中長期的な企業価値向上のためのコーポレートガバナンス・アドバイザー / 長期での中小型株の割安株投資情報

最近のコーポレートガバナンスと資本市場の動向を踏まえ、上場企業実務の視点から中長期での企業価値向上に役立つ情報分析・発信をしていきます。個人投資家のコーポレートガバナンス力の向上による「意思のある投資」に役立つ情報発信もしています。また長期での割安株投資の情報も

政府による投資家と企業の対話の重点項目の策定

12月5日の日本経済新聞に政府がまとめた新しい経済政策パッケージの項目が掲載されていました。

人づくり改革、高等教育、生産性革命とのタイトルがありましたが、ガバナンス関係では、企業のコーポレートガバナンス改革に向けた指針や投資家と企業との対話を深める重点項目を2018年6月までに策定するとあります。

コーポレートガバナンス・コードやスチュワードシップコード、伊藤レポートにおいて株主・投資家との積極的な対話が求められていますが、機関投資家サイドも従来の財務情報ベース以外の非財務情報についての対話については、まだ手探りといった状況というのが実際のところかと思います。

投資家(機関投資家)は、企業の短期的な利益の視点(いわゆるショートターミズム)からではなく、企業の中長期的な成長の観点から投資を行わなければならないと伊藤レポートで指摘されており、投資に当たっては企業のコーポレートガバナンスの改善が1つのポイントになると指摘されています。

しかし、コーポレートガバナンスとのカテゴリーですと、非常に幅広く、社外取締役の独立性、女性取取締役の増員といった分かりやすいテーマから不採算事業の分離、事業経営の効率性といった点まで多岐に亘ります。

このため、企業、機関投資家双方ともに対話のテーマ、具体的項目について手探りのところが多いため、今回の経済政策パッケージの記事によれば、まずは、政府が対話で重要となるポイントについて指針を策定するということかと思います。

コーポレートガバナンス改革はまだ今後も続きそうですので、上場企業各社は引き続き注意深く動向を注視する必要があると思います。

更新期限到来前の買収防衛策の廃止が今後増える可能性

2017年12月6日に日清食品ホールディングスが買収防衛策を取締役会の決議により廃止することを決定したとのプレスリリースを開示しました。

同社では、2007年に買収防衛策を株主総会の承認を得て導入、以後3年毎に株主総会の承認を得て更新し、直近では2016年に更新して2019年3月期の株主総会までが有効期間となっておりますが、今回、更新期限の到来を待たずに廃止を決定したようです。

廃止理由については、同社のプレスリリースを見ると、次のような記載があります。

「当社を取り巻く経営環境の変化や買収防衛策を巡る近時の動向を注視しつつ、本プランについて、経営諮問委員会や取締役会、経営会議で繰り返し議論を重ねてまいりました。その結果、当社の企業価値ひいては株主共同の利益の確保・向上の観点から、当社における本プランの必要性が相対的に低下したものと判断し、当社は本日開催の取締役会において、本プランを廃止することを決議いたしました。」

廃止の決定に当たって、十分に社内で討議したことが書かれています。

私の知る限りですと、自発的に更新期限到来前に廃止をした企業は聞いたことがありませんので、非常に稀なケースと思います。

背景は、おそらく議決権行使助言会社であるISSが議決権行使の改定案を出し、買収防衛策議案については有効期間を3年とする1回限りの導入の場合にのみ賛成し、それ以外は反対という方針を打ち出したことが理由の1つにあるようにも思えます。

ちなみに日清食品の株主構成を見ますと2017年3月末では、外国人比率が16%とそれほど高くはないようです。

今回の開示でまた気になったことは、廃止する際には取締役会の決議で本当によいのかという点です。導入、継続には株主総会の決議を必要とし、廃止の際には株主総会又は取締役会の決議で廃止できるとなっているのが多くの企業の買収防衛策スキームかと思います。

このため、取締役会決議で廃止すること自体は法的には問題はないのかも知れませんが、昨年の株主総会で株主の承認を得て継続しながら1年後に株主の同意を得ずに廃止するのは、少し違和感があるような気もいたします。

今後、このように買収防衛策を廃止する企業がぽつぽつ増えるとなると、現在導入している400社を超える多くの企業も廃止を検討せざるを得ない状況になり、廃止が急速に進む可能性もあるように思えます。

とすると何が起こるかですが、東芝に投資している数多くの海外アクティビストが東芝の投資を通じて日本市場への造詣が深まり、買収防衛策の廃止により、より日本企業をターゲットにする可能性があります。

来年に入ると3月期決算企業の多くは、株主総会の議案の検討に入りますが、来年買収防衛策の更新期限を迎える企業は、継続の是非について頭を悩ませることになるものと思います。

対米外国投資規制の強化の動き - 中国企業の日本企業への投資の関心の高まり

先日の新聞報道で対米外国投資規制が強くなるとの記事がありましたので、今回は、米国企業に対する海外企業による直接投資について少し触れてみたいと思います。

米国では、対米外国投資委員会(CFIUS)という委員会があり、国家安全保障・経済安全保障の見地から外国企業による米国企業への投資に対して大統領に勧告し、大統領は拒否する権限を有するというのが規制の内容です。買収金額や取引規模は関係なく、大統領の判断は司法判断に服さないということになっています。

2007年頃にCFIUSの審査対象が拡大され、直近では2017年11月8日に改正案が米国議会に出され、規制の範囲が拡大される方向にあると言われており、現時点の見通しでは、法案が可決される可能性が大きいようです。

この規制は、支配の変更を伴う外国法人による株式取得、事業譲渡等が対象になります。

2013年に審査対象事業として16のセクターが指定されおり、化学製品、商業施設、通信、防衛基盤産業、エネルギー、ヘルスケア・公衆衛生等、輸送システムなどで、これらの産業に属する米国企業に投資やM&Aをする際には、申請が必要になります。

最近の傾向としては、取引を阻止する大統領令の可能性が増大していると言われており、このため、過去に比べてハイペースでの届出が出されており、本年は昨年より100件を越える届出が予想されているようです。

改正案の内容は見ていないのですが、改正案では規制が強化される方向のようなので注視が必要と思われます。

以前にある大手法律事務所のセミナーに参加した時に、対米投資に関しては、通常の投資以外に規制の対象外とは一応なっているグリーンフィールド投資も含めて、日本企業は、早い段階から投資規制に精通した法律事務所を起用するなどして検討することが大事といっていました。

外資による投資規制としては、米国以外には、欧州でも現在規制の強化の動きにあります。

この背景には、中国企業が欧州企業を買収し、技術が中国に流出することを欧州は懸念していることにあり、海外からの投資を規制するCIFUS同様の厳しい法規制が2018年末までに導入されることで検討されているようです。

欧州、米国の規制強化ともに背景は中国企業の潤沢な資金による投資を抑制したいということにあるかと思います。日本でも外為法外資による日本企業への投資には一応規制はありますが、他国に比べるとだいぶ緩い規制内容になっています。

とすると、米国・欧州への投資が抑制されるとなると、潤沢な資金力を持つ中国企業は今後は日本企業の買収、投資に関心が高まるように思えます。

資本コストと株式時価総額への意識が今後一段と求められます - 伊籐邦雄教授の対話記事から

1月23日付けの日本経済新聞で伊籐レポート2.0をまとめた一橋大学の伊籐邦雄教授の日本経済新聞の記者との対話形式の記事がありました。要点だけ書きますと次のような内容です。

1.ROE8%を日本企業は超えたが、これは売上高利益率が改善したことが要因。次は
収益性が資本コストを下回る部門を全て見直すべき

2.PBRを日本企業は高める必要がある。日本企業の平均PBRは1倍前後であるが、米
国は2倍台ある。この差は人材への投資や研究開発の規模の違い。目に見えない資産から高い価値を生み、市場の評価につなげる。米企業の株価が高いのはこれが出来ているから。

今回はこれについて少し解説したいと思います。

1の点について

伊籐レポートではROE株主資本利益率)8%を要求していましたが、ROEは、売上高純利益率×総資本回転率×財務レバレッジで算出されるところ、最近の日本企業は業績好調で利益が増えているため、売上高純利益率が向上し、結果、ROEは改善したといえます。

今度は、企業全体の業績をブレイクダウンして、各事業が資本コストを上回っているか
を検証すべしということです。

収益性についてはROIC(投下資本利益率)と資本コストを比較することになると思います。ROICとは、事業別の投下資本に対する営業利益率ですが、対象事業の営業利益÷投下資本(%)で算出されます。

投資資本とは、企業によって定義は異なりますが、現預金、運転資本及び固定資産といったことかと思います。一方、資本コストとは、企業の当該事業について、会社債権者、株主が期待するリターンです。ROICは、この資本コスト、つまり金融機関と株主の期待収益率を上回る必要があるということです。

多くの日本企業は、会社債権者である金融機関からの負債コストは、PL上も支払利息として費用計上されるため明確に認識していますが、株主資本コストは、PL上は現れないので明確に認識していないことがとても多いといわれています。あらためて、企業は、金融機関と株主双方のコスト(併せて資本コスト)を意識することが今後必要になろうかと思います。

 

2の点について

PBRは何度かブログでも書いていますが、株価純資産倍率で、株式時価総額÷純資産(倍)で算出されます。

まずバランスシート上は、純資産(=資産の部-負債の部)が株式価値ということになりますが、このバランスシート上の純資産の何倍が株式時価総額であるかということです。バランスシートには、企業の人材、ブランド、自社で創出した知的財産権といった無形資産は計上されていません。

一方、株式時価総額にネットデットを加えたのが企業価値であり、企業の無形資産も加えた企業全体の価値になります。逆からいいますと、無形資産を加えた企業価値からネットデットを控除したのが株式時価総額になりますので、無形資産が加味されている分、株式時価総額はバランスシート上の純資産額より本来大きくなるはずです。

株式時価総額が高いほど、企業のブランドや人材が市場で高く評価されているといえます。伊籐教授の記事のコメントによれば、日本はこの無形資産の評価が低いということかと思います。

以上、少し分かりにくいかも知れませんが、簡単ですが解説になります。

伊籐氏はコーポレートガバンス改革の旗手として活躍されている方ですので、こういう意見が出ると、税制改正の動向ともあいまって、不採算事業のスピンアウトを投資家が求める傾向が強まると思われます。

だいぶ以前に証券会社に勤務していたときに、ある中堅規模のクラスの上場企業のトップと面談をした際に、「株価は毎日変わるので意識などしていない」と言っていたことを先ほどふと思い出しましたが、そのような考えは大きな誤りであり、株価がいまいちの企業の経営トップは、意識を高める必要が一層強くなるのではないでしょうか。

東芝の第三者割当増資と物言う株主の勢ぞろい

話題になっている東芝の増資に関して、先日、東芝の第三者割当増資の割当先が発表されました。

第三者割当増資とは、特定の既存株主に対して、新株を発行することです。これにより、バランスシートの資産の部の現金・預金が増え、これとバランスする形で純資産の部の株主資本(資本金と資本準備金)が増えることになります。株主資本ということは、自己資本ですから、経営の安定度が高まると解釈されます。報道によれば6,000億円の大規模増資になるということです。

さて、ここまでは良いのですが、問題は割当先です。発表及び新聞報道によれば、多数の物言う株主(アクティビスト)が株主に入っているというようです。

エフィッシモ、エリオット、サーベラスサードポイント、オアシスなどの名前が出ております。ソニー内田洋行、京セラ、西武鉄道はじめ過去に日本企業と対峙した物言う株主がすらりと並んでいます。

物言う株主は、保有する株式の価値を上げてそれを売却することで売却益を得ることを目的としています。平たくいいますと1,000円で株を購入して、株価2,000円の時点で売却してキャピタルゲインを得ることを目的としています。

つまり、物言う株主は、東芝の株式価値(=株価)が将来上昇する、より正確には物言う株主が株価を上昇させる、ことを期待して投資しています。

株価が上昇する要素は色々とありますが、要は東芝の株式の需要が高めることですから、東芝が利益を出せる体質になり、理論株価が市場株価より高い状態になることです。

物言う株主は、アセットオーナーから資金を預かり運用しているわけですから、株価を上げて売却益を得るには、株価を上げるべく徹底したコスト低減、より高収益な体質強化に向けて事業売却や再編ななどを強行に東芝に提案していくことになることは容易に予想できます。

このように物言う株主がずらり勢ぞろいするということは普通なく、今後、東芝は厳しい対応が要求されることはたしかです。

一方で、普通の株主には、物言う株主が株式を保有することで東芝の業績改善が進むことが期待できるので大変嬉しいことと思います。物言う株主の提案に賛同する機関投資家、外国人株主、個人株主は多くなるのではないでしょうか。

窮地に陥っている東芝は資本増強を行ったものの、群がるのは物言う株主ばかりで、経営陣は苦難の道のりが待っていると思います。東芝が今後どのようなコスト削減策や事業再編を打ち出していくのか関心があるとことです。

政策保有株式の保有の合理性の開示の動き

11月6日の日本経済新聞に、「政策保有株の透明性確保へ 金融庁が開示巡り議論」とのタイトルがありました。

金融庁企業統治関連の会議で政策保有株の透明性を高める施策について議論をしたようです。新聞記事では、政策保有株式は経営者の地位の安定に資するものとの金融庁職員のコメントがあり、株式の保有を法令で禁止することも検討する必要性について触れているとのことで、金融庁は企業に保有の合理性を開示するよう要請し、投資家向けの説明資料を作成することを求めるとのことです。

政策保有株式については、従来、企業経営から緊張感を奪い、悪い影響があり、投資先企業の資本効率の悪化や財務基盤の不安定化につながるとして投資家より批判がなされており、コーポレートガバナンス・コードにおいても、政策保有株式の開示の強化を求めており、結果として保有の見直しを間接的に求める内容となっています。

具体的にコーポレートガバナンス・コードでの記載は次のとおりです。

 

【原則1-4.いわゆる政策保有株式】

上場会社がいわゆる政策保有株式として上場株式を保有する場合には、政策保有に関する方針を開示すべきである。また、毎年、取締役会で主要な政策保有についてそのリターンとリスクなどを踏まえた中長期的な経済合理性や将来の見通しを検証し、これを反映した保有のねらい・合理性について具体的な説明を行うべきである。上場会社は、政策保有株式に係る議決権の行使について、適切な対応を確保するための基準を策定・開示すべきである。

 

今回の新聞報道を見る限りにおいては、政策保有株式の削減を求めているものではないとは思いますが、コーポレートガバナンス・コードで「方針を開示すべき」となっていることよりも更に踏み込んで、合理的に説明することが必要になってくるような様子です。この点は引き続き注視して行きたいと思います。

企業年金連合会と大手金融機関4社による集団的エンゲージメント(対話)の開始

企業年金連合会三菱UFJ信託銀行三井住友信託銀行りそな銀行三井住友アセットマネジメントが共同での企業とのエンゲージメント(日本語では「対話」といいます)を行うことになり、企業統治の改善などを求め、連名での書簡を年内にも投資先に送るとの報道がありました。合計の日本株運用総額は30兆円を超え、日本株全体の5%を超えるとのことです。

集団的エンゲージメントとは、機関投資家が単独でなく、複数で協調して企業への対話を求めることです。共同対話は国際的な潮流で、日本においては、スチュワードシップコードにおいて、次のような記載があります。

「必要に応じて他の機関投資家と協同して対話を行うこと(集団的エンゲージメン
ト)が有益な場合も有り得る」

ちなみに、海外での集団的エンゲージメントについては、たしか米国では「適切に他の機関投資家と協同すべき」、EUは「適切な場合には、他の投資家と協調して行動すべき」とあります。文脈の全体を読んでいませんので、一概には言えないかも知れませんが、協同を義務付けているような様子で、日本よりもより積極的な印象を受けます。

フェアディスクロージャー・ルールもそうですが、欧米は先行しているので、多分、欧米の方がより積極的と思います。いずれにせよ、日本も欧米にならう方向に向かっていることは確実です。

では、集団的エンゲージの効果は何でしょうか。

単独で企業と対話をするのではなく、機関投資家が複数で企業との対話を行うことで企業への発言力が高まるということになります。企業としても、運用機関各社と個別に対話をするより、纏めて対話をすることで対話の労力が減り、効率が高まるということはプラスの側面かと思います。

一方、企業には留意すべき点があります。それは、運用機関が企業に要求する事項が共通する内容であれば、その要求内容を充足しない企業は、株主総会での議案の反対率が増えるということになると思われます。

統一的な基準を機関投資家が要求するのであれば、それを充足する企業にはプラスに働き、それを充足しない企業にはマイナスに働くということです。

報道では、株主総会の議決権行使は各社が独自に判断し、共同の株主提案はしないということのようですので、これだけ読むと、各社独自の基準により総会で議決権は行使するということですが、集団で企業との対話に臨む以上は、各社とも考えのベースは同じになると理解すべきかと思われます。

今回の集団的エンゲージメントは、日本では初めての試みのようですが、企業にとっては、機関投資家との対話をこれまで以上に充実させ、対話を踏まえて企業統治を見直すなどの改善が必要になります。

P&Gの事例に見るアクティビストの提案と個人株主対策を考えることの重要性

11月6日の日本経済新聞の「経営の視点」において、「P&Gに求めたのは」とのタイトルでP&Gに対して米国ファンドが役員受入の提案をしたものの、結果として、本年10月の株主総会でアクティビストの提案が退かれたことについて記事がありました。株主提案が退かれた最大の要因は、個人株主の多さであったと書かれています。P&Gは個人株主比率が40%を超えて米国企業としては極めて高いとのことのようです。要は、アクティビスとが株主提案をしたものの、個人株主はこの提案に賛同しなかったということです。

一方で、日本の株式市場における個人株主比率を見ますと、東証全体に占める個人株主比率は約17%です。

私は以前は個人株主を増やすことに何の意味があるのか良く理解できていませんでしたが、アクティビストの活動について投資銀行と議論をする中で、企業の「準安定株主」として個人株主は大切であると最近考えるようになっていましたが、この記事を見てあたらめてその通りと思いました。

前にもブログで同じようなことを書きましたが、個人株主は機関投資家と異なり、必ずしも短期利益にのみに目を向けているのではなく、ブランドや企業の製品への愛着などが強いとされています。

勿論、BtoBの商売をしている企業については、個人株主は製品を直接手にすることはありませんので、製品の愛着というのは、この場合には必ず当てはまりませんが、要するに、企業のイメージ全体に対する愛着が強いということです。個人株主の企業に対する愛着を高めることが出来れば、アクティビスによる増配要求の株主提案や公開買付提案があっても、個人株主はこれに応じることなく、安定株主とできます。

コーポレートガバナンス改革の中、持合株式である政策保有株式が売却される中、売却された株式の受け入れ先を個人株主とすべく、個人株主施策は企業にとって今後、大変重要になってくると考えます。

では、個人株主を増やすには、どうすればよいでしょうか。これは簡単ですが、株主優待をすることが1つ効果的です。しかし、単にこれだけでは、継続対策としては十分でないと考えます。

一旦、個人株主数を増やした後、事業所見学会等を開催し、経営トップなりマネジメント層が個人株主を事業所に案内して、企業の概況を説明したりすることが大切になってくると考えます。

これらの活動を通じて、個人株主は、自分が企業から大事にされているという印象を持ち、それが長期的に株式保有を継続しようとするインセンティブに繋がるのです。現在個人株主比率が少なく、一方で持合株式比率の高い上場企業は、持合は今後確実に解消される動きにあるので、個人株主を増やし、かつ安定株主とするための対策を真剣に考える必要があるかと思います。

 

企業に埋もれた知的財産の有効活用策の検討会議

先日の新聞報道によれば、内閣府は、企業に埋もれた知的財産の有効活用策を検討するための産学連携の会議を11月16日に新設するとのことです。

先日のブログでは、この連休中に伊藤レポート2.0を読むと書きましたが、この記事も少しだけ気になりましたので、本日はこの記事に関して少しだけ触れてみたいと思います。

未利用の知的財産(以下「知財」といいます)の有効活用については、メーカーを中心に以前より課題の1つとして指摘されていることですが、政府がその具体的な対策検討を開始するようです。 

メーカーなどの企業は多数の知財を有していますが、実際に自社の事業で活用しているものはそのすべてではありません。いわゆる持っているが使っていない未使用の知財も各社多く抱えています。では、なぜでしょうか。

まず、企業が知財を取得する目的は、自社防衛があります。つまり、自社で開発する製品の技術について、他社から知財侵害を主張されると、設計変更を行う、最悪のケースのは開発を中断することにもなります。このため、開発段階で、他社特許に抵触しないか十分な調査をするのですが、必ずしも完全な調査が出来るものでもありませんし、また、開発の途中でいろいろと設計を変えるケースもあります。

そこで、将来、他社から特許攻撃を受けるのを防ぐため、幅広に特許を取得します。このため、実際に利用しないままのものも多くなります。他にも色々と理由はあるかも知れませんが、このような状況と思います。

一方、知財は取得した後も維持する場合には、維持費がかかります。維持する期間中、特許庁に維持費を払う必要があり、大手企業であれば、毎年数億円から数十億円かかる場合もあると思います。つまり、使わないけど、多額の維持費は払うことになります。

では、使わないのであれば、他社にライセンスをしてライセンスフィーをとればよい
ということになりますが、これも難しいところです。

理由は、知財部には特許のライセン先を見つけることの機能をはなく、そもそも、知財部は企業の防衛のために、技術部門の指示に従って知財を取得するのであり、勿論外部企業からライセンスの要請があれば検討はしますが、自ら能動的にライセンス先を探すということはしません。これが、いわゆる埋もれた特許、つまり保有してはいるけど活用できておらず、維持コストだけがかかる知財の問題になります。

報道によれば、今後、半年程度の議論を行い報告書を纏め、企業への支援策の成果は2018年度の「知的財産推進計画」に盛込むとのことです。

伊藤レポート2.0が公表

経産省より10月26日に「伊藤レポート2.0」が公表されました。以前にもブログで書きましたが、2014年に公表された一橋大学教授の伊藤氏のレポート(伊藤レポート)の第2弾になります。

経産省のホームページからレポートの紹介のページを読みますと、要するに、2014年の伊藤レポートにより日本企業のROEは改善したが、今回はPBR(=株式時価総額÷純資産額)に着目すると、日本企業は長年に亘り1倍前後という解散価値に等しく、株価が低迷しており、これを問題として捉え、企業のビジネスモデルや戦略、ガバナンスについて投資家と対話するためのガイダンスとして今回レポートにまとめ、投資家、企業サイドはじめ関係者はこれを対話のベースにして良く読んでくださいというものです。

伊藤氏が関与して、経産省が中心になりここ数年の間に日本企業の企業統治コーポレートガバナンス)改革は進んできたわけですが、今後の予定について同レポートの参考資料である「伊籐レポート2.0 参考資料」(2017年10月26日 経産省 産業資金課)の資料に記載されていますので、記載します。

1.2019年前半を目途として、国際的に見て最も効果的かつ効率的な開示の実現(制度
開示の見直し)

2.①グローバルな観点から最も望ましい対話環境の整備を図るべく、情報開示を充
実させ、株主の議案検討と対話の期間を確保する方策等について、更なる検討や取組
みを進め、対話型株主総会プロセスの実現 ②企業が株主総会の日程や基準日を合理
的かつ適切に設定するための環境整備

以上の2つが日本再興戦略2016の残りの主な取り組みとなっています。いずれも、現在、検討中のようですが、近い将来、企業の開示制度や株主総会の運営について大きく見直されていく方向にあるようです。

さて、肝心の伊藤レポート2.0の内容ですが、まだ読んでいませんので、この3連休中に読んでブログで簡潔に紹介したいと思います。

 

ISSが議決権行使ポリシーの改定案を公表

2017年10月26日にISS議決権行使助言会社)が株主総会での議決権行使ポリシーの改定案を公表しました。

内容は2点で次のとおりです。

1.指名委員会等設置会社および監査委員会設置会社の取締役会構成要件の厳格化
・ 社外取締役(独立性問わない)が1/3未満の場合、経営トップである取締役の選任議案に反対

2.買収防衛策の総継続期間要件の導入
・ 買収防衛策の賛成推奨の基準に、最初に買収防衛策を導入してからの総継続期間が3年以内であることを追加

ISSは、従来より買収防衛策議案には賛成推奨することはなく(ちなみにISS議決権行使助言会社であり、自ら議決権を行使することはなく、機関投資家が議決権を行使するに当たって、企業毎の賛成・反対推奨をする機関です)結論には変化はないのですが、「総継続期間3年」を設定したことで影響が大きいような気がします。

これまでは、一定の要件を充足すれば形式基準はクリアすることが理論上は出来る建付けでしたが、今回の改訂案では、企業は期間最大3年とする1回の導入についての賛成となるということは、これまで継続更新していた企業は、賛成推奨の形式基準をクリアしないことになります。

要するに、買収防衛策は1回だけに限定し導入することは出来るが、1回導入した企業は今後は更新することに反対しますということを言っていることになります。

国内機関投資家は、議決権行使に当たって、必ずしもISSの基準に準拠して判断をするわけではありませんが、昨今、機関投資家の買収防衛策に対する反対が強まる中、このISSの基準は反対方向の更なる追い風になる可能性があります。

とすると日本企業に与える影響がどうかですが、これで買収防衛策を廃止する企業が増えるとアクティビスト(物言う株主)には好都合になります。

また、ここ数年のコーポレートガバナンス改革での政策保有株式の売却の動き、日本の機関投資家の協調行動の容認、スピンオフ税制、2018年度税制改正での経産省の要望している事業ポートフォリオ転換の円滑化措置などを考えると、どう見てもアクティビストには都合の良い環境に向かっているとしか思えません。

買収防衛策は、東芝川崎汽船三陽商会などは廃止した後、アクティビストが株式取得したことを考えると、企業は2007年頃に盛んだった外資の投資会社による日本企業の買収を真剣に対策をする必要があるのではないでしょうか。

とすると当たり前ですが、企業は自社の株主と日々接する機会を増やし、理解して貰うというSR活動が今後重要になってくると思います。

ガバナンス改革-独立取締役の会の提言

10月16日の日本経済新聞で、「独立取締役の会」が独自のガバナンス改革案を纏めたとの記事が掲載されていました。

旭化成IHI旭硝子伊藤忠商事などの大手企業の元経営トップのメンバーを中心に構成される昨年秋に結成された会のようです。主要メンバーの方は、現在も他社の社外取締役を兼務されており、豊富な経営実務経験を踏まえて、より実態に即した提言をされたということです。

新聞に掲載の提言内容についてポイントをあげると次のような内容です。

<ガバナンス体制>
・取締役会はいざという時に社長を解任できるよう、社外取締役の員数を過半数とするか、指名委員会に社長解任権限を付与するのが望ましい

<取締役会の重要な役割>
・社長の評価
・社長の後継者計画
・経営戦略の策定と実施状況の監督
役員報酬制度の設計
コンプライアンスと危機管理

<顧問・相談役制度>
・在任期間の定めのない終身の顧問・相談役や明確な役割のない顧問・相談役は廃止すべき など

内容の詳細までは掲載されていませんでしたので、詳細なコメントは出来ませんが、ガバナンス改革では、私は前々から実務の経験者の視点がとても重要であると考えていました。経産省金融庁、大学教授などの専門家の意見は、他国の法制度、会社法や資本市場の意見を踏まえたあるべき姿から論じられており、それは勿論重要とは思います。

しかし、コーポレート・ガバナンスを実行するのは、事業会社であることを認識する必要があります。「こうあるべき」という姿を作っても、それが日本企業の実務からかけ離れていると意味がありません。

例えば、社外取締役制度を1つとっても、よく3分の1以上の員数が必要とか言われていますが、単に人数を増やすこと自体には、あまり意味があるとは思えません。

役割として監督機能を強化するのであれば、いくら人数を増やしたところで、普段業務に携わっていない以上、不正を見抜くことはできません。実際に不祥事のあった企業でも社外取締役は導入されていますが、不祥事を未然に防げなかったことを見れば明白です。

通常、社外取締役は取締役会に上程された事項しか知り得ないのであって、企業の不正を探し出すことは難しいし、また、それは社外取締役の役割ではないと言えます。

この点、独立取締役の会の提言では、社外取締役過半数の確保をあげておりますが、その目的は社長の解任とあり、なるほどと思いました。

仮に経営トップが不正をしたとしても、社長を解任をするということは、社長をトップとしたピラミッドの下層にいる社内取締役にはまず期待できないところ、それを出来るのが社外取締役であり、従って法的にも解任できる権限を持てるよう員数を過半数以上にするという論理かと思います。暴走した経営トップを法的にストップをかけることを狙いに掲げており、非常に実務に即した視点かと思います。

コーポレート・ガバナンスの策定には、先に言ったように幅広い見識が必要になり、その観点からは、役所や学者が青写真を描くことは賛成です。しかし、細目は、日常の実務の運営の視点を入れる必要があり、その観点からは、企業の経営者の視点も十分に反映させる必要があると思います。このような独立取締役会の会といった企業サイドの目線に立つ会は非常に有益かと思います。

インターネットで、「独立取締役の会」のキーワードで検索したところ出てきませんでしたが、この提言が今後、日本企業のコーポレート・ガバナンスにどのような影響を与えることになるのか関心のあるところです。

書評:「企業価値を創造する会計指標入門」(ダイヤモンド社)

だいぶ以前に書評をブログに掲載しましたが、久しぶりに会計・ファイナンス関連の書籍について書いてみたいと思います。

企業価値を創造する会計指標入門」(ダイヤモンド社 )という書籍があります。

少し古いのですが2005年に発行された書籍です。著者は、大津 広一 氏で、㈱オオツ・インターナショナル代表の肩書で、慶応義塾大学理工学部を卒業、富士銀行、外資系証券などを経て独立し、現在、経営コンサルタントをされています。

この書籍は、ROEROA、ROIC、EBITDAマージン、株主資本比率といった会計指標について、根本的な考え方や各指標毎に武田薬品工業ソニー、米国ウォルマートなどの大手企業の例をあげて説明しています。

各指標について深く触れており、会計指標について書かれた書籍は数多くあるのですが、この書籍では指標の持つ意味などまで深く分析されており、個人的には良書と思っております。ただし、各指標の説明であげている企業各社の説明が少し細かく、自分と関連のない業界の概況などまで細かく触れている点が結構くどいのですが、このあたりは飛ばして読んでもよいかと思います。

なお、著者の書いているほかの書籍としては、「ファイナンスと事業数値化力」(日経ビジネス人文庫 / 2010年)が分かりやすいです。

これは文庫本ですが、ファイナンスの基礎について、学生と教授の会話形式で書かれており、内容も分かりやすいです。初級者向けです。

ただし、この書籍も全くの初級者には難しく、また、「企業価値を創造する会計指標入門」は、中級レベル以上の人でないと理解は確実に不可と思います。フリーキャッシュフロー、DCF法といったことを一度実務でやった上で読むとよいかと思います。

内田洋行の株主総会での株主提案議案の賛成率

前回のブログで、10月14日(土)開催の内田洋行の定時株主総会においてストラテジックキャピタルの株主提案が否決されたことを書きましたが、定時株主総会での議決権行使結果(議案の賛成率)について、10月18日に内田洋行の臨時報告書が開示されました。

株主提案議案については、次のような結果でした。

第3号議案  定款変更の件    賛成率 20.10%
第4号議案  剰余金の処分の件  賛成率 18.47%

第3号議案は、政策保有株式を速やかに売却することを定款に規定せよという提案になります。

2017年7月末の内田洋行の主な株主構成は、次のとおりになります。

金融機関 :36% 個人その他:31% 外国法人等:19% その他法人:13%

ストラテジックキャピタルの7月末の保有株式数はたしか約5%でしたので、第3号議案に関して言えば、株主提案に賛同した株主が他に約15%ほどいたことになります。株主別の賛否は開示されませんので、どの株主が賛成を投じたかは不明です。

私が勝手に想像するところ、外国人株主の多くは株主提案に賛成する方向に流れたのではと思いますが、これを前提とすると、個人株主の多くは、株主提案に反対したという結果であったかと思われます。

内田洋行が個人の大口株主にどう働きかけたのかは不明ですが、少なくとも多くの個人株主は、株主提案に賛同しなかったということかと思います。

株主提案の定款変更が承認されれば、政策保有株式の売却により内田洋行の現金が増え、増えた現金は配当に回せという流れになりますが、それよりも安定的に配当を貰えることを株主は優先したのでしょう。

ストラテジックキャピタルの出現後に、たしか内田洋行は一回増配をしていた記憶がありますが、これにより個人株主は現状のままでも不満がなく、結果、株主提案に賛同するに至らなかったということなのかも知れません。

機関投資家内田洋行株主総会に対する議決権の行使結果の詳細が後日開示されますが、国内機関投資家はどういう判断をしたのか興味のあるところです。

 

内田洋行に対する株主提案の結果から考える個人株主対策の必要性

投資ファンドのストラテジックキャピタルが内田洋行の本年の株主総会において定款変更等の株主提案を出しており、先日、10月14日(土)に株主総会が開催されました(内田洋行は7月決算)。

内田洋行のホームページを見ますと、会社提案が可決され、株主提案は否決されたという結果に終わったようです。株主総会の議決権行使結果は、臨時報告書で報告することが必要になりますが、本日時点では、臨時報告書は開示されておらず、ストラテジックキャピタルの提案の賛否比率の詳細などは分からないところではあります。

しかし、内田洋行の株主構成と株主提案が否決されたという結果から、個人株主対策の重要性について思うところを少し述べてみたいと思います。

まずは、2017年7月末の内田洋行有価証券報告書で主な株主構成を見ると次のようになっています。

金融機関:36%、個人その他:31%、外国法人等:19%、その他法人:13%

投資ファンドの株主提案が企業価値向上に資すると考えて賛成に回る株主は通常誰かというと、一般的に言って、外国人株主と国内機関投資家が考えられます。

有価証券報告書では、金融機関の比率は36%とあるだけで、この中に国内機関投資分がどの程度あるのかは不明ですが、仮に36%全てが国内機関投資家であると仮定して話を進めます(大株主状況を見ると、りそな銀行三井住友信託銀行があり、この2社だけで6%ほどになるので、36%全てが国内機関投資家ということはありえませんが、話の便宜上そう考えます)。

今回、ストラテジックキャピタルが提案した定款変更の議案(政策保有株式の売却規定の新設)は、会社法上の特別決議事項に該当するため、3分2以上の賛成、つまり67%の賛成が必要になります。とすると、外国人株主と国内機関投資家分だけを合算すると、55%のため10%程度足りないことになります。

従い、ストラテジックキャピタルは個人株主の31%のうち、10%を自社の味方につけることができるかがポイントになります。なお、繰り返しになりますが、「金融機関36%=国内機関投資家」との前提を置いた仮定での話になります。

今回の定款変更の株主提案は、政策保有株式の売却を定款規定に盛込むという内容で、最終的には配当増に繋がる内容であり、それだけを見ると個人株主には都合のよい話になりますので、個人株主は賛同する方向に向かうように思います。

では、これに対して会社は何をすべきでしょうか?

会社としては、長期的な観点から株を持つことが株主の大きなリターンにつながることを説明する必要があります。さらにブレークダウンして、具体的に何をすればよいかという点になると、日々株主に自社の魅力を伝え、ファンになって貰うことが重要になります。そのためには、株主優待を実施する、定期的な個人株主を対象とする事業所の見学会を開催するといったことが重要になるように最近思っております。

株主優待は、自社製品を配布することも多いですが、私の感覚ですと、金額は3,000円
~5,000円相当が多いように思えますが、額が小さいからと馬鹿に出来るものでははないと思います。

個人株主は、「個人」ですので、会社から定期的に商品を貰うということは非常に嬉しいものです。実際に株主優待を開始して個人株主数が大きく増えたという話や、逆に、株主優待を廃止したところ個人株主が大きく減ったということは良く耳にします。

機関投資家は、アセットオーナーから預かった資金を運用するプロであり、投資に対するリターンにのみ関心があり、優待などは関心は全くありません。しかし、個人は、そ少額の自己資金で少ない株式を保有するのであって、安定配当が関心事ではありますが、株主優待として投資先企業の製品を貰えるということは、結構重視しているように思います。

株主見学会も同じです。自分の投資先企業が、個人である自分を事業所に招いてくれて、投資先が大手企業であれば、普段会うことのない企業の経営層が丁寧に会社の概況を説明し、案内してくれるということは、お金に代えがたいものと受け取るのではないでしょうか。

アクティビスト株主(物言う株主)対策としては、安定株主増ということがありますが、その観点から個人株主対策に力を入れるということを会社はあらためて考える必要があるのかも知れません。

勿論、個人といってもプロ並みの資金で自己運用している方もいますが、そのような方は個人全体で見るとごくわずかであり、個人株主の圧倒的多数は、一握りの富裕層ではなく、数十万円から数百万円を投資する少額投資の個人です。そうであれば、こういう一般の方にどういう対応をすれば、長期で株式を保有してくれるのかを企業はあらためて真剣に考える必要があるように最近感じています。

内田洋行株主総会の議決権行使結果は、暫くすると臨時報告書が開示されますので、それが分かり次第、またブログで書いてみたいと思います。