コーポレートガバナンス、M&A、企業価値、IRなどに関する実務ニュース

コーポレートガバナンス、M&A、企業価値、IR等の新聞記事について、投資銀行・東証1部事業会社での実務経験を通じて気づいた観点を踏まえて分かりやすく解説していきます

書評:「実況LIVE 企業ファイナンス入門講座」(ダイヤモンド社)

本日は、ファイナンス関係の入門書について紹介させていただきます。そもそもこのブログでは読んだ本や参考になった雑誌なども当初書いていくつもりでしたが、これまで出来ていませんでしたので、はじめての書評となります。

ダイヤモンド社から2008年に出版された書籍で、「実況LIVE  企業ファイナンス入門講座」(保田隆明 著)というものがあります。著者は、リーマンブラザーズ証券、UBS証券投資銀行業務に従事してきた40代半ばの方です。私は、この本が出された直後に(10年近く前でしょうか)、知り合いの投資銀行の方に勧められ当時購入しました。

しかし、当時は、法務部に所属し、財務会計とは全く縁のない世界におり、当然ながら実務でファイナンスを使うこともなければ、有価証券報告書決算短信を読んで企業分析をするなどという経験もなかったので、最初の20ページほど読んで挫折し、そのまま書棚に眠っていましたが、昨日、夏季休暇ということもあり、書棚を整理していて出てきたので、久しぶりに読み直しました。。

今になると、実務でやっていることのおさらいで、さっと読めるのですが、この本はファイナンスの入門書として良書と思います。そもそも著者が2007年よりアカデミーヒルズで「はじめてのM&Aコーポレートファイナンス」というテーマで数回に亘って開催した講義をベースにしたもので、その講義が一般のビジネスマンを対象にした内容になっています。企業価値の算出方法、株主還元の考え方、資金調達といったテーマで基本的な事項が分かり易く書いてあります。

さっと読め、自分の知識の確認になり、またあらためて初歩的な事項の考え方が確認できたので、捨てずに保管しておいてよかったとあらためて思いました。著者は、比較的マスコミの露出も高い方で、この本を書く前に「M&A時代 企業価値の考え方」という本も書いています。個人的にはどちらも入門書としてはお勧めです。

ただし、入門書というタイトルの書籍によくありがちですが、「ROEとは?」「配当性向とは?」「PERとは?」といったように全く会計やファイナンスの知織がない人には、「入門講座」というタイトルにはなっていますが、理解は相当難しいと思います。実務でファイナンスに関わって日が浅い実務担当の方や企業価値評価やIR戦略などに今後関わることになる方など初心者の方が読むべき本と思います。

なお、ファイナンスの入門書ということですと、光文社新書から出ている「ざっくり分かるファイナンス」(石野雄一 著)なども分量が少ないわりに、資本コストの考え方、投資の判断基準などが簡潔に書いてあります。勿論、基本的な考え方であり、実際に実務上、分析をするにはもう少し知織が必要にはなるのですが、基礎を理解するという点ではこちらもお勧めかと個人的に思います。なお、こちらも前提知織がない方には、やはり理解は少し難しいと思います。

簡単になりますが、久しぶりにファイナンスの入門書が書棚から出てきたので、夏季休暇ということで時間もあり読んだので、私の個人的な感想を書かせて頂きました。

引き続き、読んで良書と思われるビジネス書などがあれば、ブログで簡単な書評を書いていきたいと思います。

日経IR・投資家フェア2017が開催されます(8月26日(金)・27日(土))

先日の新聞報道によると日経平均株価を構成する225社の予想PERが14倍と低下しているとのことでした。

PERとは、株価収益率で株価を1株当たり純利益で割ることにより算出されます。米国の大統領選挙の結果が判明した11/9以来、9ヵ月ぶりの水準まで下がっているということです。

企業業績が好調の中、PERが低いということは、日本株が割安になっているということです。通常は企業業績の成長性が低いとそれに対する市場の期待は小さくなりますので、PERも低くなるのですが、企業業績が好調の中、PERが低いということは日本株が割安に評価されているということです。

ということは、海外投資家や国内機関投家による日本株の買いが今後増えていく可能性があるかもしれません。

さて、8月26日・27日に東京ビックサイトで日経IR・投資家フェア2017が開催されます。27日(土)は、伊藤レポートで有名な一橋大学の伊藤邦雄教授やブラックロックジャパンの担当者などによる講演もあり、これはこれで一応関心がありますが、それ以上に関心があるのは、80社ほどの上場企業がブースを設けて出展し訪問した投資家に会社説明を行うという点です。

もっとも上場企業といっても、ほとんどが売上高が数百億円クラスの上場企業で、時価総額では200億円から600億円といったいわゆる中小型株にあたる企業です。業種は、飲食運営、法的開示書類のサポートをする企業、歯科材料メーカー、キャンプ品のメーカーなど様々です。

はじめて聞くような名前の企業が多いのですが、私は昨日から夏季休暇に入ったこともあり、HPをぱっと見て個人的に関心のありそうな企業を30社程度選び、有価証券報告書で各社の財務情報を見て、PER、PBR、ネットキャッシュ比率などの株式指標データや損益実績・予想値などをエクセルでまとめてみました。

結果、キャッシュリッチである一方、配当性向がそれほど高くなく、結果ROEも低い企業や、業績に比べて株価が割安に評価されているいと推測される企業が意外に多いことに気づきました。また、それとともに、これらの中小型株企業の海外投資家比率が数パーセントから10%程度とかなり低い割合であることにも気付きました。

通常、キャッシュリッチ、株価が割安といった場合には、海外投資家から増配要求などを強く受ける可能性があり、さらにはアクティビスト(物言う株主)に狙われるリスクもあり、海外投資家比率が30%を超える大手企業は、このような状況にかなりセンシティブになります。

しかし、これら中小型株企業は、海外投資家比率も極めて低い上に、国内機関投資家も低いため、そもそも資本市場での目線、海外投資家の目線、コーポレートガバナンスといった点には、あまり敏感なタイプではない企業も少なくないように個人的に思えます。

上場企業とはいえ、オーナーや取引先などの安定株主比率が高いのであれば、海外投資家や国内機関投資家の声などをさほど気にする必要はないというのも分からないのでもないのですが。

この夏季休暇を利用して、仮に自分がこれら企業の株式を保有したとした場合、投資家目線で論理的に指摘し得うる事項はあるかという観点から、7~8社に絞り、これらの企業の有価証券報告書や過去のアナリスト説明会資料をじっくり分析しようと思っています。

その上で、8月27日(土)の日経IR・投資家フェアを訪問して、各社のブースに行き、事業内容や業績見通しなどについて企業サイドの考えを聞いてみて、株主還元の余地があるのかといったように投資家目線でどう考えるべきかを一歩掘り下げて分析したいと思います。

27日(土)のIR・投資セミナーを訪問しての感想などは、後日、ブログに掲載したいと思います。

相談役・顧問の役割開示について東証の新制度設立の動き

8月3日の日経新聞に、2018年から東証に提出する報告書で相談役・顧問の氏名、業務内容、報酬の有無などの開示を促す方針であるとの報道がありました。

相談役・顧問に対する批判は、東芝の例を契機に議論の高まっているところであり、J・フロントリテイリング日清紡ホールディングスが本年、相談役・顧問制度を廃止しているのは記憶に新しいかと思います。

相談役・顧問に対する批判の背景は、以前にブログでも書いておりますが、要するにその役割や報酬が外から見えないにもかかわらず、元経営トップということで、自分の元後輩である現経営トップや経営陣に強い影響を及ぼすことがけしからんというものです。

いわゆる院制というもので、院制などという言葉は、高校生の時の日本史の教科書でも、奈良時代平安時代の皇族でも同様の話はあったので、要は組織あるところ古より存在したということかと思います。

相談役・顧問の透明性は、政府の成長戦略の中の重点政策の1つで、経産省東証が開示の拡充を検討していたようです。私のような立場の者が、経営トップを経験した相談役についてとやかくいう資格も経験もなく、当然のことながら相談役と現職の経営トツプの会話・影響など知る由もないのですが、会社法の原則の照らすと、経営に影響を及ぼすことがありながらも、相談役は会社法上の役員ではないので、自分の指示に起因して会社に損害が発生し、ひいては株主や取引先に損害が及んでも、法的に会社や第三者に対して責任を負う地位にないという点が大きな問題かと考えます。

開示の方は今後決まるということですが、具体的に各社どのような開示を行うのか興味深いところです。

普通に考えると、相談役の業務内容は、「経営に対するアドバイス」のような抽象的な記載になるのかも知れませんが、この場合だと、透明性ありとは言えないように思えます。

ポイントは、相談役・顧問が経営にどのような影響を及ぼしたかを明確にすることにありますので、よりつっこんで、個別具体的案件名に対してどういうアドバイスを行い、その結果、経営陣がどういう意思決定をしたかを明確にする必要が本来必要になっていくのではないでしょうか。

現時点では、相談役・顧問の役割を開示するということにとどまっていいますが、経営に影響を及ぼす役割を有しているのであれば、将来会社法も改正され、役員の定義に相談役・顧問が入る、または、役員でないが役員と同様の責任を会社法上も負うことになるといった会社法改正の動きも出てくるのかもしれません。


いずれにせよ、機関投資家との対話の高まりの動きの中、相談役・顧問の開示について上場企業は、今後色々と検討することになってきます。

物言う株主による黒田電気への提案のざっくりとした検証~有価証券報告書の情報から

少し前になりますが7月19日の日経新聞で、投資会社のレノが黒田電気の本年の定時株主総会で株主提案を行って選任された社外取締役の方と黒田電気の社長の経営方針に関する見解の記事が掲載されていました。

レノは、村上ファンド系のファンド(物言う株主)であり、本年の定時株主総会で株主提案が通った事例として新聞や雑誌でも報道されたことは記憶に新しいかと思います。

レノとレノによる株主提案で選任された社外取締役は、黒田電気に対して、経営統合による規模の拡大、コーポレートガバナンスの徹底、自社株買による株主還元を求めているようであり、記事を読んだ限りでは、経営統合と株主還元については、社外取締役黒田電気の社長のコメントでは、完全に対立していました。

株主還元の主張は、企業の毎期の利益が積み上がり現金が潤沢にある場合には、企業に設備投資、M&Aなどの明確な使途の予定がない限り、それを株主に還元せよというものです。より簡単にいいますと余剰資金は社内に溜め込むのではなく、吐き出せということです。

この記事を読んで黒田電気の財務状況がどんな状況にあるのか気になり、同社の2017年3月期の有価証券報告書をぱっと見たところ次のようになっていました。

ネットキャッシュ = 現預金(バランスシート)-有利子負債(借入金等明細表)=  291億円-23億円 = 268億円

株主資本比率 = 純資産(除く非支配持分)÷ 資産合計= 752億円 ÷ 1,175億円= 64%

ROE当期純利益 ÷ 純資産(除く非支配持分)= 51億円 ÷ 752億円 = 6.8%

PBR = 株式時価総額 ÷ 純資産(除く非支配持分)= 810億円(7月31日時点) ÷ 752億円 = 1.1倍

これだけを見ますと、まずキャッシュ(現金)・留保利益が潤沢であるといえるかと思います。純資産の約70%が利益剰余金で、株主資本比率も64%と内部留保が蓄積されています。

ROEについてはどうでしょうか。2016年度の日本の上場企業のROE平均は約8%であり、それと比較すると6.8%は平均を下回ります。なお、2014年に経産省が出した伊藤レポートでもROEは8%を超えるべきであるといわれております。ROEは株主が投資に対して期待するリターン(株主資本コスト)であり、株主資本コストはざっくり約8%あるので、これ上回るべきリターンを上げるべきというものがROEの別の見方になります(ところで米国企業のROEは約12%台になります)。ROEが低いということは、純資産が大きい、つまり黒田電気の場合は内部留保が蓄積されていることになります。

また、レノの村上氏があるファンドマネージャーと2015年頃に対話をした記事を読んだときに、レノが黒田電気の株式を取得した理由などについて、次のようなことが書かれていました。

・PBRが1倍割れで株価が割安(当時は1倍を下回っていたいたようです)
・ネットキャッシュが時価総額の30%もある
・PBR1倍割れであれば自社株買を行って株価を上げるべきところ行っていない。逆に転換社債を発行している
・配当性向は今後3年間は100%であっても問題ない

自社株買いについて少し補足しますと、自社株買いとは市場で自社の株式を取得することですが、これにより市場での流通株式が減るので、需給バランスから株価上昇につながることになります。従い、自社の株価が割安と判断する会社では、株価上昇目的で自社株買いが行われることがあります。勿論、自社株買いには、配当に代えて、株主に資金を還元するという意味もあります。

現在は上で算出したようにPBRは1倍を少しだけ上回っており、2015年のレノの村上氏との対話の記事の時とは少し状況が異なりますが、現時点でも割安に近い水準といってよいようにも思えます。ネットキャッシュも依然として潤沢にあります。

なお、ネットキャッシュの大きさを図る指標として、ネットキャッシュの割合を株式時価総額と比較するネットキャッシュ比率があります。黒田電気の場合は、次のとおりになります。

ネットキャッシュ比率= ネットキャッシュ ÷ 株式時価総額 = 268億円 ÷ 810億円(2017年7月31日)= 33%

通常、ネットキャッシュ比率が100%を超えるとその会社の株価が市場で低く評価されていることになりますが、さすがに100%は超えていませんが、33%というのは以前にネットキャッシュ比率の企業ランキングで見たときに、結構高い方に入るかと思います。

さて、このキャッシュが設備投資、M&A等の成長投資に使用されるのであれば、手元にキャッシュをおくことは説明がつきますが、黒田電気の場合は、どうでしょうか。

アナリスト説明会の資料やアナリストレポートを見ていないので、同社のM&A戦略や設備投資の戦略の詳細は分かりませんが、有価証券報告書の記載のみからでも設備投資に関する姿勢について一応の推測はできます。

つまり、毎期の減価償却費とネットでの設備投資の金額を比較することで、大雑把なレベルで、少なくとも積極的な将来投資を行っているか否かは推測できるかと思います。

通常、企業は毎期の減価償却費相当の設備投資は事業継続に必要とされており、減価償却費を超える設備投資をしていれば、これは将来の成長に向けた積極的な投資をしていると考えることができます。こで、黒田電気の2017年3月期のキャッシュフロー計算書を見てみます。

営業活動によるキャッシュフローから減価償却費を見ますと22億円となっています。次にネットでの設備投資額ですが、ざっくりと投資活動によるキャッシュフローの中にある有形固定資産の取得と売却の差額とすると、次のとおりになります。

ネット設備投資額=有形固定資産の取得による支出-有形固定資産の売却による収入=14億円 - 2億円=12億円

とすると、減価償却を下回る設備投資しかしておらず、積極的な成長投資はしていないように見えます。ちなみに、2016年3月期の数値を見ても、傾向は大きく変わっておりません。

同社の将来の設備投資の予定などの詳細は前述のとおり、アナリストレポートや中期経営計画などを見ていないので、正確なところは何とも言えないとこではありますが、少なくとも直近2年間は積極的な将来投資はしていないといえるのではないでしょうか。

以上の有価証券報告書の数値情報を、ぱっと時間をかけずに見た限りでは、正確性には欠けるかも知れませんが、レノが株主還元を求める状況も一応は理解できるように思えます。

では、次に黒田電気の株主構成はどうなっているでしょうか。

何故株主構成の話をするのかといいますと、物言う株主の提案が正当であってもその提案を通すには、株主の同意を得る必要があります。何故ならば仮に安定株主が50%もいたりすると、株主提案に安定株主が賛成することは通常ありませんので、物言う株主は、自分の提案に多少の賛同は得られても過半数の賛成を得ることはできないのです。

ここで黒田電気の株主構成について有価証券報告書から見ると、議決権ベースでは、2017年3月末では外国人比率が約24%となっています。他に安定株主として銀行、生命保険・損害保険がどの程度保有しているのかは分かりませんので、安定株主比率は断定はできませんが、外国人のほとんどは、通常は海外の機関投資家で「非安定株主」になりますので、レノの提案が理にかなったものであれば、外国人株主は、躊躇することなくレノの提案に賛成することになります。

レノは共同保有分を含めて黒田電気の株式を議決権ベースで約37%ほど保有しているようですので、レノが株主提案を行う場合には、自社の保有比率と外国人比率24%を単純合算するとあっさりと50%を超えることになります。黒田電気としては、レノの権利を弱めたいと思う場合には、先般の出光興産のように公募増資又は第三者割当増資をして希釈化を行うということなどが法的には考えられるかも知れません。

有価証券報告書の細部までじっくり読んでいませんし、決算説明会資料なども一切見ていない、細かい数値や考え方に少々誤りがあるかも知れませんが、黒田電気有価証券報告書を時間をかけずにぱっと眺めた限りでの、大きな観点からの気付いた事項になります。

なお、有価証券報告書はEDINETから誰でも見れますので、上場企業に関する記事が出る都度、その会社の有価証券報告書を眺めてみると幅広い業種の企業の情報が感覚として掴めるようになると思います。

次回は、数値の話から離れて、7月19日の日経新聞での黒田電気社外取締役と社長の記事から、コーポレートガバナンスについて気付いた点を書いてみたいと思います。

ネットD/Eレシオとは?~出光興産の公募増資の報道から

以前に出光興産の公募増資について書きましたが、その後、出光の公募増資に関する取締役会決議に対する創業家の差止め請求に対して、裁判所が申請を却下したとの報道がありました。

新聞で頻繁に掲載されているのでご存知の方も大変多いかと思います。

本件の争点は、公募増資は創業家の持株比率の稀釈化を目的とするもので不公正発行に当たるとして創業家サイドが公募増資の差止めを求めたものですが、裁判所は、それ自体は目的として不当であるも、一方、出光は借り入れの返済原資にすることも増資の狙いにあり、その目的には、必要性・合理性があり、総合的に判断して不公正な発行には当たらないと判断をしたようです。

ここで、借入の返済原資にするということで出光の借入金額(有利子負債)がいくらあるのか気になり、ざっと出光の直近の有価証券報告書を眺めるとともに、有利子負債に関する指標であるネットD/Eレシオについて書いてみたいと思います。

まず新聞報道によれば今回の増資での調達額は1,200億円とのことです。一方、出光の2017年3月期の有価証券報告書の借入金等明細表を見ますと有利子負債(長・短期借入、リース債務等)が約9,900億円で、連結バランスシートにある現金及び預金を見ますと約910億円となっています。

ネットD/Eレシオは、ネット有利子負債÷純資産(少数株主持分除く)で算出され、企業の資本金や留保利益などの合計である純資産の何倍の借金があるかを見る指標になります。なお、ネット有利子負債とは、有利子負債から現預金を差し引いた金額になります。

ネットD/Eレシオが大きいということは、要するに有利子負債が大きいということを意味します。出光について単純に上の数値だけから算出しますと次のとおりになります。

ネットD/Eレシオ=ネット有利子負債÷純資産(少数株主持分控除後)

       =(9,900億円-910億円)÷5800億円 = 1.6倍

出光の2017年3月期の有価証券報告書にもネットD/Eレシオの計算式と推移がありますが、それによれば次のとおりになっています。

ネットD/Eレシオ = (有利子負債-現預金及び短期運用有価証券)÷(純資産-少数株主株分)  = 1.6倍

短期運用有価証券を加えていますが、やはり1.6倍となっています。


一般に、ネットD/Eレシオは1倍を下回ることが健全と言われていますので、2倍近くあるということは借金が相当多いということになります。

では、ネットD/Eレシオが大きいとどういう影響があるでしょうか。

ネットD/Eレシオが大きいということは、社債の格付けにマイナスの影響を与えることになります。社債の格付けに影響を与えるとは、企業が資金調達として社債を発行する際の社債利息が増えます。

また、格付けが下がると銀行の貸出利息も増えることにもなります。つまり負債コストがあがります。とすると、PLの営業外費用にある支払利息、社債利息が増えるので、税前当期利益、ひいては当期純利益も減少します。

そして、意外に見落としがちなのですが、負債コストがあがるということは企業価値が下がることになります。企業価値とは、仮にDCF法で算定するとなると(当然ながら企業価値算定には、同業のPERやEBITDA数値をベースにPER倍率、EBITDA倍率等で算出するなど色々あります)、将来の予想される税引後営業利益をベースに、運転資本の増減などを考慮して、フリーキャッシュフローを算出して、それを現在価値に割り引いて算出します。この割引に使用するのが負債コストと株主資本コストになり、併せて資本コストといいます。

このあたりは以前にブログで書いていますが、簡単に結論だけいいますと負債コストがあがると、この資本コストがあがることになり、ひいては割引率が高くなり企業価値が下がります。

企業価値算定は、実際に業務でエクセルを使ってバリュエーションをしていないと肌感覚としてはまず分からないと思いますが、そういうものと理解していただればと思います。

なお、話が少し横道にそれますが、本で読んだ知織だけでDCF法を分かった気になっている人もたまに目にしますが、実際にエクセルで自分で数値を入れて算出したことのない人は、私の経験上、ほぼ理解できていません。

DCF法での企業価値算定は、M&Aでの買収金額の算定で使うことが多いですが、私は過去に法務部に所属していたことがあり、当時はバリュエーションなど本で読んで知っていたつもりになっていましたが、実際にエクセルで数値算定などしたことが全くなく、今現在は実務で実際にやっていることと比べると、当時は実は何も理解できていませんでした。企業価値算定というものは、ファイナンスの知識をある程度実に付けて、自分でエクセルを使い数値をはじいてはじめて分かり、また人を説得できることになります。

数値と無縁の部署の方も、「自分は数値は関係ない」と自分の役割を狭めるのではなく、一度自社の中計数値などをベースに、自社の売上・利益を一定の成長率で伸ばして、エクセルで作成するとDCF法とはこういうものかということがある程度は理解できると思います。ターミナルバリューについての成長率や割引率を変数にしたフットボールチャートを作成して見るとDCF法が肌で実感できると思います。

 

話が少しそれましたが、出光の有価証券報告書の連結バランスシートで2017年3月期の流動比率を連結ベースで計算すると次のとおりになります。


流動比率流動資産÷流動負債=9600億円÷11450億円=84%

流動比率とは、100%を上回ることが安全性の基準になりますが、企業の安全性を見る指標になりますが、これも小さいですね。

では、今回の増募増資により、ネットD/Eレシオにはどのような影響があるのでしょうか。

公募増資で調達した資金で有利子負債を返済するということですが、増資をすると一旦バランスシートの資産の部の現金及び預金が増え、純資産にある資本金(場合によっては資本準備金も)が増えます。この現預金で有利子負債を返済するので、一度増えた現預金が減り、次に負債の部の有利子負債が減ります。つまり、ネットD/Eレシオで見ると、分子の有利子負債が減り、分母の純資産が増えますので、ネットDEレシオは改善します。

少し長くなりましたが出光の公募増資のケースからネットD/Eレシオについて気付いたところを書いてみました。

議決権行使助言会社に対する規制の強化の動き

先日、議決権行使助言会社について記載をしましたが、その後に引き続き、日経新聞によれば、米国では、議決権行使助言会社に対する規制の強化の動きがあるということのようです。

米国議会で、金融選択法案というものの審議が進んでいるようです。良く分かっていませんでしたので、ネットなどの公開情報でざっと調べたところ、米国では、ドットフランク法(金融規制改革法)という法律が2010年7月に制定され、金融規制に関して規定しているようですが、この金融選択法案では、金融機関の経営自由度を大きく高める内容のようです。しかし、金融選択法において、規制緩和の中、議決権行使助言会社については、規制が強化される流れに向かっているということです。

報道によれば、議決権行使助言会社の組織体制などの開示が助言会社に要請されるようですが、企業にとって好ましい点は、分析対象となる企業に、株主総会議案に議権行使助言会社の発行するポートを見せて、意見を述べる機会を与えるというようなことになるとのことです。

議決権行使助言会社であるISSやグラスルイスの発行するレポートは、私自身も目にしますが、たしかに現状は発行したレポートを目にするだけで、事前に会社に対して内容について確認をとるということは行われていません。

実際には、過去に自社のレポートを見た際、記載内容について、「誤解しているのでは?」と思った箇所があったこともあります。議決権行使助言会社は、5月、6月の時期に数千社の会社について株主総会の招集通知を見てレポートを作成するので、一定の時間の範囲内で機械的に判断せざると得ないため、場合によっては、見誤りがあることがあるかも知れませんし、また企業サイドの開示内容が分かりにくかったり、企業の意図が文字として十分に明記されていない場合には、企業の考えと異なる解釈をされる可能性も十分あると思います。

このため企業の実務担当者は、助言会社のレポートの内容について、「これは違うのでは?」と思ったこともあったかと思います。

その点では、この金融選択法案が可決されれば、事前に意見を述べる機会を企業に与えることにより、企業サイドの意見もレポートに反映され、実質を踏まえた議決権行使が期待できることにつながるかも知れません。

不利益を受ける場合には、「告知聴聞の機会を与える」、つまり事前に内容を知らせて、弁解の機会を与えるというデュープロセスという大原則がありますが、これと同じような考え方と思います。

ISSなどの基準に必ずしも準拠しない海外機関投資家も最近は増えていますが、そうはいっても依然として今後もこれまでどおりISSやグラスルイスのレポートは機関投資家の議決権行使に大きな影響を持つかと思います。その点では、この法案が成立した場合には、企業にとっては、より好ましい方向に向かうのでははないでしょうか。

議決権行使助言会社とは?

先日の日経新聞で「総会の黒子の正体」ということで議決権行使助言会社である米国のISSについて記載されていました。

ISSとはインスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズというのが正式名称で、業界最大手ですが、他には同業ではグラスルイスという議決権行使助言会社があります。

上場企業のIR部門の方、株主総会での議決権行使関連業務の方にはISS、グラスルイスのことは良くご存知のことと思いますが、そもそも議決権行使助言会社とは何であるのか、また、企業への影響について基本的なことを書いてみたいと思います。

1.議決権行使助言会社とは?

株主総会の際に機関投資家が議決権を行使する際に、賛否を推奨する議決権行使の助言をする会社です。

株主総会の際には、機関投資家がその所有する株式について株主総会で議決権を行使しますが(実際には、総会場に来場するのではなく、事前に書面で議決権行使するのがほとんどです)、この会社のこの議案には賛成又は反対かを機関投資家に推奨します。具体的には、議決権行使助言会社がレポートを発行し、機関投資家がそれを購入するということになると思います。

つまり、ある上場企業の取締役選任議案としてA氏という方が候補者になっているときに、機関投資家がA氏に賛成又は反対のいずれを投じるかを判断する際に、ISSなどの議決権行使助言会社の判断基準に従って判断します。機関投資家には、海外投資家と国内投資家がありますが、海外の機関投資家ISS、グラスルイスの基準をそのまま遵守するケースが多いと思います。

2.企業サイドに与える影響は?

端的にいいますと、助言会社の基準を充たしていない場合、議案の反対票が増えということになります。

では、企業としては、どうするかといいますと、まずは自社の議案が助言会社の基準を充足するかどうかを株主総会に先立ち確認をする必要があります。助言会社の基準を満たさない場合には、その議案について反対票が増えることになり、反対率が高くなると総会で議案が否決されることになります。

従って、外国人(法人)保有比率が高い会社は注意が必要になります。何故ならば、外国法人(=海外機関投資家)は先に書きましたようにISSなどの基準をそのまま採用するケースが多いからです。

一方、個人株主は議決権助言会社の基準を見ることは普通はないので(個人株主ではあるが、「私はISSの基準に沿って判断する」といったマニアは別ですが)、株主構成上、外国人比率が小さく、個人株主比率が高い会社は特に心配する必要はありません。もっとも、個人比率が高いということは、安定株主も低いということになるので、個人の賛否が全く読めないという別の問題が生じてはきます。

以上が概要になりますが、新聞にも書かれていましたが、議決権行使助言会社には批判も多いところでもあります。

それは何かといいますと、議決権行使助言会社は投資家の意向を踏まえて各国・地域ごとに賛否基準を作成していますが、その国・地域のある企業の個別事情はあまり考慮していないと点です。例えば、「ROEが5%以上でないと議案に反対」といったように一定の基準を設定しており、機械的に判断しているといわれています。

経営が順調で十分に利益が蓄積されている企業であれば、利益を還元して、ROEを高めよという主張は分かるのですが(=配当や自社株で利益還元することで純資産が減りますので、ROEは高まります)、資本を増強する必要があったり、将来の大型投資やM&Aに向けて資本を厚くしておききたい会社もあります。こういった企業の個別事情があまり考慮されず、基準を形式的に適用しているのではないかという批判です。

一方で、これはある意味では仕方ないという側面もあるかと思います。判断基準を作るには、一律の基準を設定する必要もあり、個社別の基準を作ると収拾がつかなくなるという現実もあります。実際に議決権行使助言会社の人的リソースもあると思います。

では、こういった環境下で企業としてはどうすべきかといいますと、積極的に議決権行使助言会社に自社を理解してもらえるよう努めるということになるか思います。

日本を代表するような一部の巨大企業・有名企業でない限り、自分から黙っているとまず理解はして貰えないのですから、なるべく対話をする機会を持って自社の事情を理解して貰うということがあるように思えます。転職の際と同じですね。

前職の証券会社時代に、日本の大手化学メーカーに勤務後にマサチューセッツ工科大学(MIT)でMBAをとってから、転職してきた同僚がいましたが、こういう一流の米国の大学でMBAを取得した方は何故か、時々、エグゼクティブ採用専門の人材会社から高待遇での転職のお誘いが頻繁にあるようですが(本人はMBA卒業リストが出回っているのではといってましたが)、そうでない大多数の一般の方は、転職したいとすれば自らプロフィールを作成して、現職より少しでも高い給料が貰えるよう、自分の成果やポテンシャルを売り込んでいく努力をしないと転職できないのと全く同じ考えです。

少し脱線しましたが、私の知る限りですと海外の機関投資家の中には、ISSなどの基準に必ずしも準拠することなく、自社独自の基準を設定する機関投資家もありますが、以前として大多数はISSの基準によるところが多いと思います。

とすると、企業サイドとしては、転職の場合と同じで、自社の業績や取り組み、今後のビジョンなどについて積極的にISSなどとの対話の機会をつくっていくことが大事だと思います。

ちなみに、少し前にグラスルイスの米国担当者のセミナーに参加したことがありますが、同社は日本では拠点は設けていないということでISSよりも日本では活動は小さいようです。

ESG投資が日本でも増える可能性

先日の報道によれば、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)がESG投資の運用を開始し、6月末までに約1兆円をESG銘柄に投資するとのことです。
GPIFは日本国内株式を約30兆円保有しており、これまで大部分を東証株価指数TOPIX)で運用してきましたが、今回約1兆円をESG投資にまわし、今後は、3兆円に増やす考えとのことです。
ESG投資とは、環境、社会、企業統治への取り組み姿勢を判断に投資することで、最近、良く報道されているかと思います。

GPIFでは、次の3つのESG指数を選定して、この指数に応じた株主指数を増やすようです。

・ETSE Blossom Japan Index(ESG総合型)
MSCIジャパンESGセレクト・リーダーズ指数(ESG総合型)
MSCI日本株女性活躍指数(テーマ型・社会)

なお、MSCI日本株女性活躍指数(テーマ型・社会)のホームページを見たところ、次のような記述があります。

時価総額上位500銘柄(MSCIジャパンIMIトップ500指数)を対象とする。
MSCI が新たに開発した性別多様性スコアに基づき、業種内で性別多様性に優れた企業を選別して構築される
MSCI ESG リサーチが非常に深刻な不祥事を起こしている、あるいは人権や労働者権利において深刻な不祥事を起こしていると評価する企業は対象外となる
 
簡単にいうと時価総額(=発行済株式数×株価)の大きい企業の中から、女性の活用などに優れている企業を投資対象として選別していくということかと思います。
 
以前にESG投資は非財務情報を重視するものであり、あくまで投資の前提は企業の業績であるので、ESG投資がどこまで広がるのかかなり疑問というような内容でブログで書きました。しかし、先日、偶々あるシンクタンクのレポートで偶然ESG投資に関する統計値を見たところ、これまで知りませんでしたが、2016年のESG投資額は、グローバルで約23兆米ドルあり、うち欧州が12兆米ドル、米国が9兆米ドルになっているようです。ちなみに、日本は5,000億米ドルでグローバルの投資総額の中に占める比率は、わずか3%との結果でした。ちなみに、2014年との比較では、グローバルでの総投資額は20%以上増えているようです。

このように欧州や米国では、ESG投資がだいぶ進んでいます。日本では今現在は、まだまだですが、基本的に欧米で主流の事項は確実に数年遅れて日本でもスタンダードになっていくと思います。社外取締役の設置、コーポレートガバナンス・コード、スチュワードシップコード、今後詳細が決まるフェアディスクロージャー制度などを見れば分かりますが、欧米のスタンダードが日本でも時期が遅れて適用されるというのがこれまでの流れです。各国での事情などを考慮せず、単純にこの流れだけを見ますと、日本でもESG投資は、スタンダードになっていくような気がします。

先日まで懐疑的にESG投資を見ていましたが、日本はまだESG投資の歴史が浅く、投資ついてもまだ緒についたばかりの印象を持ちますが、今後、大きく増えていくのではないでしょうか。企業としは、ESGの各項目についてグローバルスタンダード(欧州)と自社の現況を比較して、グローバルスタンダードより遅れているのであれば、改善し、既に充足しているか遜色ない程度にあるのであれば、それが正しく外部から評価されるよう積極的に対外的に公表していくということが大切になってくるように思います。

今後はESG投資もキーワードの1つとして継続して注視したいと思います。


出光興産による公募増資についての分かりやすい解説

出光興産が昭和シェル石油との合併による経営統合を目指している件に関して、出光の創業家が反対していることは、だいぶ以前から新聞報道されていますが、先日の報道で、出光の経営陣が公募増資を決定し、これに対して出光の発行済株式の約33%を持つ創業家が、公募増資は創業家保有する持分の議決権の稀釈化となり、合併を容易にするものであるため反対しているとの報道がありました。
 
この件に関して、公募増資の意味と併せて説明をしたいと思います。
 
上場企業が資本市場から資金調達を行う手法としては、公募増資、第三者割当増資、株主割当増資の3つがあります。最初の2つが一般的で、簡単に違いを説明しますと次のとおりです。
 
<公募増資>
現在の株主や特定の第三者に限らず、広く一般の投資家を対象に株主を募集し、新株の割り当てを受ける権利を与えて行う増資
 
<第三者割当増資>
発行会社と関係のある特定の第三者に限定して新株の割当を行う方法

第三者割当増資は、業務提携先との関係強化や資本提携を行う場合、また、発行会社の経営状態が悪く株価が低いため普通の増資ができない場合の事業支援や会社再建の際に利用されることが多いです。

要するにひらたく言いますと、公募増資は不特定多数を相手に増資するケースで、第三者割当増資は、特定の第三者相手に増資をするケースです。いずれの場合にも既存の株主の持株比率は低下をすることになります。
ちなみに株主割当増資は、全ての株主に保有比率に応じて均等に新株を発行するものであり、株主の持分比率の稀釈化は生じません。既存の株主に不利益を与えずに資金調達が出来る増資です。
ところで、増資をしますと、バランスシートの資産の部の現金が増えて、純資産の資本金(場合によっては資本準備金も)が増えますね。
 
今回、出光が公募増資を行いますと、新株があらたに発行され、発行済株式数が増えますので、創業家の持株比率は稀釈化(比率が低下する)することになります。

出光は昭和シェルと合併するに当たっては、出光の株主総会で合併議案の承認を得る必要があり、これは会社法上の特別決議事項になりますので、2/3以上(=66.7%)以上の賛成が必要になります。つまり、創業家の33%の反対があると株主総会で合併承認の議案は否決され、合併はできないことになります。そこで、出光の創業家と対立関係にある経営陣は、創業家株主総会で議案に反対して合併が阻止されないよう、創業家保有比率を低下させようとして公募増資を決定したということのようです。

ただし、問題は、特定の株主の持分を稀釈化するための増資は法的に課題がある点です。
 
増資には、あくまで資金の使途(例:設備投資など)が必要であり、これがない場合、例えば特定の株主の持分比率の低下を主目的とする増資であるといった場合には、会社法上、新株の発行について差止請求が提起され、裁判で会社側が敗訴する可能性があります。過去(たしか2005年頃)のニッポン放送のフジテレビに対する新株予約権の発行のケースで、これはライブドアによる買収の防衛策として持株の希釈化を目的としたものですが、裁判所はこの新株予約権の支配権維持が主目的としたものであり、不公正発行に当たると判断しています。
ちなみに、新株予約権とは、新株を取得できる権利で、新株予約権を持つ者はその権利を行使することにより、会社の株式の交付を受けることができます。従って、最終的に新株の交付を受けることができるという点では、最初から新株を交付する第三割当増資と同じような効果を持つことになります。
 
報道では、出光は、資金目的であることを主張しているようですが、これに対して創業家は、創業家の持株比率の低下を目論んだ公募増資であるとして争う姿勢を見せているようです。

この点、今後どのように進んでいくのか、または裁判になった時に興味深いところでありますが、一方で、仮にも上場会社でありながら、裁判沙汰に発展する可能性があるほどまでにサラリーマン経営陣とオーナーである創業家との関係がこじれているのも不思議なところです。

2017年の株主総会を振り返って

 

6月も終わり、多くの3月決算企業の定時株主総会も終わったと思います。

本年の株主総会を振り返りますと、連日、株主総会の議決権行使に関連する記事が日経新聞では報道されていました。本年の総会関係の話題についてまとめると、スチュワードシップ・コードの改訂による機関投資家の「議決権行使結果の個別開示」をキーワードに次のような話題が印象的でした。

1.物言う株主(アクティビスト)による株主提案の増加
2.相談役、顧問制度の廃止
3.買収防衛策議案の反対率の増加

既にブログで色々と個別に書いていることですが、おさらいの意味で簡単に説明したいと思います。

まずは相談役、顧問制度の廃止ですが、これは東芝の例が典型で、社長経験者として退任後も経営に隠然たる力を及ぼしておきながら、報酬や役員の人事権などへの関与が不透明ということによるものです。日清紡ホールディングスJ・フロントリテイリング阪急阪神ホールディングスが本年相談役制度を廃止しているようで、今後、相談役を持ち続ける企業は、その意義、報酬体系、経営への影響などを明確にして公表することが必要になってくるのではないかと思います。

次に買収防衛策ですが、最近は廃止の風潮も高いですが、経営陣の保身と受け取られるケースが増えています。

以前は物言う株主が会社の株式の過半数を取得して経営権を取得するという動きがあり、そういう場合には、企業価値、ひいては既存株主の利益を確保するスキームとして買収防衛策が市場で一応の評価を得ることが出来ました(そうはいっても、2007年頃でも議案の賛成率が80%を超えるような企業は極めて少なかったと思います)。

しかし、最近はそのようなアクティビストは減り、マイノリティーの株式(数パーセント)を取得して「理にかなった」提案を企業に行い、他の一般株主の賛同を得て目的を達成するタイプに変わってきています。

とすると、買収防衛策の当初の導入の意義はなくなり、物言う株主の提案に賛成するか否かは、株主の判断に委ねるべきだということが昨今の批判の背景にあります。また、買収防衛策は15%、20%といった株式を大量に取得する場合に適用されるルールであり、大量の株式を取得されるケースは、現在はあまり想定できないので、そもそも不要ということです。

本年は、大手信託銀行、生保・損保では反対を投じたところがあったとは私は聞いてはいませんが、信託銀行でも来年から相当に厳しい判断をするところも出てくると思われますし、実際にある大手信託銀行からそのように聞いています。

特にROEが低い、収益が悪化しているような企業は経営陣の能力が低いと市場で評価される中、買収防衛策はそのような経営陣を守るためのものと見なされるので、そのような企業は買収防衛策議案については来年も多くの反対が出ると思われます。

企業サイドとしては、ROEの改善策や中期経営計画を説明し、その絡みで買収防衛策の必要性を投資家に納得して貰うなど、今後は、機関投資家との対話により多くの時間を割く必要が生じるものと思われます。

本年は投資家・株主との対話をするという外部環境の大きな変化が現れた株主総会でありましたが、本年の8月頃には議決権の個別開示結果が一斉に開示されます。

企業サイドとしては、開示結果を見て、特に賛成率の低い議案については、9月に入ったら、来年の株主総会を見据えて、機関投資家や株主との積極的な対話を開始する必要が出て来るかと思います。

9月以降に投資家・株主との対話を充実させた企業とそうでない企業とは、来年の株主総会で議案の賛成率に確実に大きな開きが出てくることになると思います。

 

機関投資家の株主総会への出席の可能性

先日、株主判明調査について書きましたが、実質株主である国内海外機関投資家は、会社の株主総会に参加できるのかについて書きたいと思います。

株主が会社に対して株主であることを主張するには対抗要件を備えている必要があり、この対抗要件とは、株主名簿の名義上の株主であることが必要になります。従って、実質株主は名義株主ではないため、当然に会社に対して株主であることを主張し、株主総会に出席するこことはできないと思います。

次に議決権の代理行使ができるという観点でも問題になるように思います。つまり通常は、会社の定款において、議決権を代理行使する際には、代理人は株主に限定すると規定しています。これは株主でない者が株主総会に出席することで、株主総会が荒れるのを防止することが趣旨といわれています。

とすると、実質株主は、会社にその地位を対抗できる名義株主ではないので、この定款規定によれば、実質株主は「株主」とまでは言えず、名義株主の代理人として総会で議決権は行使できないということになるようにも思えます(なお、この点は私見ですので、企業法務に精通した弁護士の意見を確認する必要はあります)。

だいぶ以前にJ.フロントリテイリングが、機関投資家などの実質株主が株主総会に出席できるよう定款変更するとの新聞報道がありました。同社は今年の5月に定時株主総会が開催されたようで、同社のホームページで株主総会の招集通知を見ると、代理人による議決権行使に関する定款規定を次のように変更しており、株主総会で議案は承認可決されています。


「第18条 ~前項の規定にかかわらず、取締役会において定める株式取扱規定に定めるところにより、信託銀行等の名義で株式を保有し自己名義で保有していない機関投資家は、株主総会に出席してその議決権を代理行使することができる。」

このように株主名簿上、株主となっていない機関投資家も名義株主の代理人として議決権を行使できると改訂をしています。

では、機関投資家株主総会に出席できるとなると会社側はどうなるでしょうか。

まず株主総会の出席者が増えることになり、さらに株主総会での質問も格段に増えると思います。人数だけ増えるのであれば良いのですが、機関投資家は、金融のプロフェッナルなので質問も会社の本質をつく鋭い質問になります。

素人の個人のオジサン、オバサンのしょうもない質問とは質問の質・鋭さが全く異なります。

会社としては、自社をより深く理解していただくには機関投資家に直接株主総会に来て頂きそこで真摯に対話をすることがより企業価値を高める上では有効であるとは思いますが、一方で、下手をすると機関投資家から突っ込まれて、大きなマイナス影響を受けることもあります。

そういう意味で、J.フロントの判断は、今後の大きな潮流に乗ってはいると思いますが、他社に先駆けての思いきった勇気のある判断であっかと言えると思います。これがきっかけになり、他社でも機関投資家株主総会の参加を許容する会社も増える可能性もあるかも知れません。J.フロントの来年の株主総会ではどういう質問が出るのか大変興味深いところです。

株主判明調査とは?

先日のある新聞記事で「株主判明調査」との言葉がありました。時々耳にする方もいるかとは思いまし、IRご担当の方などは十分に理解されていますが、基礎的事項についてポイントを説明したいと思います。

会社の株主は通常は会社の株主名簿に記載されています。つまり名義上の株主=実質株主(真の株主)です。従って当然ですが、一般法人である〇〇株式会社や個人である山田 花子さんなどはそのままの名称で株主名簿に記載されます。

しかし、国内機関投資家や海外機関投資家については、自らが株主名簿上の株主となることは一般に少ないのが現状です。理由は、管理コストの観点などからであると言われています。彼らの保有分は、株主名簿上は〇〇信託銀行(〇〇口)などと記載されています。

つまり、この〇〇信託銀行(〇〇口)が10,000株と株主名簿に記載されている場合、この背後には実質株主である〇〇アセットマネジメント㈱が5,000株、〇〇投資信託㈱が3,000株、〇〇キャピタル㈱が2,000株といった具合に隠れているのです。

では、実質株主が判明しないとどういうことになるのでしょうか。

会社が、定時または臨時の株主総会で会社議案を提案する場合に、機関投資家の賛否の表読みが出来ないことになります。つまり、会社提案議案に対する機関投資家の賛否の考えを聞きたいとしてしても株主名簿を見ただけでは誰が該当する機関投資家であるのか分かりません。

つまり、株主名簿上の名義は〇〇信託銀行(〇〇口)であっても、議決権行使の賛否を指図するのはその背後にいる実質株主であるので、票読み(=議案に賛成・反対のいずれを投じるかの予想を行うこと)が出来ないことになります。票読みが出来ていれば、株主総会の賛成が得られないと予想される場合には議案を提案しませんし、また、機関投資家の賛成するように議案の内容を修正できますが、これらが出来ないことになります。最悪は、議案を株主総会に提案したが、否決されたということになります。

企業は、3月決算企業であれば、通常は3月末と9月末に株主判明調査を行うことが多いと思います。3月末であれば、判明した実質株主である機関投資家を訪問して、株主総会の議案への賛否に意思を確認したりします。ただし、株価が大きく変動したような場合には、期中で株主判明調査を行うようなこともあります。また、臨時株主総会を開催する場合には、期中で株主判明調査を行うこともあるかと思います。

なお、株主判明は企業サイドでは困難ですので、通常は名義書換代理人である信託銀行などを起用することになります。ただし、実質株主の背後には、資金提供者(アセットオーナー)が存在しますが、ここまでは判明しません。

私は社会人になって間もない頃、業務で「株主判明調査」という言葉を聞いたときには、3月末で株主名簿が確定するのに更なる判明とは何を調査するのだろうか、素性の良い株主か悪い株主かを興信所のように調査するものなのだろうと真面目に思っていたことがありました。

今後はスチュワードシップ・コードの影響もあり、企業サイドも、定期的に四半期に1回といった頻度で実質株主を把握して、実質株主との対話を行うような機会も場合によっては増えるのかも知れません。

次回は、実質株主の株主総会での参加の可能性について書いてみたいと思います。

「物言う株主」に対する企業の積極的な対応活動と専門部署

企業の株主総会のシーズンが本格化しており、今週株主総会を迎える企業も多いと思います。
そういう中、6月24日の日経新聞で「物言う企業の逆襲」という記事がありました。要するに、物言う株主に対して企業サイドも従前のように黙っているのではなく、積極的に企業の考えを発信していくことを「物言う企業」と呼んでいるようです。ネットで、「物言う企業」を調べたところ、この日経新聞の記事でしか言葉が出ておらず、大変良く出来た表現であるなと思いました。今後、物言う株主の単語と同じように市民権を得ていくのではないでしょうか。
 
議決権個別開示などの外部環境の変化の中、今年の株主総会では株主提案件数が過去最高であったようです。しかし、ふたをあけてみると、たしかにアクティビストが企業の株式を取得したり、株式を買い増すケースはそれなりにあったものの、会社提案が株主総会で否決されたり、株主提案が可決された様子は今のところないようです。専門商社の蝶理株主総会では、ストラテジックキャピタルが出した政策保有株式の売却などに関する株主提案も否決されたようです。
 
株主提案が否決された理由の1つは、企業サイドが投資家との対話の機会を積極的に行ったことによるものです。
 
しかし、今回はひとまず会社側の勝利で終わったといえますが、来年からは難しくなるのではないでしょうか。今回は議決権行使の個別開示の初年度ともいえますが、来年以降は会社提案に対する機関投資家の判断もより厳しい目が向けられるはずです。現に蝶理のケースでは、株主提案は否決されたものの賛成率が10%を超えていたようです。
 
株主提案が否決されたからといって企業は必ずしも安心はできません。
アクティビストは、アセットオーナーから資金を預かり運用しているプロフェッショナルであり、株主総会に土産目的や過去の勤務した自社の経営状況を何となく懐かしく見たいという社員OBなどのファイナンスなどの知識のない素人株主・投資家とは全く異なるものであり、株主提案が「残念ながら提案が否決されたので、引き下がります」ということにはなりません。現に、新聞報道などによると、パナホームでは、香港のヘッジファンドが株主提案が総会で否決された後、少数株主の利益が損なわれたとして訴訟の提起することを宣言したという記事がありました。このように株主提案が否決されても訴訟という手段を講じることもあるのです。
 
以前からブログに同じようなことを書いておりますが、企業サイドとしても、自分たちが対峙するのは、ファイナンスコーポレートガバナンスに精通したプロフェッショナルであるという認識を強く持ち、企業サイドも企業価値・株式価値の算定はじめ投資銀行と同程度のファイナンス知識を持ち、かつ、会社法コーポレートガバナンスなど数値以外の専門知識も併せて持ち、全体を包括して理解できる人材を配置した専門部署が有事の時の対応部署として、または平時の時には株主・投資家に自社をPRする部署として大切になってくるのではないでしょうか。

社内カンパニーと分社化

2017年4月24日付の東芝のプレスリリースによれば、東芝の社内カンパニーであるインフラシステムソリューション社、ストレージ&デバイスソリューション社などを会社分割により分社するということのようです。

 

ここで、今回は、社内カンパニーと分社化の基本について少し説明したいと思います。

社内カンパニーとは、私の記憶ですと平成9年の少し前頃から日本では流行りはじめたように思えます。といいますのも私が最初に勤務していた化学素材メーカーで、この頃にソニーオリンパスの社内カンパニーのケーススタディーを行い、社内カンパニーや持株会社の形態への変更を社内検討していました。

社内カンパニーとは、端的にいいますと擬似会社です。社内カンパニーの話をする時には、事業部制の話と比較すると分かりやすいと思います。

事業部制は多くの会社で採用しており、顧客別、製品別、地域別など切り口は様々ですが事業をいくつかの単位に分けて、各事業部長に一定程度の権限を持たせて損益責任を負わせる制度です。

では、社内カンパニーとはどこが違うのでしょうか。


事業部も社内カンパニーも独立した法人ではないという点では共通しています。大きな違いは、①社内カンパニーはバランスシートまであること、②社内カンパニー長は事業部長より大きな権限と責任を負う点かと思います。

①に関して、は社内カンパニーは擬似会社ですので、1rつの法人と同じように損益計算書だけでなく、カンパニーのバランスシートがあることが多いと思います。つまり、そのカンパニーを1つの会社と同じに考えて、資産・負債・純資産を持つことになります。一方、事業部では事業毎の損益は把握していても、事業毎のバランスシートは作成していないことが多いのではないでしょうか。私の経験では、バランスシートの資産の部に入る受取手形売掛金棚卸資産、有形固定資産、負債の部に入る買掛金などは社内管理の観点から事業部毎に作成・管理していても、それ以外のバランスシートの勘定科目を事業毎に細かく分けている会社は少ないように思われます。

次に②に関しては、これは①と絡むのですが、損益だけでなく、事業の資産・負債まで責任を負う以上、カンパニー長はいわば独立した法人の社長と同じことになりますので、バランスシートに関する権限とともに責任も負うという点ではないでしょうか。つまり、ROA、ROIC(=営業利益÷投資資本(%))、総資産回転率など資産に対する収益との観点の経営責任を負うことになります。ただし、社内カンパニーの運用は企業によって様々ですから一概にこのように言えるわけではありません。

では、次に社内カンパニーが分社化する狙いはどこにあるのでしょうか。

一番大きな点は、事業の売却など再編がしやすくなるという点かと思います。

社内カンパニーは、法的にはあくまでも会社の中の事業部門に過ぎませんので、売却の際には事業譲渡という煩雑な手続きを経る必要があります。一方、分社化して子会社にしておけば、売却の際には株式を売却するという簡単な手続きで足りるのです。そもそも社内カンパニーでなくても、社内の事業部門を切り離して、別法人とする例も沢山見られますが、これらは多くのケースで将来において、売却も選択肢の1つに入れているはずです。

ちなみに、東芝の社内カンパニーの分社化(会社分割)に関するプレスリリースを読みますと、3点ほど書いてありますが、新規事業展開を含めて事業価値最大化に集中する、事業責任を明確化するため直接子会社とすることでガバナンスを強化するなどとあります。

新規事業展開というキーワードに着目すると、新事業に関してアライアンス等を行う際に分社化して、独立した法人としておくことが迅速に出来るということが背景にあるのかも知れません。

民事再生法と会社更生法(タカタの報道を受けて)

既に新聞などで大きく報道されていますが、エアバック等の自動車部品メーカーのタカタが民事再生法の適用申請を検討しているとのことです。

経営難に陥った企業の再生方法としては、法的には民事再生法会社更生法がありますが、この2つの制度の大まかな概要について簡単にポイントのみを説明したいと思います。

他に私的整理といって金融機関などの大口債権者と個別に協議して再生を図る手法もありますが、これは特にルールに則るものではないので説明は省略いたします。

結論からいいますと、民事再生法の方が再建を目指す会社の経営陣には有利ということになりますが、大きな違いは、次のとおりになります。


① 管財人の選任

民事再生法では、管財人を選任することなく会社の経営陣が主導的に再建にあたります。一方、会社更生法では、管財人が選任され、管財人が主導して再建にあたります。

② 再生計画の承認

 民事再生法では、再生計画について、債権者の人数の過半数(数の過半数)と債権額の合計の過半数(金額の過半数)の債権者の賛成を得る必要があります。一方、会社更生法では、金額の過半数の賛成で足りることになります。

要するに、会社が主導的に会社再建を進めるには、会社サイドは民事再生法を採用したいということになります。破産管財人とは裁判所が選任する弁護士になりますが、面倒な裁判所が絡むし、またそもそも管財人である弁護士は、当然ですがビジネスは素人ですので、再建についての手続が煩雑になるという点でデメリットがあります。

ただし、民事再生法は、債権者数の過半数の同意が必要になりますので、特定の大口債権者だけでなく、債権額の小さい債権者も含めた多くの同意を得る必要があるので、会社に都合のよい再生手法である代わりに、多くの債権者の了解を得なければなりません。

タカタのケースでは、今後再建計画を作成して債権者の承認という手続きを経ることになっていくと思いますが、債権者の承諾が得られない場合には、民事再生法を適用できないという事態もあり得ますので、今後どうなるのか関心のあるところです。