コーポレートガバナンス、M&A、企業価値、IRなどに関する実務ニュース

コーポレートガバナンス、M&A、企業価値、IR等の新聞記事について、投資銀行・東証1部事業会社での実務経験を通じて気づいた観点を踏まえて分かりやすく解説していきます

内田洋行に対する株主提案の結果から考える個人株主対策の必要性

投資ファンドのストラテジックキャピタルが内田洋行の本年の株主総会において定款変更等の株主提案を出しており、先日、10月14日(土)に株主総会が開催されました(内田洋行は7月決算)。

内田洋行のホームページを見ますと、会社提案が可決され、株主提案は否決されたという結果に終わったようです。株主総会の議決権行使結果は、臨時報告書で報告することが必要になりますが、本日時点では、臨時報告書は開示されておらず、ストラテジックキャピタルの提案の賛否比率の詳細などは分からないところではあります。

しかし、内田洋行の株主構成と株主提案が否決されたという結果から、個人株主対策の重要性について思うところを少し述べてみたいと思います。

まずは、2017年7月末の内田洋行有価証券報告書で主な株主構成を見ると次のようになっています。

金融機関:36%、個人その他:31%、外国法人等:19%、その他法人:13%

投資ファンドの株主提案が企業価値向上に資すると考えて賛成に回る株主は通常誰かというと、一般的に言って、外国人株主と国内機関投資家が考えられます。

有価証券報告書では、金融機関の比率は36%とあるだけで、この中に国内機関投資分がどの程度あるのかは不明ですが、仮に36%全てが国内機関投資家であると仮定して話を進めます(大株主状況を見ると、りそな銀行三井住友信託銀行があり、この2社だけで6%ほどになるので、36%全てが国内機関投資家ということはありえませんが、話の便宜上そう考えます)。

今回、ストラテジックキャピタルが提案した定款変更の議案(政策保有株式の売却規定の新設)は、会社法上の特別決議事項に該当するため、3分2以上の賛成、つまり67%の賛成が必要になります。とすると、外国人株主と国内機関投資家分だけを合算すると、55%のため10%程度足りないことになります。

従い、ストラテジックキャピタルは個人株主の31%のうち、10%を自社の味方につけることができるかがポイントになります。なお、繰り返しになりますが、「金融機関36%=国内機関投資家」との前提を置いた仮定での話になります。

今回の定款変更の株主提案は、政策保有株式の売却を定款規定に盛込むという内容で、最終的には配当増に繋がる内容であり、それだけを見ると個人株主には都合のよい話になりますので、個人株主は賛同する方向に向かうように思います。

では、これに対して会社は何をすべきでしょうか?

会社としては、長期的な観点から株を持つことが株主の大きなリターンにつながることを説明する必要があります。さらにブレークダウンして、具体的に何をすればよいかという点になると、日々株主に自社の魅力を伝え、ファンになって貰うことが重要になります。そのためには、株主優待を実施する、定期的な個人株主を対象とする事業所の見学会を開催するといったことが重要になるように最近思っております。

株主優待は、自社製品を配布することも多いですが、私の感覚ですと、金額は3,000円
~5,000円相当が多いように思えますが、額が小さいからと馬鹿に出来るものでははないと思います。

個人株主は、「個人」ですので、会社から定期的に商品を貰うということは非常に嬉しいものです。実際に株主優待を開始して個人株主数が大きく増えたという話や、逆に、株主優待を廃止したところ個人株主が大きく減ったということは良く耳にします。

機関投資家は、アセットオーナーから預かった資金を運用するプロであり、投資に対するリターンにのみ関心があり、優待などは関心は全くありません。しかし、個人は、そ少額の自己資金で少ない株式を保有するのであって、安定配当が関心事ではありますが、株主優待として投資先企業の製品を貰えるということは、結構重視しているように思います。

株主見学会も同じです。自分の投資先企業が、個人である自分を事業所に招いてくれて、投資先が大手企業であれば、普段会うことのない企業の経営層が丁寧に会社の概況を説明し、案内してくれるということは、お金に代えがたいものと受け取るのではないでしょうか。

アクティビスト株主(物言う株主)対策としては、安定株主増ということがありますが、その観点から個人株主対策に力を入れるということを会社はあらためて考える必要があるのかも知れません。

勿論、個人といってもプロ並みの資金で自己運用している方もいますが、そのような方は個人全体で見るとごくわずかであり、個人株主の圧倒的多数は、一握りの富裕層ではなく、数十万円から数百万円を投資する少額投資の個人です。そうであれば、こういう一般の方にどういう対応をすれば、長期で株式を保有してくれるのかを企業はあらためて真剣に考える必要があるように最近感じています。

内田洋行株主総会の議決権行使結果は、暫くすると臨時報告書が開示されますので、それが分かり次第、またブログで書いてみたいと思います。

米国名門企業がアクティビストの標的になっている

10月12日の日本経済新聞で「物言う株主 名門狙う」とのタイトルで米国のP&G(プロクター・アンド・ギャンブル)がアクティビストの標的になっていたところ、P&Gでは委任状争奪戦を実施し、結果、P&Gが辛勝したとの報道が大きく掲載されていました。

カリフォルニア州の教職員退職年金基金のカルスターズはじめ公的年金が、アクティビスとの支持に回り、当初はアクティビストが有利との観測が出ていたようです。

10月10日には米国でGEがアクティビストの提案する役員を受け入れるなど米国ではアクティビストの動きがだいぶ活発化しているようです。

アクティビストの話は何度もブログで書いていますが、アクティビストの提案内容も単なるバランスシートからキャッシュ・リッチによる株主還元増を主張するだけでなく、それを裏付ける精緻な分析を行った上での提案に変わってきているため、それを支持する機関投資家が増加しているようです。

では、日本企業にも増えるのかということが関心のあるところですが、この点は、米国では経営効率が改善されている企業が多い中、日本では経営効率の改善が進んでいない企業が多いという大きな違いに着目する必要があります。要するに売上高営業利益率や総資産回転率が米国に比べて低いのです。

とすれば米国ではアクティビストの獲物はそれほど多くなく、日本企業に目が向けられる可能性が高くなるように思えます。同新聞記事によれば、ニューヨーク在住の市場関係者の声として、「再び米アクティビストの日本企業への関心を呼ぶ契機になる可能性がある」ということが書かれていました。当然の想定になるかと思います。

前にもブログで書きましたが、ストラテジック・キャピタルパートナーズが内田洋行の10月14日(土)の定時株主総会で株主提案をしており、昨日、株主総会が開催されました。インターネットで内田洋行株主総会の招集通知に記載の株主構成を見ると、株主構成比率は、外国人等が19.4%、金融機関・証券会社 37.0%、個人・その他が27.7%などとなっていました。

株主総会の結果が気になっており、昨日からネットで探しているのですが、土曜日の株主総会ということであるためか、内田洋行のホームページは本日現在、総会の結果が開示されていません。分かった時点でブログで取り上げてみたいと思います。

 

大学年金基金等の投資ファンドへの資金流入の増加

10月5日の日経新聞で「投資ファンド膨張」との記事がありました。低金利が続く中で、年金基金などの機関投資家が高い利回りを当て込んで投資ファンドに資金を提供しているということです。

機関投資家もアセットオーナーから資金を預かり、それを運用して、リターンをあげる必要がありますが、自らの投資では運用リターンが小さいので投資ファンドに預けて運用を任せるということかと思います。

投資ファンドの手法はいわゆるアクティビストのような手法をとることが多く、従来の伝統型のヘッジファンドの手法の運用利回りより投資ファドによる利回りは高いというのが米国での実績になります。

ある公表資料によれば、米国での2013年から2017年までの機関のヘッジファンドの運用利回りは約7%である一方、アクティビストによる運用利回りは約10%ということのようです。

新聞報道によれば、米カリフォルニア州職員退職年金基金カルパース)は投資ファンドの運用が資産全体の8%を占めており、また、テキサス大学基金はファンドへの投資比率を資産の40%に高めているようです。

この記事が出る前から投資ファンドに年金基金を預けるケースが米国では増えており、米国のイエール大学が大学の年金基金において“Absolute Retrun”(絶対リターン)という投資を開始し、これは所謂アクティビストの投資手法ですが、投資リターンが米国大学基金の運用パフォーマンスを大きく上回るため、これを契機に他大学もYaleを見習えということでAbsolute Returnを開始したということを何かで見たことがあります。テキサス大学イエール大学の例に倣ったのでしょうか。

また、物言う株主(アクティビスト)である米国のエフィッシモの受託資産の6割以上が北米の年金・大学から長期の資金を受託しているようです。

要はアクティビストファンドのパフォーマンスが好調なのでこれに対する資金の流入が続いているということになります。

日本でもスチュワードシップコードの改訂により、「必要に応じて他の機関投資家で協同で対話を行うことが有益な場合もある」と規定されており、今後は、集団的エンゲージメントが認められたことになります。また、日本では、スピンオフ税制が制定され、今後は、企業再編がし易くなりました。2018年税制改正では、事業ポートフォリオ転換の円滑化措置を経産省は要望しているようです。これは、自社ノンコア事業の分離とセットで、自社コア事業強目的の事業買収を行う場合、分離に当たっての譲渡益課税の繰延措置を認めるものです。経産省は、コングロマリット企業の収益性が低いことを課題として考えており、企業が再編によって利益率の改善が容易に出来るよう税制面の措置を検討しているといったところかと思います、

こういう環境の変化もあり、①年金基金が運用を高い運用利回りが期待できるアクティビストファンド(投資)に任せ、②アクティビストファンドは不採算事業を持つ企業に対して、スピンオフ税制の存在も背景に切離し等の再編による利益率などの改善を提案し、③これに対して、他の機関投資家も巻き込み株主の提案が承認されるケースも今後は増えていく可能性があるかも知れません。

企業の機関設計である指名委員会等設置会社の導入企業数が少ない理由

先日、あるシンクタンクの外部レポートを見たところ、米国企業と日本企業の取締役会の運営の議題についてのアンケート調査結果がありました。

日米ともに売上高が約5,000億円以上の大手企業のアンケートですが、米国企業は、戦略策定に多くの時間が割かれている一方で、日本企業はこの領域の討議が弱く、執行サイドに日常の業務執行権限は委譲して、取締役会で戦略策定に時間を費やす必要があることを課題として考えている企業が多いという結果でした。

今回は、企業の機関設計について、指名委員会等設置会社制度を中心に少し書いてみたいと思います。

ご存知の方も多いと思いますが、米国の取締役会は監督機能に特化しており、業務執行は執行部門が行うことになっておりますので、必然的に取締役会は戦略策定と執行の監督が中心になります。一方、日本企業の多くは米国企業と異なり、執行と監督が分離しておらず、取締役が日常の業務執行を兼ねています。

しかし、従前より、取締役会の機能として監督と執行が一緒になると、自分の執行を自分で監督することになり矛盾が生じ十分な監督が出来ないこと、また、環境の変化の中、執行には益々スピードが要求されるところ、執行に十分に専念できないという課題があげられています。

これに対して、2003年頃に会社法で委員会等設置会社が設置され、取締役とは別に会社法上の役員として執行役が設けられ、日常の業務執行は執行役に委任し、取締役会は重要な業務の決定を行うとともに、執行サイド(執行役)の業務執行の監督に専念することとなりました。

その後、会社法の改正があり、委員会等設置会社は、現在は、指名委員会等設置会社となっていますが、この指名委員会等設置会社は東証全体で80社程度しか導入しておらず以前として少ない状況にあります。

しかし、前述のように、指名委員会等設置会社以外の会社であっても、業務執行のスピードアップのため、執行の多くを執行サイドに権限委譲して取締役会は重要な意思決定と監督に専念したいというのが各社の最近の動きかと思います。

では、そうであれば、法的に執行への業務執行が委譲される指名委員会等設置会社に移行すればよいのですが、どうして導入企業数が増えないのでしょうか。

この点は、執行権限が奪われることの社内での権限を巡る綱引きと社外取締役の確保が困難である点にあると思います。

私自身は、当時の勤務先がたしか2004年頃に監査役設置会社から指名委員会等設置会社に移行したのですが、その際の商事法務担当として、当時、ソニーオリックスHOYA等の例を研究し、指名委員会等設置会社の移行作業の実務を全面的に担当した経験があります。

当時、取締役会の業務執行の決定権が執行サイドに法的に移行することから、取締役会の機能が監督という、いわば「閑職」になるということで、当時の社長と取締役会の議長である会長の人事の問題もあり、揉めた記憶があります。

指名委員会等設置会社に移行する企業が少ないのは、こうした執行の権限の点で社内の綱引きがあり、つまり、法的にも業務執行が執行サイドに完全に移行してしまうことの社内での抵抗が理由にあると考えます。

これに加えて、指名委員会等設置会社で必要になる指名・報酬・監査委員会の委員の過半数は、社外取締役で構成されるところ、社外取締役の人選に苦労するという点もあるように考えます。委員会を構成するのであれば2名以上の社外取締役が必要です。報酬委員会、指名委員会といった組織の設置が必要になり、各委員会は半数以上の社外取締役が必要になり、この委員会で役員の報酬・役員人事を決定することになりますので、これに抵抗を示す経営陣も多いと思います。

以上の2つが指名委員会等設置会社の導入が進まない大きな理由のように思います。

最近、東証の指導で複数の社外取締役の設置が義務化される動きにある中、社外取締役の人選が十分でないという声も聞かれます。とすれば指名委員会等設置会社も大きくは増えないかも知れません。

しかし、売上高が5,000億円以上もある大手企業であれば社外取締役の人選で苦労することもそれほどないとは思いますので、権限を大きく委譲して経営のスピードをあげたいのであれば、指名委員会等設置会社に移行するのが極めシンプルであると思います。

2004年頃に指名委員会等設置会社への移行実務を担当した者として思うところを書いてみました。

 

上場企業のサクセッションプラン(後継者計画)の意義は?

先日の新聞報道で、上場企業のサクセッションプラン(後継者計画)を開示した企業が17社あるということでした。企業を見ますと、東京エレクトロンコニカミノルタキヤノン日本ユニシスなどの会社が開示しているようです。

背景は、東証企業統治方針において、「取締役会は後継者の計画について適切に監督すべき」と定めていることによるもので、機関投資家の中には後継者計画の詳細について要望があるようです。東証の上場企業3500社のうち17社しか開示していないということは、まだまだ開示している企業数はかなり低いようです。

上場企業といってもオーナー社長の企業とサラリーマン社長の企業に分かれますが、オーナー社長の企業は自分の子供、親戚が社長を継承するので、このタイプの企業が後継者計画をどこまで作成する必要があるかは疑問ですが、これ以外の多くの企業では、何らかの基準は内規としては保有しているのではないでしょうか。

新聞記事によると次のような内容のようです。

<2017年9月17日 日本経済新聞より抜粋>
コニカミノルタ
 社長が後継者候補を推薦。指名委員会が仕事うぶりを評価し判断
日本ユニシス
 「真摯さ」「先見性」「洞察力」など7項目で評価

ネットで詳細を検索したところ出てきませんでしたが、新聞報道での記載を読む限りは、特に驚くような内容ではないように思えます。具体的にこの程度の基準であれば、明文化しているか否かは別として、オーナ系企業は別として、通常の企業であればこうった基準は内規として、または、明文化されていなくとも当然の前提として考えているかと思います。そういう意味では、あえてこの程度の抽象的な内容のものを開示することの意味はないと考える方もいるかも知れません。

しかし、ここで考えなければならないのは、機関投資家は、企業が考えるより、企業の状況がなかなか分からないということです。抽象的な内容であっても、明文化され、開示されていないと、機関投資家は判断のしようがないのです。

先日、ある海外機関投資家のセミナーに参加したところ、まずは開示をしないと対話のきっかけがつかめないといっていました。このように、例え抽象的であっても明文化してそれを開示することにより、機関投資家との対話のきっかけになるのではないでしょうか。少なくとも何らからの基準があるということを資本市場にアピールできることにはなります。

とはいっても、個人的には、後継者計画を機関投資家はどのようにして評価するのかそもそもの疑問があります。

企業の役割は収益をあげて、利益をステークホルダーに還元することにあります。とすれば、いくら精緻な後継者計画を作成しようが、結果ありきで、選定された経営トップが業績を上げられず、結局配当も増やせない、株価も上げられないということになれば、機関投資家は十分なリターンを得ることが出来ず、結局はその経営トップは不適格であったと評価されることになります。

これを考えると、後継者計画を作成しても、どこまで意味があるのか疑問があります。

それとも、経営トップの選任基準ととともに、退任の基準も計画書で明確に定めておけば、機関投資家も納得するようにも思えるのですが、機関投資家が後継者計画に何を期待するのか少し分からないところがあります。

エリオット・マネジメントによる日立国際電気株の買い増し

先日の新聞報道によれば、米ファンドのエリオット・マネジメントが日立国際電気株を買い増し、6.10%を保有しているとのことです。
日立国際電気は、米ファンドのKKR(コールバーグ・クラビス・ロバーツ)がTOBを行うことをだいぶ以前に公表しており、TOB価格は1株当たり2503円ですが、その後、株価が上がりTOB一旦延期になっています。

ちなみに、昨日9月22日の終値は3000円です。ちなみにTOBとは、TOB価格(今回の場合は2503円)で市場外で株式を購入しますので、関心のある株主の方は応募して下さいというものですから、市場株価が2503円を超える場合には、株主は通常は応募しません。仮に市場株価が3000円とすると、当たり前ですが、TOBに応じるより普通に市場で売却した方が得するからです。

新聞報道によれば、エリオットの日立国際電気株の平均取得単価は2570円ということです。このため、エリオットは買い増しを行うことで株価を上げることで、TOB価格を上げることを狙っているというようにも言われています。

ところで、日立国際電気のようにファンドが保有する銘柄は通常、期待が先行するため株価が上がることが多いかと思います。理由は、投資ファンド保有することで、ファンドは物言う株主として、会社に対して増配や自社株買いを要求し、これに対して投資ファンドの要求を充たさないまでも会社は一定程度の増配をすることも多いので、市場で株価上昇の期待が高まることによるものです。

ただし、単にファンドが保有しても株主提案といったアクションを起さないと株価は一時は上昇するが、しばらくすると元の株価に戻るように考えます。

域外企業による欧州企業の買収に対する欧州委員会審査の強化

欧州委員会が、域外企業による欧州企業の買収審査を強化するようです。背景としては、中国企業による欧州企業の買収が増える中、安全保障に関わるEU企業の情報の流出を防止するためです。

約半年前に欧州企業の買収規制の現状について、外資系証券会社の投資銀行部門に聞いて少し調べたことがあるのですが、中国企業の欧州企業の買収を受け、欧州委員会が規制を強化する方向で検討中ということは聞いていましたが、今回、それが具体的に発表されたようです。

欧州企業おいてば、ドイツのクーカ社が中国の美的集団に買収されたほか、ドイツのアイクストロンが中国の投資ファンドに買収されそうになったりして、「インダストリー4.0」を標榜するドイツなどのEU諸国が中国企業の買収の対象になっていました。これに対して、EUで共通の審査基準を設けて、インフラやハイテクなどのEU企業の買収の事前審査を強化するようです。

では、日本では外資企業による買収について法規制はあるのでしょうか。

日本では一応、外為法による規制があり、防衛、原子力等に関わる事業を営む日本企業の株式の10%以上を取得する場合には、取得しようとする外国法人は、国に事前届出をし、その認可を受ける必要があります。

しかし、外為法の規定は、業種が特定されているなど、規制がそれほど厳しくないのが現状です。最近、外為法が改正され、これに伴い外資による対内投資規制も一部変更がありましたが、実質的な強化にはなっていません。例えば、国の審査を得ずに、日本企業の株式10%超を取得してもその効力は無効とはならないことになります。

EUでの規制強化の具体的内容は見ていませんので良くは分かりませんが、米国企業の買収は米国の規制が従来から厳しく(このため中国による米国企業の買収は難しい)、今回、EUの規制も厳しくなるのであれば、中国企業等の新興国企業の関心は規制の緩い日本企業に流れるのではないでしょうか。

そうすると、日本企業は自社で自己防衛をする必要があり、買収防衛策などが必要になります。

しかし、問題は、その一方で、買収防衛策に対して海外機関投資家、国内機関投資家はますます反対する傾向にあり、買収防衛策の導入・更新が厳しくなっています。とすると、日本企業は、時価総額を上げて買収されるリスクを低くする、または有事に備えてホワイトナイトを事前に探しておくといった方策を講じることが、今後重要になるように思えます。

㈱内田洋行への投資会社による株主提案に対する取締役会の反対意見

2017年9月11日付の㈱内田洋行のプレスリリースによれば、同社の株主である株式会社ストラテジックキャピタルより、本年10月開催予定の定時株主総会にて株主提案が出されており、それに対して内田洋行の取締役会が反対意見を決議したとのことです。

2017年9月11日付のプレスリリースに記載されている株主提案の内容を見ますと大きく次の2つになります。

1.内田洋行の定款に、純投資目的以外の目的で保有している上場株式は、来期中に速やかに売却することの規定を設けること
2.剰余金の配当として、株式1株当たり、2017年7月期の連結上の1株当たり当期純利益の金額を配当すること

端的にいうと政策保有株式は速やかに売却して、キャッシュを株主に還元せよという提案内容かと思います。

ここで、プレスリリースに記載されている株主提案に記載の内田洋行の財務状況を見ますと、2017年4月20日現在で次のようになっているようです。

・現預金 203億円、投資有価証券 79億円
・有利子負債(デット) 71億円
・ネットキャッシュ(=現預金 + 投資有価証券 - 有有利子負) 211億円

プレスリリースによれば、2017年4月20日現在で、純資産は364億円でPBR(株価純資産倍率)は1倍を大きく下回るということのようです。ヤフーファイナンスで検索したところ、4月20日時点の株価は終値で2,403円、発行済株式総数が10,419,371株ですので、時価総額は約250億円になります。

この数値をベースに算出するとPBRは0.67倍(=250億円÷364億円)となり、たしかに1倍を下回り株価は割安といえます。

また、時価総額に対するネットキャッシュの比率を見ますと、ネットキャッシュ / 株式時価総額=84%(211億円÷250億円)となっており、これを見ても、株価は割安に評価されているといえます。

ストラテジックキャピタルがいつ株式を取得したかは不明ですが、割安な株式を取得して、用途が明確でない潤沢な余剰資金を還元しろという主張のようです。割安でキャッシュリッチな企業の株式を取得して、株主還元を要求し、増配によって株価の上昇を目指すといういわゆる物言う株主による一般的な主張内容になります。

内田洋行ROEは5.2%ということで、日本企業の平均8%を下回るのでこの点でも株主還元を主張する論理性はあるかと思います。

ここで、1つ政策保有株式の主張について関心がありましたので、少し説明します。

政策保有株式は、コーポレートガバナンス・コードでも指摘されており、取引先との安定的・長期的な取引関係の構築、協働ビジネス展開の円滑化等の観点から、中長期的な企業価値向上に資すると判断される場合には、保有できるとされています。

これに対して、株主提案では、次のような理由で、保有の意義はないとストラテジックキャピタルは主張しています。

1.取引先の株式を保有していると何故に取引関係の構築等ができるのか、その因果関係が不明
2.取引先との関係構築等は、株式保有に頼るものではなく、会社の提供する役務等の品質向上によるべき

上記の2つの株主提案に対しての内田洋行の取締役会の意見は、簡単にまとめますと次のとおりです。

1.(定款変更の提案については)政策保有株式の全株の売却は、今後の株式投資全般も制約しかねず、柔軟な事業提携や協業等への投資を阻害するものであり反対
2.(剰余金処分については)中核事業の再構築のための事業改革を進め、次に事業基盤確立に向けて継続的な投資を行うことを検討しており、財務基盤の確立が経営課題の1つであり、増配提案は株主の中長期の利益を損うことになり反対

今後は、株主提案内容と取締役会決定のいずれに他の株主が賛同するかになりますが、内田洋行の直近での株主構成をは分かりませんが、2016年7月20日の有価証券報告書を見ますと外国人株主比率は18%となっております。

外国人株主(海外機関投資家)は経済合理性に即して判断するので、株主提案が理にかなっていると判断する場合には、何の躊躇もなくこれに賛成するとなります。

一方、国内機関投資家の株式保有比率は分かりませんが、個別開示の方針を各社打ち出している中、株主提案に賛成する国内機関投資家も増えるのではないでしょうか。なお、個人的には政策保有株式の取得には、どこまで意義があるのかは懐疑的です。わずか1~2%程度の株式を保有しただけでは、対象会社の経営権に影響を及ぼすこともできず、いわば「名刺」の意義しかないのではないでしょうか。その点では、ストラテジックキャピタルの主張に私は論理性があるように感じています。

内田洋行は、今後、株主総会に向けて会社提案に賛成するよう機関投資家に働きかけ、自社主張の正当性を説明したり、また安定株主にも賛成票を投じることをお願いすることになるのでしょうが、ポイントは国内機関投資家になります。

議決権の個別開示を各社採用する中、機関投資家の多くが株主提案に同調するようなことになると、先般の黒田電気の株主提案が可決されたように、株主提案が可決されることになる可能性もあります。

もし、そうなった場合には、これををきっかけに物言う株主にが勢いがつき、今後、上場企業にとっては、厳しい環境に向かう流れに向かうかも知れません。

 

女性の社外取締役の員数増加

伊藤レポートについて週末までにしっかり読もうと思っていたのですが、ざっと目を通した程度しかできませんでしたので、伊藤レポートの内容サマリーは次回以降として、本日9月10日の日経新聞に「女性社外取締役15%増」との記事がありましたので、これについて紹介するとともに、最近はやりのダイバーシティーについて思うところをコメントしてみます。

同記事は次のような内容です。

東証1部上場企業約2,000社に在任する女性の社外取締役は552人で昨年より15%増
・女性社外取締役を起用した企業は4社に1社
東証1部上場企業の全取締役に占める女性取締役の比率は10.6%

社外監査役を含めた女性の社外役員の員数では、ローソン、かんぽ生命、カルビーアステラス製薬資生堂など15社が3人となっているようです。いずれも直接にエンドユーザーを顧客とする企業で女性目線が収益を稼ぐ上で大切になってくる企業かと思います。

近年、ダイバーシティーということで女性の活用に取り組んでいる上場企業は大変多いと思います。

企業によっては、ダイバーシティーを推進する専門部署(部署といっても2、3名程度の小規模と思いますが)を設置している企業も多いと思います。

私は、女性の活用に関する議論に関しては良く理解していないのですが、男女の区別なくフルで働ける人材の中から、能力のある者を活用していけばよく、それが男性・女性のどちらでもよいというのが考えです。

ただ、本日の記事もそうですが、女性をあえて幹部や役員として起用するということであれば、「女性」という母集団がその企業で一定規模に達している必要があると思います。

当たり前ですが、能力ある者を選ぶには、その母集団が小さいと必然的に選ばれた者は能力の低い可能性が高いということになります。1学年20名の過疎化の進んでいる小学校で5番の成績の生徒と、1学年200名の小学校で5番の成績の生徒の能力を考えると一目瞭然かと思います。

では、母集団として現状はどうなっているかを見ますと、公務員の世界は知りませんが、民間企業でフルで働ける女性というと、自分の経験や知人などの話も聞くと、①未婚者、②既婚であるが子供がいない、③既婚で子供が一人(一人っ子)という3類型に大きく分かれると思います。勿論、男性もこの3類型に該当します。

問題は、この母集団に子供を2名以上持つ多くの女性が入っていないことです。理由は単純で、子供が2人以上いると、男性と異なり女性はフルで勤務するのが大きく困難又は不可能という点で、どうしても子育てを優先せざるを得ず、一流大学を出て総合職として入社し、将来幹部となれる能力があっても退職してしまうことになります。実際に私のまわりでもこういう女性を数多く見てきました。

とするとこういった大多数を占めるタイプの女性が母集団から除かれた集団の中から、あえて幹部、役員を選ぶとすると、その選ばれた者は、母集団の数が小さいため、必ずしも能力が十分でない可能性があるということになります。

ダイバーシティーの内容は各社取り組みは様々だと思いますが、仮に女性の役員・幹部を増やすということであれば、その職に選定された女性が優秀であるためには、フルで働ける女性の環境を整備する、つまり子供を複数名持っても十分に働ける環境を整備することがとても大切なように考えます。

女性活用というのは今のはやりですので、現時点においてフルで働くことが出来る女性集団の中から、とりあえず幹部を選任しておくということは世間に対するPRという点では手っ取り早く一番都合がよいことはたしかです。

しかし、真に女性の目線を企業経営に活かして、それが収益向上につながるのであれば、フルタイムで働くことができない女性に十分に働ける環境を与え、女性の母集団を広げ、その中から能力ある者を選別するということが必要になるのではないでしょうか。

企業と投資家との対話-信託銀行の本年の株主総会での議決権行使結果から

本年の株主総会での生保、機関投資家、信託銀行による議決権行使結果の集計結果が時々報道されています。つい先日の新聞報道によれば、大手信託銀行4行の総会議案(会社提案議案)への反対率が上昇し、10%台後半になったとのことです。

スチュワードシップ・コードの要請に従い、総会の議決権行使結果について個別開示を本年より行うことになった機関投資家などは、自社の議決権行使基準を見直すなどして、基準に即した判断を行うことになった結果、議決権行使基準を充足していない企業の株主総会議案に対する反対が増えたということかと思います。

この記事を読んで思ったのですが、以前に機関投資家数社と対話をした際には、機関投資家が議決権行使基準に即した議決権行使をすることになれば、自社の議案が基準を充足しない場合には、機関投資家等との対話などはそもそも必要がなくなるのではないかと考えたりもしました。

しかし、新聞報道によると、機関投資家は必ずしも機械的に行使基準をあてはめているわけではなく、投資先企業との対話で改善が見られたり、実態が異なっている場合には賛成票を投じているようです。

とすると、企業としては、今後、機関投資家、生保等の投資家の議決権行使基準を確認し、議決権行使基準に照らして自社の議案が基準を充足していないが改善を検討している場合、自社の開示書類の記載から議決権行使基準を充足するかどうか機関投資家が判断できないであろうと考える場合には、機関投資家と積極的に対話を行うことが重要になります。

複数事業を営む企業のPERについて

9月1日の日経新聞で「業種別PERを疑え」との見出しの記事がありました。

記事を引用しますと「同じ業種でも一律の投資指標で比較しきれない『隠れ異業種』銘柄が浮かび上がる。これまでとは違った投資尺度を当てはめれば、割安と評価できる可能性もある。」との内容です。

例を挙げて説明したいと思います。

仮に、複数の事業を営む企業(A社)がありA社は主力事業が化学事業として、PER(=時価総額÷純利益)が化学業種の同業のPERの平均倍率(仮に13倍とします。化学業種の実際の平均PERは分かりません)を上回り15倍あるとします。

これだけを見ると株価が割安に評価されているとはいえません。しかし、A社が従来からの主力事業である化学事業の他に非鉄金属事業、輸送用機器事業があり、非鉄金属事業の利益がA社の全体利益に占める割合も高く成長している場合、非鉄金属事業の業種の企業の平均倍率を見る必要があります。

非鉄金属事業で見た場合、自社と同規模の企業のPERが仮に30倍となっている場合、A社は化学業種で見た場合には業界平均であるも、非鉄金属事業で見た場合には低く、株価は割安に評価されている、つまりもっと市場株価は上がってもよいはずという内容かと思います。

 新聞記事では、神戸製鋼所のケースが出ていましたので、同社の2018年3月期の第1四半期の決算短信、決算説明資料をホームページからぱっと眺めてみました。

セグメント別の売上高と経常損益の数値があり(事業セグメントが10もあることをはじめて知りました)、2017年度のセグメント別の売上高予想で高い順に事業セグメント4つを上げると、売上高及び経常利益は次のとおりになっています。   

         売上高     経常利益   
鉄鋼           7,100億円     150億円 
アルミ銅      3,450億円     140億円 
建設機械      3,350億円     100億円 
機械             1,780億円       50億円  

会社全体での予想売上高は18,800億円、予想経常利益は550億円となっています。

これを見ると鉄鋼セグメントの全体売上高・経常利益に占める比率が大きいですが、アルミ・銅や建設機械の占める比率も大きいことが分かります。

ここで9月5日の株式時価総額を分子に、第1四半期決算短信に記載の2018年3月の予想当期純利益を分母に神戸製鋼所のPERを算出すると次のとおりになります。

PER = 4,751億円 ÷ 350億円(2017年度業績予想) = 14倍

業種別日経平均の「鉄鋼」は約12倍のようですので、平均より高いといえます。

次に建設機械の観点から見てみたいと思います。

建設機械の大手では、コマツ日立建機がありますが、各社のPERを各社の2018年3月期の第1四半期決算短信にある2018年3月期の予想純利益を分母にして、算出してみました。なお、時価総額は2017年9月5日の各社の株価終値ベースです。

コマツ  PER = 28,551億円 ÷ 920億円(2018年3月期連結業績予想)  = 31倍
日立建機 PER =   6,647億円 ÷ 180億円(2018年3月期連結業績予想)  = 37倍

新聞記事では、コマツ日立建機のPERは30倍を越えるとありましたが、その通りです。

とすると、神戸製鋼についても、全体としては、建設機械の同業種と比較した場合には、PERが低いので割安であるということも言えるのかも知れません。

勿論、PERの数値だけで割安かどうかは必ずしも判断できるものではなく、PBRなどの視点からも検討する必要があるように思いますが(ただし、PERが1桁台であれば株価か確実に割安といえると思います)、前述のとおり、会社の全体利益の中で大きな割合を占める事業がある場合、その事業を営んでいる同業他社と比較してPERが大きく下回っている場合には、割安と考えられるということです。

日経IR・投資フェア2017に参加しての感想 - 講演会の内容

前回、8月26日(土)に「日経IR・投資フェア2017」に参加したことを書きましたが、今回は、その時に開催された講演会の感想について書きたいと思います。

講演はいくつかあったのですが、参加したのは、「持続的成長が可能な企業とは - ESG情報を読み解く」(伊藤 邦雄 氏(一橋大学 特任教授))と「重要性高まる企業の情報開示とESG情報」(高山 与志子 氏(ジェイ・ユーラス・アイアール)、ブラックロック・ジャパン担当他)の2つのほかに、UBS証券の方による欧米投資のメガトレンドの合計3つになります(全部で3時間30分でした)。

ちなみに、伊藤氏は、経産省が2014年に出した「伊藤レポート」の座長である大変著名な方であり、高山氏は、公表情報で経歴を見ると、2017年金融庁スチュワードシップ・コードに関する有識者検討会メンバーであり、元メリルリンチ証券などで勤務されていた方です。

内容としては3つとも同じような内容の講演会で、今後の投資においては、非財務情報であるESG情報が重要になるというものです。

ESGとは、以前にこのブログでも書いております。その時は「今後トレンドになりうるのか少し疑問である」と書きましたが、どうやら昨今の新聞報道なども見ると本格的に日本でもESG投資が本格化するのではないかと思っています。

ESGとは、E(Environment)、S(Society)、G(Governance)を示す言葉です。

GPIFが運用資産約130兆円のうちの運用する日本株(約30兆円)の約1%をESG投資に組み込むことを公表し、大きな概要は新聞報道レベルでは知っていましたが、そもそものESG投資の動きの背景を知らなかったので、今回の講演会では背景などを知ることができ大変有意義でした。

個人投資家対象の講演会でしたが、内容は企業のIR担当者などにとっても大変有用な内容と思いました。

大きな観点からポイントを書きますと次のような内容になります。

・ESG投資は欧米(特に欧州)で先行しており、グローバルスタンダードである。日本が遅れている。
・ESGの背景は、2008年のリーマンショックの時期に財務状況の好調な企業が破綻し、その原因が非財務情報である企業統治や企業文化であることが判明。結果、企業の中長期的な成長には、財務情報以外の非財務情報、中でもESG情報が重要であるとのコンセンサスが出来た。
・ESGの中で、欧米では「G」が重要で、「Governance first」の状況にある。EとSは海外機関投資家もどのように考えたらよいか現時点では思考錯誤の状況にある。

簡単にポイントだけをいいますと上のような内容になります。

要は企業の短期的成長・業績を見るのであれば、ESG情報などは不要ですが、中長期的成長の観点から見るのであれば、欧米投資家はESG情報を重視しており、これは確実に日本でもそうなる。このため、企業は情報の開示に留意する必要があり、個人投資家は企業のESG情報をきちんとウォッチすることが今後必要であるということでした。

企業の中長期的成長に関しては、前述のとおり経産省が2014年に出した「伊藤レポート」に色々と記載されています。レポートの正確なタイトルは、「持続的成長への競争力とインセンティブ~企業と投資家と望ましい関係構築~」です。

このレポートは資本市場関係者、大手上場企業の経営企画担当やIR担当で、少なくとも名称をご存知の方は多いと思いますが、内容(全文100ページ)まで読んだ方は、少ないのではないでしょうか(経産省のHPを見ると掲載されています)。

という私もサマリーの斜め読みしか出来ていませんが、一度全文をしっかりと読み、ポイントについて、今週末あたりにブログで書いてみたいと思います。

日経IR・投資フェア2017に参加しての感想 - 中堅上場企業(中小型株)のIR説明と一般個人投資家

先日、東京ビックサイトで「日経IR・投資フェア2017」が8月25日(金)・26日(土)の2日間にわたって開催され、私は8月26日(土)に朝から参加しました。

同フェアでは伊藤ポートでお馴染みの伊藤邦雄氏(一橋大学教授)や金融庁スチュワードシップ・コードに関する有識者検討会メンバーほかの講演会があり、講演会に参加するとともに、40社ほどの企業がブースを設置し、一般個人投資家向けにIR説明を行っていましたので、数社の企業ブースでIR説明を聞きました(講演会の参加が主目的でした)。

講演会の内容は、最近のトレンドであるESG投資に関するものであり興味深い内容でしたので、後ほどブログでも紹介させて頂きますが、今回は企業ブースのIR説明を聞いての感想を書きます。

帝人や電鉄会社といった大手企業も数社出展していましたが、大部分は時価総額が数百億円規模の中堅上場企業でした。ブースを訪問した各社は、パワーポイントを用いて自社の事業概要について説明をしており、最後に株主還元ということで配当状況について説明していました。

各社とも事業の概要についての説明が主でしたが、批判的な観点から見た場合の私の印象は、次のとおりです。

・各社安定配当を継続との説明に終始し、配当性向について十分な説明がない
・ネットキャッシュが潤沢であるにも関わらず、キャッシュの使途の説明が一切ない
ROEの説明がない、またはあっても不十分

・業績数値がPLの売上高、経常利益の単純数値のみ

・ネットD/Eレシオなどの指標も説明なし など

説明後に何社かの担当者に「キャッシュの使途は何かあるのか」「ROEも低く、配当性向が低いのであれば、今後は増配などを検討することになるのか」「PBRが低い(=株価が低い)ようだが、来期の業績が好調である中、何が原因なのか」といったことについて質問をしてみました。

1社は説明者が手元に財務資料をもっていたようで、拙いながらも積極的に回答をしていましたが、残りは、説明会で質問が出るとは予想していないような様子で、そもそもキャッシュリッチの意味やROEもどこまで理解出来ているか不明な様子でした。

説明者のプレゼンの様子からして、恐らくその程度の知識しかないのであろうと想像しており、特に驚きはなかったのですが、1社少し驚いた回答がありました。

その企業は業績好調で、内部留保が大きくかつキャッシュリッチですが、今後も現状と同じ安定配当を継続するという説明でしたので、「海外機関投資家が増えたら配当増を検討する必要もありますよね」と質問をしたところ、「そういう外圧があればそうだが、今は外国人比率は2~3%程度でそういう状況にないので考えていない」とのことでした。

しかし、これは回答としては「NG」かと思います。

外圧があれば検討する(実際にはそうなのですが)のではなく、回答としては「設備投資やM&A等の成長戦略を考えているので、手元資金を増やしており、従い、株主が誰であっても配当性向は今のところ変える予定ません」というのがあるべき回答かと思います。

ここで視点をかえますが、そもそも投資フェアに参加している個人投資家はどのような方でしょうか。

ある企業の隣のブースで、某投資会社がROE株主資本比率)の説明をしており、偶々耳にしたところ、その内容は「ROEとは何であるか」といった極めて初歩的な説明であったため、こんなことをわざわざ聞く個人投資家がいるのかと思い目を向けたところ、驚いたことに多くの参加者が熱心に耳を傾けておりました。

それを見て、会場にいる方は、財務諸表や株式指標の「イロハ」の「イ」も知らず投資しているのだろうなと思いました。

昔、ある投資ファンドマネジャーが、個人の大部分は決算短信などの財務数値の詳細を読む能力もなく、従って読んでもおらず投資をしているという記事を読んだことがあります。恐らく株価チャートあたりを見て、株価のトレンドだけで判断しているのでしょう。

勿論、企業を経営して成功されている中小企業のオーナーの方や資産家の方は、そもそも投資資金が潤沢にあるので、そのような細かい財務数値など知らずとも数千万円から数億円を、優良な安定配当企業にポンと投資するだけで十分なインカムゲインを得られます。しかし、圧倒的大多数を占める普通の個人投資家は、わずかな資金を少しでも増やしたいと思い投資するのですから、投資のリターンの精度を高めるためには、細かい財務分析が必要になるように思います。

ここで話は元に戻りますが、この程度の知識しかない個人投資家が相手であれば、先ほどの企業のIR担当者の回答であっても個人は何もおかしいとは思わないでしょう。

しかし、資本市場と投資家との対話が変わる大きな変化の中、先ほどの回答をした中堅企業のIR担当者は、もう少し勉強をする必要があります。

もし個人的投資家にも安定株主として企業のファンとなって欲しいということでこのフェアを開催しているのであれば、企業も業績の詳細、個人投資家の最大の関心事である株主還元や余剰資金の使途、株価対策などに十分な説明をすることが必要になるのではないでしょうか。

そうしないと、少しでも株価が上昇すれば、それが理論株価を下回っていても個人投資家は株式を売却する方向に向かい、仮に物言う株主が増配の株主提案をしたような場合には、何の躊躇もなくこれに賛成を表明することになります。

安定株主(自社のファン)を増やすという意識で個人投資家フェアを開催しているのであれば、少なくとも私が説明を聞いた企業は、今一度自社の資本戦略や対外的な説明内容について考え直す必要があるような印象を持ちました。

株価の割安の判断指標(EV / EBITDA倍率、ネットキャッシュ / 時価総額比率)

前回、株価が割安か否かの判断基準として、 EV / EBITDA倍率、ネットキャッシュ / 時価総額比率について触れましたが、本日はそれについて簡単に説明いたします。

 

1.EV / EBITDA倍率(倍)(= EV ÷ EBITDA)

これはEV(Enterprise value = 企業価値)がEBITDAの何倍あるかを示すものです。EV(イー・ブイ)、つまり企業価値ですが、次の算定式で算出されます。

EV = 株式時価総額 + 有利子負債(デット)-現預金(キャッシュ)

   = 株式時価総額 - ネットデット

勿論、企業の中期経営計画からEVを算出するDCF法もありますが、上場企業の場合には、株式時価総額が1つの判断基準にもなりますので、上の式で算出されます。

次にEBITDA(イービッダー)とは、営業利益+減価償却費ですが、減価償却費はPL上の費用に計上されますが、実際にはキャッシュとして外に出ていかない費用ですので、本業での利益である営業利益に足し戻すことでEVITDAが本業(通常の営業活動)での利益となります。

これが低いということは、企業価値でこの会社を買収しても、短期間で投資金額を回収できるということです。

仮に企業価値が100億円、EBITDAが20億円とします。この会社を100億円で丸々買収しても5年で回収できるということになります。平均倍率は企業の属するセクターによって異なりますが、おおよそ7~8倍程度が全体の平均かと思います。EV / EBITDA倍率が同業他社に比べて低いということは、その企業の株式時価総額が低いということになります。

 

2.ネットキャッシュ / 株式時価総額(%)(= ネットキャッシュ ÷ 株式時価総額)

株式時価総額と比べてネットキャッシュがどの程度あるかという指標です。まず100%以上あるような企業は株価が割安といえます。

単純に考えると、株式時価総額が100億円の企業でネットキャッシュ(=現預金-有利子負債)が150億円の企業の場合、100%を超えますが( = 150 ÷ 100(%))、これはつまり100億円で買収して150億円のキャッシュを手にすることができます。結果、差し引き50億円を取得できることになります。これは、株価が割安に評価されているということになります。

100%を下回る場合でも、この比率が高い場合は、上に記載の算式からEVが小さいといことになりますので、本来の理論株価に比べて市場で株価が割安に評価されているといことになります。

これら以外に株価が割安かどうかを判断する指標はあるかと思いますが、代表的な指標について簡単ですが紹介いたしました。

 

サーベラスの西武HDの全株式売却の報道に見る企業の今後の株主政策

8月17日の日経新聞で米投資ファンドサーベラス・グループが西武ホールディングス保有株式全株を売却したとの報道がありました。サーベラスは2006年頃に西武HDの株式を約30%保有して、その後、色々な提案を西武HDに行ってきましたが、その後、段階的に売却を売却し、保有比率が低下していました。

サーベラスとは米国のアクティビストファンドであり、いわゆる物言う株主になります。サーベラスが大株主になることで、西武HDの業績にどういう影響があったのかまでは把握していませんでしたが、新聞報道によると、サーベラスが投資した1,000億円が元手になりホテル事業が復活し、「既存ホテルの平均客室単価を引上げる戦略も成功。営業利益は2006年度から10年で5割増の624億円まで回復した」とあります。

この報道を受けてあらためて思ったのは、企業にとっては、物言う株主は、自社の経営に口を出す部外者という意識が強いと思いますが(当然ですが)、一般の株主にとっては物言う株主の存在は自分たちにとって都合が良い存在と映る可能性が大ということです。

これは想像ですが、もし、サーベラスが投資をしていなかった場合、西武HDが現状のような業績回復が出来ていたでしょうか。出来ていたかも知れませんが、簡単には思いきった投資などはできずに、回復に時間がかかったかも知れません。

サーベラスが会社に対して積極的な提案をしたという「外圧」があったからこそ同社の企業価値の向上につながり、結果、一般の株主も株価上昇による恩恵を受けたといえるような気もします。

とすると、前にも何度かブログに書いていますが、物言う株主に賛同する一般株主は増える傾向にあるということになります。特に、合理的に判断する外国人株主や国内機関投資家といった株主の株式保有比率の大きい企業は、物言う株主の提案に賛同するケースが多く、個人株主も、オーナー一族を除けば、物言う株主の提案が自己の利となるのであれば、物言う株主の提案に賛同する方向に確実に向かいます。

以前に日経ビジネスか何かの雑誌で「一億総アクティビスト時代」といった用語を目にしましたが、投資ファンドが口火を切ることで、全ての株主がアクティビストになるということが言えるようにあらためて感じました。

話は少し変わりますが、約1週間の夏季休暇中に、今週末に東京ビックサイトで開催される日経IR・投資フェア2017の出展企業の中で中小型株銘柄に該当する時価総額数百億円規模の企業15社ほどの財務諸表を眺めました。

バランスシートを見ると内部留保が潤沢であり、総資産に占めるネットキャッシュ比率がかなり高く、配当性向は30%台はあっても「更なる増配の余地も十分あるのでは?」と見受けられる企業が散見されました。

また、総資産に占めるネットキャッシュ比率が高く、市場で株価が割安に評価されていると考えられる企業も散見されました。ちなみに割安株の判断基準は、PBR、EV/EBITDA倍率、ネットキャッシュ/時価総額比率などの指標があります。

EV/EBITDA倍率で1桁程度の倍率で、ネットキャッシュ/時価総額比率がかなり高い企業もありました。これは市場で株価が割安に評価されていることを意味します(PBR、EV/EBITDA倍率、ネットキャッシュ/時価総額比率の指標の意味については、少し長くなるので、次回はこの3つの指標について紹介いたします)。

そして、全ての企業では勿論ないですが、これらのキャッシュリッチ、割安株の企業の外国人比率を見ますと数パーセントから10%台が多いです。

本来こういった企業は、増配や自己株買いの要求が株主からあったり、割安を理由に買収されるリスクのある企業と言えますが、外国人比率や国内機関投資家による株式保有比率が小さいため、現実には物言う株主の提案に賛同する株主がいないため、そういったリスクを懸念する必要はないのかも知れません。

しかし、将来、外国人株主の比率が高まった場合や、持合解消の動きの中、自社の株式を保有している取引先が株式を売却し、機関投資家や個人株主の比率が大きく増えた場合には、サーベラスのようなアクティビストが株式を保有して提案をしてきた場合、この提案に賛同する株主が多くなることを考え、あらためて株主政策については考える必要があるのではないでしょうか。

これまではIRや株主政策にあまり目を向けてこなかった企業は、昨今の資本市場の変化の中、単に社外取締役を増やすといった形式的なことで満足するのではなく、社外取締役が出席する取締役会で資本政策、株主政策をきちんと検討すべき時期に来ていると思います。

次回はPBR、EV/EBITDA倍率、ネットキャッシュ/時価総額比率などの割安株の指標について簡潔に、かつわかり易く解説をいたします。