

昨今の政策保有株式に対する批判の高まりを考えますと、大きな改正に向かうような印象も持ちますが、一方で、政策保有株式には日本的な商慣習もあり、この短期での解消には色々と課題もあり、大きな解消にはまだ進まないのではないかという声も一部聞こえてきたりします。

しかし、短期での解消を国が強制的に促すことまでは難しいとしても、中長期的には解消する方向にあるというのが多くの機関投資家の意見でもあると思いますので、この動きは止まることはないはずです。

ちなみに、政策保有株式の多い企業は売上債権も増加するとも一部では言われています。結果、運転資本が増加するためフリーキャッシュ・フローにマイナス影響となり、また、バランスシートも膨らむので資産効率性も悪化し、ROEも悪化ということになります。

将来的には、上場企業は、政策保有株式については、①その保有する理由をコーポレートガバナス報告書でより説得的に開示し、②機関投資家が議決権行使に当たって、賛否の行使基準を設けていますが、同様に企業にも投資先企業に対して、自社の議決権行使基準を設けて適切な議決権行使をするようなことまで必要になってくるかもしれません。

企業にも機関投資家と同様に、投資先企業に対する議決権行使結果の開示を求めるべきという意見もありますが、ここまでの要請が法律やガイドラインで規制されるとは思えませんが、少なくとも投資先企業に不祥事があったような場合には、これまでは100%賛成としてきたところ、CEOに反対するなどの公正な議決権行使が求められていくのではないでしょうか。

一方で、企業は、政策保有株式の解消により、経営の安定度がなくなるわけですから、安定株主対策をあらためて見直すか、そもそも株主から横槍をいれずに経営するには上場を廃止するということを真剣に検討することもあるかと思います。

新聞記事によれば、有名な経営共創基盤の富山氏が持ち合い株式について、「日本の株式市場に残った最大の岩盤」とのコメントが書かれていますが、この岩盤がどのタイミングでどこまで崩れるのかは不明ですが、今後の重要課題と思います。

カゴメが個人株主向けに決算説明会を開催

1月27日付の日本経済新聞によれば、カゴメが本年2月中旬に、初めて個人株主向けの決算説明会を開催するとのことです。

通常、上場企業であれば4半期決算の開示後に、年に複数回はアナリストを集めて決算説明会を開催することが多いですが、同様の決算説明会を個人株主相手に行うということで珍しい取り組みかと思います。

カゴメはじめ食品メーカーは、一般消費者向けのビジネスを行っているため、個人の認知度も高く、よって個人株主比率が高いケースも多いと思います。

新聞報道によれば、カゴメは、2001年に株主優待を導入したり、単元株を引き下げたりして、個人株主増加の取り組みを増やしてきたようです。

具体的な個人株主比率は、新聞記事に記載がなかったので、カゴメの2016年12月期の有価証券報告書を見てみると(カゴメは12月期決算のようです)、所有株式数比率で「個人その他」が約66%となっており、たしかに個人株主の比率がかなり大きいと思います。一方、外国人がわずか6%程度となっております。

なお、カゴメは、買収防衛策を導入しており、本年が更新期限のようですが、外国人比率がわずか6%で導入する意味はどこにあるのでしょうか。恐らく、2007年前後に食品業界のブルドックソースが、海外ファンドによる買収ターゲットとされたので、その時期に同じ食品業界であることから導入し、その後は同業他社の状況などを見ながら、継続更新してきたことと思います。しかし、カゴメの国内機投資家比率は不明ですが、現在6%程度の外国人比率しかないのであれば、国内機関投資家からも風当たりの強い買収防衛策は、本年は更新を非継続とすることがあるかも知れません。

話は戻りますが、カゴメに関わらず、日本の上場企業各社は、個人株主を長期の安定株主と位置付けようという動きを検討していると思います。理由は、政策保有株式に対する世間の風当たりが強くなり、政策保有株式の規制の流れにあることです。とすると、自社の株式を政策保有株式として保有してくれていたメインバンクや取引先の自社株式の保有分が市場に流れ、その取得先を個人にしたいという企業も多いと思います。あらたな個人株主を増やすか、または既存の個人株主がさら買い増すということです。

最近は、個人株主も企業の決算数値に関心を持つ方も増えていると思います。そもそも、株式投資というものは、リターンを求めて投資するものですので、対象企業の業績はじめ決算数値については個人株主も精通しているべきですものではありますが。

企業と投資家・株主との対話重視の最近の流れの中で(ちなみに、スチュワードシップコードは機関投資家に適用されますが、個人株主には適用されません。念のため)、株主を自社の事業所に招いて製品・事業所の説明をする株主説明会以外に、アナリストと同様に決算数値を個人株主に説明するという今回のカゴメのような動きをとる上場企業も今後増えてくるように思います。

 

 

 

社外取締役を取締役会議長にする上場企業が増加する傾向

1月18日の日本経済新聞社外取締役を取締役会議長にする上場企業が増えているとの記事がありました。

JPX日経インデックス400構成企業のうち、社外取締役を議長にしている企業は、14社となり、前年より3%増加したとあります。

まず、社外取締役を議長にする必要はどこにあるのでしょうか。

現状、経営トップである社長が取締役会議長を兼務している企業が圧倒的に多いかと思います。

しかし、この場合の課題として良く言われていることは、取締役会の議長は議題の決定、議事進行などを行う役割があるところ、社長が議長を行うと社内の論理優先で判断されてしまう恐れがあるという点です。

取締役会で議事の討議を継続しようとしても、議長である社長が議事が十分つくされたと判断すれば「採決に移ります」と決定できます(現実には、社長が法的には必要とされる採決をとっている企業も少ないかとは思いますが)。これでは、本来取締役会に求められる戦略策定機能やモニタリング機能が十分に果たされず、活発な議論が阻害され、ひいては株主の利益に反する結果をもたらす可能性もあります。そこで、活発かつ公正な議論が出来るよう、社外取締役を議長にすべきというのが、分離を要求する理由かと思います。

ちなみに、コーポレートガバナンス改革の動きの中、取締役会議長と社長(CEO)の分離は議論にも出ているところでもありますし、野村アセットマネジメントの2017年11月1日改訂の日本企業に対する議決権行使基準でも、社外取締役を取締役会議長にすることの定款変更に関する株主提案については、原則「賛成」との考えを示しています。

一方、社外取締役を議長にすることの理想は分かりますが、実務上は、この対応は骨の折れることになるかと思います。

社外取締役が議長となり議事進行をするわけですから、基本的に議案の内容について、精通している必要があります。

このため、企業によっては、事前に社外取締役である議長に十分に説明する必要があり、また、議長にも多くの時間を割いてもらう必要が出てきます。社長であれば、社内用語や暗黙の了解で認識していることも、社外取締役にはそれは通用しません。

ただし、これは最初に相当程度の時間を割けば、解決する問題のようにも思われます。それより、社外の方の意見を入れることで、これまで気付かなかった視点を戦略策定に取り入れることができ、市場に目を向けた議論をすることに繋がるという点で有益なのかも知れません。

ちなみに、私が最初に勤務していた某化学素材メーカーでは、私は一時期、秘書室に勤務していた時に取締役会の議事メモ係として列席していたこともあり、取締役会自体が経営会議、要務会、常務会といった社内会議で決定した事項の追認という形式的な会議体になっていました。

社外取締役=お客様との扱いで、社外取締役も2、3の簡単な質問をして、それに対して議長である社長と、その議題を説明する担当取締役のみが発言し、会は終了となっていました。前にもブログに書いたこともありますが、取締役会とは厳かな雰囲気の中で行われる儀礼なのだなと当時は認識していました。

しかし、コーポレートガバナンス改革がその後大きく進む中、このような考えは古く、今では、機関投資家などは、投資先企業の実体を知る上で、社外取締役の果たしている役割を重視しており、戦略策定機能やブレーキ機能としての社外取締役の具体的な貢献度合いを知りたいというのが大多数かと思います。

今後は、日本企業では取締役会の構成員のダイバーシティはじめ、大きく変わることと思いますが、その流れの中で、5年後、10年後には社外取締役が議長というのが一般的な企業のスタイルになる可能性があるかも知れません。

物言う株主であるオアシス・マネジメントによるGMOインターネットに対する株主提案

この1週間は業務が非常に多忙で、ブログの更新の時間が全くありませんでしたが、少し時間が出来ましたので、久しぶりに更新します。

1月18日付の新聞報道によれば、香港の投資ファンドで、物言う株主であるオアシス・マネジメントがGMOインターネットに対して株主提案を提出し、買収防衛策の廃止等を求めているということのようです。

GMOインターネットは、12月期決算で、3月下旬に定時株主総会が開催されるので、その総会に向けての議案の株主提案ということになります。

オアシスのホームページに行くと、株主提案の詳細が掲載されています。その目的は、当然ですが、自分の提案を他の株主にも示し、他の株主の賛同を得て株主総会で自己の提案内容の可決を狙うことにあります。

ざっと見ると、①買収防衛策の廃止②定款一部変更(買収防衛策の導入方法)③定款一部変更(指名委員会等設置会社制度への移行)④定款一部変更(取締役社長と取締役会議長の兼任禁止)などです。

①と②は矛盾するようにも読めますが、GMOは取締役会決議で発動できる買収防衛策を導入しており、オアシスは、買収防衛策は廃止を求めるが、仮にこの株主提案が否決された場合を想定して、②で買収防衛策を現状のまま継続するとしても、株主総会の決議が必要なスキームにすることを求めているということになります。

オアシスの株主提案に賛同する株主がどの程度いるかですが、外国人株主が30%程度いるようですが、これらは基本的にオアシスの提案に賛同するような感じがします。

では、国内の機関投資家はどうでしょうか。この点は、国内機関投資家保有比率や名称が一切不明のためなんともいえませんが、買収防衛策には、国内機関投資家も厳しく判断する風潮のため、オアシス側に賛同する投資家も多いのではないでしょうか。

ここで最近の機関投資家の議決権行使基準の中で、野村アセットマジメントの昨年11月1日に改定した議決権行使基準が非常に特徴的です。

同社では、株主提案に原則として賛成するケースを具体的に定めており、次のいずれかに該当する「定款変更議案」であり、かつ明確で具体性を備えている場合には、原則「賛成」としています。

・役員選任議案における重要情報開示を求めるもの
・社外取を取締役会議長とすることを求めるもの
・CEOと取締役会議長の兼任禁止を求めるもの
・相談役・顧問等の廃止を求めるもの
役員報酬の個別開示を求めるもの
企業価値向上と持続的成長の観点から問題と見られる保有株式の売却を求めるもの
・政策保有株式に係る議決権行使方針の策定及び開示又は議決権行使結果の開示を求
めるもの など

野村アセットがGMOの株式を保有しているか否かは不明ですが、野村アセットの基準によれば、形式的には野村アセットは賛成するということになります。

今回のオアシスの株主提案は、①を除いて全て定款変更のため、株主総会の特別決議事
項のため、2/3以上の賛成が必要でありハードルは高いですが行方は大変気になるところです。ちなみに株主提案(日本語)を見ると、極めて法的な内容のため、恐らく、オアシスは日本の大手の法律事務所を使っているかと思われます。

なお、最近の報道を見て思うのですが、一般サラリーマンなどの個人株主も少額の投資をして、微々たる配当やキャピタルゲインで一喜一憂しているのではなく、会社法ファイナンスの知織を駆使すれば、企業に対して、株主提案をして他の賛同を得るということも手段としては考えることも出来るのではないでしょうか。

時価総額数十億円程度の企業で、PBRが1倍を下回る、つまり割安株を取得して、企業の財務分析やコーポレート・ガバナンスの分析をして、それを株主提案という形で提案すれば、自己の提案に賛同する株主もおり、キャッシュリッチや同族経営の企業に一定の圧力をかける道も一応あるように思えます。

資金力の乏しい一般の個人も知恵を絞れば、自己の提案を企業に要求できる道があるのではないでしょうか。ただし、自分の勤務先が判明したり、ましてや、投資先企業と自社の勤務先が何らかの取引関係があったなどということが判明した際には、社内で変わった人間扱いされ、最悪、左遷候補になってしまう可能性も十分にあるので、この点は注意が必要です。

自社の勤務先とまずもって全く関係のない業界について時間をかけて調べ、割安株の分析をしてキャッシュリッチの程度、事業分離による不採算の程度を分析すると面白いかも知れません。

私も、株式投資の経験はそこそこあり、一定程度の会社法ファイナンスの知識もあるのですが、自分の投資先企業に対して「物言う株主」としてのアクションなどは、さすがに日中に真面目にサラリーマンをやっている以上、起こすような時間もなく、また起こそうと思ったこともないのですが、自分であれば、この企業に対しては、このような株主提案をするというシミュレーションをして今後、差し障りのない範囲でブログで掲載したいと思います。

米国の議決権行使助言会社であるグラスルイスの取締役会の多様性に関する要求

1月8日付の日本経済新聞で米国の議決権行使助言会社であるISSジャパンの日本法人代表の石田猛行氏とグラスルイスのシニアディレクターである上野直子氏の企業の取締役会の多様性に対するコメント記事が掲載されていました。

議決権行使助言会社とは、株主総会株主総会には定時株主総会、臨時株主総会の2つがあります)において、提案議案に対して賛成又は反対のいずれかを機関投資家に推奨する会社になります。

ISSの石田氏の意見は、雑誌等でも良く見かけるのですが、グラスルイスの上野氏のコメントはそれほど見かけない(1年以上前にセミナーに参加した時は上野氏は米国在住ということでした)のですが、上野氏のコメントは次のような内容です。

・グラスルイスは議決権行使基準を改定し、女性の取締役・監査役が1人もいない企業では、原則として、経営トップの取締役選任議案に反対を推奨することにし、対象企業は2019年2月よりTOPIX100の構成企業

・但し、形式的に線引きするのではなく、反対推奨前に必ず検証し、例外を設ける

・今回の改定基準でも、「今後女性取締役を登用する予定」などの開示を行う企業には反対推奨しない。企業の情報開示がカギになる。情報を積極的に公開する企業ほど正 確に判断できる

グラスルイスの今般の改定基準は、企業でIR部門、経営企画部門、総務・法務部門はじめ株主総会に関連する部門の方にとってはご存知の内容かとは思いますが、上野氏のコメントによれば、「反対推奨前に必ず検証し、例外を設ける」という点が女性役員の少ない多くの日本企業各社にとって関心ある事項かと思います。

例外の具体的基準は記事では書かれていませんので、不明ですが、現実には個社別の状況に照らして判断されることと思いますので、基準がないのも当然かも知れません。女性活用は、取締役会の多様性の1つの考えでありますが、まずは、多様性についてあらためて考えてみたいと思います。

まずは取締役会の重要な機能には、企業の中長期的な観点から戦略を討議することにあります。このため、中長期的な戦略を立案するに適したメンバーで取締役会は構成される必要があるというのが多様性の前提にあります。

一方、事業領域や顧客が誰であるかは企業によって全く異なります。例えば、売上高の多くが海外に依存しているグローバル企業であれば、グローバルに精通した外国人のマネジメントが必要になるかも知れませんし、また、このグローバル企業が女性向けの製品を販売しているのであれば、女性の外国人のマネジメントが必須になるかも知れません。例えば、グローバル展開をしている女性向けアパレル専業メーカーが、中高年の男性マネジメントで構成される取締役会で中長期戦略を策定しているということは、見方によっては少しおかしな話と思います。

また、企業が既存の事業領域を広げて新規事業に軸足を移すことを考えているのであれば、この新規事業に精通したマネジメントが必要になるかも知れません。このように、事業領域と顧客が誰であるかによって、企業に必要となるマネジメントの多様性は異なるのです。

とすると、画一的に女性取締役を起用ということは少し話が飛躍している気がします。そもそも女性の母集団が少ない中、その中から無理やり取締役を選定するとなると、能力のない者が取締役につくことになります。

勿論、企業社会では、これまで女性がマイノリティーであったということも現実であり、男女の昇格機会の平等という観点から一律に女性取締役を起用するという社会的観点からの議論もあるかも知れません。これはこれでたしかに重要と思います。

しかし、一方、企業はあくまで営利集団であるので、中長期的に亘って「お金を儲ける」という観点から、各企業の経営戦略立案のメンバーとしてどういう人材が適切であるのかを明確にすることがまず重要であり、その上で、エンドユーザー向けのビジネスを行う企業であれば、当然に女性の目線が必要になるので、女性取締役が必要という議論に発展していくべきものと思います。

グラスルイスは、女性取締役の起用が企業の中長期的成長の上では重要と判断して、基本となる基準を設定したことになりますので、もし、その原則の例外をグラスルイスに認めてもらうには、女性を起用しないことの明確な理由を、企業は開示することが求められることになると思います。

株主資本コストの意識の重要性

先日の日本経済新聞で、株主資本コストの意識に関するKPMGの企業への意識に係る調査結果の記事がありました。

この記事によれば、資本コストを意識している企業は4社に1社で、企業の資本コストに対する意識は希薄で、資本コストを巡り企業と投資家の間で意識格差があるということでした。

記事の表現では、「資本コストは企業に対する株主の期待収益率を示す。企業は資本コストを上回る収益率を出せば投資家の期待にこたえていることになり、株価上昇につながる。」とのことですが、本日はあらためて資本コストの意義について書いてみたいと思います。

資本コストとは、会社の経営陣が「投資家」に対して負っている資本調達に関するコストのことをいいます。ここで「投資家」とは、会社債権者である「金融機関」と「株主」を示し、資本コストは、金融機関に対する「負債コスト」と株主に対する「株主資本コスト」の2つで構成されます。

この中、分かりやすいのは負債コストであり、これは金融機関からの借入金のコストであり、PL上は支払利息として営業外費用に計上されますので、会社の経営陣も負債コストは当然のこととして意識しています。金融機関からの借入利息を知らない経営陣はいませんよね。

問題は、株主資本コストです。

何が問題かというと、企業のPL上は株主資本コストが数値となってあらわれないため、経営陣にとっては馴染みが薄いということになります。なお、日本経済新聞の記事では、「資本コスト」と記載されていますが、正確には「株主資本コスト」に焦点が当てられているかと思いますので、以下は「株主資本コスト」について書きます。

まず、株主資本コストとは、株主に対して経営陣が負担するコストですが、株主から見た場合、株式資本コストとは投資の期待収益率(期待するリターン)と言い換えることができます。

期待収益率であるリターンとは、何かを得るために投資した資本の比率になり、具体的には、例えば、400円で市場で株式を購入して、株価が500円に上昇した段階で株式を売却した場合、リターンは100円(500円-400円)÷400円(%)=25%となります。

では、「期待収益率である株主資本コストはどのようにして算定されるの?」ということですが、これには算定式があり、CAPM(キャップエム)という方式が一般的で、次の算式になります。ファイナンスの書籍を見ると大抵この算定式が記載されています。

 

株主資本コスト=リスクフリーレート+ベータ(β)×マーケットリスクプレミアム

 

これについて解説しますと、まずリスクフリーレートですが、これは、投資家が国債への投資で期待するリターンをいいます。日本国債(10年)の直近の過去3ヵ月平均ですと0.06%程度かと思います。

次にマーケットリスクプレミアムですが、株式市場全体のリターンとリスクフリーレートの差です。株式市場全体とは、TOPIXなどの市場全体の株価の動きを表す指数のことをいいます。Ibbotson Associatesのデータ(有料)を使うことが一般的かと思いますが、参考までに東京ガスの2018年3月期の第2四半期決算の説明会資料を見ると、同社では2017年度見通しとして「マーケットリスクプレミアム=5.5%」としています。

最後にベータ(β)ですが、これは株式市場全体の変動に対してその会社の株式の変動を示します。つまり、株式市場全体の収益利益率が10%上昇した場合、ベータ=1の場合には、この企業の株式の収益率も市場全体と全く同じく10%上昇するところ、ベータ=1.5の場合には、収益率が15%になることをいいます。つまり、ばらつきの程度になります。ベータ(β)はブルームバーグが有料で提供しています(少し前までは無料で提供していました)。

以上のとおりまずは用語について説明しましたが、要するに、投資家である株主はハイリスク・ハイリターンを求めるところ、株式は国債よりもリスクは大きいため、株式に投資する株主は高いリターン(収益率)を求めます。そして、投資先の企業によって収益率にばらつきがありますので、市場全体の動きより値動きが大きい企業、つまりβが大きい企業に投資する株主はそのリスクに見合ったリターンを要求するということになります。これが株主資本コストということになります。

ところで、「株式は何故国債よりリスクが大きいのか?」というのは、株主は確実に配当を受けられることは確約されておらず、企業が赤字の場合には配当を受けられなかったり、また、配当が減る(減配といいます)こともあり、この点でリスクが大きいということです。

繰り返しになりますが、株主資本コストは、負債コストと異なり会社の財務諸表には一切現れてこない数値のため、企業経営者は意識をしていない方が多いということが記事の内容であり、これは従前より言われていることです。

通常の事業会社では、総合商社のように日常的に投資を行っている企業は別ですが、株主資本コストの話がでるのは、M&A企業価値算定でDCF法で価値算定をする際の将来キャッシュフローの割引率の時に出てくるようなケースで、通常の業務では頭では意識していても使うことは少ないのが現実かと思います。また、そもそもM&Aなどは、普通は5年~10年に1回程度の頻度でしか普通の企業では行われず(ちなみに、グループ会社の再編は通常はM&Aとはいいません)、DCF法すら使うことは稀かとは思います。

では、株主資本コストは何と比較すべきで、そしてこれが低い場合には、企業にはどいういう影響が出るのでしょうか?

まず比較する対象ですが、ROE株主資本利益率)になります。

ROEは株主が投資した資本に対してどの程度の利潤を上がられたかを意味し、株主の持分に対する投資収益率を表すことになります。これが株主資本コストを上回る場合、株主が期待する収益率以上の利潤を企業は上げていることになります。

一方、これを下回る場合、この企業は株主の期待収益率にこたえることが出来ていないことになります。

では、このように期待する利潤をあげていない場合には、どういう影響が出ることになるでしょうか。

この点は、「ざっくり分かるファイナンス(経営センスを磨くための財務)」(石野雄一 / 光文社新書)に分かりやすく書いてあるのですが、期待収益率を上げられないということは、この企業に投資することは儲からないため、株主は期待する収益率を得られる他の企業の株式を購入した方が得と考え、株式を売却することになります。

株価は株式の需給バランスにより決まるものであるため、株式の売却が進むと、株価が下落し、結果、株式時価総額が低下します。となると、この企業は「お買い得」ということになり、買収のリスクにさらされることなります。

以上、少し長くなりましたが、資本コストについて今回は書いてみました。

株主資本コストとは、機関投資家は当然に意識している一方で、企業サイドでは意識が希薄です。しかし、今後、機関投資家と企業との対話が進む状況下にあって、株主資本コストが分からないでは十分な対話ができません。資本コストは対話の前提になると思います。

伊藤レポート2.0の影響もあり、株主資本コストを意識する企業は今後は増えるものと思われますが、事業会社の経営企画部門(数値を扱う経営企画部門です)やIR部門の方が理解すべきは当然ですが、数値について縁のない法務部といった管理部門の方であっても一度ファイナンスの入門書を読むなどして理解されるとよいと思います。

ちなみに、初歩的なファイナンスの教科書としては、「コーポレートファイナンス
門(第2版)」( 砂川伸幸 / 日経文庫)、先ほどあげた「ざっくり分かるファイナンス(経営センスを磨くための財務)」(石野雄一 / 光文社新書)が、非常に良書と思います。

入門書のため、投資銀行ファイナンスを専門に扱いそれをサービスとして事業会社に提供するプロの方にとっては内容は全然物足りないと思いますが、事業会社にいて投資銀行の方と話をする立場の方であれば、この書籍に書かれていることを理解すれば(ただし、入門書ですが内容はそれなりに難しいです)、十分であると思います。

前提としてやはり財務会計の知織が必要になりますが、財務会計をある程度理解され
ている方であればこの2冊両方とも手にとって、じっくりと読むととても勉強になると思います。