中長期的な企業価値向上のためのコーポレートガバナンス・アドバイザー / 長期での中小型株の割安株投資情報

最近のコーポレートガバナンスと資本市場の動向を踏まえ、上場企業実務の視点から中長期での企業価値向上に役立つ情報分析・発信をしていきます。個人投資家のコーポレートガバナンス力の向上による「意思のある投資」に役立つ情報発信もしています。また長期での割安株投資の情報も

持分法適用会社を保有する意義は?(2)(東芝機械の持分譲渡のケースを例に)

前回、持分法適用会社を保有する意義として①対象会社の利益を取り込むこと、②取引上のメリットを享受すること、③対象会社の敵対的買収リスクを低減することのうち、②について思うところを書いてみましたが、今回は③及び①の順番で書いてみたいと思います。

まず③ですが、敵対的買収者とは、対象会社の経営陣の同意を得ないまま上場企業の株式を取得することで対象会社の経営を支配することをいいます。敵対的買収においては、買収者が公開買付(TOB)により投資先会社の株価に20%~30%程度のプレミアムを付けて買収を呈示し、これに納得する既存株主、つまり「折角高い価格で株式を買ってくれるので、売却してキャピタルゲインを得よう」と考える株主は遠慮なく応募をすることになります。

この場合、対象会社を防衛するためには、このTOBに応募する株式数をなるべく少なくする必要があります。このためには対象会社の経営陣は常日頃から会社の魅力を株主に伝えて、理解して貰い長期に亘り株式を保有して貰うことが大切ですが、即効性がありより重要なのは安定株式数が高いことです。

そこで、持分法適用会社として20%の株式を保有する筆頭株主が存在する場合、この株主は安定株主といえるので、企業を防衛する上で大変に意義があります。勿論、残りの80%を取得されてしまったら意味がありませんが、少なくとも確実に20%分は安定株主となるので会社が残りの会社サイドの株主(与党株主とでもいうのでしょうか)を確保する上で有用な施策になります。

ちなみに、東芝機械の例を挙げると、同社のPBR(株価純資産倍率)は割安と言われる1倍を下回っており、また、東芝機械は、買収防衛策を導入しており、2016年の定時株主総会で継続更新しています。
とすると程度の差はあれ買収リスクはあると考えているのであり、その観点からは東芝が20%の株式を保有していることは敵対的買収リスクの低減という点で大事であったといえると思います。

次に①についてですが、これは会計上の話になりますが、持分法適用会社の純利益に持分比率をかけた額は保有する会社にとっては自社の連結PL上に、営業外収益として取り込めます。

つまり、50%以上を保有する連結子会社のように売上高以下の全てのPL項目を取り込むのではないので、対象会社の利益率が自社より小さい場合でも、ひとまず営業損益より後の項目の利益に関して売上高経常利益率売上高当期純利益率は向上することになります(売上高以下のPL項目を取り込むと対象会社の営業利益率が自社より悪い場合には、取り込み後は自社の売上高は増えますが営業利益率は低下することになります)。
また、連結子会社の場合と異なり資産・負債を取り込むこともないので、程度の差はあれROAも改善することになります(分子の利益を「当期純利益」とした場合です)。もっとも、対象会社の当期純利益が利益ではなく「純損失」となっている場合には、逆で利益率やROAは悪化することにはなります。

このように仮に事業上のメリットがない場合でもあっても対象会社の業績が好調である場合には、自社の決算にプラスの影響になります。

東芝機械の2016年3月期の純利益は約48億円でした。とすると東芝は48億円のうち出資分相当額を自社のPLに取り込めることになります。取引上のメリットがない場合であってもこのように利益が出ていれば取り込めるわけですから、意義があるといえますが、巨大企業の東芝によってはこの利益がそれほど影響があるとはいえないとも考えることができると思います。

以上、持分法適用会社を持つことの意義について思うところを書いてみました。

持分法適用会社を保有する意義は?(1)(東芝機械の持分譲渡のケースを例に)

先日東芝が持分法適用会社として保有する東芝機械の株式の一部を売却する(20.1% のうちの18.1%)との報道がありました。持分法適用会社とは20%超の株式を保有する投資先の会社のことをいいますが、そもそも持分法適用会社(以下、対象会社と いいます)を保有する意義はどこにあるのかということについてあらためて考えてみま した。

私の考えるところでは、次の3つほどかなと思っています。
①対象会社の利益を取り込むこと ②取引上のメリットを享受すること ③対象会社の敵対的買収リスクを低減するため

他にも色々とあるのかも知れませんが、順不動になりますがまずは②、③の順で考え、最後に①について考えてみたいと思います。

まずは②の取引上のメリットですが、これは保有することで取引面のメリットを享受することです。対象会社が自社にとって重要な経営資源をもつ場合、20%の株式を取得して筆頭株主になることで経営に影響を及ぼす、自社に有利に経営資源を利用できるようにするというメリットです。

しかし、ここで考える必要があるのは、具体的にどのようにして経営に影響を及ぼすことが出来るかです。事業への影響力の行使を考える場合には、対象会社の株主総会を通じての影響と取締役会を通じての影響の2つの場合を考える必要があります。

株主総会を支配するには50%超の株式保有が必要になるところ20%では支配することはできません。
次に取締役会での支配ですが、取締役会は出席取締役の過半数の賛成で決議されますので、対象会社の取締役会の員数が5名の場合、3名が自社サイドの取締役である必要があります。なお、取締役会の決議は「出席取締役」の過半数ですので、何らからの圧力や懐柔策によって(刑法に触れる方法はNGですね)、出席取締役の員数を減らせば、有利に取締役会を運営できる方向に向かいますが、これはあ くまでも例外的な措置です。

しかし、20%の出資で取締役の過半数を派遣すると いうことは現実的ではありません。

とすると、20%の出資で影響を行使するには筆頭株主として事実上の影響を及ぼしていくことになりますが、対象会社との間で経営・事業の運営方針に対立が生じたような場合には、法的に優位に立てるということにはならないことに注意する必要があります。

この辺りのことを良く理解していないと、20%も出資しているから思いのままに出来るなどと考えてしまうと痛い失敗をすることがあります。

東芝機械のケースでいいますと、新聞報道では東芝本体と東芝機械との取引金額は3%以下のようです。逆にいうと東芝機械は、東芝以外の多くの顧客に製品を販売 していることになります。とすると、そもそも東芝機械を保有するということは、過去は分かりませんが、現時点では有用な経営資源を囲い込みたいということは目的にないように思えます。

次に③として敵対的買収のリスクの低減のための安定株主としての株式保有がありますが、長くなりましたので、残りの③と①の点は次回に分けたいと思います。

会社は誰のもの?

 

「会社は誰のもの?」とは良く聞かれる言葉ですが、会社は株主のものでありその価値を最大化するのが会社の経営陣の役割というようなことも良く言われます。

では、いったい誰のものなのでしょうか?

この点についてはが学者も交えて大変深い議論もなされており、事業会社の実務担当者が容易に語れることでもないのかも知れません。しかし、ここではまずはシンプルに考えてみたいと思いますが、とすると損益計算書(PL)の構造から利益の享受を受ける会社の利害関係者の順番を考えてみることが1つの考えとしてあるかと思います。

まずPLの最初に来るのが売上高であり、ここから利益を享受できる会社の利害関係者(ステークホルダーといいます)の順番を考えればよいと思います。

まずは、売上高の次にあるのは売上原価ですが、売上原価とは、単純に言えば販売した商品の仕入価格ですので、まず最初に売上高から仕入業者が代金の支払いを受けることができます。

次に売上原価を引いた後の売上高総利益から販売費及び一般管理費販管費)が引か
れます。販管費とは、販売に係った費用のほか営業人員や管理部門の人員の人件費が該当します。金額が大きいのは従業員の給料である人件費になります。したがって、仕入業者の次には、会社の従業員が給料という形で利益の享受を得ることができます。

そして、売上高総利益から販管費を引いた営業利益の後に、営業外費用として銀行への支払利息などが引かれることになりますので、銀行などの金融機関は融資した金額の利息の支払いという利益を享受できます。

そして、次に税引前利益から税金が控除されます。国は企業の利益の中から税金の支払ということで利益を享受できます。そして税金を引いた最後に当期純利益が残り、そこから株主は配当として利益を享受できます。

PLの構造上では、①仕入業者、②従業員、③金融機関、④国、⑤株主という順番で利益を受け取ることができ株主は一番最後にあります。

従い、株主の利益を最大化することが全てのステークホルダー(会社の利害関係者)の満足を満たすことが出来るのですが、当然に各ステークホルダーは利益を会社から享受する必要があり、株主が一番利益の享受の順番が低いのですが、誰のものかというと「株主のものということではなく、各ステークホルダーのものということになると思います。

他のステークホルダーの利益を犠牲にしても株主の利益を優先すべきという議論はそもそもおかしいですね。

 

通常の配当性向とグループ会社からの配当性向の考えの違い

先日の新聞報道によれば、企業の行う配当がリーマンショック時の2倍に増えているとのことのようです。企業業績も向上して配当を増やす企業が増えているということかと思います。

配当には、一般的には、自社の株式を保有する株主への中間配当、期末配当があります。配当が多いか少ないかの判断基準として配当性向という言葉があります。これは自社の当期純利益(税金を控除した後のPLの最後にある利益)に対する株主への合計配当額の占める比率をいいます。ある企業の当期純利益が100億円として、その期の配当金合計が30億円であれば配当性向は30%(=30億円÷100億円)となります。ちなみに、残った70億円はどうなるのかといいますと、バランスシートの純資産の部にある繰越利益剰余金(英語だとRetained earningで「RE」と略することも多いです)として蓄積されます。

以前にある会社が100%配当を実施したということも聞いたことがありますが、通常は20%~30%台を目指す企業が多いような印象を持っていましたが、新聞報道ですと2016年の上場企業の平均配当性向は35%程度のようです。

では、あまり言われないのですが、企業が自社の子会社から受け取る配当については、配当性向はどう考えればよいでしょうか。100%出資する子会社が当期純利益を出した場合です。

各社方針があるのかも知れませんが、この場合、先に書いたように35%などということは通常なく、基本的には100%配当ということになるかと思います。

問題は実際にこれがスムーズになされているかということです。ここで子会社が日本法人である場合と海外法人である場合を分けて考える必要があると思います。

日本の子会社であれば、親会社から転籍した方が経営陣になることも多く、また日本人同士ですから100%配当は実施しやすいのですが、海外法人の場合は結構難しいケースもあるのではないでしょうか。

海外展開を進めている会社は、現地法人のトップは現地採用のマネジメントとし、日本人を経営トツプから外している会社も結構多いと思います。このような場合、現地法人のトップは自分たち現地で稼いだ利益を本社に吸い上げられることに抵抗するケースも中にはあるのではないでしょうか。要するに「俺たちが努力して稼いだ利益をどうして親会社に全部上げる必要があるのか?」ということです。

しかし、そもそもグループ経営とは、一体としての経営であり、子会社は法人ではありますが、実態としては親会社の1部門と考える必要があります。また、当期純利益の算定に至る過程で、グループ会社の従業員への給与、役員賞与は販管費で既に控除されているのであり、特段の事情がない限り、最後に残った当期純利益を出資者である株主、つまり親会社に還元すべきものなのです。また、現地に利益をおいておくと、横領等の不正が発生するリスクも高いのではないでしょうか。

ただし、100%配当性向といっても、現地法人が設備投資(Capital expenditureということで通常「CAPEX」といいます)をするような場合は別です。この場合は、このCAPEXに見合った金額は配当から控除するということになります。金がないと設備投資ができないからです。

まとめますと、日本の親会社としては、配当の考え方の社内規則などを制定して、現地の経営トップには予め十分な説明をしておき、100%配当の発想をきちんと認識させるということが重要になってくるように考えます。

パテントトロールとは

本日はパテントトロールについて書きたいと思います。パテントトロールとは、数年前から日本でも時折耳にするようになり、知財部の方などはご存知の方も多いと思います。 最近ですと米アップル社がパテントトロールとの間で訴訟に巻き込まれ数百億円の和解金を支払ったという報道もありました。

パテントトロールとは、保有する特許権を侵害している疑いのある会社に特許権を行使して、巨額の賠償金やライセンス料を得ようとするものをいいます。自ら特許を使って製品を開発・製造している会社はパテントトロールとは通常言いません。

事業会社は製品を製造するに当たり多くの特許を使用しています。新製品の開発や既存製品の設計変更をする際、通常は公表情報や他社のエンジニアの文献、学会発表資料や他社製品を見て他社の特許を侵害しないよう回避する努力をしますが、それでも完全に回避できないケースも多いのです。となるとどうするかといいますと、関連する技術の特許権利化を数多く行い自社の保有特許数を増やします。そうすることで、他社保有の特許を万一、侵害して同業他社から権利侵害の主張を受けた場合でも、自社も相手に権利侵害を主張できる材料を増やすのです。同業他社であれば類似する製品を開発・製造している訳ですから、保有特許を増やすということは、同業他社に権利侵害主張をさせないようにすることになるのです。

しかし、パテントトロールは、事業を行っておりません。とすると、彼らは手に入れた特許を武器に、当該特許に抵触する特許を使用して製品を開発・製造する企業に侵害に基づく、損害賠償請求を遠慮なくして行くのです。 日本では、パテントトロールが大きく活動しているという報道は目にすることもなく、パテントトロールを脅威と考えて、有効な対抗策を各社どのようにとっているかは分かりませんが、効果的な対抗策はないように思えます。先日ある報道を見たところでは、アメリカでは法規制を強化すべきではとの議論も出ているようです。

ところで、大企業の中には知財部の陣容が充実している会社もありますが、多くの企業では、陣容も小さく、エンジニアの発明の権利化の手続きが知財部の仕事の大部分という会社が多いのではないでしょうか。しかし、中には、事業戦略・営業戦略・知財戦略の三位一体を掲げて、知財部が事業戦略立案に積極的に関与しようとす動きをとっているようです。日本では知財部というとどうしても防御的な仕事をする部署とのイメージが強いですが、パテントトロール対策も含めて知財部が戦略的な提案(休眠特許の売却、知財戦略による技術の囲い込みなど)を今後することは重要になってくると思います。

社外取締役の役割と適正とは

先日の新聞で、政府は未来投資会議において成長戦略の中間整理を示したとの記事がありました。この記事によれば、コーポレートガバナンス・コード改革を一段と進めることを柱にするとのことで、会議では、社外取締役などの外部の目を生かすようなことも議論されたというような内容でした。

社外取締役ですが、最近は多くの上場企業が設置しているかと思います。特に2015年6月に東証金融庁によるコーポレートガバナンス・コードにおいて上場企業は社外取締役の複数選任が義務化されたことによるものと思われます。

ここであらためて考えてみたいのですが、社外取締役を設置する意義はどこにあるのでしょうか。

取締役会の役割は、業務執行と業務執行の監督の2つがあります。しかし、業務執行は社外取締役に期待されるものではないと考えます。業務執行とは、まさしく会社の日々の業務の執行であり、社外取締役はいわゆる非常勤でありますので、日々の業務執行を行うことは出来ません。

そこで、期待されるには、業務執行の監督となります。そして、更に監督を大きく2つに分けると、「作為の監督」と「不作為の監督」になると考えます。作為の監督とは、経営陣が何か能動的な行動をする時にこれが適法かつ効率的になされるように監督することです。これが通常の社外取締役の役割と考えている会社が多いのではないでしょうか。

しかし、これ以上に重要なのが、不作為の監督ではないでしょうか。つまり、経営陣が事業運営に関して何もなさないこと(=不作為)について、作為を促すことです。例えば、中長期的な成長の視点から、自社にない経営資源を買収で取り込んだり、または不採算事業の戦略撤退の行動を行うことを促すというようなことです。

多角化事業を行っている企業は、担当事業毎に担当役員が分かれており、結果、自分の担当外の事業については、なかなか口だしにくいもののようです。私が最初に勤務していた化学素材メーカーは、事業セグメントがたしか5つほどに分かれていましたが、ある時に上司と一緒にある役員と酒を飲んだ時にそのような話を聞かされ、当時は入社間もないため組織のことが分っていなかったので、そういうものかと思った記憶があります。
遠慮をすることなく横断的な意見を述べることの出来る能力を持った人材である必要があります。

では、次にどういうバックグラウンドのある方が妥当なのかですが、上のような役割を期待するのであれば、やはり事業や会計・金融の経験者でないと難しいように感じます。事業の再編や投資に際には、事業、会計や金融の知識が必要になるからです。

時々弁護士や大学教授を社外取締役にしている会社も見ますが、弁護士は、法律事務に精通した専門家ではありますが、会社の事業全般や金融に関しては、当然ながら実務の知見は持っておりません。とすれば、必ずしも適切とは言えない場合もあります。

もっとも、不祥事を起こした企業でリスク管理体制の構築などでの役割を期待するのであれ、そういう経験のある弁護士を社外取締役に起用する意義はあるのかも知れません。また、大学教授などは有名人であれば、会社のPRとして価値はありますが、そうでなければ甚だ疑問が残ります。

なお、事業経験者といっても大企業であれば、外からの見え方という点からも、自社と同等又はそれ以上の規模の経験者を選任対象とすることも実務上は大変多いと思います。とすると、そのような資格をもった社外取締役候補者は人数も限定されてしまいますので、難しいところでもあります。

社長クラスまたはそれに準じる役員クラス経験者を社外取締役にすべきとの提言も見たことがありますが、上場企業といっても世の中ピンキリであり、小さい規模の上場企業の社長がいわゆる大企業の社外取締役に就任するのは、まず現実的ではありません。逆に萎縮して大企業の取締役会で何も言えなくなってしまったら、それこそ何のための社外取締役であるのか分かりません。

と色々と感じたことを書きますと、社外取締役の設置は意味あるものかも知れませんが、実際にはなかなか適切な人材を探すのは容易ではないので、これを法律やガイドラインによって一律設置を義務付けるということは、企業サイドから見た場合、どこが違和感があるように感じます。

のれんの計上と企業の損益に及ぼす影響

最近の東芝の報道でのれんの減損などが話題になっています。のれんという言葉を耳にする方も多いと思いますが、のれんとは何でしょうか。

のれんが発生するケースには、企業の買収のケースがあります。

分かりやすく具体的をあげますと、例えばある企業(A社とします)の株式の100%を買収するとします。この場合、A社の純資産(株主資本)が100億円で、買収金額が150億円であったと仮定します。

とすると、買収金額と純資産の差額50億円(150億円-100億円)がのれんとして買収する企業のバランスシートの無形固定資産に計上されることになります。

この後、A社の事業が大きく悪化したような場合には、減損損失として損益計算書(PL)の特別損失に費用計上することになり、買収企業のPLの営業利益への影響はありませんが、経常利益より後にある税引前利益、純利益にマイナスの影響が出てきます。

また、減損しなくてものれんは20年以内の期間で償却することになります。とすると仮に償却期間を10年で設定した場合、毎年5億円(50億円÷10年)が減価償却費として買収企業のPLの販管費に計上され、結果、営業利益がこの費用計上分マイナスになります。

買収金額は、DCF法、株価基準法などの色々な手法や当事者の合意によって決まりますが、入札などのいわゆるビット案件などは買収金額が大きくなる傾向にありますが、買収金額が純資産より大きいとその差額分ののれんが毎期の減価償却減損損失により買収企業のPLに大きな影響を与えるので注意する必要があります。

また純利益が減少した場合には、1株当たり当期純利益(EPS)も減少しますので要注意です。

ちなみに、営業利益とは本業での利益であり営業利益率(営業利益÷売上高)は投資家が気にするところですが、キャッシュ・アウトとしては減価償却費は実際には現金の支出を伴うものではないので、EBITDA(=営業利益+減価償却費)で見ると影響はないのですが、どうしても営業利益率は目に付きやすいので、これが下がると市場でも厳しく見られるのではないでしょうか。

安定株式(安定株主)の見直しの必要性

最近、コーポレートガバナンス・コードの影響もあり、持合株式の解消の動きの中、安定株式比率というものに対して各社関心が従来より高いと思います。

安定株式とは、自社の発行済株式のうち、安定して保有されている株式数でありそれを保有する株主がいわゆる安定株主になります。つまり短期的にキャピタルゲインを得る目的で株式の売買を行わない株主のことになります。

安定株式数が多いと会社は、自社の経営に賛同してくれる票を確保することができますので、より具体的には株主総会で会社提案議案の賛成票を確保できるというメリットがあります。

安定株主が20%しかいない場合には、株主総会で議案を可決させるには、普通決議議案の場合(取締役選任議案など)議決権の過半数を有する株主の賛成(50%超の賛成)が必要であるところ、20%分は賛成票が確保できますが、残り30%分の賛成票を確保しなければなりません。しかし、仮に安定株主が40%であれば、残り10%分の賛成票を集めることで足り、会社としては議案の成立に費やす労力が大きく異なってきます。

では、この安定株式の具体的な内訳は、どう考えればよいでしょうか。

安定株式比率の数値を開示している会社は見たことはまずありませんので、各社内部数値としてもっているだけなので、正確な基準はないと思います。その意味で各社異なるとは思いますが、自社の取引先、自社の取引銀行、個人のうちの役員OB、持株会が保有する株式などは安定株式数にカウントしている会社が多いのではないでしょうか。

この中で注意すべきは、取引先の保有する分です。

従来であれば取引先が保有する分は政策保有株式として、取引先が売却することはありませんでした。しかし、コーポレートガバナンス・コードの影響もあり、各社とも解消の動きにあります。すると、将来に亘って安定的に保有してくれるというものではなく、場合によっては、明日にでも売却される可能性があるのです。実際には売却する場合には、会社の方に事前に断りを入れるとは思いますが。

従い、上場企業としては、従来の安定株主の構成を見直すとともに、これまで安定株主でなかった株主、例えば個人株主にも会社の魅力、つまり将来に亘って株主が納得する配当を得られるといったことを説明して長期に亘って保有して貰う努力がこれまで以上に必要になるのではないでしょうか。

ただし、どんなに会社が努力をしても個人株主を真の意味で安定株主と位置付けることは困難ですので、やはり会社としては、事務方は大変になりますが、日頃の企業活動や将来の事業の収益について理解を頂き、株主総会では株主の賛同を得るという当たり前の行動が益々重要になるのではないでしょうか。

課徴金減免制度(リニエンシー制度)の対象拡充の検討

先日、カルテルの際の企業の課徴金減免制度(リニエンシー制度)の対象を拡充する方向で検討するとの新聞報道がありました。

リニエンシー制度とは日本では2006年に導入された制度で、カルテルの当事者企業であっても自己申告をすれば課徴金が免除されるというもので、申告順位が第1位の企業は全額免除、第2位以下は最大50%免除という制度です。元々は米国の制度であり、米国はじめ各国でもリニエンシーの制度はありますが、制度の詳細は国により異なっています。

検討されている方針では、第6位以下の企業であっても申告を受け付けるとのことのようです。自主申告しても当局は必ずしも十分な証拠を入手できるものではないため、なるべく減免の対象を広げてカルテルを行った企業に自主申告を促し、立件のための証拠を収集したいということが狙いではないでしょうか。

ここ数年は自動車部品メーカーがカルテルの摘発を受け、課徴金を課される、関与社員が米国の刑務所に収監される、集団訴訟を提起されるなどしています。特に米国での集団訴訟の場合には、和解で解決されるケースが多いですが、報道や各社の開示書類を見るとその金額が巨額になっています。

カルテルを行った場合には、一刻も早く自主申告をすることが重要になってきます。
摘発を受けたことのない業界は、カルテルの事実を知っても、同業他社がリニエンシーをすることはないので当社も黙っていようなどと考えることがあるのかも知れませんが、そういうことを言っている間に他社に出し抜かれるのではないでしょうか。

特に、同業他社がカルテルの摘発を過去に受けた経験がある場合、その会社は痛い経験をしているので、一刻も早くリニエンシー申請をしようというインセンティブが働きますので、他社が先駆けることはないなどという安易な考えをするのではなく、迅速かつ正確に当局に申請することが重要です。リニエンシーの順番が遅れ、課徴金を課された場合には、後日、自社の株主から株主代表訴訟を提起されるケースもあるようです。

このためには、社内のコンプライアンス教育が大切になってきます。コンプライアンスは行き過ぎると企業の営業活動に萎縮効果を与えることになりますが、最低限のルールは遵守する必要があり、そのためには営業部門の社員に教育をすることが大切です。ただし、リスクばかりを強調する行き過ぎた教育とするのではなく、「黒」と「灰色」を明確にした教育でないと、ひいては企業の収益力を弱めることにつながります。

とするとコンプライアンス部門は、外部の弁護士が言ったことをそのまま「子供の使い」のように右から左に伝えるのではなく、ビジネスの実務に疎いながらも、収益を上げるという企業の至上命題の下で、実務上、何が駄目で何がセーフといえるかを明確に社内で伝えなければなりません。

コンプライアンスや法務の経験しかない社員は、大きな問題になった時に自分が責められるリスクを考えて、「弁護士がこういっています」「大家の弁護士の意見です」と言い、広めにリスクを指摘するというインセンティブがどうしても働きます。これはサラリーマンの性質上、分からないでもないのですが、外部の意見をそのまま言われるがままに社内に伝えることは子供でも出来るのであって、何とか「白」または白に近い「灰色」にもって行く努力をすることが、営利集団である企業に所属する社員の役目かと思います。

リスクとリターンは表裏一体ですが、現実には問題にならないリスクばかりを挙げるのではなく、そのリスクに躊躇することで、どういうリターンを得ることが出来なくなるということを常に念頭において、見極めて行くことが大切と思います。

会社法改正「株主提案権の乱用的行使の防止」

 

2月10日の新聞記事によれば、法務省会社法の改正の検討課題を設定して検討に入ったとのことでした。検討課題の目玉が株主提案権の乱用的行使の防止ということのようです。

株主提案権とは、会社法上の少数株主権の1つで、議決権の1%または300個以上の議決権を一定期間保有している株主は、出資先の会社の株主総会に議案を提案できるという権利です。通常、毎年6月に開催される定時株主総会の場合、会社側の提案する議案が株主総会で議題に諮られるのですが、これに対して株主が自己の考える議案を提案するという権利です。

具体的には、取締役選任議案で会社側がA氏を取締役選任候補としている場合、別のB氏を株主が取締役選任候補として提案することや、定款変更議案として会社の事業目的に「~事業」を追加することを提案するようなことです。

記事によれば、株主提案権はこの5年間で倍増しているとのことのようです。株主提案権は、少数株主に認められた権利であるのですが、問題は乱用的に行使されて、株主総会の事務に大きな影響を及ぼすことで、野村ホールディングスは2012年に「社名を野菜ホールディングスに変更」することの株主提案を受けたと記事に書いてありました。

この記事を読んで思い出したのですが、20年ほど前の入社間もないときに法務部に所属していて商事法務業務を担当していたとき、当時、政策保有や純投資で多くの企業の株式を保有していましたが、その中で鉄道会社や空輸会社の株主総会の招集通知を見たときに、株主提案として「トイレ清掃事業の追加」であったり、他にほとんど冗談としか思えない内容の事業を会社の事業目的に追加するよう定款変更の株主提案が招集通知に書かれていました。当時は入社2年目の時でしたが、目が点になった記憶を思い出しました。

現在は総会屋が株主総会で活躍するという時代でもないので、こういう提案をする株主がどういう素性であるのか分かりませんが、株主総会の招集通知の作成はじめ総会事務局を実務担当した経験のある者としては、総会準備で多忙な時期に、このような冗談半分の提案をされていたらと思うと、実務の担当者の大変さが目に浮かびます。

こういう冗談半分の嫌がらせのための乱用的行使はさておき、企業の敵対的買収という観点では、少数株主権の行使は重要な株主の手段になります。

特に最近のアクティビストを見ると数パーセントの株式を取得して株主提案権を行使して会社に自己の議案を提示した上で、他の一般株主の賛同を求めるときに利用することもあると思います。

アクティビストの目的は、企業価値を高めひいては対象会社の株式価値を高めてキャピタルゲインを得る、あるいは配当を増やして投資のリターンを得ることが目的ですが、最近は米国ではアクティビストが入った方が会社が良くなるとしてそれに賛同する一般株主も多いと聞いたこともあります。とすると、株主提案権は企業価値を高める上で重要な法的権利といえます。

そうなると何が乱用的行使であるかの判断は難しいところもあると思います。たしかに、社名を「野菜ホールディングスに変更する」というのは乱用的行使と言えるとは思えますが。

2019年以降の法案提出を目指すということのようですので、引き続き注視したいと思います。

基本的な会計・株式指標について③:PER(株価収益率)

前回のPBR(株価純資産倍率)に続いて、PER(株価収益率)について書きたいと思います。

PERは、次の算式で算出されます

PER=株価÷1株当たり当期純利益(株式時価総額÷当期純利益

当期純利益とは損益計算書(PL)の最後の項目にある数値で、税引前利益から税金を控除した最終利益になります。厳密には、連結子会社のある会社は日本会計基準では連結PL上は、当期純利益の後に非支配株主に帰属する当期純利益(連結子会社の少数株主に帰属する分)と親会社に帰属する当期純利益にさらに分かれますが、PER計算の分母に使う純利益は、「親会社に帰属する当期純利益」を使います。

PERはある企業の株式を購入した時に何年でペイできるかの指標といわれています。

分かりやすく数値をあげて説明しますと、例えば株式太郎さんが100円でA社の株式1株を購入したとしてこのA社が1株当たり10円の配当を実施しているとします。

とするとPERは10倍(=100円÷10円)ですね。これはどういうことを意味するかといいますと、株式太郎さんはA社から配当として毎年10円を受け取ることが出来ます。つまり株式太郎さんは10年で100円の投資額を回収できるということになります。PER10倍とは、その会社からの10年の期間の配当で株式取得額100円を回収できるということを示しています。

この10年が長いかどうかは、業界によって、また投資する方がどう考えるかによって異なりますが、ある業界ではPER平均が20倍とすると、この会社の10倍はだいぶ割安ですし(同業は20年で回収できるところA社に投資した場合10年で回収できる)、もしこの会社のPERが20倍を超える場合には、割高といえます。

また、企業を買収するような場合に、対象会社の時価総額が500億円で当期純利益が50億円となるとPERは10倍になり、仮に500億円で買収したとしますと(実際にはプレミアムをつけてもう少し高い価格になりますが)、買収後の会社の当期純利益の10年(100%配当で全額買収者の手に入るとします)で買収の投資額を回収できるというのもこの考えと同じです。

先日、新聞報道を見たところ、2017年1月8日時点では、日経平均株価採用銘柄の予想PERは15.63倍で2ヵ月ぶりの低い水準とのことでした。企業各社が業績を上方修正していることによるものとのことですが、業績を上方修正した結果、当期純利益が増加するのでPER算定の分母の数値が上がるためPERが低下しているということですね。分子である株式時価総額も上がればPERは低下しないのですが、平たくいいますと株式相場は好調でないということかと思います。

なお、米ダウ工業株30種平均は、PERが約17倍とのことでした。大統領選挙後に上昇しているということです。ちなみに米ダウ工業株30種とは、ダウ平均、NYダウとも呼ばれ米国の代表的な株価指数です。

米国を代表する主要業種の優良な30銘柄を選出して指数化したもので、ニューヨーク株式市場の重要な株価指標(インデックス)になります。この30銘柄に何が含まれているかまでは良く理解していなかったので、ネットで調べたところ、アップル、ボーイングキャタピラー、デュポン、インテルファイザーエクソンモービルファイザー、ゴールドマンサックス、ウォルト・ディズニーなど米国を代表する大企業が入っているようです。

いずれも多くの方が知っているアメリカを代表する有名企業ですね。業種としては、重機、化学、半導体、石油等の産業の中心になる業種ですが、娯楽ということでウォルト・ディズニーも入っていることで、個人的には少し意外な印象を持ちました。

日本では、娯楽産業に属する企業の位置づけは産業界の中では高くないと思いますが、たしかにディズニーは米国を中心に世界で活躍する企業ということで娯楽産業とは言え国の産業の根幹になっているのかも知れませんね。

株主総会の議決権行使の個別開示

昨日の新聞報道で三菱UFJ信託銀行株主総会での議決権行使結果の個別開示の方針を決定し、他の機関投資家も採用する方向との報道がありました。

機関投資家は多くの企業の株式を保有しており、これまでは投資先企業の株主総会での議決権行使結果については、議案毎に全体総数ベースで賛成比率、反対比率を開示するのが一般的かと思います。つまり、投資先企業が100社あるとしますと株主総会議案に投票した結果、賛成70社、反対30社というように全体数や賛成比率の総数を公表します。

しかし、個別開示になりますと、A社の取締役選任議案については、賛成、反対というように個別の企業毎の議案の賛成を開示することになると思います。これにより、機関投資家は、自社への投資資金の委託者であるオーナーに対する説明責任が求められることになります。また、個別開示の作業に対する作業量も従来に比べて大きく増えるのではないでしょうか。

一方、企業サイドにはどのような影響があるでしょうか。

これは私見ですが、議案によっては賛成率が低下するように思えます。
機関投資家が個別に開示するということは、機関投資家への投資資金の委託者であるオーナーに対する説明責任の観点から、賛成の理由を明確にオーナーに説明できない議案については、反対ということになると思います。つまり賛成した理由について、より明確な説明が求められるのです。

とすると、例えば、数年毎に株主総会に上程していた買収防衛策議案、社外取締役として十分な責務を果たしていない、つまり取締役会への出席率が低い社外取締役の選任議案などは機関投資家の賛成を得るのが厳しくなってくることが考えられます。

企業サイドとしては、株主総会の招集通知の発送後に機関投資家を個別訪問して議案の説明をする、招集通知や事業報告の記載内容を充実させる、さらには日頃において機関投資家とのコミュニケーションを密に行うということが今後益々重要になってくると思われます。一方でフェア・ディスクロージャーの課題もありますので、今後各社はどのように行っていくのか興味深いところです。

基本的な会計・株式指標について②:PBR(株価純資産倍率)

前回、ROEについて話をいたしましたが引き続いて株式評価指標の1つであるPBRについて、敵対的買収のリスクを絡めて書いてみたいと思います。

PBRとは株価純資産倍率のことで次の算式で算定されます。
PBR(倍)=株式時価総額÷純資産(株主資本)

この指標の意味するところは、企業の純資産に比べて時価総額が高いか否かを判断するものです。株式時価総額とは、その企業の株式価値の市場での評価であり、一方、純資産とは企業に出資している会計上の株主の持分と言えます。厳密にいいますとPBR算定で使う純資産は、株主資本(資本金、資本剰余金、利益剰余金)に限定するのが正確かとは思いますが、純資産を構成するものは、通常株主資本が大部分かと思いますので、ざっくりとしたレベルでは純資産を分母にしても大きな問題はないように思えます。

PBRが1倍を超えている場合には、市場でその企業の株式が高く評価されていることになります。一方で、PBRが1倍を下回っている場合には、会計上の株式価値よりもマーケットで評価される株式価値が低いことになりますので、いわゆる割安株ということになります。

では、1倍を下回る場合には、敵対的買収との関係ではどのようなリスクがあるでしょうか。
結論からいいますと、PBR1倍を下回る企業は敵対的買収のリスクがあるということがいえます。仮に純資産(株主資本)100億円、時価総額50億円の会社があるとするとこの会社のPBRは0.5倍(=50÷100)になります。そこで、この会社を買収しようとする場合、時価総額に仮に30%のプレミアムを付けても(通常上場企業をTOB(公開買付)で買収する場合には時価総額も1つの目安になり、これに一定のプレミアムを載せた金額が買収提案額となることが多いと思います)65億円で買収できます。
とすると、仮に純資産(株主資本)100億円が、これが全て現金としてバランスシートの左側に計上されているとした場合、買収者はこの会社を解散・清算することで、100億円のキャッシュを得て(債権者への弁済などは考慮していません)、投資額との差し引きで35億円儲かることになります。

このようにPBR1倍を下回る場合には、買収というリスクは少なからず出てきます。

そこで、企業サイドとしては敵対的買収を防ぐには、株価を上げる努力(基本的に企業の評価は業績が何より重要ですが)をすることになります。株価をあげて時価総額を高めるのです。上場企業は株価を挙げることが企業価値を高めることと良く言われることですが、これは株主のキャピタルゲインという視点からも重要ですが、企業自身の防衛という点で大切になります。

基本的な会計・株式指標について①:ROE(株主資本利益率)

最近ROEROA、EPSなどの会計指標、株式指標について、今更ながら日常業務においてあらためて検討する機会が多いこともあり、自分の理解の整理の意味も含めて基本的な考え方について少し書いてみたいと思います。

まずはROEですが、ROE(Return on equity)とは株主資本利益率といい、当期純利益÷純資産で算定されます(単位はパーセント表示)。要は、バランスシート(貸借対照表(BS)のことです)の中で株主に帰属する持分に対して、どの程度の最終利益を会社は当期に稼げたかの指標になります。

純資産の中にある株主資本を分母にすることもあるかも知れませんが、概ねバランスシート上の右下にあります純資産と考えていただければよいかと思います。東証1部上場企業のROEの平均は、2015年度ではたしか約7~8%程度と思いますが、米国の主要企業だと12%程度であると聞いたことがあります。ちなみに、米国のアップル社は37%程度という記事を少し前に新聞で見た記憶があります。企業のステークホールダーの一人である株主に、その投資したお金に対してどの程度の利益を出しているかの目安になります。

企業としてはROEを高める努力をすることが必要になりますが、ではどのように高めればよいのでしょうか。

簡単にいいますと、ROEの計算式を見れば分かるように当期純利益を増やすとともに、純資産を少なくすればよいのです。しかし、当期の純利益は、バランスシートの繰越利益剰余金(Retained earning)に蓄積されるので、当期純利益をそのまま純資産に蓄積した場合には、結局としてROEの数値は高まりません。

当期純利益のうち、株主への配当を増やすことで蓄積される利益剰余金は少なくなるので、ROEは改善することになります。 

つまり、当期純利益が100億円あったとしますと、そのうち20億円を株主に配当金として還元しますと、バランスシート上の繰越利益剰余金に蓄積される金額は80億円(=100億円-20億円)となりROEは向上します。要するにはROEを高めるということは、株主からいえば「たくさん利益を出して株主に還元して下さいね」ということを言っていることになります。

株主への還元としては、配当以外に自己株式の取得の手法が用いられることも良くあります。配当は、例えば「1株当たり3円」といったように決定されますが、今期はたくさん利益が出たので、「1株当たり5円」としたとします。いわゆる増配ですね。この場合、翌期にはあまり利益(純利益)がでなかった場合、「1株当たり3円」に戻すとなると、今度は、いわゆる減配となり非常にマーケットでの評価が悪くなります。このように配当を増やす場合には、企業としてはそれなりの覚悟が必要になるので、アドホックな株主への利益還元策として、増配に代えて自己株式の取得を行うケースもあります。

自己株式の取得で、株主の持っている自社の株式を会社は買取り保有することで、その買取対価を株主は得ることが出来るので、株主としては配当を受け取るのと同様の効果を得ることができます。
そして、会社が取得した自己株式は、バランスシート上の純資産にマイナスで表示されるので純資産を減らすことで、ROEを高めることが出来るのです。

なお、ROEをブレイクダウンすると、デュポンシステムといって次のように分けることができます。
ROE=売上高純利益率×総資産回転率×財務レバレッジ

売上高純利益率=純利益÷売上高

総資産回転率=売上高÷総資産

財務レバレッジ=総資産÷純資産

従い、企業間のROEを分析するような場合には、単にROEの数値だけを比較するのではなく、上の公式に従いブレイクダウンすると、しかも過去数年分に遡ってグラフやエクセルシートに並べてみると(上場企業であれば法定開示書類や決算説明会資料で決算資料は見れますね)、その企業の総合力をチェックすることもできるかと思います。

次回以降は、ROA総資産利益率)、PBR(株価純資産倍率)、PER(株価収益率)などについて順次書いていきたいと思います。

フェア・ディスクロージャー制度

先日の新聞報道によれば、企業統治分野でのルール改正動向として日本スチュワーシップ・コードの改定、監査人ガバナンスコードの導入、金融商品取引法の改正(フェア・ディスクロージャールールの導入)、17年度税制改正とありました。

この中でフェア・ディスクロージャールールの導入については、運用機関サイドのアナリストにとっても大変に関心のある内容かと思いますが、同じく企業サイドではアナリストの対応窓口となるIR部門にとっても今後どこまでの情報を開示できるのか関心が高いテーマかと思います。

フェア・ディスクロージャーとは、直訳をしますと「(会社情報の)公平な開示」という意味になります。投資判断に重要な影響を与える情報について、アナリストや大株主といった特定の第三者にのみ提供するのではなく、「フェアに」(公平に)開示することとするルールです。勿論、東証に開示する適時開示事項や金商法で規定するいわゆるインサイダー情報はそもそも開示前に個別に特定の人や会社に話をすることは、法律違反になりますので、これに当たらない重要な情報の開示について対象になるということかと思います。

上場企業は、決算発表の際の決算説明会にアナリストを集めて決算の説明会を行ったり、国内外の大株主といわゆるスモールミーティングを開催して会社の状況や課題の個別説明を行っています。しかし、フェア・ディスクロージャールールの考えを厳格に考えると、基本的にこのような行為は好ましくないということになります。

としますと、会社としては、①アナリストや大株主へのこういった情報の提供をやめるか(情報提供に消極的な会社の場合)、②決算説明会の質疑応答の内容(ちなみに決算説明会資料は通常はホームページで公表済みと思います)やスモールミーティングの資料や議論の内容を全てホームページで公表する(情報提供に積極的な会社の場合)といったことになってしまいます。

こうなりますと、①の場合、アナリストが一般投資家に提供する会社レポートを作成するに十分な情報が得られません。一方、②の場合、会社サイドの負担が大変重くなります。決算説明会での質疑応答を全部メモにして内容を整えて公表するということは大変な作業かと思います。モを正確な議事にするのも結構時間がかかるのに、公表するとなると担当が書いたメモを更に上の上司や社内会議で討議するようなこともあり、それだけで労力が大変なことが容易に想像されます。
会社の負担が大変大きくなりますので、ある会社は、フェア・ディスクロージャーの議論の高まりの流れを受けてアナリストへの月次の業績開示をやめ、アナリストには不評であるようなことを聞いたこともあります。なお、欧米企業の決算発表を見るとアナリスト説明会の詳細な討議メモを公表している会社も何社か目にしたことがあります。

フェア・ディスクロージャーは、通常国会に提出される見通しとの新聞報道ですが最終的にどのような内容になるかは分かりませんが、上場企業、アナリストにとっては関心の高いところと思います。