中長期的な企業価値向上のためのコーポレートガバナンス・アドバイザー / 長期での中小型株の割安株投資情報

最近のコーポレートガバナンスと資本市場の動向を踏まえ、上場企業実務の視点から中長期での企業価値向上に役立つ情報分析・発信をしていきます。個人投資家のコーポレートガバナンス力の向上による「意思のある投資」に役立つ情報発信もしています。また長期での割安株投資の情報も

スチュワードシップ・コードとは?

2017年5月29日に金融庁からスチュワードシップ・コードの改訂版が出ました。

2014年2月に金融庁がスチュワードシップ・コードを制定して3年後に改訂を行うということで、今回改訂版が出たことになります。

スチュワードシップという言葉はここ数年新聞等でよく出てきますので、目にする方も大変多いと思います。ではスチュワードシップ・コードとは何でしょうか?

スチューワードシップ・コードとは上場企業に投資をする機関投資家に対する行動規範を纏めたもので、具体的には、機関投資家はアセットオーナーから金を預かり、それを上場企業に投資して運用していますが、投資しっぱなしではなく、積極的に企業サイドと対話をして投資先企業の中長期的成長を支え、ひいては、アセットオーナーの利益を図るようにしなさいというものです。

今回の改訂の大きなポイントは次のとおりです。
①運用機関のガバナンス強化
②パッシブ運用における企業との対話の充実
機関投資家の議決権の個別開示の充実

①は、運用機関は大手の金融機関のグループ会社であるケースも多いのですが、その場合、親会社である金融機関と企業との関係を考慮して(借入先金融機関は企業の安定株主となります)、株主総会の議決権行使に当たって会社提案になんでも賛成するのではなく、機関投資家のアセットオーナーの利益を考えて、適切な議決権行使をするよう機関投資家のガバナンス体制を強化すべきというものです。要は企業との馴れ合いを防止するということです。

②は、機関投資家はパッシブ運用においても企業との対話をきちんと行うようにしないというものです。パッシブ運用とは、株価指数に連動させて投資を行う運用です。反対言葉にアクティブ運用があります。

③は以前にブログでも何度か書いていますが、議決権の行使結果を個別企業毎に開示しなさいというものです。

最近、3月期決算企業の株主総会が近づいていることもあり、機関投資家の議決権の個別開示の記事がかなりの頻度で新聞に掲載されていると思います。本日の日経新聞でも三菱UFJ信託銀行の個別開示の記事が出ていました。

スチュワードシップ・コードは投資サイドである機関投資家に要求されるものですが、結局は発行体である企業と対話する必要があるのですから、企業としても積極的な対話が求められることになります。

積極的な対話を行うことで自社を良く理解してもらい、これが場合によっては株価の向上につながりますし(ただし、株価の変動はあくまでも基本は業績です)、また、最近話題のアクティビストが会社に提案をした時に、その内容が株主の利益を毀損するものである場合には会社がそれを説明して、会社側に立つ味方の株主を増やすという観点からも非常に大事になってきます。

資本市場との対話を行う部署としては、多くの上場企業ではIR部門がありますが、IR部門の主たる業務は、アナリストを対象にしての決算説明が中心になります。今後はIR活動において、従来の数値説明に加えて、より幅広い企業全体の情報を提供することが求められるように思われます。

つまり製品やサービスを顧客に説明して購入して貰うのと同様に自社をアピールして投資家に理解してもらうという一種の宣伝・PRを行う業務が今後は益々重要になってくると思われます。

企業のネットキャッシュが増加

6月9日の日本経済新聞によれば、企業のネットキャッシュが増加しているとのことです。ネットキャッシュとは、純現金で、次のとおり算出されます。

ネットキャッシュ = 現預金+短期保有有価証券-有利子負債

ざっくりといいますと、現預金は、バランスシート(BS)の資産の部又はキャッシュフロー計算書にある「現金及び現金同等物」、「有価証券」であり、有利子負債とはバランスシートの負債の部にある「短期借入金」「長期借入金」「社債」などになり、有価証券報告書の後ろの箇所に借入金等明細表があるので、そこの数値になります。要するに保有する現金(キャッシュ)から借金を引いた数値ということです。

ネットキャッシュが増加するということは現預金が増えたということで、新聞報道によれば、増加したことにより、配当や自社株取得に踏み切る企業が多くなるということです。ちなみに自社株取得とは株主が保有する自社の株式を買取ることで、対価として株主に金銭を支払うことになりますので、配当と考え方は同じです。


この記事に関連して配当の基本的な事項について、少し考えてみたいと思います。

 

配当を行うには、基本的にはバランスシートの純資産にあります繰越利益剰余金がその上限になります。この繰越利益剰余金は、毎期の損益計算書(PL)の当期純利益がここに蓄積されることになります。この繰越利益剰余金のことを内部留保といいます。

では、内部留保が100あったとした場合、これは全て配当できるのでしょうか。

ここで、現預金との関係を考える必要が出てきます。実際に配当として株主に支払われるのは現金になります。従って毎期の利益が蓄積して繰越利剰余金が仮に100となっても、現金が30の場合には100の配当はできません。利益が蓄積して繰越利益剰余金が100となり、一旦現金が100となっても企業が、例えば設備投資をして70で有形固定資産を購入した場合には、現金は30となります(現金勘定が減り減った部が有形固定資産勘定に移ります)。このように「繰越利益剰余金=現金」ではないのです。

内部留保を取り崩して配当を増やせ」という新聞・雑誌記事を見かけ良く理解をしていない方は、「この企業はこんなに内部留保があるのか。これは配当して貰う必要があるな」と考える人もいるかも知れませんが、この話の前提には上の議論があることを理解しておく必要があります。

なお、今回の新聞報道では、純粋に現金が増えたということですので、当然増えた分は、繰越利益剰余金を上限としてその範囲内で配当はできます。ただし、現預金が100、繰越利益剰余金が50となった場合(あまり想定し難いかも知れませんが借入をして現金が増えたような場合でしょうか)には50が配当の限度になります。

以上、財務・経理やIR部門の方にとってはイロハのイのような初歩的な内容ではありますが、数値を扱わない部門の方は理解されていない方も多いと思いますので書いてみました。

米英投資家による日本企業向けの集団的エンゲージメント活動

6月9日の日本経済新聞で、米国最大の公的年金と英運用3社が日本企業への統治改革への働きかけで共同歩調をとり、社外取締役の数を全体の3分の1以上にすることを要請し、これに応じない企業には、株主総会での役員選任議案に原則反対票を投じるという記事がありました。


東証の方針では「2人以上」の社外取締役を要請していますが、日本国内の機関投資家も3分の1以上の社外取締役の設置を要請するところも多いです。なお、今回、この海外4社の日本株保有額は4兆円を超えるとのことで、企業にとっては関心の高い話題かと思います。

上場企業の中で、外国人比率が30%を超えていくような企業は、今後、社外取締役を3分1以上選任しておかないと、取締役及び監査役の選任議案の海外投資家家の反対が増え、この動きに他の国内機関投資家も賛同するということになりますと、議案の賛成(50%以上の賛成率)の確保も難しくなる懸念があります。

とすると、単純に考えると3分の1以上になるように社外取締役を選任しておくということが必要になります。

もう1つ考えられることは、現在の社外取締役の員数はそのままで、社内取締役の員数を減らすということがあるかと思います。

そもそも、売上高が数百億円から2,000~3,000億円程度の規模しかないのに、取締役の数が売上高数兆円規模の超大企業と同等の員数の取締役がいるという会社も見たことがあります。しかし、現実には、この規模の企業であれば、取締役の員数は一定数減らしても業務にはまず支障はないとい言えます。

より具体的にいうと、そもそも取締役の員数がどうして多いのかということは(会社法上は最低3名いればよいとされています)、取締役の椅子をある程度用意して、頑張ればこの椅子に座れるということで従業員に業務に邁進するインセンティブを与えることが目的の1つであり、実のところはある程度減らしてもまったく業務には支障はないと思います。ただし、あまりに減らすとインセンティブが働かなくなり、業務に邁進する力が弱くなるという懸念はあります。

さて、話が少し脱線しましたが、記事によれば、日経平均株価を構成する225社の企業のうち、3分の1以上の社外取締役を充たす企業は40%ということです。したがって、残り60%の企業は今後対策必要になってくるかも知れません。

6月12日週前半に日本の企業統治改革に向けた具体的要請内容を共同公表するということですので、その内容を見て気になる箇所があれば継続して見ていきたいと思います。

M&Aによるデータ集中も企業結合審査の対象になる

6月7日の日本経済新聞で、公正取引委員会公取委)がM&Aの企業結合審査においてこれまでのように市場シェアの観点の審査をするだけでなく、企業活動に有益なデータが過度に集中しないかもチェックする考えを指針に盛り込むとの記事がありました。

まずは、そもそもどうして市場シェアが高くなるM&Aは規制されるのでしょうか。日本のみでなく各国ともM&Aの際には、同様の規制があります。

市場シェアが高くなると当該企業の市場での地位が強くなり、結果、市場競争が働かなくなり、顧客が高い値段で製品・サービスの供給を受けることになるのが許容されないということです。

要するに同じ市場シェアの企業が競争していれば、各社とも市場競争をすることになり、製品・サービスを受ける顧客にとってよいことなのですが、M&Aという手法で圧倒的に市場シェアの高い企業が出現することになると(M&Aでなく通常の市場競争で他社シェアを奪い、シェアが高くなった場合は当然に許容されます)、市場競争が働かなくなり、結果、顧客が不利益を被るので許されないというものです。

今回、これにプラスしてM&Aによって特定企業のデータが集積する場合も規制されることになる模様です。

昨今、人口知能(AI)によって膨大なデータが分析できるため、大量の情報を保有する企業は、それを簡単に分析しビジネスに繋げて市場での優位性を確保できます。

とすると、市場シェアが高まる場合と同様に、市場での圧倒的な勝者となり、つまり市場シェアが高まることと結局は同じことになり、顧客が不利益を被る可能性が出てしまうので規制しようということが趣旨かと思います。

公取委のHPを見たところ、方針が掲載されておりましたので、後で読んで気付いたところがあれば、また後日書いてみたいと思います。

アクティビストにとってプラス材料となる機関投資家の議決権個別開示


数日前の日経新聞金融庁機関投資家向けの議決権の個別開示の規範を決めたという記事がありました。

議決権行使の個別開示とは、国内機関投資家は株式を保有する会社の株主総会の議案に対して賛否表示をした結果について、会社別及び議案別に賛否の開示しなければならないというものです。

議決権個別開示が企業サイドに及ぼす影響は色々とあるかと思いますが、留意すべき事項の1つは、個別開示がいわゆる株主アクティビストにプラスに働くように思えます。
つまり、アクティビストとは、新聞報道で良く目にするオアシスマネジメントやサードポイント、エフィッシモキャピタルマネジメントなどがこれに該当しますが(勿論これ以外にも沢山存在します)が、要するに、少数の株式を取得して他の一般株主の賛同を得て、役員選解任、増配、事業売却、他社とのアライアンスなどを会社に積極的に提案する株主のことをいいます。最近の例ですと、村上ファンド系のエフィッシモキャピタルマネジメントが東芝の株式を取得したケースが記憶に新しいかと思います。

ここでどうしてプラス材料になるかといいますと、まず株主総会の議案は、通常は取締役会が決定する会社提案がほとんどですが、会社法上は、一定比率の株式を保有する株主も議案を提案できます。株主提案といいます。アクティビストも当然に株主提案を行うことになります。


単純な例をあげますと、株主総会において会社サイドは、議案として「1株5円の配当」を提案するとします。一方で、アクティビストは、「1株10円の配当」を株主提案したととします。これに対して、株主総会において、株主である機関投資家はいずれかの議案に賛成をすることになり、この結果が開示されます。
これまでは、個別開示はなかったので会社との付き合いもあり、会社との関係を考慮して会社提案に賛成票を投じることもあったかも知れません。しかし、今後は個別開示という「見える化」の中、仮に会社提案に賛成した場合、何故少ない配当の議案に賛成票を投じたのかをアセットオーナーに説明することが求められます。

会社が繰越利益準備金及びバランスシートの現預金が十分になり、手元流動性比率(現預金÷月商)も数ヶ月ある、いわゆる「キャッシュ・リッチな企業」であれば、1株10円の配当議案に賛成しないとアセットオーナーは納得ししないと思います。このため、機関投資家は、株主提案に賛成をすることになるのです。このように、個別開示は、理論的な要求を行ってくるアクティビストにとっては追い風となるので、日本企業としては、株価の低い企業などはアクティビストの要求に応じざるを得なくなるケースが今後はこれまで以上に高くなるようにも思えます。

では企業サイドはどうすれば良いかですが、株価を上げるということも言われますが、アクティビストは数パーセントの株式取得にとどまるケースも多いので株価を上げたところで、資金の潤沢なアクティイストの出現防止にはあまり効果はないと思います。また、買収防衛策の導入ということもありますが、通常は発動の条件を15%~20%以上の株式取得をしているケースがほとんどで数パーセントの株式を取得して、会社に要求してくるアクティビストには発動できません。

となると、自社が市場からどのように見えているかをきちんと認識して、市場の考えにそぐわないようであれば訂正する、または市場の評価と異なる事項についてきちんと理論武装をして(キャッシュリッチであればそれは買収や将来の成長投資の資金である等を明確にする)常日頃からしておくことがいざという時の対応として大事になってくるように思います。

必ずしも「買収防衛策=(イコール)機関投資家は反対」ではない

先日の日経新聞によれば、2017年1月~4月の期間に買収防衛策を廃止した企業数は14社になり、大きく増えているということのようです。さらに2日ほど前にも買収防衛策廃が増えているとの記事が日経新聞にまた出ていました。

買収防衛策は以前にブログで詳細に掲載しましたが、会社の発行済株式について大量に取得(10%~20%程度)しようとする買収者に対して、会社に意向表明書の提出を求める等して、企業価値を損なうものでないかどうかを会社が検討し、場合によっては株主総会に諮り株主の判断に委ねるので、それまで買収を開始しないようにというルールをあらかじめ株主総会の決議を経て導入しておき、そのルールに違反した場合には、買収者以外が権利行使できる新株予約権・新株を発行するというものです。この結果、買収者の取得した株式の議決権の比率を希釈化させるというものです。詳しくいいますと、もう少し色々とあるのですが、単純にいうとこういう感じです。

買収防衛策に対する機関投資家の議決権行使に対する見方は厳しくなり、株主総会での会社の提案する買収防衛策議案に対する反対が増えているということのようです。

しかし、私が実際に機関投資家と話をした限りでは、この反対には一定の条件をつける必要があり、この条件を充たして会社の買収防衛策に対しては、現時点では機関投資家は賛成しているという感覚をもっています。

2、3年前からも買収防衛策に反対という機関投資家はおりましたし、当時は賛成していた機関投資家の中には、厳しくなっているところも勿論ありますが、ROEが一定比率あり、業績も悪くない会社であれば、現時点においては2、3年から大きく行使基準は変わらないと思います。

実際に機関投資家20社程度とこういった討議をしてきました私の実務経験に基づきくものです。勿論、全体として厳しくはなってきているので、業績の低迷している企業や特にROEが低い会社には、数年前には賛成したいたのに、現在は反対というのはあります。

また、機関投資家に単に株主総会の招集通知を送付するだけで(買収防衛策の導入・継続は多くの会社が株主総会の普通決議事項にしています)、機関投資家に何ら事前の説明をしないというような会社には、機関投資家は反対を投じるケースも多いのもたしかです。

要するに、機関投資家との対話の機会を増やし、買収防衛策の導入・継続の趣旨を伝え、買収防衛策が経営陣の保身のためのものではないことをきちんと伝えれば、ROEが一定程度あるような会社であれば、買収防衛策議案は賛成となると思います。

どうしても新聞報道だけを見ると、こういった実務の話を飛ばして(記事を書いている新聞記者は、所詮は実務を知らない人ばかりだから仕方ありませんが)、「株主総会で買収防衛策を提案すること=機関投資家は反対」という書きぶりになり、「(機関投資家との対話を行わないで)株主総会で買収防衛策を提案すること=機関投資家は反対」という肝になる括弧の説明が飛んでしまっています。

新聞記事を読んでいて、「肝心のところの説明が抜けているのでは?」と思いました。

フェア・ディスクロージャー・ルールの成立

5月17日に改正金融商品取引法の改正法が成立しました。企業が重要な情報を開示する際に公正な開示を企業に求める制度で、フェア・ディスクロージャー・ルールというものです。

上場企業は、証券会社のアナリストと個別に面談して色々と情報交換をすることが一般的ですが、新しいルールによれば、アナリスト等に未公表の重要情報を伝えた場合、直ちにホームページ等に公表するということのようです。要は、アリストだけを特別扱いするのではなく、投資家には平等に情報を開示することを求めるということです。

フェアー・ディスクジャー・ルールの動向については、私も昨年から機関投資家やアナリストと何度か話をしましたが、アナリストの懸念事項は、このルールによって企業が開示する情報が制約を受け、結果、アナリストが十分な情報を会社から収集できないことになるのではということにあります。

私自身はまだこの改正法の詳細は見ていないのですが、新聞報道によると、未公表の重要情報がどこまで及ぶかはまだはっきりとしていないということのようで、実務上の扱いは今後、指針等が策定される模様です。

投資家との対話の強化という流れの中で、SR部(Shareholders Relationship)などを設立して企業の活動を積極的に投資家にアピールするというのが、最近のESG投資とも絡んで、最近の流れかと思いますが、これに対して今後どのような影響が出てくるのか興味深いところです。

公平な情報の提供となれば、機関投資家個人投資家を問わず、ホームページに情報開示する機会が益々増えるほか、投資家への説明会の開催頻度も現在のように決算発表の際だけでなく、定期的に開催する頻度も増えるように思えます。とすると、IR部やSR部という部署の果たす役割は益々重要になってくるように思えます。

社外取締役を目指してはいかがでしょう

コーポレートガバナンス・コードの影響もあり、社外取締役を複数選任する上場企業も多いと思います(なお、東証の要請があるのは当然のことながら上場企業であるため、非上場企業は社外取締役の設置は不要です)。

前々から社外取締役の報酬はいくらであるのか気になっていたのですが、少し前の日本経済新聞の報道で次のような報道がありました。


  100万円 ~    499万円  38%
  500万円 ~    999万円  36%
1000万円 ~ 1,499万円       14%

最多が100万円~499万円のレンジとのことで、一方、米国は2,000万円~3,000万円で欧州も1700万円とのことです。一方、三菱商事トヨタ自動車など超一流企業だと2,000万円とのようです。

これを多いと見るか少ないと見るかですが、社外取締役の業務として月1回で年間12回の取締役会の出席のみであれば、仮に500万円とすると約42万円/月となり、月1回1~2時間の出席と考えると時給にすると1時間20万円ですから大変多いですね。

知り合いのある外資系の投資銀行の方が勤務先の証券会社を退職して、現在数社の上場会社の社外取締役になったのですが、投資銀行というファイナンスのプロでなくても、役員になれない大手事業会社のサラリーマンは、他社で社外取締役を目指すのも1つの考えであるように思います。

大手企業、中堅企業を問わず、通常、役員になれない社員は50歳後半になると役職定年になり、それまでの部長・課長の肩書きがなくなり、さらには年収も3分の1、4分の1程度まで下がることがほとんどのケースです。年収が下がるのはやぬなしとしても、辛いのは肩書きがなくなり、指揮命令の権限がゼロになるので、社内での居場所もなくなります。

ここで考えるべきは、大手企業の部長クラスであれば、その会社では居場所はなくとも、それまでのノウハウや経験は中堅クラスでは貴重な財産になる可能性があるということです。

大手企業であれば、当たり前のこととしてなんら疑問に感じていないことでも、中堅企業では、出来ていないことが多いということを前職の証券会社勤務時代に知り合いの元銀行員に良く聞きました。この方は50歳で取引先に出向した方です。自分のキャリアをこれまでの勤務より小さい会社で活かせる場は沢山あるのです。その可能性の1つが社外取締役です。

ただし、大手事業会社の部長クラスと言っても、本を沢山執筆している、大学で客員教授をしてるなどの場合を除けば、世間では全くの無名の人です。毎日会社で仕事して、家に帰るだけという人生を送っている方に「是非うちの社外取締役に就任して下さい」などと言われることはまず100%有りえません。

とすると、何をすべきかですが、遅くとも40代後半には、積極的に自分のノウハウを情報発信し、中堅企業の社長・役員クラスとの交流の場を探し、自分の能力をアピールしてネットワークを早い段階から形成しておくことが大事になります。

50歳半ばを過ぎて、担当部長として、担当社員時代と何ら変わらず、一生懸命働く方もいるかと思いますが、その姿は、「真面目な人」という点では大変すばらしいとは思います。しかし、役員になれない以上は年収激減という人生最大のリスクが数年後にせまっているのであり、それを考えると真面目にコツコツ頑張るより、社外の有力者に自分を売り込み、「究極のゴール」として社外取締役に就任することを目指ことも大切と思います。

そもそも冷静に考えると40歳前後で同期の平均的な昇格より2年も遅れている人は確実に役員にはなれず、場合によっては部長にもなれません。人によっては40歳前半から社外にも一定程度の目を向けて活動をしてネットワークを構築していけば、大手企業には勤務しているものの、残念な思いのまま定年を迎えるより、同期より高収入を得ることが出来る可能性もあるかも知れません。

いずれにせよ、自社にいればただのシルバー人材になってしまうところ、知恵を絞って常に高いアンテナをはって社外に目を向けて行動をすれば、中堅上場企業で社外取締役に就任して、それが更なるネットワークの拡大につながり、定年後も大いに活躍できる可能性もあるのではないでしょうか。

会社役員の巨額損害賠償リスク

4月28日の新聞報道で、オリンパス粉飾決算事件に関して旧経営陣陣に対する株主代表訴訟東京地裁の判決があり、590億円の賠償命令が出たとのことです。過去2番目の高額の賠償額とのことのようです。

株主代表訴訟とは、役員が会社に対して損害賠償義務を負う場合に、会社に代わって株主が訴訟を提起して、役員に会社に対して損害を賠償することを求める訴訟です。会社法上、役員(取締役や執行役です。ちなみに「執行役員」は、各社自由に制度設計できる「擬似役員」であり、会社法上の役員ではありません)は会社との間では委任関係にあります。従って、受任者として善管注意義務に基づき職務を行う必要があるところ、業務上、不正行為を行ったり、または役員としての業務監督責任を怠り会社に損害を与えたような場合には、会社に対して損害賠償義務を負います。

そして、本来であれば、監査役または監査委員が会社を代表して役員に対して損害賠償請求をするのですが、実務上、身内に対して賠償請求をすることは期待できません。そこで、登場するのが、会社の株主です。つまり株主は、会社が損害賠償請求を行わないのであれば、自らが会社に代わり、役員に損害賠償請求をして、損害について会社に補填するよう裁判を起こすのです。裁判で勝っても株主にはお金は入るわけではなく、会社に訴訟で負けた役員からお金が支払われることになります。これが、株主代表訴訟の構図になります。

では、役員はこのような巨額の賠償を支払うことが出来るのでしょうか?

オリンパスでは6名の元役員が訴えられているようですが、単純に6人で590億円を割ると1人当たりの賠償額は100億円近くになります。まず個人では払えない金額かと思います。もっとも、通常は、地裁の判断はこのような天文学的な数字の賠償命令が出ても、訴えられた役員サイドが控訴して、高裁で和解に至ったり、またはまともな高裁判決が出て賠償額が下がるケースが多いのですが、それでも総額で数十億から数億円という金額になります。

大企業の役員クラスでも会社のサラリーだけを生活の糧としている場合、数千万円の支払は、個人としては間違いなく大変大きい負担かと思います。仮に支払えたとしても、個人の人生設計が破綻するか、大きく人生設計の変更が必要になります。

そこで役に立つのが、会社役員損害賠償責任保険です。つまり、会社が予め役員の賠償責任に備えて、保険会社との間で役員が損害賠償を負うことになった場合に保険でカバーできるよう保険会社との間で締結する保険契約です。通称、D&O保険と呼ばれており、上場企業では、多くの会社が保険会社と締結していると思います。従い、株主代表訴訟で損賠賠償義務を命ぜられても役員はD&O保険でカバーされます。

しかし、D&O保険も万能というものではなく、保険内容によって異なるかと思います。
私の経験上は、自ら不正行為を行った役員は付保されない、つまり保険でカバーされないケースが多いような印象を持ちます。とすると、オリンパスのような巨大企業では当然D&O保険は結んでいるかと思いますが、今回の対象者全員が付保されるのかはなんとも言えないようにも思えます。

サラリーマン人生では、会社の大小の規模はさておき、自分の所属する会社組織という「村」において役員になることが1つの成功であることは間違いないですが、このように役員になると、損害賠償義務を会社法上負うリスクが生じます。

従い、役員になる場合には、そこで得られる報酬とリスク、そしてリスクのカバーがどうなっているかをしっかりと理解されることが大切と思います。

上場企業と言っても、売上高が数兆円を超える大企業から、売上高十億円から数百億円規模の中小規模クラスまであり、中小規模クラスの役員は(オーナー一族は別ですが)、大企業の課長クラスを下回る年収しかないというケースもだいぶ多いと思います。中小規模クラスで50歳を過ぎて役員になり、ようやく大企業の課長クラスの年収程度になっただけなのに、株主代表訴訟が提起され、仮に年収の10年分の損害賠償義務を負わされたら全く割に合わないですね(ちなみに、2016年度の中小企業白書を見ると日本の会社数は、約380万社あり、東証での1部上場企業はこの中でも3500社程度です)。

役員であれば自社のリスクや不祥事など世間には言えない内部情報に接する機会も多いと思います。そのような情報に接した場合には、自分を守るには、そのリスクを摘み取る努力をすることが自身のリスクヘッジとして大切になります。

経理や経営企画等の管理部門出身の方は、株主代表訴訟などについて十分に認識されているケースが多いですが、営業や技術の経験しかない方は、通常は株主代表訴訟といわれても、全く門外漢であるのが通常です。とすると将来会社に損害を与えるきっかけとなる情報の端緒を認識しながらも、自分の担当外だから放置しようという考えを抱く方もいると思います。

しかし、役員である以上は、部長クラスといったような一般従業員とは異なり、会社の経営全体への監督義務というものがあり、問題の端緒を放置して、それが後日大きな問題に発展した場合には、自分が株主代表訴訟の被告になる可能性もあり得るのです。

特に、数年前に会社法制度が変わり、株主は金銭的な負担を強いられることなく簡単に株主代表訴訟を提起できますので、他人事と思わず、十分な注意を払う必要があると思います。

以上、オリンパス株主代表訴訟の新聞報道も見て思うところを書いてみました。


事業提携交渉において「将来のお別れ時」の条件も十分に検討することの重要性

4月に入って以降もほぼ時間がなく、ブログの更新が出来ていませんでしたが、3週間ぶりに更新をします。

東芝について、監査法人を変更するなどの報道や銀行から訴訟が提起されたとの報道が続いていますが、1週間ほど前に、半導体分社にあって米国ウエスタンデジタル社(WD)が合弁契約の違反を東芝に主張しているとの報道がありました。

フラッシュメモリの生産について東芝とWD間で合弁会社保有しており、東芝がこの合弁会社の持分を東芝メモリに移行することが合弁契約違反とのことのようです。

合弁会社とは、2社以上の会社が共同出資して設立する会社ですが、合弁契約においては、当事会社が自己の持分を第三者に売却する際には、合弁相手方の同意を得るとの規定が規定されています。合弁とは相手方を信頼して一緒になって事業をやって行こうというものですから、勝手に自己の知らない第三者に持分が移転することは通常制約されます。

合弁を「結婚」と考えると、夫が、妻に飽きたからと言って夫の地位を妻の知らない赤の他人に勝手に移転できるとなったら妻は困りますよね。それと同じことです。

東芝のケースでは、持分譲渡について、合弁契約上の売却の制約に縛られないという東芝の主張と縛られるというWDの主張に対立が生じているようです。合弁契約の内容は分かりませんので、どちらの言い分が正しいのかなどは推測がつきませんが、ここから思うところは、合弁はじめ事業提携を開始するに当っては、やはり契約で、事業提携の解消、つまり「お別れ」のケースも想定して明確に規定しておくことが重要であると今更ながら思いました。

合弁などの事業提携を開始するときには、当事会社は互いバラ色の前向きのことを考えており、従って、提携解消(「お別れ」)時の解消条件や手当てについてあまり深く考えないことも多いと思います。「お別れ」は将来、少なくても数年以上経過して起こることであり、交渉担当者には案件を纏めるということしか念頭になく、遠い将来に発生するかも知れない後ろ向きのことを考えるインセンティブはないといえます。

従い、最終的には、「お別れ」の際の重要事項は、お決まりの文句である「別途協議して定める」ということで終わることになります。

しかし、問題は数年後または十数年後に「お別れ」を検討する時です。合弁という「結婚」をして事業を共同して進めてみたものの、相手会社と相性があわず合弁や事業提携の解消を検討するという局面です。この場合にはじめて、契約上の「お別れ」に関する規定が大きくクローズアップされることになります。明確に規定をしていない時には、誰が責任をとるのかという議論にも発展します。

しかし、当時担当した事業部門や企画部門の方は、数年も経つと人事異動していることも多いので、責任を負わないことになります。となると、後は人事異動の範疇から外れている法務部の人間が「どうしてこんな契約を作成したんだ」と言われることになります。ちなみに、法務部の社員は、一度法務部に入ったら、他の部署に異動することもなく、ビジネスや計数との縁もないまま法務部という地味な部署でサラリーマン人生を終えるという人もかなり多いと思います。従い、事業部や企画部門の方のように、異動で担当が変わり自分は知らないと言えないことが多いのですが、責任を問われた時は「自分はNGと主張したが、交渉責任者の強い意向でこういう規定にしたのです」という逃げ文句を使います。

法務部は、交渉担当者が決めたことをきれいな表現で契約に書き起こすという文書作成がすべての仕事ですから、もっともな理由になります。

とすると、責任を取る人間はおらず、結局は、その時の担当者が大変な苦労をすることになります。

このことを考えると、交渉を担当する事業部門や企画部門の方は、交渉を開始するときには、交渉成立という強い圧力がかかる中でもきちんと「お別れ」のケースも想定して、提携の段階で決めておくべき重要事項は経営トップにも明確に伝え、交渉合意のセットとなる合意事項とすることが大切かと思います。

株主総会の事務局の方は本質を理解して業務をしていますか?

業務でドタバタしており、2週間ぶりにブログを掲載します。さて、3月期決算の企業は、株主総会の時期が近づいていると思いますが、各社とも総会実務ご担当の方はこれから大変忙しい時期に入るのだろうと思います。私も最初の会社に入った時は、商事法務業務全般を担当しており、定時株主総会も3年ほど事務局として経験したことがあります。総会の実務担当の多くの方と同様に、4月中旬頃から土曜日の出社は当たり前で、毎年ゴールデンウィークの最初の3、4日間はフルで上司と一緒に仕事という日々でした。

さて、今日書きたいのは、「総会の事務局担当の方は総会業務に過度に力を入れすぎていませんか?」ということです。
 
5月、6月の総会時期直前になると各社とも役員や事務局の方が非常にお忙しい様子ですが、本当に必要な作業であるのかを考える必要があります。何故ならば株主総会というものは、1円の利益も生み出す仕事ではないからです。総会の過去の事務局の経験を通じて、一番思うのは、自社が特段世間で目立つような企業でもないのに株主総会当日の株主からのQ&A対策はじめ株主対策に過度に力を入れている会社が多い印象を受けます。

消費者向けのいわゆるBtoCの商売をしている、航空業界、サービス業界、鉄道業界などは毎年の株主総会の招集通知を見れば分るように分けのわからない株主が株主提案として、どうでもいいことを会社の事業目的に追加しろとか社名を変更しろといった提案を会社法の規定に則り権利行使をしてきます。この場合には、当然に総会当日もこういう輩が何を主張してくるか分からないので、十分なQ&A対策をするということも良く理解できます。

しかし、部品メーカーはじめいわゆる世間で目立たない企業はここまで行う必要性は不要だと思います。より正確に言えば、世間一般で知名度もなく、かつ過去に株主総会特殊株主で荒れたような経験もない企業です。総会で荒れることもないのに、このような収益を生まない業務に過度に経営資源を割くのは無駄ですよね。
 
とすれば、総会担当者がまずやるべきは、自社の3月末の株主状況を見て、特殊株主に株付けされていないかどうかを見て、さらに事前の株主からの質問状や株主提案もないのであれば、総会当日に参加する株主は言ってみれば、ずぶの素人なので、総会のQ&Aなどに過度の時間をかける必要はないのです。この本質を理解していないと、総会にOBのお年寄りや土産目的で参加した個人株主の素人質問に過度に敏感になって過度な対策を講じ、結果、1円の利益も生まない総会業務に貴重な役員の時間も費やすことになるのです。
管理部門や経営企画部門を担当していない役員は、株主総会の本質やわずか1%以下の比率の株主が持つ権利の意義を理解されている方も大変少ないと思いますの、忙しい役員に無駄な時間を割いて頂くことのなきよう理解していただく必要があります。

総会のQ&Aの作成を事務局が各部門に依頼するにしても、「あくまで個人株主の一般的な質問を前提に作成して下さい」ということを言えば、簡潔で必要最低限の内容で済むのです。まず会社の内部者しか知らないような細かいことをわざわざQ&Aを作成するということは、時間の無駄以外の何ものでもありません。そもそもアナリスト説明会でプロであるアナリストの質疑応答をしている役員が、すぶの素人の株主の質問に答えられないということはまずないのです。
 
総会の実務担当者がそもそもこれらのことを理解していないとどうしようもないのですが、本質を理解して効率的な業務を進めるのが肝要と思います。

相談役などによる「院制」への批判の理由

3月11日の報道報道にて、経産省有識者検討会が「相談役」について企業が職務内容や就任の経緯などを開示すべきとする報告書を纏めたとの記事がありました。東芝の問題もあり、最近、企業の元経営トップが就任する相談役制度について強く批判される動きにありますが、相談役制度の問題はどこにあるのでしょうか。

相談役とは、企業の社長経験者が、その後、会長になり、会長を退任した後につくポジションかと思います。相談役制度のメリットは、経営の経験を積んだ相談役が現経営陣に対して大所高所からアドバイスをするということにあるかと思います。

しかし、問題とされているのは、取締役の地位にない相談役が現経営陣に対して指導・指示をすることで経営に対する相当程度の影響力を行使しながらも、相談役は会社法上の役員ではないため、責任を問われる立場にないという点です。つまり、取締役・執行役(執行役とは指名委員会等設置会社における執行役であり、いわゆる「擬似役員」である「執行役員」は別概念です。執行役員は、「法的」には一般従業員に毛が生えたような制度です)はその業務執行に対して、対会社及び対第三者に対して会社法上は損害賠償責任を負っています。

しかし、相談役は取締役の地位にない中、現在の経営陣に背後から強い影響を与えながらも会社法上は賠償責任を負う立場ありません。指導といいながら相談役の発言は、外部のコンサルタントとは全く異なり、ある意味で指揮命令の一種ともいえますが、経営に失敗しても責任を問われないという点です。特に取締役会に出席してもいないにもかかわらず、外部の株主から良く分からない点で経営に影響を与えているという点が問題視されているのです。

とすれば、相談役が現経営陣に対して業務執行への強い影響を及ぼす指示をするのであれば、①相談役の選任に株主の意思を反映させるプロセスにする、②相談役もその職務については、会社法上の損害賠償の義務を負わせるという建付けにすれば問題はクリアになるように思われます。

ただし、相談役といっても、企業によっては本当の意味でアドバイスだけしており、そのアドバイスを採用するかどうかは、完全に現経営陣に判断を任せている会社も多く存在すると思います。とすると、相談役というキーワードをもって、全て問題視するのではなくその実態を見る必要があると思いますが、外部かは分かりにくいところではあります。

なお、以上の法的議論は脇に置いて、相談役という「院制」に対する道徳的な批判も議論のベースにはあるように思えます。要は、サラリーマン社長は、オーナー社長とは異なり、一般従業員の延長とも解釈でき、それにも関わらず社長を退任した後、つまり定年を迎えた後も企業に対して影響を行使するという点に関する批判です。

なお、個人的には、オーナー社長経験者の相談役は別に考える必要があると思います。オーナーはサラリーマンとはその根底において企業に対する思い入れは異なり、また、企業は自分の分身ですので退任した後のアドバイスも心から自分の分身である企業の行く末を心配してのことであり、サラリーマン社長とは根本的な感覚が違います。

ちなみに米国の一部の大企業では、サラリーマン社長は退任後は一切経営に口を出さないと本で読んだことがあります。日本と違い報酬の面で、一般従業員の延長ではなく、大成功したオーナー社長と同じように数十億円の巨額の報酬を得て、リタイア後に自分で投資事業を企業したり、別のあたらな活動をするので、経営に口を出すインセンティブや時間もないということのようです。要は興味の対象が会社以外に目が向けられるほどの金を稼げたかどうかがポイントかと思います。
日本でもサラリーマン社長の報酬が、一般従業員の数倍程度の報酬ではなく、大リーグで成功したほんの一握りの日本人のプロ野球選手のように、別世界の住人のような巨額の報酬を得ることが出来れば、職業人生の定年を迎えた後も経営に口出しをする「院制」などという言葉はなくなるのかも知れません。

持分法適用会社を保有する意義は?(2)(東芝機械の持分譲渡のケースを例に)

前回、持分法適用会社を保有する意義として①対象会社の利益を取り込むこと、②取引上のメリットを享受すること、③対象会社の敵対的買収リスクを低減することのうち、②について思うところを書いてみましたが、今回は③及び①の順番で書いてみたいと思います。

まず③ですが、敵対的買収者とは、対象会社の経営陣の同意を得ないまま上場企業の株式を取得することで対象会社の経営を支配することをいいます。敵対的買収においては、買収者が公開買付(TOB)により投資先会社の株価に20%~30%程度のプレミアムを付けて買収を呈示し、これに納得する既存株主、つまり「折角高い価格で株式を買ってくれるので、売却してキャピタルゲインを得よう」と考える株主は遠慮なく応募をすることになります。

この場合、対象会社を防衛するためには、このTOBに応募する株式数をなるべく少なくする必要があります。このためには対象会社の経営陣は常日頃から会社の魅力を株主に伝えて、理解して貰い長期に亘り株式を保有して貰うことが大切ですが、即効性がありより重要なのは安定株式数が高いことです。

そこで、持分法適用会社として20%の株式を保有する筆頭株主が存在する場合、この株主は安定株主といえるので、企業を防衛する上で大変に意義があります。勿論、残りの80%を取得されてしまったら意味がありませんが、少なくとも確実に20%分は安定株主となるので会社が残りの会社サイドの株主(与党株主とでもいうのでしょうか)を確保する上で有用な施策になります。

ちなみに、東芝機械の例を挙げると、同社のPBR(株価純資産倍率)は割安と言われる1倍を下回っており、また、東芝機械は、買収防衛策を導入しており、2016年の定時株主総会で継続更新しています。
とすると程度の差はあれ買収リスクはあると考えているのであり、その観点からは東芝が20%の株式を保有していることは敵対的買収リスクの低減という点で大事であったといえると思います。

次に①についてですが、これは会計上の話になりますが、持分法適用会社の純利益に持分比率をかけた額は保有する会社にとっては自社の連結PL上に、営業外収益として取り込めます。

つまり、50%以上を保有する連結子会社のように売上高以下の全てのPL項目を取り込むのではないので、対象会社の利益率が自社より小さい場合でも、ひとまず営業損益より後の項目の利益に関して売上高経常利益率売上高当期純利益率は向上することになります(売上高以下のPL項目を取り込むと対象会社の営業利益率が自社より悪い場合には、取り込み後は自社の売上高は増えますが営業利益率は低下することになります)。
また、連結子会社の場合と異なり資産・負債を取り込むこともないので、程度の差はあれROAも改善することになります(分子の利益を「当期純利益」とした場合です)。もっとも、対象会社の当期純利益が利益ではなく「純損失」となっている場合には、逆で利益率やROAは悪化することにはなります。

このように仮に事業上のメリットがない場合でもあっても対象会社の業績が好調である場合には、自社の決算にプラスの影響になります。

東芝機械の2016年3月期の純利益は約48億円でした。とすると東芝は48億円のうち出資分相当額を自社のPLに取り込めることになります。取引上のメリットがない場合であってもこのように利益が出ていれば取り込めるわけですから、意義があるといえますが、巨大企業の東芝によってはこの利益がそれほど影響があるとはいえないとも考えることができると思います。

以上、持分法適用会社を持つことの意義について思うところを書いてみました。

持分法適用会社を保有する意義は?(1)(東芝機械の持分譲渡のケースを例に)

先日東芝が持分法適用会社として保有する東芝機械の株式の一部を売却する(20.1% のうちの18.1%)との報道がありました。持分法適用会社とは20%超の株式を保有する投資先の会社のことをいいますが、そもそも持分法適用会社(以下、対象会社と いいます)を保有する意義はどこにあるのかということについてあらためて考えてみま した。

私の考えるところでは、次の3つほどかなと思っています。
①対象会社の利益を取り込むこと ②取引上のメリットを享受すること ③対象会社の敵対的買収リスクを低減するため

他にも色々とあるのかも知れませんが、順不動になりますがまずは②、③の順で考え、最後に①について考えてみたいと思います。

まずは②の取引上のメリットですが、これは保有することで取引面のメリットを享受することです。対象会社が自社にとって重要な経営資源をもつ場合、20%の株式を取得して筆頭株主になることで経営に影響を及ぼす、自社に有利に経営資源を利用できるようにするというメリットです。

しかし、ここで考える必要があるのは、具体的にどのようにして経営に影響を及ぼすことが出来るかです。事業への影響力の行使を考える場合には、対象会社の株主総会を通じての影響と取締役会を通じての影響の2つの場合を考える必要があります。

株主総会を支配するには50%超の株式保有が必要になるところ20%では支配することはできません。
次に取締役会での支配ですが、取締役会は出席取締役の過半数の賛成で決議されますので、対象会社の取締役会の員数が5名の場合、3名が自社サイドの取締役である必要があります。なお、取締役会の決議は「出席取締役」の過半数ですので、何らからの圧力や懐柔策によって(刑法に触れる方法はNGですね)、出席取締役の員数を減らせば、有利に取締役会を運営できる方向に向かいますが、これはあ くまでも例外的な措置です。

しかし、20%の出資で取締役の過半数を派遣すると いうことは現実的ではありません。

とすると、20%の出資で影響を行使するには筆頭株主として事実上の影響を及ぼしていくことになりますが、対象会社との間で経営・事業の運営方針に対立が生じたような場合には、法的に優位に立てるということにはならないことに注意する必要があります。

この辺りのことを良く理解していないと、20%も出資しているから思いのままに出来るなどと考えてしまうと痛い失敗をすることがあります。

東芝機械のケースでいいますと、新聞報道では東芝本体と東芝機械との取引金額は3%以下のようです。逆にいうと東芝機械は、東芝以外の多くの顧客に製品を販売 していることになります。とすると、そもそも東芝機械を保有するということは、過去は分かりませんが、現時点では有用な経営資源を囲い込みたいということは目的にないように思えます。

次に③として敵対的買収のリスクの低減のための安定株主としての株式保有がありますが、長くなりましたので、残りの③と①の点は次回に分けたいと思います。

会社は誰のもの?

 

「会社は誰のもの?」とは良く聞かれる言葉ですが、会社は株主のものでありその価値を最大化するのが会社の経営陣の役割というようなことも良く言われます。

では、いったい誰のものなのでしょうか?

この点についてはが学者も交えて大変深い議論もなされており、事業会社の実務担当者が容易に語れることでもないのかも知れません。しかし、ここではまずはシンプルに考えてみたいと思いますが、とすると損益計算書(PL)の構造から利益の享受を受ける会社の利害関係者の順番を考えてみることが1つの考えとしてあるかと思います。

まずPLの最初に来るのが売上高であり、ここから利益を享受できる会社の利害関係者(ステークホルダーといいます)の順番を考えればよいと思います。

まずは、売上高の次にあるのは売上原価ですが、売上原価とは、単純に言えば販売した商品の仕入価格ですので、まず最初に売上高から仕入業者が代金の支払いを受けることができます。

次に売上原価を引いた後の売上高総利益から販売費及び一般管理費販管費)が引か
れます。販管費とは、販売に係った費用のほか営業人員や管理部門の人員の人件費が該当します。金額が大きいのは従業員の給料である人件費になります。したがって、仕入業者の次には、会社の従業員が給料という形で利益の享受を得ることができます。

そして、売上高総利益から販管費を引いた営業利益の後に、営業外費用として銀行への支払利息などが引かれることになりますので、銀行などの金融機関は融資した金額の利息の支払いという利益を享受できます。

そして、次に税引前利益から税金が控除されます。国は企業の利益の中から税金の支払ということで利益を享受できます。そして税金を引いた最後に当期純利益が残り、そこから株主は配当として利益を享受できます。

PLの構造上では、①仕入業者、②従業員、③金融機関、④国、⑤株主という順番で利益を受け取ることができ株主は一番最後にあります。

従い、株主の利益を最大化することが全てのステークホルダー(会社の利害関係者)の満足を満たすことが出来るのですが、当然に各ステークホルダーは利益を会社から享受する必要があり、株主が一番利益の享受の順番が低いのですが、誰のものかというと「株主のものということではなく、各ステークホルダーのものということになると思います。

他のステークホルダーの利益を犠牲にしても株主の利益を優先すべきという議論はそもそもおかしいですね。