コーポレートガバナンス、M&A、企業価値、IRなどに関する実務ニュース

コーポレートガバナンス、M&A、企業価値、IR等の新聞記事について、投資銀行・東証1部事業会社での実務経験を通じて気づいた観点を踏まえて分かりやすく解説していきます

訪日外国人消費動向調査(2018年全国調査結果)が公表されています

先日、四季報業界地図(東洋経済新報社)の最新版を購入して投資有望な投資対象銘柄のスクリーニング作業をはじめましたが、投資テーマの1つとして、外国人関連銘柄があげられるかと思いますが、これに関して短いですが、経済データを1つ紹介します。

観光庁が公表している「訪日外国人消費動向調査」で、1月16日に2018年全国調査結果を公表しています。公表数値を整理又は加工したりすると次のような内容になります。

  • 2018年の外国人旅行消費額の総額は4兆5064億円。2012年以降7年連続で前年増
  • 国別の消費額を見ると中国、韓国、台湾、香港、米国がトップ5で全体の消費額の約60%を占める
  • これらのうち上位4国の消費額の合計は約3兆円で、これを支出用途別の比率に分けると次のとおり
     買物代 42%、宿泊費 25%、飲食代 20%
  • 2018年の訪日外国人1人当たり旅行支出は15万3千円で、国籍・地域別にみると、オーストラリアが最も高く(24万2千円)、次いでスペイン(23万7千円)、イタリア(22万4千円)の順で高い

2012年に外国人旅行消費額は1.1兆円だったので、伸びがすごいですね。外国人旅行客が増えているのは勿論知っていましたが、このよう内訳の資料が公表されていることは、私は不勉強で知りませんでした。

こういったデータも色々な観点から自分なりに加工したりすると株式投資のアイディアが出るかと思います。

なお、3月18日の株式市場では、化粧品や百貨店などのインバウンド関連銘柄が上昇したようです。2018年下期には、米中貿易摩擦の影響による中国経済の減速懸念でインバウンド関連銘柄はマーケツト全体よりも下落したのですが、中国の全人代で2兆元規模の減税と社会保険料引き下げの経済対策が出たことが買いの要因とのことです。

本日は訪日外国人消費動向データを紹介しましたが、私は業務上で使うこともあり、マクロ経済の統計データの整理・分析に最近になって力を入れており(といってもエコノミストのような専門的分析まではとても出来ませんが)、今後、マクロ経済関連のデータについても適宜ブログで掲載して行きたいと思います。

①自社株買いの狙いと②投資候補企業のROEの留意事項について簡単に紹介します

本日は、自社株買いと投資候補企業のROEの読み方の留意事項について紹介します(この2つのテーマはそれぞれ別の話です)。

先日の日本経済新聞で米国において自社株買いを規制する議論が起きているという記事がありました。詳しくは読んでいないのですが、米国では所得の上位1%が富の25%を保有するということで、自社株買いが富裕層との格差に拍車をかけるというような記事でした。

最近、自社株買いを公表する企業を良かけますが、本日は、自社株買いの狙いについて基本的なところを簡単に紹介したいと思います。概ね次の3つかなと思います。

1 株主還元の増加

  • 日本企業の配当性向は約30%といわれ、海外企業と比較して低いといわれています。アクティビストから増配の要求がなされているところも新聞報道のとおりです。しかし、企業としては増配をすると(増配とは、仮にこれまで1株当たり50円であった配当を、1株当たり70円にするといったように配当を増やすことをいいます)、その後、業績が低迷して配当を減らすことになった場合には、減配となり非常に資本市場での評価が悪くなります。このため、自社株買いをして株主にお金を還元することで、配当と同様の効果を得ることが出来、このような目的で行うことがあります。

2 EPSの増加による株価上昇の期待

  • EPSとは1株当たり当期純利益で、当期純利益÷発行済株式数で算出されます。自社株買いにより市場で流通する発行済株式数は減少しますので、EPSの算出式の分母の数値が減少し、結果、EPSは増えることになります。
  • 少々補足しますと、当期純利益とは、企業が事業活動を行う上で発生する税金、仕入先への代金、従業員への給与等の諸々の費用を控除した後の利益で、株主に帰属する利益のベースです。それを発行済株式数で割ることで株主に帰属する1株当たりの理論上の利益ということになり、これが増えるということを意味します。株主にとっては喜ばしいことですよね。
  • そして、株価=EPS×PERになります。PERとは、株式時価総額÷当期純利益ですので、自社株買いによってPERが一定とする場合、EPS増加の結果、株価は上昇するということになります。

3 ROE向上

  • 自社株買いを行うと取得した自己株式は純資産でマイナス計上されます。結果、純資産が減るので、ROEが増加します。ご存知のとおりROEは株主が投資した資本が効率的に活用されているかどうかの指標ですので、ROEが高いと評価されることになります。

以上が自社株買いの狙いかと思います。

なお、話は変わりますが、投資候補企業のROEの読み方について次に紹介します。

先日の日本経済新聞で、ROEの高い企業であっても機関投資家は選別する動きにあるという記事がありました。ブログでも何回か書いていますが、ROEは3つに分解されますが、機関投資家ROEが高い場合、その要因が何かを見て投資の是非を判断するということです。

財務レバレッジが高いがゆえにROEが高い企業より、利益率が高いがゆえにROEが高い企業に投資するということのようです。当然といえば当然ですが、個人投資家などはROEが高い企業は良い企業ということだけで選別しているケースも多いかと思いますが、ROEが高い場合には、その企業の営業利益率が過去どの程度で推移しているかを見ないと、ROEは高いが、機関投資家の関心の低い銘柄で株価があがらないということになるので、要注意と思います。

個人投資家などは投資先の選定において四季報オンラインなどでスクリーニングをする際には、ROE8%などと設定するのと併せて、営業利益率について一定の下限数値を設定すると良いかもしれません。

 

 

 

上場子会社の役員のモチベーション維持が上場子会社を保有する大きな理由

先週、日本経済新聞に「親子上場に統治指針」との小さい記事が掲載されていました。

未来投資会議(第24回)が3月7日に開催され、そのことを言っているかと想像しますが、同会議のアジェンダを見るとモビリティーと上場子会社のコーポレートガバナンスの在り方について討議された模様です。

上場子会社のガバナンスの在り方については、経産省のCGS研究会でも議論されていますが、未来投資会議の資料からポイントになる点を列挙してみたいと思います。

  • 上場企業のうち支配株主を有する上場子会社は628社(2018年12月時点)
  • 親子上場企業数は約218社
  • 日本の親子上場企業数と市場に占める比率は6・1%と高い。ドイツ 2.1%、フランス2.2%、米国0.5%
  • 上場子会社を保有する理由
    ①子会社役員のモチベーション維持・向上のため(54%)
    ②上場企業であることのステータス、ブランド価値の維持のため(40%)
    ③子会社で優秀な人材を採用するため(39%)
    ④子会社の取引先の信用確保のためなど(34%)

先日、CGS研究会の第14回の議論は紹介しましたが、これと同じく上場子会社のガ
バナンスに関する議論がされています。

本日のブログのタイトルに関係するのですが、私が興味深かったのは、上場子会社を保有する理由です。子会社を保有する理由で①がトップにあげられていますが、なかなか正直に書かれており、呆れました。50代半ば過ぎの年代のサラリーマン役員のモチベーション維持が上場子会社保有のトップの理由とはなんともなさけない話かと。

反対解釈すると非上場になるとモチベーションが保てないということで、意味は良く分かりませんが、恐らく、俺は「(子会社だけど)上場会社の役員だ」というのが役員として職務を果たすことのモチベーションになるということのようです。

子会社の役員は上場していても、親会社では2ランクほど低い職位に相当する、つまり「子会社の常務取締役は親会社の部長相当」と親会社の社員からは見られているはずなのですが、役員という肩書きがつくとモチベーションがあがるようです。

こんなことが上場子会社を保有する一番の理由ということが資料で出てしまうと、会社の少数株主である機関投資家からは「上場子会社など不要ではないか」とういう意見が益々強まることになる気がします。

リース取引の会計基準の変更

3月8日の日本経済新聞で、リース取引に関する会計基準が変わり、リース取引が資産計上される方向との記事がありましたので、今回は、これについて少し触れてみたいと思います。

 リース取引とは、貸手(レッサー)が借手(レッシー)に対し、合意されたリース期間にわたりリース物件を使用収益する権利を与え、合意されたリース料を貸手に支払う取引をいいます。

リース取引には2つあります。①ファイナンス・リース取引と②オペレーティング・リース取引です。

①は通常の売買取引にかかる方法に準じた会計処理が行われ、バランスシート(BS)に資産計上されます。仕訳でいうと次のとおりです。

リース資産 XXX / リース債務 XXX

資産と負債にそれぞれ計上されます。また、自己の固定資産と同様に決算時に減価償却を行うことになります。

 一方、②は通常の賃貸取引にかかる方法に準じた会計処理がなされ、資産計上はされません。仕訳ですと次のとおりです。

支払リース料 XXX / 現金預金 XXX

 では、①と②の区別基準はどこにあるのでしょうか?

これは、ノンキャンセラブルとフルペイアウトの2要件を充足するか否かが基準になります。つまり、リース期間の中途において、リース契約を解除できず、かつ、経済的利益を実質的に享受できる、かつ、使用に伴うコストを実質的に負担するような場合には、自社で所有していることと同様ですので、①のファイナンス・リース取引になります。そして、これ以外がオペレーティング・リース取引になります。

 ②は、資産計上されていませんでしたが、今後は、BSに資産計上されるというのが今回の報道です。オペレーティング・リースは船舶、飛行機、倉庫などの耐用年数の長いものが多いようです。

次にこれにより、どういう影響があるでしょうか?

BS上の資産が増えることになるので、ROA(= 利益 ÷ 総資産)が低下することになります。ROAとは、資産を効率よく活用して利益をあげているか否かの指標になります。リース取引額の大きな会社は資産が大きく膨らむので、ROAが低下します。 このため、ROAを指標の1つにしている会社で、オペレーティング・リース取引の金額の大きい企業は、ROAの説明に今後は注釈をつけるなどの説明が必要になるかも知れません。

今回はリース取引の会計基準について簡単ではありますが、紹介させて頂きました。

 

 

書評「トヨトミの野望 小説・巨大自動車産業」とプラスα

このブログの目的の1つに自分が読んで面白かった書籍の紹介と自分が読んだ内容の備忘録もありますが、なかなか出来ておりませんが、今回は最近読んで面白いと感じた書籍について紹介します。

講談社から出ている「トヨトミの野望 小説・巨大自動車産業」です。著者は、梶山三郎という方ですが、覆面作家で経済記者の方です。

ハードカバーの本で、恐らく知っている方も結構多いのではと思います。内容は、日本の巨大自動車メーカーで、成長の立役者であるサラリーマン社長とオーナー一族の葛藤を書いた本です。小説なので簡単に読め、かつ面白い内容です。

ネットで見ると、トヨタ自動車をモデルにしているといわれており、書籍で出てくるサラリーマン社長は、トヨタの元社長で経団連会長を強めた奥田氏で(同氏のウィキペディア記載の経歴と同じです)、オーナー社長がトヨタの現社長がモデルと言われています。フィクションということですが、何も知らない私には、これがトヨタの内情なのかなと思ってしまいます。

トヨタをモデルにしているいないはさておき、この書籍では、サラリーマン社長はいくら高い給料を貰っても、また、経済界の要職についていても、巨大資本のオーナー一族から見たら、所詮、使用人に過ぎないというスタンスで書かれており、妙に納得できる内容でした。

たしかに会社の所有者は誰かといえば、会社法上、実質的所有者は株主です。本来は、株主自らが経営を行うべきところですが(所有と経営の同一)、大きい会社では株主数も多く、株主は経営に精通しているわけでもないので、株主が経営の専門家を選び、経営を任せるということになります。

とすると、圧倒的な大株主としてオーナー家が存在する場合、サラリーマン社長は所詮経営の専門家であって、オーナーから見ると「使用人」といえます。

ところで、上場企業では、オーナー一族を後継者にするということは今後はなかなか容易ではないのかも知れません。

コーポレートガバナンス改革では、企業価値個向上を果たす上では、優秀なCEOを選任し、その者に適切なインセンティブを付与し、リスクテイクを促し成果をチェックするのが取締役会の役割とされています。そして、優秀なCEOを選ぶためには、しっかりとした後継者計画を策定し、それに沿って進めることが求められています。とすると、CEOの息子や親戚を次期CEOにするには資本市場関係者の理解が必要になります。

このあたりは、経産省が昨年9月に改訂したCGSガイドラインに詳しく書いてあるので、そのうちにブログで紹介したいと思います。

物言う株主(アクティビスト)の日本株の買い増しが増加

3月3日日本経済新聞物言う株主(アクティビスト)の日本株の買い増しが最高になっているという記事がありました。本日は短いですが、これについてごく簡単に触れたいと思います。

三井住友信信託銀行が投資活動を確認できる10ファンドの売買を集計したところ2018年は前年を7社上回る66社の株式保有比率を引き上げ、3年ぶりに最高更新ということです。

記事によれば、コーポレートガバナンス改革の流れに乗り、存在感を強める構図が見られ。2019年も買い増しは増える予想とのことです。

何度もブログで書いてはいますが、最近のアクティビストの提案内容は政府の進めるコーポレートガバナンス改革の流れに沿った合理的かつ洗練された提案が多いです。機関投資家は議決行使結果を個別開示する動きの中、合理性ある株主提案には賛成しないとアセットオーナーから責められることになり、資金をひき上げられるリスクもあり、これがアクティビストの活動を促進する背景にもなります。

3週間ほど前に有楽町の東京国際フォーラムで開催された東京IRフェア2017に参加しました。

中小クラスの上場企業の出展が多かったのですが、ブースを見ていると各社のIR担当の方が声をかけてくるので、話を聞きました。

何故か株価が2000円~3000円の会社が多く、割安株とは思えないので私の投資対象でないのですが、事業内容を熱心に説明してくるので事業に関心はなかったため、「御社の配当性向はいくらか?将来の配当性向はどう考えていますか?」などと話の流れで聞いてみました。結果、「30%を達成しています」と胸を張って回答されていました。

さて、ここが問題かと思います。

何故30%でよいのかきちんと説明がつく理由があるのかという点です。日本企業の多くが、配当性向約30%、自社株買いを含んだ総還元性向が約45%であるのは事実ですので、右へ倣えにしたい気持ちが分かります。

しかし、これはアクティビストには通用しません。会社法、金融商取引法などの法律では、配当性向の基準率など何も決まっておらず、その他資本剰余金と利益剰余金などの合計を上限に配当できるとあるだけです。つまり配当原資のバランスシート上の限度の規制があるだけです。

上場企業は、自社がアクティビストから狙われた場合には「配当性向30%にしています」というのは、何の説得的な理由にならないのです。今回の日本経済新聞の記事を読んで、上場企業は他社のことと認識するのではなく、他社へのアクティビストによる株主提案の内容と自社の株主構成を見て(=合理的な株主提案に賛成する海外・国内機関投資家保有比率がどの程度か)、自社のウィークポイントがないか、あるのであれば有事に備えて理論武装することが必要とあらためて思いました。

上場子会社を持つ親会社は今後検討すべき事項が増えます-経産省の「グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針」案より

2月26日の日本経済新聞で、上場子会社に関する指針を政府が検討開始とありました。これは、本年2月13日に討議された経産省のCGS研究会(第2期)の第14回会議で討議された「グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針(案)」の骨子案に書かれていることです。

この骨子案の中で「5 上場子会社の在り方」という箇所において上場子会社について触れられています。ちなみに、親会社が上場会社である上場子会社数は約260社ほどあります。

上場子会社における課題は10年以上前から言われていうことすが、極めてシンプルで、支配株主である親会社と上場子会社の少数株主との間で利益相反リスクが存在する点です。

具体例をあげますと、A社という会社が上場子会社B社(A社の株式保有比率55%)を持つときに、A社がグループ再編としてB社の特定事業を譲り受けるとします。この場合、A社は安く買いたいというインセンティブが働きますが、一方、B社の少数株主は高く売りたいというインセンティブが働きます。

事業を高く売却できれば売却代金を配当原資にもできるので当然ですよね。しかし、A社は50%以上の支配権を持つので、結局はA社の意向に沿う意思決定がなされる。これが問題とされるケースです。

私が社会人になって2~3年目の頃にも既に上場子会社の問題は一般に言われていました。今回の骨子案ですが、次のような事項が記載されています。

  • 親会社は、子会社を上場会社として維持する合理的理由と実効的なガバナンス体制の整備状況を取締役会で審議し、情報開示すること
  • 独立社外取締役には、支配株主である親会社からの独立が求められる
     - 親会社の出身者は独立社外取締役として選任しないことを検討すべき
     - 選任に当っては、少数株主の利益保護が図れるように役割を担うことができる人物であることを十分に検討する
  • 上場子会社において、独立社外取締役の比率を高める(3分の1以上又は過半数)のが基本。しかし、当面は、利益相反取引の発生する局面において、独立社外取締役のみで構成される、または独立社外取締役過半数を占める委員会において審議することでもよい。そして、取締役会は委員会の審議結果を尊重すべき
  • 上場子会社は、実効的なガバナンスのための方策について、積極的に情報開示を行うこと
  • 上場子会社の経営陣の指名の在り方
      -  親会社から候補者の提案を受けることは否定されないが上場子会社の指名委員会等において適格性について客観的な判断を行うことが求められる
      -  親会社の指名委員会において、グループ全体の経営陣の後継者計画の審議に当たっては、上場子会社における検討に対し、不当な影響を与えないよう留意すべき
  • 上場子会社経営陣に親会社株式報酬を付与することは、親会社利益を優先する不適切なインセンティブを与える恐れもあるため、慎重な検討が行われるべき など

いかがでしょか。沢山あるかと思います。

上場子会社を有することで今後はこれらの対応が必要ということですね。親会社にとっては自社のコーポレートガバナンス対応でも大変なのに、上場している子会社のガバナンスについても従来より踏み込んで検討せよというのは結構面倒かと思います。

上場子会社を非上場にするケースが今後増えるかも知れません。

私がすぐに思いつくところでは、日立製作所などは日立化成、日立金属などの上場子会社を数社もっています。

これらの会社は子会社なのですが、上場してしまっている以上は、経理(4半期決算)や総会関係部門、IR部門に相当程度の陣容を抱えているかと思います。しかし、上場廃止になると確実にこれらの部門の人員は余剰人員になります。上場廃止に当たっては、これら管理部門の人員の配置転換、リストラなどの施策の検討も必要になりますので、廃止するにおいても面倒な面も出てくるかと思います。

CGS研研究会ではまだ骨子案しか開示されていませんが、次回の第15回会議(3月14日に開催)では、ガイドラインの詳細が公表されるのかも知れません。

第15回会議の後に資料を読んで紹介したいと思います。

今後はTSR(Total shareholder return(株主総利回り))の注目度が高くなるか

TSR(Total shareholder return)という言葉について最近耳にする方も多いかと思いますが、今回はTSRについて書いてみたいと思います。

TSRとは日本語でいうと株主総利回りです。次の式で算出されます。

TSR=(株価の上昇額+1株当たり配当額) ÷ 当初株価(%)

株価の上昇額とは、一定の評価期間をとった場合の評価終了時の時価-評価開始時時価(当初株価)をいいます。具体的な数値をあげた方が分かりやすいかと思います。

2017年6月にある会社の株式を1,000円で取得して、2018年6月に1,300円に株価が上昇し、この間に1株当たり50円の配当が1回あったとします。

この場合の2018年6月時点におけるTSRは、次のとおりになります。

TSR=((1,300円-1,000円)+50円)÷1,000円=35%

TSRは評価期間の始点をどうするかで異なります。通常は、評価終了時点から遡ること、1年、3年、5年といった一定期間でのTSRを算定することになります。

さて、このTSRですが、これは株式投資に際して誰でも考える当たり前のことです。株式投資をするのは、キャピタルゲインインカムゲインを得て儲けるためであり、これをわざわざ難しくTSRという英語で言っているだけの話とも言えます。

なお、その企業のTSRだけを見てもそれがよいのかどうかは分かりません。企業の株価はマーケット全体の動きと連動するので、同じ期間のTOPIXの数値を比較することなどが必要になります。これにより、市場全体の動きと比較してその企業のリターンが勝っているのか、負けているのかがわかります。

世間ではアクティビストといわれている投資ファンドのエフィシモキャピタルが取締役の選任議案でこれまではROEを指標にしていたところ、今後、これをTSRに変えるということが先日の新聞報道にありました。

投資先企業の経営陣にはTSRを強く意識することを求め、TSRを意識しない取締役には、反対するということです。

ところで、新聞報道はされていませんが、エフィシのTSRに関する考え方がシンプルで参考になりますので、ここで紹介します。

  • コーポレートガバナンスとは企業が正しい意思決定をするために必要
  • 正しい意思決定をするには、目的が必要であり、その目的が意思決定をする主体と意思決定の効果を受ける主体との間で共有される必要あり
  • 意思決定の効果を受ける主体は株主。株主以外にも企業にはステークホルダーはいるが、他のステークホルダーは法律や契約により財産が保護されている一方、株主は保護されていないため主体は株主
  • そして、株主の目的は経済的利益を得ることであり、経済的利益とはTSRである。従って、TSRが株主と企業の意思決定をする経営陣の間で共有される必要あり

たしか、このようなことを前に言っていた気がします。

エフィシモが言うところの考えは全く目新しいことではないのですが、TSRをコーポレートガバナンスに絡めてシンプルに言い表しており、とても分かりやすいなと思いました。

私が知る限りでは、TSRを役員の選任の議決権行使と結び付けている機関投資家はエフィシモのほかは知りませんが、今後、増えるような気もします。日本企業のROEは一定程度向上したので、今後は、TSRによる具体的リターンを投資家から求められるのかも知れません。

 

帝国繊維の取締役会意見はもう一歩踏み込んでもよいのでは?-投資ファンドのスパークス・アセットによる株主提案

投資ファンドであるスパークス・アセット・マネジメント(以下「スパークス」)が帝国繊維(東証1部 / 3302)に1月21日に株主提案をしています。

内容は、取締役の選任、剰余金の配当及び定款の一部変更の3つになります。これに対して、2月14日に帝国繊維の取締役会が全ての株主提案に反対する旨の取締役会意見を公表しています。

今回は、このうちの剰余金配当に絞って、帝国繊維の取締役会の意見をみて「これでよいの?」と思うところがありましたので、書いてみたいと思います(なお、あくまで開示資料を見た限りでの私の意見であり、人によっては見方が違うところもあるかと思いますので、その前提で読んでいただければと思います)

 まずスパークは何を主張しているのかですが、「1部当たり95円の配当をせよ」といっています。2018年12月期の帝国繊維の決算短信を見ると、今期、前期とともに1株当たり配当は40円ですので、2倍以上の配当増を求めていることになります。

帝国繊維の一般株主にとっては、配当が倍になるのでとても喜ばしい株主提案だと思います。 

この提案の理由としては、次のようなことが開示文にかかれています。

  • 帝国繊維の総資産の3分の2が政策保有株式と現金同等物で占められている。政策保有株式の中では、ヒューリック株式180億円を有しているところ、保有の合理性が見出せない。コーポレートガバナンス・コード(CGコード)では、政策保有株式の保有の合理性の検証が上場企業に求められているが、帝国繊維におけるこの検証の具体的内容は不明であり、適正・公正な検証実施すらされているのか疑わしい
  • キャッシュが蓄積され続けており、総額231億円と総資産の3分の1に達している。どの程度のキャッシュ保有が必要かが示されていない。必要なキャッシュの保有量の考え方を株主に示し、長期的な視点に基づく成長投資と株主還元に関する明確な方針を開示すべき

 要するに、政策保有株式の保有には合理性がないためこれを売却し、現在保有するキャッシュと併せて、事業活動・成長投資に必要なキャッシュを超える分は株主に還元せよということと思います。とても合理的かつ論理的な提案であると思います。

 では、これに対する帝国繊維の取締役会の意見はどうでしょうか。開示文を読みますと、概ね次のような内容です。

 <帝国繊維の取締役会意見のポイント>

  • 企業の存続・発展のために、内部留保拡充は不可欠。磐石な財務基盤は防災事業を中核に据えて成長を目指す当社にとって、事業展開への活用や社会的信用の維持の貴重な裏付けになる
  • 株式を含むキャッシュは、人材確保、既存事業強化のIT化、成長のためのM&A保有不動産の再開発などといった投資などに用いることを検討
  • ヒューリック株式は同社との関係構築に活用することが当社の企業価値向上に資する
  • 過去10年に普通配当を引き上げ、記念配当を実施するなど株主還元に務めている。収益力を持続的に強化させ、長期安定的に業績に応じた配当を行うことを基本方針とする

 この回答を見ていかがでしょうか?私はこれを見て、この程度の意見で株主を説得できるのかなという印象を持ちました。理由は次のとおりです。

  • 政策保有株式の保有の合理性の検証方法が不明。CGコードの下、政策保有株式は縮減の方向であり、保有の合理性の検証が資本市場から求めれている現状に鑑みますと、検証の方法(定量検証・定性検証)についてある程度つっこんで記載する必要があるのではないでしょうか?
  • キャッシュの用途ですがM&Aをするとか色々と書いているのですが総花的で具体性に乏しいのでは?M&Aをあげるのであれば、具体的な領域やターゲットを示す必要があります。単にM&Aをするといっても、そもそもM&Aは単なる手法であって、どの領域を強化するのか、また何故自前ではできないのか、今後どういう相手を買収先としているのかなどの開示が必要ではないでしょうか。今回のように投資ファンドからつつかれている「有事」の場合となれば、抽象的な内容をあげるのではなく、もう少しつっこんだ開示が必要になるように思います
  • 内部留保の拡充が必要ということであるが、その程度まで必要であるのか応えていないのでは?仮にキャッシュが100あるとすると、40が事業運営に必要、30が成長投資に必要、20は将来の不足自体に備えて必要、残り10が株主に還元というような説明が必要と思います。この点は、明確に文章で説明することは難しく、具体的化することによるリスクも承知していますが、こういう有事の局面だとある程度具体的な数値等の基準を示す必要があるように思います。

などなど色々とありますが、果たしてこの行方はどうなるのでしょうか。

個人的には、投資に対してニュートラルな立場にある機関投資家は、帝国繊維の意見を見てスパークスの株主提案の合理性を判断するように予想します。

問題は、個人株主です。日本の株式市場の17%は個人株主ですが、個人株主は、一部の超富裕層を除いては、ほとんどが私も含めて中流層の方が少ない自己資金の投資でコツコツやっています(個人でも銀行借入によるレバレッジを効かせて投資をしている稀なケースもありますが)。

で、あればこそ、中流層が少ない自己資金で自分の利を少しでも高めるのであれば、しっかりとファイナンスコーポレートガバナンスの知識・知恵を身に付けて株主提案の合理性を判断しないと利は得られません。 

議決権行使助言会社であるISSが株主提案に賛否のいずれの推奨判断をしたのか、またそれなども踏まえて、国内外の機関投資家がどういう判断をするのか関心のあるところですので、また、本件に関して報道があったような場合には、ブログで紹介したいと思います。

次回は、最近良く耳にすることが多くなりましたTotal Shareholders Return(TSR=株主総利回り)について紹介したいと思います。

 

 

取締役会議長を社外取締役にする意義

2月17日の日本経済新聞で、日産自動車が設置する企業統治改革の専門委員会は、日産自動車の取締役会議長を社外取締役が務めることを提言する方向で調整に入ったとの記事がありました。

今回は、社外取締役を取締役会議長にすることの意義について触れたいと思います。

まず社外取締役の比率についてですが、社外取締役が3分の1以上いる企業の割合は、東証1部で33.6%、JPX日経400で40.6%となっています。次に取締役会議長を社外取締役を務める企業ですが、これは少ないです。正確な数値はたしか商事法務研究会の雑誌か何かに掲載されていました。

では、社外取締役のような非業務執行者を議長にする動きやその狙いはどこにあるので
しょうか?

これは、経産省が2018年9月28日に改訂したコーポレートガバナンス・システム
に関する実務指針(CGSガイドライン)に明確に記載されています。同ガイドライン17ページの「2.5.1取締役会議長」において、「取締役会の監督機能を重視する場合には、社外取締役などの非業務執行取締役が議長を務めることを検討すべき」とあります。

この理由は次のとおりです。
・CEOは業務執行に関する説明を行う役割に徹する方が、取締役会の監督機能の実効性を確保し易い
・議長には取締役会を自由闊達で建設的な議論・意見交換の場とする、審議を活性化することが求められており、監督側が議長を務めた方が、監督側が議論や問題提起をしやすい雰囲気を作ることが実現されやすくなる

取締役会は業務執行の意思決定機関ですので、そこを仕切る議長は業務執行に精通しているCEOなり社内取締役であるべきという意見が多くの上場企業かと思います。しかし、コーポレートガバナンス改革では、取締役会は、CEOが業務執行を行う上での大きな戦略の策定と監督機能の充実の役割の2点がその役割と言われています。

戦略策定という点においては、短期での目線に囚われがちなCEOや社内取締役よりも社外取締役の方が適切といえます(社内者は会社法上任期が1年~2年であるので短期の目線で物事を考えるのは当然と言えば当然ですが)。中長期な企業価値向上の観点から、社外取締役が議長になり、中長期の戦略を策定すべしということかと思います。

なお、日産自動車社外取締役には井原氏という元女性レーサーという人もいるようです。社外取締役の役割は機関投資家とのエンゲージメントで必ず聞かれるところですが、この方の役割について、どのような説明をしているのか個人的には関心があります。

ちなみに、2018年6月4日の日産自動車株主総会招集通知に井原氏の選任理由が次のとおり記載されています。

井原慶子氏を社外取締役候補者とした理由は、同氏は、国際的な女性レーシングドラ
イバーとして様々な国際的レースで活躍されるとともに、モータースポーツを通じ、深く自動車産業の発展や人材育成に関わってきました。また、官公庁や自治体の審議会委員や政策アドバイザーとして、教育や環境、将来のモビリティなど、様々な分野での提言や活動を、女性ならではの視点から行ってきております。こうした同氏の知見は、当社の経営にとっては極めて有益であり、また、当社の成長に繋がるものと判断し、社外取締役として選任をお願いするものであります。なお、同氏は、過去に社外取締役又は
社外監査役となること以外の方法で会社経営に関与されたことはありませんが、上記の理由により、社外取締役としての職務を適切に遂行していただけるものと判断しております。」

「女性ならではの視点」というものがあり、それが経営に有益であり、また、会社の成長に繋がるということのようです。

割安かつキャッシュリッチ銘柄企業に株主アクティビズムを行う際の視点②

前回2月7日のブログにおいて、アクティビズムを行う際の視点を紹介し、投資先企業への提案を検討する視点としては、次の2つをあげました。

視点① 配当増の要求
視点② 株価向上施策の実施の要求

視点①については前回2月7日に書きましたが、週末に考えを整理して纏めたので、今回は視点②について書きます。基本的考え方は、現状の株価が理論株価より低いことを指摘し、株価向上に結びつく施策の実施を促すというものです。

1.PBRの数値の確認
まずはPBR(=株式時価総額÷株主資本)が1倍を下回ることを確認します。要するに株価が割安であることを確認するというものです。

2.理論株価の算定

1で市場株価が割安であることを確認しましたが、では、本来あるべき株価(理論株価)はいくらであるのかを把握します。

まずはマルチプル法です。同業他社のEV/EBITDA倍率、PER倍率の平均を出してそれを対象会社の数値に掛け算をしてEV、ひいては株式価値を算出します。以前にもマルチプル法については書きましたので、ここでは詳細は書きません。

次にDCF法による株価算定を行います。DCF法はだいぶ以前にも書きましたし、一般の書籍でも書かれているので、ここではDCFの算定の方法は触れませんが、実務面のポイントだけを1点いいます。

フリーキャッシュフローを現在価値に割引く際の割引率であるWACCを構成する株主資本コストですが、正確に判定するにはブルームバーグなどの数値を使う必要がありますが、ここはざっくりと7-8%程度と考えてよいかと思います。

伊藤レポートで日本企業はROE8%を目安にすることが言われていますが、これは機関投資家が投資で求めるリターンが8%ということです。従い、投資先企業のキャッシュフローが技術革新の変化でブレが大きいといった特段の事情がない限り、ざっくり8%を目安にすればよいかと思います。

また、マルチプル法に戻りますが、複数の事業を行う企業の場合には、Sum of the partsによって各事業の同業他社のEV/EBITDA倍率をかけて算出することも手法として有効です。

3.株価低迷の原因の特定
1及び2の結果、市場株価が理論株価より低い理由を特定します。株価が低い要因は簡単に指摘することは難しいものですが、ここではPBRを分解することが1つの考え方として有効かと思います。

PBR=ROE×PERです。ROE、ROAをそれぞれ分解しますと、
ROE=ROA×財務レバレッジ ROA=売上高利益率×総資産回転率となります。

これから、PBRをあらためて分解しますと次の算式になります。

PBR=売上高利益率×総資産回転率×財務レバレッジ×PER

PBRが課題であるとなると、上記算式の中の指標のどこに問題があるのかを把握していくことになります。

つまり、対象企業の競合他社と各指標を比較してどこが低いのかを分析します。競合他社を正確に調べることは簡単なようで結構難しいので、投資先企業の代表番号に電話して「当社の株主であるので教えて下さい」又は「貴社の株式購入を検討しているので教えて欲しい」と適応に理由をつけて言えば、IR部門につないでくれるはずです。

上の算式から、売上高利益率が低いのか、総資産回転率が低いのかなどを考えます。

対象企業が複数の事業を営んでいる場合には、事業別のROAを算出すると問題の事業がどこかが分ります。有価証券報告書に事業セグメント毎の売上高、営業利益、資産が開示されています。企業全体でROAの分解数値を算出した後に更に各事業セグメント別のROAの分解を行うことで全体のROAの足かせとなっている事業を洗い出すことができます。

結果、特定事業の改善、売却、他社とのアライアンス、収益改善の方向策の検討を促すことの提案が可能になります。

4.ガバナンス上の課題を指摘
3で洗し出した課題について、ガバナンス機能の不全を併せて指摘することも考えられます。この場合に考えられる視点は、次のとおりです。

①取締役会における社外取締役の員数
社外取締役が一定数いないために戦略的な意思決定ができないのではないかということです。ちなみに、東証1部で3分の1以上の社外取締役のいる企業の比率は30%台となっています。社内取締役が多いと社内の論理でしか物事を進められないため、この問題を指摘するのです。

②3分の1以上の社外取締役がいる場合
この場合には、社外取締役の属性を問題視します。経産省が策定したCGSガイドラインでは、社外取締役には1名以上の経営経験者がいることが提案されています。ミドルキャップ、スモールキャップの企業では弁護士と会計士のみを社外取締役にしている企業も多く目にします。しかし、何度もブログで書いていますが、これでは駄目です。基本的に弁護士や会計士は、事業や資本市場の目線を持ち合わせていませんので、資本市場の目線を踏まえた経営戦略を策定する能力がないのです。

③社長・CEOが機能していないのではないか
CGSガイドラインにおいて、企業を引っ張るのはCEOといわれており、CEOの器以上に会社は大きくならないとも書かれています。とすると、CEOの選解任方針はどうなっているのか、また、CEOの後継者計画はどうなっているのかも指摘できます。

4について1つずつ話をしていくとだいぶ長くなるのでしませんが、要するに、政府や資本市場が上場企業に求めるコーポレーガバナンス改革の動きに即した対応を対象企業がしていないことが問題であるとの主張になります。

一連のコーポレートガバナンス改革は、日本企業のROE低迷、ひいては株価低迷の改善が前提にあり、CGSガイドラインなどの経産省の指針はこの改善を目指したものであります。このため、CGSガイドラインなどに即した対応を企業がしていない場合、それが株価低迷の原因であると論理的に主張できるはずです。

このあたりは次の3つを一度じっくりと読むことお勧めします。いずれもネットで検索すると簡単にアクセスできます。一連のガバナンス改革の背景及び考えがここに凝縮されています。
・伊藤レポート2.0(持続的成長に向けた長期投資研究会報告書)
・改訂コーポレートガバナンス・コード(2018年6月1日 東証
・投資家と企業の対話ガイドライン(2018年6月1日金融庁
・コーポレート・ガバナンス・システムに関するガイドライン(2018年9月28
日改訂 経産省

以上になりますが、気をつけるべきことは、視点②の指摘は投資先企業の経営陣を批判することになるという点です。

現役のサラリーマンが株主総会に参加してこれらをネチネチとつつくと、一昔前の総会屋のように思われ、投資先企業が自分の勤務先会社の得意先であったような場合には、自身のサラリーマン人生に甚大なマイナス影響を与えることは確実です。

前回ブログでも書いた視点①は、会社に溜まった金を吐き出して還元せよと迫るもので、至極、当然な主張であり個人が利を得る活動として合理的と整理できます。

何かいわれても「自己資金を使って個人の利を得る活動なので大きなお世話」と反論できますが、さすがに視点②のように取引先の事業面、役員体制を指摘するのはリスキーです。

個人で事務所を構えている弁護士や独立している経営コンサルタントなどであれば、何でも自由に出来ますが、一般サラリーマンの悲しいところは、あまり表立って目立つ行動が出来ないところにあります。

したがって、視点②を指摘するのであれば、投資先企業の経営陣の素晴らしさを持ち上げつつもやんわりと指摘するか、または、自分の勤務先と全く関係のない業界の企業に投資して、その企業を何の遠慮もなくがんがん攻めるという選択肢のいずれかになると思います。

以上、少し長くなりましたが、思うところを書いてみました。

 

「コーポレートガバナンス・オブ・ザ・イヤー2018」の経済産業大臣賞の発表

2月1日に日本取締役協会主催の「コーポレートガバナンス・オブ・ザ・イヤー2018」の経済産業大臣賞をオムロンが受賞したことが経産省のホームページで公表されました。

経済産業大臣賞は今年度新たに創設された賞で、経産省のCGSガイドラインを踏まえて、社長・CEOの選解任、後継者計画について先進的な取り組みをしていると認められる企業が表彰の対象になります。

オムロンの売上高は約8500億円程度です。製造業の場合、売上高が数兆円ないと超大手ということにはなりませんが(日立製作所9兆円、ソニー8兆円、三菱重工4兆円、コマツ2兆円というようにこれらの大手有名企業に比べるとオムロンの売上規模はかなり小さいです)、オムロンは従前よりコーポレートガバナンスに一生懸命に熱心に取り組んでいる会社ですので、受賞自体は何ら驚くことではありません。

この賞の選考基準ですが、東証1部上場で時価総額1000億円以上の企業が対象で、選考基準のいくつかとして次の事項が条件になっています。

1 指名委員会の委員長が社外取締役であるか
2 指名委員会の委員に社長等の業務執行者が入っていないか、又は入っていても、社長等が審議に加わることが不適切な場合には退席させる等の取り決めがあり、かつコーポレートガバナンス報告書でその旨が開示されているか
3 後継者計画について、後継者の要件・選定要件、CEOの選解任プロセス、後継者候補の育成方針・計画等がコーポレートガバナンス報告書等において具体的に開示されているか  

いずれも、最近機関投資家が企業に要望する事項ですが、日本取締役協会がこのような基準を出していたことは知りませんでした。

この基準をクリアできている企業は、現状、まだまだ少ないと思いますが、機関投資家と対話をしていてもこのようなことを求めてきますので、今後この動きが強まるような可能性もあるような気もいたします。

さて、指名委員会といえば、昨年6月に経済産業省が公表したCGSガイドラインに指名委員会に期待する役割が細かく記載されています。いくつか記憶の限りで記載すると次のような内容がたしか書かれていたはずです。

・指名委員会がCEO選解任・後継者計画の策定・運用に主体的に関与すること
・指名委員会の過半数社外取締役で構成すべし。社内取締役と社外取締役の員数が同数の場合、委員長は社外取取締役が就任すること
・CEOが委員に含まれる場合は、必要に応じてCEOのいない場でCEOの解任が議論できるようにする工夫を検討すべし など

社外取締役を委員長とすることで、社外取締役の主体的関与を引き出すことができ、実効的な委員会運営を図ることが期待されます。

指名委員会を設置している企業は東証1部で約40%程度です。東証2部で15%。

社外取締役の増員とともに、指名委員会に入る社外取締役を増やす必要もあるでしょう。しかし、指名委員会に上記のような機能が求められるとなると、指名委員会の委員に就任する社外取締役の属性も重要になります。

私が株式投資をしている株式時価総額100億円程度のある会社は、社外取締役3名のうち、2名が弁護士(しかも当然ですが、弁護士が2~3名しかいない小さい事務所の弁護士です)です。事業経営経験もなければ、ファイナンスも分からない弁護士を2名も社外取締役に入れて何を期待しているのか疑問です。恐らく何も考えていないのでしょう。

CGSガイドラインでは、経営経験者が少なくとも1名いることを求めています。都合がつけば、この会社の今年の株主総会に出席して、潤沢な政策保有株式と現金の用途と併せて役員が論理的な回答が出来るか質問してみたいところです。

さて、ちなみに最初の話に戻りますが、ブログを書きながらオムロンの2018年3月期の有価証券報告書を見たところ外国人株主が48%となっておりました。

日本の株式市場に占める外国人株主の比率は約30%ですので、平均を18%近く上回っております。企業規模はそれほど大きくないですが、これだけの外国人比率であればガバナンスに相当気を使うのも分かる気がします。

先進国でゾンビ企業が増加傾向

前回、2月7日に「割安かつキャッシュリッチ銘柄企業に株主アクティビズムを行う際の視点1」を掲載しました。

今回は、視点2の株価向上施策の実施に向けた提案について書く予定でしたが、視点2は自分自身の考えを少々整理する必要があるので、時間のある週末にブログに書くこととし、他に2つほど気になった新聞記事がありましたので、今回と次回はこれらについて簡単に触れてみたいと思います。

まず今回は、ゾンビ企業について触れてみたいと思います。

2月9日の日本経済新聞に先進国でのゾンビ企業が増加との記事がありました。

ゾンビ企業」や「ゾンビ事業」という言葉は、金融庁のフォローアップ会議の議事録を見るとある委員の方が何回か発言をしており、そういう言葉があるのかと当時初めて知り、漠然と意味は分かるものの正確な定義までは理解していませんでした。

新聞記事によれば、ゾンビ企業とは、数年に亘り債務の利払いすらままならずに経営破綻状態であるのに銀行や政府などの支援によって存続しつつづけている企業をいうようです。

このような企業は、日本を含む14ヵ国では、1980年代には2%しかなかったところ、現在では12%に増えているとのことです。その背景には各国の金融緩和によって低い金利の影響があると最近言われています。つまり、金融緩和による貸し出し金利の低下により、金融機関が収益をあげるため、リスクの高い企業への融資が増えていることが原因ともいわれています。

国際決済銀行(BIS)によれば、ゾンビ企業の定義は、「インタレスト・カバレッジレシオ(ICR)」が過去3年以上に亘り、1未満にある企業とされているようです。

ICR(倍)=(営業利益+受取利利息・配当金)÷ 支払利息 

営業利益の代わりにEBITDA(営業利益+減価償却費)を用いることもあります。

この指標は有利子負債の金額が身の丈にあっているかを測定する指標です。

これが1倍を下回るということは、本業での利益に金融収益を加えた利益よりも銀行に支払う利息の方が大きいので、営業外収益や特別利益が一定程度ない限り、当期純損失になります。結果、バランスシート上の株主資本にある繰越利益剰余金が減少するので株主への配当もままならなくなるということです。

当期赤字であっても銀行は支払利息を得られるので何ら不満はないでしょうが、株主は配当がもらえないことになります。日本企業のROEの低下はデットガバナンスが原因といわれています。収益率の低い企業に銀行が融資しつつづける結果、ROEが低下し、ひいては株主の存在がないがしろにされているということです。

次回は「コーポレートガバナンス・オブ・ザイヤー2018」の経済産業大臣賞についてブログで簡単に書き、週末に「株主アクティビズムの視点2」について書きたいと思います。

割安かつキャッシュリッチ銘柄企業に株主アクティビズムを行う際の視点①

昨年から割安かつキャッシュリッチ企業のスクリーニングを行い、結果、株価の低い1月に数銘柄のスモールキャップの東証1部上場企業の株式を購入しました。

3月期決算企業のため今後は本年6月の株主総会に向けて投資先企業の分析を進める予定ですが、自分の考えの整理も含めて、個人株主が投資先企業に提案を行うとした際の(自分がするわけではないですが)視点と具体的に考えるべき事項について、つらつらと書いてみたいと思います。

投資先企業に提案する視点としては、次の2つになります。

視点1 配当増の要求
視点2 株価向上施策の実施の要求

視点1について、考えるべき順番とポイントは次のとおりです。

①配当性向の確認

配当性向は30%が日本の上場企業の目安です。しかし、これは何の根拠もない数値であり、配当は利益剰余金と保有するキャッシュで決まります。配当性向は単なる1つの参考値に過ぎないと私は考えます。当然30%より低ければ、配当増の指摘を補強するネタになります

保有するキャッシュ(=現金+有価証券+投資有価証券(政策保有株式))の確認
A:ネットキャッシュ対総資産比率(=ネツトキャッシュ÷総資産)
B:手元流動性比率(=ネットキャッシュ÷月商)

Aについては、30%、Bについては3ヵ月以上もあれば多いように思えます。ネットキャッシュの中で政策保有株式が潤沢にある場合には、この保有の意義が乏しいことを問えます。その際のポイントは、次のとおりかと思います。

コーポレートガバナンス・コードに基づく保有の合理性の適否の具体的な検証の方
法はどうしているのか? コーポレートガバナンス報告書で各社開示していますが、多くの企業は横並びの雛形的記載のため、詳細を質問する

有価証券報告書で記載する保有目的の妥当性の質問

政策保有株式はそもそも保有の意義がなく、いくらだ妥当と思われる理由をあげたところで、過去の経緯があり保有しているのがその実体なので、基本的に投資先企業からは納得のある回答がないのが事実だと思います。このため、基本的に余剰資金と同じ位置付けと考えることができます。

③現在の配当を一定程度増やしたときのバランスシートの仕上がりのシミュレーション

要は会社が仮に1株当たり配当40円としているところを80円にしたと仮定して、この場合のバランスシートを簡単に作成。といっても変化するのは、バランスシートの現余預金の減少と自己資本の部が減るだけであるので、これで株主資本比率が多少減っても影響ないことを確認。

以上が視点1の配当増の観点からの投資先企業への提案です。

どこの書籍にも書かれていないことですが、企業や資本市場関係者の考える課題等は認識しているつもりですのですので、考え方に大きな誤りはないかと思います。

なお、コーポレートガバナンス・コードでは、取締役の資質、社外取締役の員数、指名委員会の設置等が言われていますが、視点1の観点からの提案にはほぼ役に立たないと思います。

これらはマネジメント体制不備から株価の低迷を指摘する材料であるので、視点2の点で使用できるのかと私は思います。

視点2については、次回書きたいと思います。

議決権行使助言会社の2019年議決権行使ポリシーについて

先日、議決権行使助言会社であるISSとグラスルイスの方の話を聞く機会がありました。既に色々な媒体で公表されていますが、各社の2019年の議決権行使ポリシーの主な内容について少し触れてみたいと思います。

ISSの2019年議決権行使ポリシーの変更>

①取締役選任について
2019年2月以降、指名委員会等設置会社・監査等委員会設置会社においては社外取が3分の1以下の場合、経営トップに反対
②独立性基準
2020年2月から、政策保有銘柄企業出身の社外取締役・社外監査役は独立性なしと判断

①については、これらの機関設計の企業は執行と監督の機能を明確に分けるべきとい
う考えの下、監督の実効性発揮のためには3分の1以上の社外取締役が必要とされたことと推測します。ちなみに、東証1部上場企業では、社外取締役が3分の1以上の企業は約33%であることが旬刊商事法務に記載されていました。

ちなみに何故、3分の1かといいますと、社外取締役がいかに強烈な方であっても、1名ですとできることには限界があり、取締役会での発言に実効性を持たせるには3分の1が必要というのが世間でよく言われるところです。

②については、政策保有銘柄の判断には、有価証券報告書(有報)の開示を用いる予定とのことです。これについては、 議決権行使の関係で1年前の有報の記載情報を使うこと、保有株式数が僅少であっても有報に記載された以上は「独立性なし」と判断することになるという課題もあると思います。しかし、海外投資家(特にロンドン)はこの基準に大賛成のようです。

次にグラスルイスですが、次のような内容の改定です。

TOPIX CORE30、TOPIX LARGE70の100社には女性役員(取締役・監査役・執行役)を最低1名求める。ゼロの場合には、会長(又は社長)に反対、指名委員会等設置会社では指名委の委員長に反対
②2020年からはこの方針を東証1部・2部上場企業に適用拡大

グラスルイスはISSに比べると、規模も小さく、遅れていることは否めません。女性役員の登用が好きなようですが、論理的な説得力もISSに比べると著しく劣ります。ISSの日本代表の石田氏の話は非常にしっかりしており、私は過去には直接面談をしたこともありますが、雑誌等でもきちんと論理展開されており、なるほどと思うところもあります。

ISSガイドライン機関投資家(特に海外)が採用することからISSの影響力を問題視する企業も多いですが、ISSは毎年多くの機関投資家の意見を聞き、その意見の最大公約数をガイドラインに盛込んでいますこのため、ISSの推奨を機関投資家が採用するのは当然のことでもあるのです。

このため、企業としてはISSの議決権行使基準は、多くの機関投資家の総意であると考えて、しっかりと内容と趣旨を理解することが必要になります。