中長期的な企業価値向上のためのコーポレートガバナンス・アドバイザー / 長期での中小型株の割安株投資情報

最近のコーポレートガバナンスと資本市場の動向を踏まえ、上場企業実務の視点から中長期での企業価値向上に役立つ情報分析・発信をしていきます。個人投資家のコーポレートガバナンス力の向上による「意思のある投資」に役立つ情報発信もしています。また長期での割安株投資の情報も

エリオット・マネジメントによる日立国際電気株の買い増し

先日の新聞報道によれば、米ファンドのエリオット・マネジメントが日立国際電気株を買い増し、6.10%を保有しているとのことです。
日立国際電気は、米ファンドのKKR(コールバーグ・クラビス・ロバーツ)がTOBを行うことをだいぶ以前に公表しており、TOB価格は1株当たり2503円ですが、その後、株価が上がりTOB一旦延期になっています。

ちなみに、昨日9月22日の終値は3000円です。ちなみにTOBとは、TOB価格(今回の場合は2503円)で市場外で株式を購入しますので、関心のある株主の方は応募して下さいというものですから、市場株価が2503円を超える場合には、株主は通常は応募しません。仮に市場株価が3000円とすると、当たり前ですが、TOBに応じるより普通に市場で売却した方が得するからです。

新聞報道によれば、エリオットの日立国際電気株の平均取得単価は2570円ということです。このため、エリオットは買い増しを行うことで株価を上げることで、TOB価格を上げることを狙っているというようにも言われています。

ところで、日立国際電気のようにファンドが保有する銘柄は通常、期待が先行するため株価が上がることが多いかと思います。理由は、投資ファンド保有することで、ファンドは物言う株主として、会社に対して増配や自社株買いを要求し、これに対して投資ファンドの要求を充たさないまでも会社は一定程度の増配をすることも多いので、市場で株価上昇の期待が高まることによるものです。

ただし、単にファンドが保有しても株主提案といったアクションを起さないと株価は一時は上昇するが、しばらくすると元の株価に戻るように考えます。

域外企業による欧州企業の買収に対する欧州委員会審査の強化

欧州委員会が、域外企業による欧州企業の買収審査を強化するようです。背景としては、中国企業による欧州企業の買収が増える中、安全保障に関わるEU企業の情報の流出を防止するためです。

約半年前に欧州企業の買収規制の現状について、外資系証券会社の投資銀行部門に聞いて少し調べたことがあるのですが、中国企業の欧州企業の買収を受け、欧州委員会が規制を強化する方向で検討中ということは聞いていましたが、今回、それが具体的に発表されたようです。

欧州企業おいてば、ドイツのクーカ社が中国の美的集団に買収されたほか、ドイツのアイクストロンが中国の投資ファンドに買収されそうになったりして、「インダストリー4.0」を標榜するドイツなどのEU諸国が中国企業の買収の対象になっていました。これに対して、EUで共通の審査基準を設けて、インフラやハイテクなどのEU企業の買収の事前審査を強化するようです。

では、日本では外資企業による買収について法規制はあるのでしょうか。

日本では一応、外為法による規制があり、防衛、原子力等に関わる事業を営む日本企業の株式の10%以上を取得する場合には、取得しようとする外国法人は、国に事前届出をし、その認可を受ける必要があります。

しかし、外為法の規定は、業種が特定されているなど、規制がそれほど厳しくないのが現状です。最近、外為法が改正され、これに伴い外資による対内投資規制も一部変更がありましたが、実質的な強化にはなっていません。例えば、国の審査を得ずに、日本企業の株式10%超を取得してもその効力は無効とはならないことになります。

EUでの規制強化の具体的内容は見ていませんので良くは分かりませんが、米国企業の買収は米国の規制が従来から厳しく(このため中国による米国企業の買収は難しい)、今回、EUの規制も厳しくなるのであれば、中国企業等の新興国企業の関心は規制の緩い日本企業に流れるのではないでしょうか。

そうすると、日本企業は自社で自己防衛をする必要があり、買収防衛策などが必要になります。

しかし、問題は、その一方で、買収防衛策に対して海外機関投資家、国内機関投資家はますます反対する傾向にあり、買収防衛策の導入・更新が厳しくなっています。とすると、日本企業は、時価総額を上げて買収されるリスクを低くする、または有事に備えてホワイトナイトを事前に探しておくといった方策を講じることが、今後重要になるように思えます。

㈱内田洋行への投資会社による株主提案に対する取締役会の反対意見

2017年9月11日付の㈱内田洋行のプレスリリースによれば、同社の株主である株式会社ストラテジックキャピタルより、本年10月開催予定の定時株主総会にて株主提案が出されており、それに対して内田洋行の取締役会が反対意見を決議したとのことです。

2017年9月11日付のプレスリリースに記載されている株主提案の内容を見ますと大きく次の2つになります。

1.内田洋行の定款に、純投資目的以外の目的で保有している上場株式は、来期中に速やかに売却することの規定を設けること
2.剰余金の配当として、株式1株当たり、2017年7月期の連結上の1株当たり当期純利益の金額を配当すること

端的にいうと政策保有株式は速やかに売却して、キャッシュを株主に還元せよという提案内容かと思います。

ここで、プレスリリースに記載されている株主提案に記載の内田洋行の財務状況を見ますと、2017年4月20日現在で次のようになっているようです。

・現預金 203億円、投資有価証券 79億円
・有利子負債(デット) 71億円
・ネットキャッシュ(=現預金 + 投資有価証券 - 有有利子負) 211億円

プレスリリースによれば、2017年4月20日現在で、純資産は364億円でPBR(株価純資産倍率)は1倍を大きく下回るということのようです。ヤフーファイナンスで検索したところ、4月20日時点の株価は終値で2,403円、発行済株式総数が10,419,371株ですので、時価総額は約250億円になります。

この数値をベースに算出するとPBRは0.67倍(=250億円÷364億円)となり、たしかに1倍を下回り株価は割安といえます。

また、時価総額に対するネットキャッシュの比率を見ますと、ネットキャッシュ / 株式時価総額=84%(211億円÷250億円)となっており、これを見ても、株価は割安に評価されているといえます。

ストラテジックキャピタルがいつ株式を取得したかは不明ですが、割安な株式を取得して、用途が明確でない潤沢な余剰資金を還元しろという主張のようです。割安でキャッシュリッチな企業の株式を取得して、株主還元を要求し、増配によって株価の上昇を目指すといういわゆる物言う株主による一般的な主張内容になります。

内田洋行ROEは5.2%ということで、日本企業の平均8%を下回るのでこの点でも株主還元を主張する論理性はあるかと思います。

ここで、1つ政策保有株式の主張について関心がありましたので、少し説明します。

政策保有株式は、コーポレートガバナンス・コードでも指摘されており、取引先との安定的・長期的な取引関係の構築、協働ビジネス展開の円滑化等の観点から、中長期的な企業価値向上に資すると判断される場合には、保有できるとされています。

これに対して、株主提案では、次のような理由で、保有の意義はないとストラテジックキャピタルは主張しています。

1.取引先の株式を保有していると何故に取引関係の構築等ができるのか、その因果関係が不明
2.取引先との関係構築等は、株式保有に頼るものではなく、会社の提供する役務等の品質向上によるべき

上記の2つの株主提案に対しての内田洋行の取締役会の意見は、簡単にまとめますと次のとおりです。

1.(定款変更の提案については)政策保有株式の全株の売却は、今後の株式投資全般も制約しかねず、柔軟な事業提携や協業等への投資を阻害するものであり反対
2.(剰余金処分については)中核事業の再構築のための事業改革を進め、次に事業基盤確立に向けて継続的な投資を行うことを検討しており、財務基盤の確立が経営課題の1つであり、増配提案は株主の中長期の利益を損うことになり反対

今後は、株主提案内容と取締役会決定のいずれに他の株主が賛同するかになりますが、内田洋行の直近での株主構成をは分かりませんが、2016年7月20日の有価証券報告書を見ますと外国人株主比率は18%となっております。

外国人株主(海外機関投資家)は経済合理性に即して判断するので、株主提案が理にかなっていると判断する場合には、何の躊躇もなくこれに賛成するとなります。

一方、国内機関投資家の株式保有比率は分かりませんが、個別開示の方針を各社打ち出している中、株主提案に賛成する国内機関投資家も増えるのではないでしょうか。なお、個人的には政策保有株式の取得には、どこまで意義があるのかは懐疑的です。わずか1~2%程度の株式を保有しただけでは、対象会社の経営権に影響を及ぼすこともできず、いわば「名刺」の意義しかないのではないでしょうか。その点では、ストラテジックキャピタルの主張に私は論理性があるように感じています。

内田洋行は、今後、株主総会に向けて会社提案に賛成するよう機関投資家に働きかけ、自社主張の正当性を説明したり、また安定株主にも賛成票を投じることをお願いすることになるのでしょうが、ポイントは国内機関投資家になります。

議決権の個別開示を各社採用する中、機関投資家の多くが株主提案に同調するようなことになると、先般の黒田電気の株主提案が可決されたように、株主提案が可決されることになる可能性もあります。

もし、そうなった場合には、これををきっかけに物言う株主にが勢いがつき、今後、上場企業にとっては、厳しい環境に向かう流れに向かうかも知れません。

 

女性の社外取締役の員数増加

伊藤レポートについて週末までにしっかり読もうと思っていたのですが、ざっと目を通した程度しかできませんでしたので、伊藤レポートの内容サマリーは次回以降として、本日9月10日の日経新聞に「女性社外取締役15%増」との記事がありましたので、これについて紹介するとともに、最近はやりのダイバーシティーについて思うところをコメントしてみます。

同記事は次のような内容です。

東証1部上場企業約2,000社に在任する女性の社外取締役は552人で昨年より15%増
・女性社外取締役を起用した企業は4社に1社
東証1部上場企業の全取締役に占める女性取締役の比率は10.6%

社外監査役を含めた女性の社外役員の員数では、ローソン、かんぽ生命、カルビーアステラス製薬資生堂など15社が3人となっているようです。いずれも直接にエンドユーザーを顧客とする企業で女性目線が収益を稼ぐ上で大切になってくる企業かと思います。

近年、ダイバーシティーということで女性の活用に取り組んでいる上場企業は大変多いと思います。

企業によっては、ダイバーシティーを推進する専門部署(部署といっても2、3名程度の小規模と思いますが)を設置している企業も多いと思います。

私は、女性の活用に関する議論に関しては良く理解していないのですが、男女の区別なくフルで働ける人材の中から、能力のある者を活用していけばよく、それが男性・女性のどちらでもよいというのが考えです。

ただ、本日の記事もそうですが、女性をあえて幹部や役員として起用するということであれば、「女性」という母集団がその企業で一定規模に達している必要があると思います。

当たり前ですが、能力ある者を選ぶには、その母集団が小さいと必然的に選ばれた者は能力の低い可能性が高いということになります。1学年20名の過疎化の進んでいる小学校で5番の成績の生徒と、1学年200名の小学校で5番の成績の生徒の能力を考えると一目瞭然かと思います。

では、母集団として現状はどうなっているかを見ますと、公務員の世界は知りませんが、民間企業でフルで働ける女性というと、自分の経験や知人などの話も聞くと、①未婚者、②既婚であるが子供がいない、③既婚で子供が一人(一人っ子)という3類型に大きく分かれると思います。勿論、男性もこの3類型に該当します。

問題は、この母集団に子供を2名以上持つ多くの女性が入っていないことです。理由は単純で、子供が2人以上いると、男性と異なり女性はフルで勤務するのが大きく困難又は不可能という点で、どうしても子育てを優先せざるを得ず、一流大学を出て総合職として入社し、将来幹部となれる能力があっても退職してしまうことになります。実際に私のまわりでもこういう女性を数多く見てきました。

とするとこういった大多数を占めるタイプの女性が母集団から除かれた集団の中から、あえて幹部、役員を選ぶとすると、その選ばれた者は、母集団の数が小さいため、必ずしも能力が十分でない可能性があるということになります。

ダイバーシティーの内容は各社取り組みは様々だと思いますが、仮に女性の役員・幹部を増やすということであれば、その職に選定された女性が優秀であるためには、フルで働ける女性の環境を整備する、つまり子供を複数名持っても十分に働ける環境を整備することがとても大切なように考えます。

女性活用というのは今のはやりですので、現時点においてフルで働くことが出来る女性集団の中から、とりあえず幹部を選任しておくということは世間に対するPRという点では手っ取り早く一番都合がよいことはたしかです。

しかし、真に女性の目線を企業経営に活かして、それが収益向上につながるのであれば、フルタイムで働くことができない女性に十分に働ける環境を与え、女性の母集団を広げ、その中から能力ある者を選別するということが必要になるのではないでしょうか。

企業と投資家との対話-信託銀行の本年の株主総会での議決権行使結果から

本年の株主総会での生保、機関投資家、信託銀行による議決権行使結果の集計結果が時々報道されています。つい先日の新聞報道によれば、大手信託銀行4行の総会議案(会社提案議案)への反対率が上昇し、10%台後半になったとのことです。

スチュワードシップ・コードの要請に従い、総会の議決権行使結果について個別開示を本年より行うことになった機関投資家などは、自社の議決権行使基準を見直すなどして、基準に即した判断を行うことになった結果、議決権行使基準を充足していない企業の株主総会議案に対する反対が増えたということかと思います。

この記事を読んで思ったのですが、以前に機関投資家数社と対話をした際には、機関投資家が議決権行使基準に即した議決権行使をすることになれば、自社の議案が基準を充足しない場合には、機関投資家等との対話などはそもそも必要がなくなるのではないかと考えたりもしました。

しかし、新聞報道によると、機関投資家は必ずしも機械的に行使基準をあてはめているわけではなく、投資先企業との対話で改善が見られたり、実態が異なっている場合には賛成票を投じているようです。

とすると、企業としては、今後、機関投資家、生保等の投資家の議決権行使基準を確認し、議決権行使基準に照らして自社の議案が基準を充足していないが改善を検討している場合、自社の開示書類の記載から議決権行使基準を充足するかどうか機関投資家が判断できないであろうと考える場合には、機関投資家と積極的に対話を行うことが重要になります。

複数事業を営む企業のPERについて

9月1日の日経新聞で「業種別PERを疑え」との見出しの記事がありました。

記事を引用しますと「同じ業種でも一律の投資指標で比較しきれない『隠れ異業種』銘柄が浮かび上がる。これまでとは違った投資尺度を当てはめれば、割安と評価できる可能性もある。」との内容です。

例を挙げて説明したいと思います。

仮に、複数の事業を営む企業(A社)がありA社は主力事業が化学事業として、PER(=時価総額÷純利益)が化学業種の同業のPERの平均倍率(仮に13倍とします。化学業種の実際の平均PERは分かりません)を上回り15倍あるとします。

これだけを見ると株価が割安に評価されているとはいえません。しかし、A社が従来からの主力事業である化学事業の他に非鉄金属事業、輸送用機器事業があり、非鉄金属事業の利益がA社の全体利益に占める割合も高く成長している場合、非鉄金属事業の業種の企業の平均倍率を見る必要があります。

非鉄金属事業で見た場合、自社と同規模の企業のPERが仮に30倍となっている場合、A社は化学業種で見た場合には業界平均であるも、非鉄金属事業で見た場合には低く、株価は割安に評価されている、つまりもっと市場株価は上がってもよいはずという内容かと思います。

 新聞記事では、神戸製鋼所のケースが出ていましたので、同社の2018年3月期の第1四半期の決算短信、決算説明資料をホームページからぱっと眺めてみました。

セグメント別の売上高と経常損益の数値があり(事業セグメントが10もあることをはじめて知りました)、2017年度のセグメント別の売上高予想で高い順に事業セグメント4つを上げると、売上高及び経常利益は次のとおりになっています。   

         売上高     経常利益   
鉄鋼           7,100億円     150億円 
アルミ銅      3,450億円     140億円 
建設機械      3,350億円     100億円 
機械             1,780億円       50億円  

会社全体での予想売上高は18,800億円、予想経常利益は550億円となっています。

これを見ると鉄鋼セグメントの全体売上高・経常利益に占める比率が大きいですが、アルミ・銅や建設機械の占める比率も大きいことが分かります。

ここで9月5日の株式時価総額を分子に、第1四半期決算短信に記載の2018年3月の予想当期純利益を分母に神戸製鋼所のPERを算出すると次のとおりになります。

PER = 4,751億円 ÷ 350億円(2017年度業績予想) = 14倍

業種別日経平均の「鉄鋼」は約12倍のようですので、平均より高いといえます。

次に建設機械の観点から見てみたいと思います。

建設機械の大手では、コマツ日立建機がありますが、各社のPERを各社の2018年3月期の第1四半期決算短信にある2018年3月期の予想純利益を分母にして、算出してみました。なお、時価総額は2017年9月5日の各社の株価終値ベースです。

コマツ  PER = 28,551億円 ÷ 920億円(2018年3月期連結業績予想)  = 31倍
日立建機 PER =   6,647億円 ÷ 180億円(2018年3月期連結業績予想)  = 37倍

新聞記事では、コマツ日立建機のPERは30倍を越えるとありましたが、その通りです。

とすると、神戸製鋼についても、全体としては、建設機械の同業種と比較した場合には、PERが低いので割安であるということも言えるのかも知れません。

勿論、PERの数値だけで割安かどうかは必ずしも判断できるものではなく、PBRなどの視点からも検討する必要があるように思いますが(ただし、PERが1桁台であれば株価か確実に割安といえると思います)、前述のとおり、会社の全体利益の中で大きな割合を占める事業がある場合、その事業を営んでいる同業他社と比較してPERが大きく下回っている場合には、割安と考えられるということです。

日経IR・投資フェア2017に参加しての感想 - 講演会の内容

前回、8月26日(土)に「日経IR・投資フェア2017」に参加したことを書きましたが、今回は、その時に開催された講演会の感想について書きたいと思います。

講演はいくつかあったのですが、参加したのは、「持続的成長が可能な企業とは - ESG情報を読み解く」(伊藤 邦雄 氏(一橋大学 特任教授))と「重要性高まる企業の情報開示とESG情報」(高山 与志子 氏(ジェイ・ユーラス・アイアール)、ブラックロック・ジャパン担当他)の2つのほかに、UBS証券の方による欧米投資のメガトレンドの合計3つになります(全部で3時間30分でした)。

ちなみに、伊藤氏は、経産省が2014年に出した「伊藤レポート」の座長である大変著名な方であり、高山氏は、公表情報で経歴を見ると、2017年金融庁スチュワードシップ・コードに関する有識者検討会メンバーであり、元メリルリンチ証券などで勤務されていた方です。

内容としては3つとも同じような内容の講演会で、今後の投資においては、非財務情報であるESG情報が重要になるというものです。

ESGとは、以前にこのブログでも書いております。その時は「今後トレンドになりうるのか少し疑問である」と書きましたが、どうやら昨今の新聞報道なども見ると本格的に日本でもESG投資が本格化するのではないかと思っています。

ESGとは、E(Environment)、S(Society)、G(Governance)を示す言葉です。

GPIFが運用資産約130兆円のうちの運用する日本株(約30兆円)の約1%をESG投資に組み込むことを公表し、大きな概要は新聞報道レベルでは知っていましたが、そもそものESG投資の動きの背景を知らなかったので、今回の講演会では背景などを知ることができ大変有意義でした。

個人投資家対象の講演会でしたが、内容は企業のIR担当者などにとっても大変有用な内容と思いました。

大きな観点からポイントを書きますと次のような内容になります。

・ESG投資は欧米(特に欧州)で先行しており、グローバルスタンダードである。日本が遅れている。
・ESGの背景は、2008年のリーマンショックの時期に財務状況の好調な企業が破綻し、その原因が非財務情報である企業統治や企業文化であることが判明。結果、企業の中長期的な成長には、財務情報以外の非財務情報、中でもESG情報が重要であるとのコンセンサスが出来た。
・ESGの中で、欧米では「G」が重要で、「Governance first」の状況にある。EとSは海外機関投資家もどのように考えたらよいか現時点では思考錯誤の状況にある。

簡単にポイントだけをいいますと上のような内容になります。

要は企業の短期的成長・業績を見るのであれば、ESG情報などは不要ですが、中長期的成長の観点から見るのであれば、欧米投資家はESG情報を重視しており、これは確実に日本でもそうなる。このため、企業は情報の開示に留意する必要があり、個人投資家は企業のESG情報をきちんとウォッチすることが今後必要であるということでした。

企業の中長期的成長に関しては、前述のとおり経産省が2014年に出した「伊藤レポート」に色々と記載されています。レポートの正確なタイトルは、「持続的成長への競争力とインセンティブ~企業と投資家と望ましい関係構築~」です。

このレポートは資本市場関係者、大手上場企業の経営企画担当やIR担当で、少なくとも名称をご存知の方は多いと思いますが、内容(全文100ページ)まで読んだ方は、少ないのではないでしょうか(経産省のHPを見ると掲載されています)。

という私もサマリーの斜め読みしか出来ていませんが、一度全文をしっかりと読み、ポイントについて、今週末あたりにブログで書いてみたいと思います。

日経IR・投資フェア2017に参加しての感想 - 中堅上場企業(中小型株)のIR説明と一般個人投資家

先日、東京ビックサイトで「日経IR・投資フェア2017」が8月25日(金)・26日(土)の2日間にわたって開催され、私は8月26日(土)に朝から参加しました。

同フェアでは伊藤ポートでお馴染みの伊藤邦雄氏(一橋大学教授)や金融庁スチュワードシップ・コードに関する有識者検討会メンバーほかの講演会があり、講演会に参加するとともに、40社ほどの企業がブースを設置し、一般個人投資家向けにIR説明を行っていましたので、数社の企業ブースでIR説明を聞きました(講演会の参加が主目的でした)。

講演会の内容は、最近のトレンドであるESG投資に関するものであり興味深い内容でしたので、後ほどブログでも紹介させて頂きますが、今回は企業ブースのIR説明を聞いての感想を書きます。

帝人や電鉄会社といった大手企業も数社出展していましたが、大部分は時価総額が数百億円規模の中堅上場企業でした。ブースを訪問した各社は、パワーポイントを用いて自社の事業概要について説明をしており、最後に株主還元ということで配当状況について説明していました。

各社とも事業の概要についての説明が主でしたが、批判的な観点から見た場合の私の印象は、次のとおりです。

・各社安定配当を継続との説明に終始し、配当性向について十分な説明がない
・ネットキャッシュが潤沢であるにも関わらず、キャッシュの使途の説明が一切ない
ROEの説明がない、またはあっても不十分

・業績数値がPLの売上高、経常利益の単純数値のみ

・ネットD/Eレシオなどの指標も説明なし など

説明後に何社かの担当者に「キャッシュの使途は何かあるのか」「ROEも低く、配当性向が低いのであれば、今後は増配などを検討することになるのか」「PBRが低い(=株価が低い)ようだが、来期の業績が好調である中、何が原因なのか」といったことについて質問をしてみました。

1社は説明者が手元に財務資料をもっていたようで、拙いながらも積極的に回答をしていましたが、残りは、説明会で質問が出るとは予想していないような様子で、そもそもキャッシュリッチの意味やROEもどこまで理解出来ているか不明な様子でした。

説明者のプレゼンの様子からして、恐らくその程度の知識しかないのであろうと想像しており、特に驚きはなかったのですが、1社少し驚いた回答がありました。

その企業は業績好調で、内部留保が大きくかつキャッシュリッチですが、今後も現状と同じ安定配当を継続するという説明でしたので、「海外機関投資家が増えたら配当増を検討する必要もありますよね」と質問をしたところ、「そういう外圧があればそうだが、今は外国人比率は2~3%程度でそういう状況にないので考えていない」とのことでした。

しかし、これは回答としては「NG」かと思います。

外圧があれば検討する(実際にはそうなのですが)のではなく、回答としては「設備投資やM&A等の成長戦略を考えているので、手元資金を増やしており、従い、株主が誰であっても配当性向は今のところ変える予定ません」というのがあるべき回答かと思います。

ここで視点をかえますが、そもそも投資フェアに参加している個人投資家はどのような方でしょうか。

ある企業の隣のブースで、某投資会社がROE株主資本比率)の説明をしており、偶々耳にしたところ、その内容は「ROEとは何であるか」といった極めて初歩的な説明であったため、こんなことをわざわざ聞く個人投資家がいるのかと思い目を向けたところ、驚いたことに多くの参加者が熱心に耳を傾けておりました。

それを見て、会場にいる方は、財務諸表や株式指標の「イロハ」の「イ」も知らず投資しているのだろうなと思いました。

昔、ある投資ファンドマネジャーが、個人の大部分は決算短信などの財務数値の詳細を読む能力もなく、従って読んでもおらず投資をしているという記事を読んだことがあります。恐らく株価チャートあたりを見て、株価のトレンドだけで判断しているのでしょう。

勿論、企業を経営して成功されている中小企業のオーナーの方や資産家の方は、そもそも投資資金が潤沢にあるので、そのような細かい財務数値など知らずとも数千万円から数億円を、優良な安定配当企業にポンと投資するだけで十分なインカムゲインを得られます。しかし、圧倒的大多数を占める普通の個人投資家は、わずかな資金を少しでも増やしたいと思い投資するのですから、投資のリターンの精度を高めるためには、細かい財務分析が必要になるように思います。

ここで話は元に戻りますが、この程度の知識しかない個人投資家が相手であれば、先ほどの企業のIR担当者の回答であっても個人は何もおかしいとは思わないでしょう。

しかし、資本市場と投資家との対話が変わる大きな変化の中、先ほどの回答をした中堅企業のIR担当者は、もう少し勉強をする必要があります。

もし個人的投資家にも安定株主として企業のファンとなって欲しいということでこのフェアを開催しているのであれば、企業も業績の詳細、個人投資家の最大の関心事である株主還元や余剰資金の使途、株価対策などに十分な説明をすることが必要になるのではないでしょうか。

そうしないと、少しでも株価が上昇すれば、それが理論株価を下回っていても個人投資家は株式を売却する方向に向かい、仮に物言う株主が増配の株主提案をしたような場合には、何の躊躇もなくこれに賛成を表明することになります。

安定株主(自社のファン)を増やすという意識で個人投資家フェアを開催しているのであれば、少なくとも私が説明を聞いた企業は、今一度自社の資本戦略や対外的な説明内容について考え直す必要があるような印象を持ちました。

株価の割安の判断指標(EV / EBITDA倍率、ネットキャッシュ / 時価総額比率)

前回、株価が割安か否かの判断基準として、 EV / EBITDA倍率、ネットキャッシュ / 時価総額比率について触れましたが、本日はそれについて簡単に説明いたします。

 

1.EV / EBITDA倍率(倍)(= EV ÷ EBITDA)

これはEV(Enterprise value = 企業価値)がEBITDAの何倍あるかを示すものです。EV(イー・ブイ)、つまり企業価値ですが、次の算定式で算出されます。

EV = 株式時価総額 + 有利子負債(デット)-現預金(キャッシュ)

   = 株式時価総額 - ネットデット

勿論、企業の中期経営計画からEVを算出するDCF法もありますが、上場企業の場合には、株式時価総額が1つの判断基準にもなりますので、上の式で算出されます。

次にEBITDA(イービッダー)とは、営業利益+減価償却費ですが、減価償却費はPL上の費用に計上されますが、実際にはキャッシュとして外に出ていかない費用ですので、本業での利益である営業利益に足し戻すことでEVITDAが本業(通常の営業活動)での利益となります。

これが低いということは、企業価値でこの会社を買収しても、短期間で投資金額を回収できるということです。

仮に企業価値が100億円、EBITDAが20億円とします。この会社を100億円で丸々買収しても5年で回収できるということになります。平均倍率は企業の属するセクターによって異なりますが、おおよそ7~8倍程度が全体の平均かと思います。EV / EBITDA倍率が同業他社に比べて低いということは、その企業の株式時価総額が低いということになります。

 

2.ネットキャッシュ / 株式時価総額(%)(= ネットキャッシュ ÷ 株式時価総額)

株式時価総額と比べてネットキャッシュがどの程度あるかという指標です。まず100%以上あるような企業は株価が割安といえます。

単純に考えると、株式時価総額が100億円の企業でネットキャッシュ(=現預金-有利子負債)が150億円の企業の場合、100%を超えますが( = 150 ÷ 100(%))、これはつまり100億円で買収して150億円のキャッシュを手にすることができます。結果、差し引き50億円を取得できることになります。これは、株価が割安に評価されているということになります。

100%を下回る場合でも、この比率が高い場合は、上に記載の算式からEVが小さいといことになりますので、本来の理論株価に比べて市場で株価が割安に評価されているといことになります。

これら以外に株価が割安かどうかを判断する指標はあるかと思いますが、代表的な指標について簡単ですが紹介いたしました。

 

サーベラスの西武HDの全株式売却の報道に見る企業の今後の株主政策

8月17日の日経新聞で米投資ファンドサーベラス・グループが西武ホールディングス保有株式全株を売却したとの報道がありました。サーベラスは2006年頃に西武HDの株式を約30%保有して、その後、色々な提案を西武HDに行ってきましたが、その後、段階的に売却を売却し、保有比率が低下していました。

サーベラスとは米国のアクティビストファンドであり、いわゆる物言う株主になります。サーベラスが大株主になることで、西武HDの業績にどういう影響があったのかまでは把握していませんでしたが、新聞報道によると、サーベラスが投資した1,000億円が元手になりホテル事業が復活し、「既存ホテルの平均客室単価を引上げる戦略も成功。営業利益は2006年度から10年で5割増の624億円まで回復した」とあります。

この報道を受けてあらためて思ったのは、企業にとっては、物言う株主は、自社の経営に口を出す部外者という意識が強いと思いますが(当然ですが)、一般の株主にとっては物言う株主の存在は自分たちにとって都合が良い存在と映る可能性が大ということです。

これは想像ですが、もし、サーベラスが投資をしていなかった場合、西武HDが現状のような業績回復が出来ていたでしょうか。出来ていたかも知れませんが、簡単には思いきった投資などはできずに、回復に時間がかかったかも知れません。

サーベラスが会社に対して積極的な提案をしたという「外圧」があったからこそ同社の企業価値の向上につながり、結果、一般の株主も株価上昇による恩恵を受けたといえるような気もします。

とすると、前にも何度かブログに書いていますが、物言う株主に賛同する一般株主は増える傾向にあるということになります。特に、合理的に判断する外国人株主や国内機関投資家といった株主の株式保有比率の大きい企業は、物言う株主の提案に賛同するケースが多く、個人株主も、オーナー一族を除けば、物言う株主の提案が自己の利となるのであれば、物言う株主の提案に賛同する方向に確実に向かいます。

以前に日経ビジネスか何かの雑誌で「一億総アクティビスト時代」といった用語を目にしましたが、投資ファンドが口火を切ることで、全ての株主がアクティビストになるということが言えるようにあらためて感じました。

話は少し変わりますが、約1週間の夏季休暇中に、今週末に東京ビックサイトで開催される日経IR・投資フェア2017の出展企業の中で中小型株銘柄に該当する時価総額数百億円規模の企業15社ほどの財務諸表を眺めました。

バランスシートを見ると内部留保が潤沢であり、総資産に占めるネットキャッシュ比率がかなり高く、配当性向は30%台はあっても「更なる増配の余地も十分あるのでは?」と見受けられる企業が散見されました。

また、総資産に占めるネットキャッシュ比率が高く、市場で株価が割安に評価されていると考えられる企業も散見されました。ちなみに割安株の判断基準は、PBR、EV/EBITDA倍率、ネットキャッシュ/時価総額比率などの指標があります。

EV/EBITDA倍率で1桁程度の倍率で、ネットキャッシュ/時価総額比率がかなり高い企業もありました。これは市場で株価が割安に評価されていることを意味します(PBR、EV/EBITDA倍率、ネットキャッシュ/時価総額比率の指標の意味については、少し長くなるので、次回はこの3つの指標について紹介いたします)。

そして、全ての企業では勿論ないですが、これらのキャッシュリッチ、割安株の企業の外国人比率を見ますと数パーセントから10%台が多いです。

本来こういった企業は、増配や自己株買いの要求が株主からあったり、割安を理由に買収されるリスクのある企業と言えますが、外国人比率や国内機関投資家による株式保有比率が小さいため、現実には物言う株主の提案に賛同する株主がいないため、そういったリスクを懸念する必要はないのかも知れません。

しかし、将来、外国人株主の比率が高まった場合や、持合解消の動きの中、自社の株式を保有している取引先が株式を売却し、機関投資家や個人株主の比率が大きく増えた場合には、サーベラスのようなアクティビストが株式を保有して提案をしてきた場合、この提案に賛同する株主が多くなることを考え、あらためて株主政策については考える必要があるのではないでしょうか。

これまではIRや株主政策にあまり目を向けてこなかった企業は、昨今の資本市場の変化の中、単に社外取締役を増やすといった形式的なことで満足するのではなく、社外取締役が出席する取締役会で資本政策、株主政策をきちんと検討すべき時期に来ていると思います。

次回はPBR、EV/EBITDA倍率、ネットキャッシュ/時価総額比率などの割安株の指標について簡潔に、かつわかり易く解説をいたします。

シンガポールの転職率が欧米を超える

8月18日の日経新聞の記事によれば、あるグローバル人材サービス会社の労働者意識調査の結果、「終身雇用の概念がなくなった」との回答について、ポルトガルが最多の86%で、次にシンガポール、香港などが続き、日本は米国と同水準の72%ということのようです。

同記事では、過去6ヶ月に転職した人の割合は、マレーシアとインドが最多で、シンガポール、香港が上位を占め、転職活動中の割合はインド、シンガポールがトップ2を占めたとのことのようです。

シンガポール現地法人で現地採用者が高い頻度で離職するということは、まわりでよく耳にしていましたが、シンガポールの転職率がグローバルで見てもトップに近い位置にあるということは知りませんでした。

日本企業でグローバル展開をしている企業は、現地法人では、役職なしの一般社員からマネージャークラスまで現地採用を進めていることも大変多いと思います。そして、本社でグローバル会議といった名称で現地採用者を日本での会議に招聘するケースも結構あるのではないでしょうか。本社のある日本での会議や場合によっては、他の国の地域での会議に参加させるということは、色々な意味で本来望ましいことではあるのですが、このように離職率が高いと少し考えるべき必要があります。

現地で採用した後に日本や米国でのグローバル会議に参加させた後、現地に戻って数ヶ月後に退職したという話も時々耳にします。そうすると会議への参加が単なる観光旅行にしかなりません。観光旅行のコストを企業が負担しているということです。

これは単なるコストだけの話ですが、より重大なのは、転職による機密情報の流出のリスクです。ローカル採用者は、本社採用の社員とは、雇用意識において根本的に異なるのであり、シンガポールなどの離職率の高い地域でのローカル社員には、情報流出に最大の注意を払う必要があるということで日本企業は、対策をあらめて考える必要があるのではないでしょうか。

 

 

 

ROA(総資産利益率)~ 「未来投資戦略2017」での新目標

2017年8月3日の日経新聞で「政府成長戦略、企業の稼ぐ力に別指標『ROA』」という記事がありました。

政府が本年6月に公表した成長戦略「未来投資戦略2017」で、「ROA」の改善が新目標として掲げられたようです。「未来投資戦略2017」では、大企業(TOPIX500)のROAについて、2025年までに欧米企業に遜色のない水準を目指すとしています。

ROA総資産利益率)とは、総資産に対する収益性の指標であり、ROA = 利益÷総資産(%)で算出されます。

新聞報道では、ROAの算定式の分子の「利益」には「純利益」が使われていますが、「利益」に何を置くかは企業によって異なり、おそらく「営業利益+受取利息・配当金(金融収益)=事業利益」を「利益」とするのが本来適切かと思います。この点は後で触れますが、ひとまず、新聞の記事に併せて「利益」を「純利益」とおいて話を進めます。

これまで資本市場からはROE(=純利益 ÷ 株主資本(%))の向上が求められてきました。伊藤レポートでもROE8%以上を企業は目指すべきとされています。ROEをこれまで指標として重視してきた中でROAを政府が目標に加えた理由は何でしょうか。

新聞報道によれば、ROEをあまりに重視すると株主至上主義に陥ることになりがちで、企業の保有する資産に基づく収益性の向上に必ずしもつながらないということが背景にあるようです。

以前にブログでも書いておりますが、ROEは分解すると(デュポンシステムといいます)次の式になります。

ROE = 純利益 ÷ 株主資本 = 売上高純利益率 × 総資産回転率 × 財務レバレッジ

このため、純利益率が低い、また回転率が低くても、株主還元を行うことで財務レバレッジを高くすれば、ROEは向上します。しかし、株主還元とは、配当や自社買いを意味し、これにより利益を享受するのは当然株主に限定され、会社債権者などは利益を享受できません。つまりROEのみを重視すると、株主のみを偏重することにもつながりかねないというものです。

一方、ROAは次の算式になります。

ROA = 純利益 ÷ 総資産= 売上高純利益率 × 総資産回転率 (新聞報道に併せて分子を「純利益」としています)

算式を見て分かるようにROEとの違いは、財務レバレッジの点です。ROAROEの構成の一部といってよいかと思います。

ROAを向上させるには、①売上高に対する収益性を高める(=売上高純利益率のアップ)②少ない資産で大きな売上高を上げる(=総資産回転率のアップ)が必要になります。

バランスシートの右側は、他人資本自己資本で構成され、これら全てを活用して企業が効率的に利益を上げられるかの指標がROAになります。ROAの改善を目標にすることで、従業員や会社債権者といった株主以外のステークホルダーの目線にそって、効率的に稼ぐことが期待できるというものです。

さて、ここで、ROAの分子となる利益ですが、日経新聞の報道では純利益を使っていますが、「事業利益」とするのが本来より適切と考えます。

企業活動は大きく①営業活動と②金融活動・財務活動に分けられますが、株主資本と他人資本を活用した企業の収益性を見るというのがROAですので、とすれば、①と②を分子に入れないと分母と分子が一致しないと思います。

そして、①はPLで見ると、営業利益であり、②は受取利息・配当金といった金融収益になります。結果、ROA=事業利益 ÷ 総資産(%)となります。

純利益を分子にすると、特別損益が加減されるので、毎期純利益が変動し、ROAも不安定になります。ただし、ROEとの単純比較という点では、分子を純利益を使うことで、ROEROAの比較がし易いというメリットは 一応あります。

ROAは、ROEと異なり公表している企業は多くないと思いますが、公表している企業によって、分子の利益に、営業利益を使用したり(この場合、企業の財務活動による収益である金融収益が入ってきません)、経常利益や純利益を使うケースなど色々とあり、企業間の比較をする場合には、その企業がROAの算定の分子に何の利益を使用しているのかを見ないと比較ができないので注意が必要になります。

今後、ROAの開示が決算短信有価証券報告書において要求されることになるのかなど注視すべき事項と思います。

なお、「未来投資戦略2017」には、コーポレートガバナンス改革による企業価値の向上、経営システムの強化、中長期的投資の促進、事業再編の円滑化といった取組みが含まれているようですの、一度じっくりと読んでみたいと思います。

書評:「実況LIVE 企業ファイナンス入門講座」(ダイヤモンド社)

本日は、ファイナンス関係の入門書について紹介させていただきます。そもそもこのブログでは読んだ本や参考になった雑誌なども当初書いていくつもりでしたが、これまで出来ていませんでしたので、はじめての書評となります。

ダイヤモンド社から2008年に出版された書籍で、「実況LIVE  企業ファイナンス入門講座」(保田隆明 著)というものがあります。著者は、リーマンブラザーズ証券、UBS証券投資銀行業務に従事してきた40代半ばの方です。私は、この本が出された直後に(10年近く前でしょうか)、知り合いの投資銀行の方に勧められ当時購入しました。

しかし、当時は、法務部に所属し、財務会計とは全く縁のない世界におり、当然ながら実務でファイナンスを使うこともなければ、有価証券報告書決算短信を読んで企業分析をするなどという経験もなかったので、最初の20ページほど読んで挫折し、そのまま書棚に眠っていましたが、昨日、夏季休暇ということもあり、書棚を整理していて出てきたので、久しぶりに読み直しました。。

今になると、実務でやっていることのおさらいで、さっと読めるのですが、この本はファイナンスの入門書として良書と思います。そもそも著者が2007年よりアカデミーヒルズで「はじめてのM&Aコーポレートファイナンス」というテーマで数回に亘って開催した講義をベースにしたもので、その講義が一般のビジネスマンを対象にした内容になっています。企業価値の算出方法、株主還元の考え方、資金調達といったテーマで基本的な事項が分かり易く書いてあります。

さっと読め、自分の知識の確認になり、またあらためて初歩的な事項の考え方が確認できたので、捨てずに保管しておいてよかったとあらためて思いました。著者は、比較的マスコミの露出も高い方で、この本を書く前に「M&A時代 企業価値の考え方」という本も書いています。個人的にはどちらも入門書としてはお勧めです。

ただし、入門書というタイトルの書籍によくありがちですが、「ROEとは?」「配当性向とは?」「PERとは?」といったように全く会計やファイナンスの知織がない人には、「入門講座」というタイトルにはなっていますが、理解は相当難しいと思います。実務でファイナンスに関わって日が浅い実務担当の方や企業価値評価やIR戦略などに今後関わることになる方など初心者の方が読むべき本と思います。

なお、ファイナンスの入門書ということですと、光文社新書から出ている「ざっくり分かるファイナンス」(石野雄一 著)なども分量が少ないわりに、資本コストの考え方、投資の判断基準などが簡潔に書いてあります。勿論、基本的な考え方であり、実際に実務上、分析をするにはもう少し知織が必要にはなるのですが、基礎を理解するという点ではこちらもお勧めかと個人的に思います。なお、こちらも前提知織がない方には、やはり理解は少し難しいと思います。

簡単になりますが、久しぶりにファイナンスの入門書が書棚から出てきたので、夏季休暇ということで時間もあり読んだので、私の個人的な感想を書かせて頂きました。

引き続き、読んで良書と思われるビジネス書などがあれば、ブログで簡単な書評を書いていきたいと思います。

日経IR・投資家フェア2017が開催されます(8月26日(金)・27日(土))

先日の新聞報道によると日経平均株価を構成する225社の予想PERが14倍と低下しているとのことでした。

PERとは、株価収益率で株価を1株当たり純利益で割ることにより算出されます。米国の大統領選挙の結果が判明した11/9以来、9ヵ月ぶりの水準まで下がっているということです。

企業業績が好調の中、PERが低いということは、日本株が割安になっているということです。通常は企業業績の成長性が低いとそれに対する市場の期待は小さくなりますので、PERも低くなるのですが、企業業績が好調の中、PERが低いということは日本株が割安に評価されているということです。

ということは、海外投資家や国内機関投家による日本株の買いが今後増えていく可能性があるかもしれません。

さて、8月26日・27日に東京ビックサイトで日経IR・投資家フェア2017が開催されます。27日(土)は、伊藤レポートで有名な一橋大学の伊藤邦雄教授やブラックロックジャパンの担当者などによる講演もあり、これはこれで一応関心がありますが、それ以上に関心があるのは、80社ほどの上場企業がブースを設けて出展し訪問した投資家に会社説明を行うという点です。

もっとも上場企業といっても、ほとんどが売上高が数百億円クラスの上場企業で、時価総額では200億円から600億円といったいわゆる中小型株にあたる企業です。業種は、飲食運営、法的開示書類のサポートをする企業、歯科材料メーカー、キャンプ品のメーカーなど様々です。

はじめて聞くような名前の企業が多いのですが、私は昨日から夏季休暇に入ったこともあり、HPをぱっと見て個人的に関心のありそうな企業を30社程度選び、有価証券報告書で各社の財務情報を見て、PER、PBR、ネットキャッシュ比率などの株式指標データや損益実績・予想値などをエクセルでまとめてみました。

結果、キャッシュリッチである一方、配当性向がそれほど高くなく、結果ROEも低い企業や、業績に比べて株価が割安に評価されているいと推測される企業が意外に多いことに気づきました。また、それとともに、これらの中小型株企業の海外投資家比率が数パーセントから10%程度とかなり低い割合であることにも気付きました。

通常、キャッシュリッチ、株価が割安といった場合には、海外投資家から増配要求などを強く受ける可能性があり、さらにはアクティビスト(物言う株主)に狙われるリスクもあり、海外投資家比率が30%を超える大手企業は、このような状況にかなりセンシティブになります。

しかし、これら中小型株企業は、海外投資家比率も極めて低い上に、国内機関投資家も低いため、そもそも資本市場での目線、海外投資家の目線、コーポレートガバナンスといった点には、あまり敏感なタイプではない企業も少なくないように個人的に思えます。

上場企業とはいえ、オーナーや取引先などの安定株主比率が高いのであれば、海外投資家や国内機関投資家の声などをさほど気にする必要はないというのも分からないのでもないのですが。

この夏季休暇を利用して、仮に自分がこれら企業の株式を保有したとした場合、投資家目線で論理的に指摘し得うる事項はあるかという観点から、7~8社に絞り、これらの企業の有価証券報告書や過去のアナリスト説明会資料をじっくり分析しようと思っています。

その上で、8月27日(土)の日経IR・投資家フェアを訪問して、各社のブースに行き、事業内容や業績見通しなどについて企業サイドの考えを聞いてみて、株主還元の余地があるのかといったように投資家目線でどう考えるべきかを一歩掘り下げて分析したいと思います。

27日(土)のIR・投資セミナーを訪問しての感想などは、後日、ブログに掲載したいと思います。

相談役・顧問の役割開示について東証の新制度設立の動き

8月3日の日経新聞に、2018年から東証に提出する報告書で相談役・顧問の氏名、業務内容、報酬の有無などの開示を促す方針であるとの報道がありました。

相談役・顧問に対する批判は、東芝の例を契機に議論の高まっているところであり、J・フロントリテイリング日清紡ホールディングスが本年、相談役・顧問制度を廃止しているのは記憶に新しいかと思います。

相談役・顧問に対する批判の背景は、以前にブログでも書いておりますが、要するにその役割や報酬が外から見えないにもかかわらず、元経営トップということで、自分の元後輩である現経営トップや経営陣に強い影響を及ぼすことがけしからんというものです。

いわゆる院制というもので、院制などという言葉は、高校生の時の日本史の教科書でも、奈良時代平安時代の皇族でも同様の話はあったので、要は組織あるところ古より存在したということかと思います。

相談役・顧問の透明性は、政府の成長戦略の中の重点政策の1つで、経産省東証が開示の拡充を検討していたようです。私のような立場の者が、経営トップを経験した相談役についてとやかくいう資格も経験もなく、当然のことながら相談役と現職の経営トツプの会話・影響など知る由もないのですが、会社法の原則の照らすと、経営に影響を及ぼすことがありながらも、相談役は会社法上の役員ではないので、自分の指示に起因して会社に損害が発生し、ひいては株主や取引先に損害が及んでも、法的に会社や第三者に対して責任を負う地位にないという点が大きな問題かと考えます。

開示の方は今後決まるということですが、具体的に各社どのような開示を行うのか興味深いところです。

普通に考えると、相談役の業務内容は、「経営に対するアドバイス」のような抽象的な記載になるのかも知れませんが、この場合だと、透明性ありとは言えないように思えます。

ポイントは、相談役・顧問が経営にどのような影響を及ぼしたかを明確にすることにありますので、よりつっこんで、個別具体的案件名に対してどういうアドバイスを行い、その結果、経営陣がどういう意思決定をしたかを明確にする必要が本来必要になっていくのではないでしょうか。

現時点では、相談役・顧問の役割を開示するということにとどまっていいますが、経営に影響を及ぼす役割を有しているのであれば、将来会社法も改正され、役員の定義に相談役・顧問が入る、または、役員でないが役員と同様の責任を会社法上も負うことになるといった会社法改正の動きも出てくるのかもしれません。


いずれにせよ、機関投資家との対話の高まりの動きの中、相談役・顧問の開示について上場企業は、今後色々と検討することになってきます。