コーポレートガバナンス、M&A、企業価値、IRなどに関する実務ニュース

コーポレートガバナンス、M&A、企業価値、IR等の新聞記事について、投資銀行・東証1部事業会社での実務経験を通じて気づいた観点を踏まえて分かりやすく解説していきます

米国の議決権行使助言会社であるグラスルイスの取締役会の多様性に関する要求

1月8日付の日本経済新聞で米国の議決権行使助言会社であるISSジャパンの日本法人代表の石田猛行氏とグラスルイスのシニアディレクターである上野直子氏の企業の取締役会の多様性に対するコメント記事が掲載されていました。

議決権行使助言会社とは、株主総会株主総会には定時株主総会、臨時株主総会の2つがあります)において、提案議案に対して賛成又は反対のいずれかを機関投資家に推奨する会社になります。

ISSの石田氏の意見は、雑誌等でも良く見かけるのですが、グラスルイスの上野氏のコメントはそれほど見かけない(1年以上前にセミナーに参加した時は上野氏は米国在住ということでした)のですが、上野氏のコメントは次のような内容です。

・グラスルイスは議決権行使基準を改定し、女性の取締役・監査役が1人もいない企業では、原則として、経営トップの取締役選任議案に反対を推奨することにし、対象企業は2019年2月よりTOPIX100の構成企業

・但し、形式的に線引きするのではなく、反対推奨前に必ず検証し、例外を設ける

・今回の改定基準でも、「今後女性取締役を登用する予定」などの開示を行う企業には反対推奨しない。企業の情報開示がカギになる。情報を積極的に公開する企業ほど正 確に判断できる

グラスルイスの今般の改定基準は、企業でIR部門、経営企画部門、総務・法務部門はじめ株主総会に関連する部門の方にとってはご存知の内容かとは思いますが、上野氏のコメントによれば、「反対推奨前に必ず検証し、例外を設ける」という点が女性役員の少ない多くの日本企業各社にとって関心ある事項かと思います。

例外の具体的基準は記事では書かれていませんので、不明ですが、現実には個社別の状況に照らして判断されることと思いますので、基準がないのも当然かも知れません。女性活用は、取締役会の多様性の1つの考えでありますが、まずは、多様性についてあらためて考えてみたいと思います。

まずは取締役会の重要な機能には、企業の中長期的な観点から戦略を討議することにあります。このため、中長期的な戦略を立案するに適したメンバーで取締役会は構成される必要があるというのが多様性の前提にあります。

一方、事業領域や顧客が誰であるかは企業によって全く異なります。例えば、売上高の多くが海外に依存しているグローバル企業であれば、グローバルに精通した外国人のマネジメントが必要になるかも知れませんし、また、このグローバル企業が女性向けの製品を販売しているのであれば、女性の外国人のマネジメントが必須になるかも知れません。例えば、グローバル展開をしている女性向けアパレル専業メーカーが、中高年の男性マネジメントで構成される取締役会で中長期戦略を策定しているということは、見方によっては少しおかしな話と思います。

また、企業が既存の事業領域を広げて新規事業に軸足を移すことを考えているのであれば、この新規事業に精通したマネジメントが必要になるかも知れません。このように、事業領域と顧客が誰であるかによって、企業に必要となるマネジメントの多様性は異なるのです。

とすると、画一的に女性取締役を起用ということは少し話が飛躍している気がします。そもそも女性の母集団が少ない中、その中から無理やり取締役を選定するとなると、能力のない者が取締役につくことになります。

勿論、企業社会では、これまで女性がマイノリティーであったということも現実であり、男女の昇格機会の平等という観点から一律に女性取締役を起用するという社会的観点からの議論もあるかも知れません。これはこれでたしかに重要と思います。

しかし、一方、企業はあくまで営利集団であるので、中長期的に亘って「お金を儲ける」という観点から、各企業の経営戦略立案のメンバーとしてどういう人材が適切であるのかを明確にすることがまず重要であり、その上で、エンドユーザー向けのビジネスを行う企業であれば、当然に女性の目線が必要になるので、女性取締役が必要という議論に発展していくべきものと思います。

グラスルイスは、女性取締役の起用が企業の中長期的成長の上では重要と判断して、基本となる基準を設定したことになりますので、もし、その原則の例外をグラスルイスに認めてもらうには、女性を起用しないことの明確な理由を、企業は開示することが求められることになると思います。

株主資本コストの意識の重要性

先日の日本経済新聞で、株主資本コストの意識に関するKPMGの企業への意識に係る調査結果の記事がありました。

この記事によれば、資本コストを意識している企業は4社に1社で、企業の資本コストに対する意識は希薄で、資本コストを巡り企業と投資家の間で意識格差があるということでした。

記事の表現では、「資本コストは企業に対する株主の期待収益率を示す。企業は資本コストを上回る収益率を出せば投資家の期待にこたえていることになり、株価上昇につながる。」とのことですが、本日はあらためて資本コストの意義について書いてみたいと思います。

資本コストとは、会社の経営陣が「投資家」に対して負っている資本調達に関するコストのことをいいます。ここで「投資家」とは、会社債権者である「金融機関」と「株主」を示し、資本コストは、金融機関に対する「負債コスト」と株主に対する「株主資本コスト」の2つで構成されます。

この中、分かりやすいのは負債コストであり、これは金融機関からの借入金のコストであり、PL上は支払利息として営業外費用に計上されますので、会社の経営陣も負債コストは当然のこととして意識しています。金融機関からの借入利息を知らない経営陣はいませんよね。

問題は、株主資本コストです。

何が問題かというと、企業のPL上は株主資本コストが数値となってあらわれないため、経営陣にとっては馴染みが薄いということになります。なお、日本経済新聞の記事では、「資本コスト」と記載されていますが、正確には「株主資本コスト」に焦点が当てられているかと思いますので、以下は「株主資本コスト」について書きます。

まず、株主資本コストとは、株主に対して経営陣が負担するコストですが、株主から見た場合、株式資本コストとは投資の期待収益率(期待するリターン)と言い換えることができます。

期待収益率であるリターンとは、何かを得るために投資した資本の比率になり、具体的には、例えば、400円で市場で株式を購入して、株価が500円に上昇した段階で株式を売却した場合、リターンは100円(500円-400円)÷400円(%)=25%となります。

では、「期待収益率である株主資本コストはどのようにして算定されるの?」ということですが、これには算定式があり、CAPM(キャップエム)という方式が一般的で、次の算式になります。ファイナンスの書籍を見ると大抵この算定式が記載されています。

 

株主資本コスト=リスクフリーレート+ベータ(β)×マーケットリスクプレミアム

 

これについて解説しますと、まずリスクフリーレートですが、これは、投資家が国債への投資で期待するリターンをいいます。日本国債(10年)の直近の過去3ヵ月平均ですと0.06%程度かと思います。

次にマーケットリスクプレミアムですが、株式市場全体のリターンとリスクフリーレートの差です。株式市場全体とは、TOPIXなどの市場全体の株価の動きを表す指数のことをいいます。Ibbotson Associatesのデータ(有料)を使うことが一般的かと思いますが、参考までに東京ガスの2018年3月期の第2四半期決算の説明会資料を見ると、同社では2017年度見通しとして「マーケットリスクプレミアム=5.5%」としています。

最後にベータ(β)ですが、これは株式市場全体の変動に対してその会社の株式の変動を示します。つまり、株式市場全体の収益利益率が10%上昇した場合、ベータ=1の場合には、この企業の株式の収益率も市場全体と全く同じく10%上昇するところ、ベータ=1.5の場合には、収益率が15%になることをいいます。つまり、ばらつきの程度になります。ベータ(β)はブルームバーグが有料で提供しています(少し前までは無料で提供していました)。

以上のとおりまずは用語について説明しましたが、要するに、投資家である株主はハイリスク・ハイリターンを求めるところ、株式は国債よりもリスクは大きいため、株式に投資する株主は高いリターン(収益率)を求めます。そして、投資先の企業によって収益率にばらつきがありますので、市場全体の動きより値動きが大きい企業、つまりβが大きい企業に投資する株主はそのリスクに見合ったリターンを要求するということになります。これが株主資本コストということになります。

ところで、「株式は何故国債よりリスクが大きいのか?」というのは、株主は確実に配当を受けられることは確約されておらず、企業が赤字の場合には配当を受けられなかったり、また、配当が減る(減配といいます)こともあり、この点でリスクが大きいということです。

繰り返しになりますが、株主資本コストは、負債コストと異なり会社の財務諸表には一切現れてこない数値のため、企業経営者は意識をしていない方が多いということが記事の内容であり、これは従前より言われていることです。

通常の事業会社では、総合商社のように日常的に投資を行っている企業は別ですが、株主資本コストの話がでるのは、M&A企業価値算定でDCF法で価値算定をする際の将来キャッシュフローの割引率の時に出てくるようなケースで、通常の業務では頭では意識していても使うことは少ないのが現実かと思います。また、そもそもM&Aなどは、普通は5年~10年に1回程度の頻度でしか普通の企業では行われず(ちなみに、グループ会社の再編は通常はM&Aとはいいません)、DCF法すら使うことは稀かとは思います。

では、株主資本コストは何と比較すべきで、そしてこれが低い場合には、企業にはどいういう影響が出るのでしょうか?

まず比較する対象ですが、ROE株主資本利益率)になります。

ROEは株主が投資した資本に対してどの程度の利潤を上がられたかを意味し、株主の持分に対する投資収益率を表すことになります。これが株主資本コストを上回る場合、株主が期待する収益率以上の利潤を企業は上げていることになります。

一方、これを下回る場合、この企業は株主の期待収益率にこたえることが出来ていないことになります。

では、このように期待する利潤をあげていない場合には、どういう影響が出ることになるでしょうか。

この点は、「ざっくり分かるファイナンス(経営センスを磨くための財務)」(石野雄一 / 光文社新書)に分かりやすく書いてあるのですが、期待収益率を上げられないということは、この企業に投資することは儲からないため、株主は期待する収益率を得られる他の企業の株式を購入した方が得と考え、株式を売却することになります。

株価は株式の需給バランスにより決まるものであるため、株式の売却が進むと、株価が下落し、結果、株式時価総額が低下します。となると、この企業は「お買い得」ということになり、買収のリスクにさらされることなります。

以上、少し長くなりましたが、資本コストについて今回は書いてみました。

株主資本コストとは、機関投資家は当然に意識している一方で、企業サイドでは意識が希薄です。しかし、今後、機関投資家と企業との対話が進む状況下にあって、株主資本コストが分からないでは十分な対話ができません。資本コストは対話の前提になると思います。

伊藤レポート2.0の影響もあり、株主資本コストを意識する企業は今後は増えるものと思われますが、事業会社の経営企画部門(数値を扱う経営企画部門です)やIR部門の方が理解すべきは当然ですが、数値について縁のない法務部といった管理部門の方であっても一度ファイナンスの入門書を読むなどして理解されるとよいと思います。

ちなみに、初歩的なファイナンスの教科書としては、「コーポレートファイナンス
門(第2版)」( 砂川伸幸 / 日経文庫)、先ほどあげた「ざっくり分かるファイナンス(経営センスを磨くための財務)」(石野雄一 / 光文社新書)が、非常に良書と思います。

入門書のため、投資銀行ファイナンスを専門に扱いそれをサービスとして事業会社に提供するプロの方にとっては内容は全然物足りないと思いますが、事業会社にいて投資銀行の方と話をする立場の方であれば、この書籍に書かれていることを理解すれば(ただし、入門書ですが内容はそれなりに難しいです)、十分であると思います。

前提としてやはり財務会計の知織が必要になりますが、財務会計をある程度理解され
ている方であればこの2冊両方とも手にとって、じっくりと読むととても勉強になると思います。

 

2017年のグローバルでの新規株式公開に関連する数値

2018年1月3日の日本経済新聞で、2017年の世界の新規株式公開(IPO)が10年ぶりに高水準であったとの記事がありました。

マクロの数値は、常にアップデートをし、なるべく頭に入れておくことが重要であるということは周知のとおりですが、今回は、この記事に書かれている数値を拾ってみたいと思います。

・2017年の世界のIPOの件数は1700件で前年より45%増

・中国、アジア企業の上場が全体をけん引

・国別では、中国(香港含む)が554件でトップで50%増加で、2000年以降で最高。インド市場は76%増の164件で、保険・銀行などの金融分野でのIPOが多かった。モディ首相の進める経済改革による市場環境が改善

・日本は94件と前年並み

・米国上場企業数は1996年のピーク時から半減し、現在は約3650社。M&Aにより非上場化する企業が増加

・2018年もIPO市場は好調との見方が多い。中国ではIT関連の上場が、インドでは国営企業の民営化が検討されている

 

以上が新聞記事に書かれていた主な数値になります。

グローバルでも株式市場は好調の中、IPOが好調であったであろうとは容易に想像はつきますが、実際に数値で見るとあらためて「なるほど」と思いました。私が初めて知ったのは、米国の上場企業数が1996年の約7300社から半減しており、現在の上場企業数は日本の上場企業数とあまり変わらない点です。米国で上場企業の廃止が増えているのは、アクティビストがM&Aを迫ることも背景にあると思います。

一方で、株式時価総額を見ると米国市場は日本市場の5倍程度と米国企業と日本企業の間に大きな開きがあります。日本企業のPBRの低さは、伊藤レポート2.0でも指摘されているところではあります。

今回は新年の最初のブログになりましたが、本年は、コーポレートファイナンスコーポレートガバナンスに加えて、新聞などで公表されたマクロの数値などもブログで拾って行きたいと思います。

 

企業の環境・社会問題に対する機関投資家目線での考え方

年末を迎えるに当たり、これまでに切り取った新聞記事を整理していましたが、11月30日の日本経済新聞に、本年5月に米エクソンモービル株主総会で、「気候変動規制の業績への影響を詳しく開示せよ」との株主提案があり、この議案への賛成率が60%を超えたとの記事がありました。

ニューヨーク州退職年金基金などが提案をしていたようで、これに、ブラックロックやバンガードなどの米国有力運用会社が賛成票を投じたようです。

物言う株主の提案は、従来、増配要求、自己株式の取得といった比較的単純な要求が多かったのですが、最近は低収益事業の分離といった事業面について精緻な分析を行い、企業に提案を行うケースも増えているのは認識していましたが、環境や社会問題の提案にも幅を広げているようです。

ESG投資に関しては、欧州を中心とした運用会社の関心が高い中、環境や社会問題に対する合理的な提案をする場合には、これに賛同する運用会社が増えているということかと思います。ブラックロックは運用資産も巨額で、670兆円あり、同社はESG投資で長期的投資を志向するファンドであるので、こういった環境関連の株主提案にも賛同をしたということかと思います。

ここで考えなければならないのは、単純に環境問題や社会問題について企業に提案、賛成するだけでは物言う株主には、メリットはないということです。彼らは株式を取得し、その後、企業に色々と提案をして、株価を上げ、その後に保有株式を売却して投資回収を図る、つまりキャピタルゲイン(売却益)を得ることを狙いとしています。

とすると、純粋な環境問題や社会問題には関心はなく、それを改善することで、株価が上昇するということが予測されることではじめて賛成票を投じることになります。

ESGの改善が株価にどの程度の影響を与えるのかは、まだ分からないところがありますが、これが企業価値、ひいては株式価値である株価向上に結びつくということであれば、提案に対する賛成票が増えるのかも知れません。

なお、企業価値と株式価値の理解が出来ていない方も多いと思いますが、株式価値とは、ファイナンス上は「企業価値-ネットデット」で算定され、これを発行済株式数で割ったものが理論株価(現実には市場株価と一致はしません)になります。

また、記事によれば、環境・社会問題の専門家でないファイナンスのプロである機関投資家が、専門外の分野で企業に方向転換を促すのはリスクが高いというある運用会社のコメントもありました。

ここで上場企業として何をなすべきかということですが、環境問題や社会問題について外部からつつかれるというリスクを想定して、自社の環境・社会問題について、「株価に影響を与える」課題を把握し、それに対する理論武装をするということが重要になるのではないでしょうか。

企業規模にもよりますが、CSR部門といった部門をおいて環境・社会問題に取り組んでいる企業もあるかと思います。とすれば、より詳しい情報を持つ企業が予め環境・社会問題を認識して、分析しておけば、それを株主提案として形で提案されても、きちんとした反論をすることができます。

ただ、環境・社会問題となると非常に幅広いこともあり、企業としてはどこに手をつけてよい分からず、とりあえず世間で関心のある環境・社会問題に取り組んでそれを開示している企業も多いかと思います。しかし、機関投資家対応という点では、それは本質から大きく外れていると思います。

機関投資家は、慈善事業に投資している訳ではなく、あくまで投資先企業がもうかって株価が上昇することに関心があるので、株価への影響の極めて乏しい事項には関心は示しません。

私は環境や社会問題には疎いのですが、社会活動として地域のゴミ広いを取り組んでいるといったことを全面的にPRしている企業も見たことがありますが、慈善事業としては大変に素晴らしいことと思います。個人の社会活動にはどうしても限界があるところ、企業でなければこういう問題に取り組めないので、こういった社会奉仕活動は、企業が率先して行うべき活動と思います。しかし、その一方で、機関投資家は全く関心を示さない活動でもあります。

上場企業は、自社の業績、ひいては株価に影響を与える環境・社会問題は何であるかをきちんと把握して、物言う株主対応という視点から、きちんと対策を事前準備することが環境・社会問題のリスク対策として重要になってくると思います。

企業の資金調達手段としてのグリーンボンド

グリーンボンドという言葉は最近時々みかけますが、聞いたことはありますでしょうか。

ボンドとは社債のことで、グリーンボンドとは日本語というと環境債といいます。社債とは企業の資金調達手法の1つですが、グリーンボンドとは、環境へ配慮した事業に資金の用途を絞った社債の発行であり、最近では、野村総合研究所戸田建設が発行しています。

ちなみに企業の資金調達手段としては、他に金融機関からの借入、コマーシャルペーパーエクイティファイナンスなどもあります。

グリーンボンドと通常のボンド(社債)との違いはどこにあるでしょうか?

詳細まで正確に把握している訳ではありませんが、格付が高くない企業でも低い利率で社債を発行できるという点で違いがあります。

社債を発行すると企業は、社債権者に定期的に利子である社債利息を支払う必要があります。格付けの低い企業、つまり信用の低い企業は利息が高くなります。結果、営業費用が増えることになり、PLの最終利益が減るということになります。

ちなみに報道によれば、戸田建設の格付けはR&Iでは「BBB+」(トリプルBプラス)で5年債の利率は0.33%であるところグリーンボンドでは0.27%と低いようです。

勿論、グリーンボンドは、環境関係の投資案件に資金を使うことが必要になりますの
で、このように通常の社債と異なり資金の使途が限定されているという違いもあります。

一方で、グリーンボンドの発行には、第三者機関の認証の取得などあらたに費用・時間がかかるようでもあります。

欧州中心にグリーンボンドの発行が増えているようですが、欧州はESG投資も大きいため、この流れと方向はあっているようです。

日本企業でも今後環境関連の投資は増えると思いますが、格付けの高くない企業にとっては、資金調達手段として今後グリーンボンドなども選択肢の1つに入ってくるのかも知れません。

米ブラックロックのラリー・フィンク会長のコメント

12月20日付の日本経済新聞の記事に米ブラックロックのラリー・フィンク会長のコメントがありました。

ブラックロックは、運用資産670兆円のうち、日本企業株式は26兆円を保有しておりますが、日本経済新聞でのラリー氏の発言をピックアップしますと次のとおりです。

・ 記録的な低金利環境の中、日本企業は投資すべきである
・ 適切な企業価値向上を行うべきである
・ 取締役会の役割が高まっている。長期的な利益は短期的な利益に勝る
・ 一部企業の不祥事をみると、取締役会の機能が一層強化されることが望ましい
・ 日本企業は努力はしているものの、ガバナンスを十分に進化させているとまではまだ言えない。
・ 最高益を上げているいまこそ改革のベストタイミング


コーポレートガバナンスというと単に取締役会の構成、メンバーの多様性、会社の機関設計だけを思い浮かべる方もいるかも知れません。しかし、ブラックロックは、事業戦略に即した形でのコーポレートガバナンスに関心があるように思えます。

つまり、事業ポートフォリオの転換が出来るようにガバナンス体制を構築し、また必要に応じて進化をさせていくべきといった意味です。勿論、これはラリー氏のコメントにはないため、私見にはなります。

経産省のコーポレートガバンス改革では、日本企業は無形固定資産への投資を増やし、中長期的な企業価値の向上を図るべきとの考えは周知のところですが、ブラックロックは従前より、企業の中長期的成長を志向して投資を行うとの姿勢の機関投資家ですので、あらためてこの点を踏まえた発言であったということになります。

今後は、2018年の早い時期に上場企業に対話に関する書簡をブラックロックは送付するということのようです。

経産省CGS研究会がスタート

昨年7月に、経産省がコーポレート・ガバナンス・システム(以下「CGS」といいます)研究会を立ち上げ、2017年3月にCGSガイドラインを策定しましたが、コーポレートガバナンス改革を「形式から実質」へ深化させるべく、CGS研究会の第2期を経産省が立ち上げました。

中長期的な企業価値の向上を図るには、グループ全体としての経営戦略を描き、経営資源を適切に配分する事業ポートフォリオマネジメントを積極的に行うことが、これまで以上に重要になってくるというものです。

2017年12月8日にCGS研究会の第1回検討会を開催していますが、経産省のホームページにある配布資料の趣旨によれば、次の記述があります。

「グループを構成する事業ポートフォリオを最適化するための組み換えをいかに機動的に行うかといった『グループガバナンス』の在り方について、ベストプラクティスの検討を行うとともに、CGSのフォローアップを行う」

CGSのフォローアップとしては、CGSガイドラインを踏まえた、企業の取り組み状況の
フォローアップを行い、結果を公表するようです。来年1月にかけて上場企業2500社に対してアンケートを行うようです。

また、グループガバナンスに関しては、事業ポートフォリオの最適化を行うとあります。先日の内閣府が公表した新経済政策パッケージなどの動きを見ても、事業ポートフォリオの最適化は、最近頻繁に出るキーワードです。。

伊藤レポート2.0において、PBR(株価純資産倍率)の向上が今後の日本企業の課題との指摘があります。要するに、営業利益率の低迷している事業は、スピンアウトし、コア事業の更なる強化を図ることを税制面、コーポレートガバナンスの両面から企業に促すのが狙いのような気がします。

政策保有株式の売却・解消の促進の動きとあいまって、日本企業はコーポレートガバナンスの大きな見直しが今後迫られることになります。

CGS研究会の第1回検討会の議事録はまだ公表されていませんが、先日のブログで書いた新経済政策パッケージと併せて、CGSの動きは、ウォッチし、このブログにもサマリーを随時掲載して行きたいと思います。

「新しい経済政策パッケージ」の下での政策保有株式の解消の予想

先日、「新しい経済政策パッケージ」についてブログで簡単に触れましたが、本年12月8日に閣議決定された「新しい経済政策パッケージ」の全文について確認をしました。

人づくり革命、生産性革命の2つに大きく分かれていますが、生産性革命について少し触れたいと思います。

生産性革命の中で、いくつか項目がありますが、「企業の収益性向上・投資促進による生産性革命」の項目があり、さらにその中で「コーポレート・ガバナンス改革」があります。

2018年6月の株主総会シーズンまでに、投資家と企業の対話の深化を通じ、企業による次の取り組みを促すためのガイダンスを策定するとともに、必要なコーポレートガバナンス・コードの見直しを行うというものです。

1.経営環境の変化に応じた、事業からの撤退・売却を含む、事業ポートフォリオの機動的な組替えなどの果断な経営判断(事業ポートフォリオの見直しに関する方針や実効的な見直しプロセスの確立・説明の促進)
2.企業が保有する現預金等の資産の設備投資、研究開発投資、人材投資への有効活用
3.独立した指名・報酬委員会の活用を含め、CEOの選解任・育成、経営陣の報酬決定
に係る実効的なプロセスの確立、並びに、経営陣に対する独立社外取締役による実効的な監督・助言
4.政策保有株式の縮減に関する方針の明確化及び政策保有株式の縮減・売却に対する「保有させている側」の理解
5.年金基金のアセットオーナーとして期待される機能を発揮及び母体企業による支援

この中でも、注目すべき事項は4にある政策保有株式と思います。

政策保有株式とは、いわゆる持ち合い株式であり、投資収益ではなく、自社との取引の維持・拡大の関係強化等を目的に保有するものです。投資先企業の会社提案に反する議決権行使を行うことはなく、投資先企業から見ると安定株式といえます。

政策保有株式に関する最近の課題意識は、政策保有株式が多いと安定株主が多いことにつながり、投資先企業が株主からの圧力や脅威に晒されることなく、株式市場が本来求められる機能を果たしていないのではないかということです。

要するに、政策保有株式についても、投資先企業の会社提案議案に対して、中立的な観点から賛成・反対票を投じれば問題ないのですが、そうでなく、「常に賛成票」を投じる結果、市場の健全性を損うものとされていることです。

政策保有株式については、コーポレートガバナンス・コードでは、保有企業は方針を開示して、保有するねらい・合理性についての説明が求められています。これに従い、各社保有する目的をコーポレートガバナンス報告書などで開示していますが、文言が画一的であるのが現状と思います。

今回の提案では、政策保有株式を「保有させている側」の理解とあります。つまり、実際には、政策保有株式は、投資先企業からの要請があり保有することがほとんどですが、実態に即して、「保有させている側」である投資先企業が、どうしてそうしているのかその理由について明確にせよという流れになると思います。

保有している側」がいくら理由を開示したところで、実態は「持たされている」のだから、「保有させている側(投資先の企業のことです)」がその理由を明示せよという趣旨と思います。

政策保有株式は、投資先企業の株式を1%以下保有するケースが多いですが、この程度の保有比率では投資先企業には何ら会社法上の有効な権利行使は出来ません。このため、取引上の関係から保有するということは「どういうこと?」と前から感じていました。

最近の政策保有株式の議論を見ると、今後数年で政策保有株式の解消は確実に進むように思えます。

とすると企業では何が困るかということですが、安定株主が減少するわけですから、不透明な経営や一般株主に十分な説明のつかない会社提案を株主総会で提案した場合、その提案が通らなくなる、または反対意見が多く出るということになります。

来年6月の総会シーズン前にガイダンスが出るということですので、企業のコーポレート部門の方は、今後注視すべき事項と思います。

 

政府による投資家と企業の対話の重点項目の策定

12月5日の日本経済新聞に政府がまとめた新しい経済政策パッケージの項目が掲載されていました。

人づくり改革、高等教育、生産性革命とのタイトルがありましたが、ガバナンス関係では、企業のコーポレートガバナンス改革に向けた指針や投資家と企業との対話を深める重点項目を2018年6月までに策定するとあります。

コーポレートガバナンス・コードやスチュワードシップコード、伊藤レポートにおいて株主・投資家との積極的な対話が求められていますが、機関投資家サイドも従来の財務情報ベース以外の非財務情報についての対話については、まだ手探りといった状況というのが実際のところかと思います。

投資家(機関投資家)は、企業の短期的な利益の視点(いわゆるショートターミズム)からではなく、企業の中長期的な成長の観点から投資を行わなければならないと伊藤レポートで指摘されており、投資に当たっては企業のコーポレートガバナンスの改善が1つのポイントになると指摘されています。

しかし、コーポレートガバナンスとのカテゴリーですと、非常に幅広く、社外取締役の独立性、女性取取締役の増員といった分かりやすいテーマから不採算事業の分離、事業経営の効率性といった点まで多岐に亘ります。

このため、企業、機関投資家双方ともに対話のテーマ、具体的項目について手探りのところが多いため、今回の経済政策パッケージの記事によれば、まずは、政府が対話で重要となるポイントについて指針を策定するということかと思います。

コーポレートガバナンス改革はまだ今後も続きそうですので、上場企業各社は引き続き注意深く動向を注視する必要があると思います。

更新期限到来前の買収防衛策の廃止が今後増える可能性

2017年12月6日に日清食品ホールディングスが買収防衛策を取締役会の決議により廃止することを決定したとのプレスリリースを開示しました。

同社では、2007年に買収防衛策を株主総会の承認を得て導入、以後3年毎に株主総会の承認を得て更新し、直近では2016年に更新して2019年3月期の株主総会までが有効期間となっておりますが、今回、更新期限の到来を待たずに廃止を決定したようです。

廃止理由については、同社のプレスリリースを見ると、次のような記載があります。

「当社を取り巻く経営環境の変化や買収防衛策を巡る近時の動向を注視しつつ、本プランについて、経営諮問委員会や取締役会、経営会議で繰り返し議論を重ねてまいりました。その結果、当社の企業価値ひいては株主共同の利益の確保・向上の観点から、当社における本プランの必要性が相対的に低下したものと判断し、当社は本日開催の取締役会において、本プランを廃止することを決議いたしました。」

廃止の決定に当たって、十分に社内で討議したことが書かれています。

私の知る限りですと、自発的に更新期限到来前に廃止をした企業は聞いたことがありませんので、非常に稀なケースと思います。

背景は、おそらく議決権行使助言会社であるISSが議決権行使の改定案を出し、買収防衛策議案については有効期間を3年とする1回限りの導入の場合にのみ賛成し、それ以外は反対という方針を打ち出したことが理由の1つにあるようにも思えます。

ちなみに日清食品の株主構成を見ますと2017年3月末では、外国人比率が16%とそれほど高くはないようです。

今回の開示でまた気になったことは、廃止する際には取締役会の決議で本当によいのかという点です。導入、継続には株主総会の決議を必要とし、廃止の際には株主総会又は取締役会の決議で廃止できるとなっているのが多くの企業の買収防衛策スキームかと思います。

このため、取締役会決議で廃止すること自体は法的には問題はないのかも知れませんが、昨年の株主総会で株主の承認を得て継続しながら1年後に株主の同意を得ずに廃止するのは、少し違和感があるような気もいたします。

今後、このように買収防衛策を廃止する企業がぽつぽつ増えるとなると、現在導入している400社を超える多くの企業も廃止を検討せざるを得ない状況になり、廃止が急速に進む可能性もあるように思えます。

とすると何が起こるかですが、東芝に投資している数多くの海外アクティビストが東芝の投資を通じて日本市場への造詣が深まり、買収防衛策の廃止により、より日本企業をターゲットにする可能性があります。

来年に入ると3月期決算企業の多くは、株主総会の議案の検討に入りますが、来年買収防衛策の更新期限を迎える企業は、継続の是非について頭を悩ませることになるものと思います。

対米外国投資規制の強化の動き - 中国企業の日本企業への投資の関心の高まり

先日の新聞報道で対米外国投資規制が強くなるとの記事がありましたので、今回は、米国企業に対する海外企業による直接投資について少し触れてみたいと思います。

米国では、対米外国投資委員会(CFIUS)という委員会があり、国家安全保障・経済安全保障の見地から外国企業による米国企業への投資に対して大統領に勧告し、大統領は拒否する権限を有するというのが規制の内容です。買収金額や取引規模は関係なく、大統領の判断は司法判断に服さないということになっています。

2007年頃にCFIUSの審査対象が拡大され、直近では2017年11月8日に改正案が米国議会に出され、規制の範囲が拡大される方向にあると言われており、現時点の見通しでは、法案が可決される可能性が大きいようです。

この規制は、支配の変更を伴う外国法人による株式取得、事業譲渡等が対象になります。

2013年に審査対象事業として16のセクターが指定されおり、化学製品、商業施設、通信、防衛基盤産業、エネルギー、ヘルスケア・公衆衛生等、輸送システムなどで、これらの産業に属する米国企業に投資やM&Aをする際には、申請が必要になります。

最近の傾向としては、取引を阻止する大統領令の可能性が増大していると言われており、このため、過去に比べてハイペースでの届出が出されており、本年は昨年より100件を越える届出が予想されているようです。

改正案の内容は見ていないのですが、改正案では規制が強化される方向のようなので注視が必要と思われます。

以前にある大手法律事務所のセミナーに参加した時に、対米投資に関しては、通常の投資以外に規制の対象外とは一応なっているグリーンフィールド投資も含めて、日本企業は、早い段階から投資規制に精通した法律事務所を起用するなどして検討することが大事といっていました。

外資による投資規制としては、米国以外には、欧州でも現在規制の強化の動きにあります。

この背景には、中国企業が欧州企業を買収し、技術が中国に流出することを欧州は懸念していることにあり、海外からの投資を規制するCIFUS同様の厳しい法規制が2018年末までに導入されることで検討されているようです。

欧州、米国の規制強化ともに背景は中国企業の潤沢な資金による投資を抑制したいということにあるかと思います。日本でも外為法外資による日本企業への投資には一応規制はありますが、他国に比べるとだいぶ緩い規制内容になっています。

とすると、米国・欧州への投資が抑制されるとなると、潤沢な資金力を持つ中国企業は今後は日本企業の買収、投資に関心が高まるように思えます。

資本コストと株式時価総額への意識が今後一段と求められます - 伊籐邦雄教授の対話記事から

1月23日付けの日本経済新聞で伊籐レポート2.0をまとめた一橋大学の伊籐邦雄教授の日本経済新聞の記者との対話形式の記事がありました。要点だけ書きますと次のような内容です。

1.ROE8%を日本企業は超えたが、これは売上高利益率が改善したことが要因。次は
収益性が資本コストを下回る部門を全て見直すべき

2.PBRを日本企業は高める必要がある。日本企業の平均PBRは1倍前後であるが、米
国は2倍台ある。この差は人材への投資や研究開発の規模の違い。目に見えない資産から高い価値を生み、市場の評価につなげる。米企業の株価が高いのはこれが出来ているから。

今回はこれについて少し解説したいと思います。

1の点について

伊籐レポートではROE株主資本利益率)8%を要求していましたが、ROEは、売上高純利益率×総資本回転率×財務レバレッジで算出されるところ、最近の日本企業は業績好調で利益が増えているため、売上高純利益率が向上し、結果、ROEは改善したといえます。

今度は、企業全体の業績をブレイクダウンして、各事業が資本コストを上回っているか
を検証すべしということです。

収益性についてはROIC(投下資本利益率)と資本コストを比較することになると思います。ROICとは、事業別の投下資本に対する営業利益率ですが、対象事業の営業利益÷投下資本(%)で算出されます。

投資資本とは、企業によって定義は異なりますが、現預金、運転資本及び固定資産といったことかと思います。一方、資本コストとは、企業の当該事業について、会社債権者、株主が期待するリターンです。ROICは、この資本コスト、つまり金融機関と株主の期待収益率を上回る必要があるということです。

多くの日本企業は、会社債権者である金融機関からの負債コストは、PL上も支払利息として費用計上されるため明確に認識していますが、株主資本コストは、PL上は現れないので明確に認識していないことがとても多いといわれています。あらためて、企業は、金融機関と株主双方のコスト(併せて資本コスト)を意識することが今後必要になろうかと思います。

 

2の点について

PBRは何度かブログでも書いていますが、株価純資産倍率で、株式時価総額÷純資産(倍)で算出されます。

まずバランスシート上は、純資産(=資産の部-負債の部)が株式価値ということになりますが、このバランスシート上の純資産の何倍が株式時価総額であるかということです。バランスシートには、企業の人材、ブランド、自社で創出した知的財産権といった無形資産は計上されていません。

一方、株式時価総額にネットデットを加えたのが企業価値であり、企業の無形資産も加えた企業全体の価値になります。逆からいいますと、無形資産を加えた企業価値からネットデットを控除したのが株式時価総額になりますので、無形資産が加味されている分、株式時価総額はバランスシート上の純資産額より本来大きくなるはずです。

株式時価総額が高いほど、企業のブランドや人材が市場で高く評価されているといえます。伊籐教授の記事のコメントによれば、日本はこの無形資産の評価が低いということかと思います。

以上、少し分かりにくいかも知れませんが、簡単ですが解説になります。

伊籐氏はコーポレートガバンス改革の旗手として活躍されている方ですので、こういう意見が出ると、税制改正の動向ともあいまって、不採算事業のスピンアウトを投資家が求める傾向が強まると思われます。

だいぶ以前に証券会社に勤務していたときに、ある中堅規模のクラスの上場企業のトップと面談をした際に、「株価は毎日変わるので意識などしていない」と言っていたことを先ほどふと思い出しましたが、そのような考えは大きな誤りであり、株価がいまいちの企業の経営トップは、意識を高める必要が一層強くなるのではないでしょうか。

東芝の第三者割当増資と物言う株主の勢ぞろい

話題になっている東芝の増資に関して、先日、東芝の第三者割当増資の割当先が発表されました。

第三者割当増資とは、特定の既存株主に対して、新株を発行することです。これにより、バランスシートの資産の部の現金・預金が増え、これとバランスする形で純資産の部の株主資本(資本金と資本準備金)が増えることになります。株主資本ということは、自己資本ですから、経営の安定度が高まると解釈されます。報道によれば6,000億円の大規模増資になるということです。

さて、ここまでは良いのですが、問題は割当先です。発表及び新聞報道によれば、多数の物言う株主(アクティビスト)が株主に入っているというようです。

エフィッシモ、エリオット、サーベラスサードポイント、オアシスなどの名前が出ております。ソニー内田洋行、京セラ、西武鉄道はじめ過去に日本企業と対峙した物言う株主がすらりと並んでいます。

物言う株主は、保有する株式の価値を上げてそれを売却することで売却益を得ることを目的としています。平たくいいますと1,000円で株を購入して、株価2,000円の時点で売却してキャピタルゲインを得ることを目的としています。

つまり、物言う株主は、東芝の株式価値(=株価)が将来上昇する、より正確には物言う株主が株価を上昇させる、ことを期待して投資しています。

株価が上昇する要素は色々とありますが、要は東芝の株式の需要が高めることですから、東芝が利益を出せる体質になり、理論株価が市場株価より高い状態になることです。

物言う株主は、アセットオーナーから資金を預かり運用しているわけですから、株価を上げて売却益を得るには、株価を上げるべく徹底したコスト低減、より高収益な体質強化に向けて事業売却や再編ななどを強行に東芝に提案していくことになることは容易に予想できます。

このように物言う株主がずらり勢ぞろいするということは普通なく、今後、東芝は厳しい対応が要求されることはたしかです。

一方で、普通の株主には、物言う株主が株式を保有することで東芝の業績改善が進むことが期待できるので大変嬉しいことと思います。物言う株主の提案に賛同する機関投資家、外国人株主、個人株主は多くなるのではないでしょうか。

窮地に陥っている東芝は資本増強を行ったものの、群がるのは物言う株主ばかりで、経営陣は苦難の道のりが待っていると思います。東芝が今後どのようなコスト削減策や事業再編を打ち出していくのか関心があるとことです。

政策保有株式の保有の合理性の開示の動き

11月6日の日本経済新聞に、「政策保有株の透明性確保へ 金融庁が開示巡り議論」とのタイトルがありました。

金融庁企業統治関連の会議で政策保有株の透明性を高める施策について議論をしたようです。新聞記事では、政策保有株式は経営者の地位の安定に資するものとの金融庁職員のコメントがあり、株式の保有を法令で禁止することも検討する必要性について触れているとのことで、金融庁は企業に保有の合理性を開示するよう要請し、投資家向けの説明資料を作成することを求めるとのことです。

政策保有株式については、従来、企業経営から緊張感を奪い、悪い影響があり、投資先企業の資本効率の悪化や財務基盤の不安定化につながるとして投資家より批判がなされており、コーポレートガバナンス・コードにおいても、政策保有株式の開示の強化を求めており、結果として保有の見直しを間接的に求める内容となっています。

具体的にコーポレートガバナンス・コードでの記載は次のとおりです。

 

【原則1-4.いわゆる政策保有株式】

上場会社がいわゆる政策保有株式として上場株式を保有する場合には、政策保有に関する方針を開示すべきである。また、毎年、取締役会で主要な政策保有についてそのリターンとリスクなどを踏まえた中長期的な経済合理性や将来の見通しを検証し、これを反映した保有のねらい・合理性について具体的な説明を行うべきである。上場会社は、政策保有株式に係る議決権の行使について、適切な対応を確保するための基準を策定・開示すべきである。

 

今回の新聞報道を見る限りにおいては、政策保有株式の削減を求めているものではないとは思いますが、コーポレートガバナンス・コードで「方針を開示すべき」となっていることよりも更に踏み込んで、合理的に説明することが必要になってくるような様子です。この点は引き続き注視して行きたいと思います。

企業年金連合会と大手金融機関4社による集団的エンゲージメント(対話)の開始

企業年金連合会三菱UFJ信託銀行三井住友信託銀行りそな銀行三井住友アセットマネジメントが共同での企業とのエンゲージメント(日本語では「対話」といいます)を行うことになり、企業統治の改善などを求め、連名での書簡を年内にも投資先に送るとの報道がありました。合計の日本株運用総額は30兆円を超え、日本株全体の5%を超えるとのことです。

集団的エンゲージメントとは、機関投資家が単独でなく、複数で協調して企業への対話を求めることです。共同対話は国際的な潮流で、日本においては、スチュワードシップコードにおいて、次のような記載があります。

「必要に応じて他の機関投資家と協同して対話を行うこと(集団的エンゲージメン
ト)が有益な場合も有り得る」

ちなみに、海外での集団的エンゲージメントについては、たしか米国では「適切に他の機関投資家と協同すべき」、EUは「適切な場合には、他の投資家と協調して行動すべき」とあります。文脈の全体を読んでいませんので、一概には言えないかも知れませんが、協同を義務付けているような様子で、日本よりもより積極的な印象を受けます。

フェアディスクロージャー・ルールもそうですが、欧米は先行しているので、多分、欧米の方がより積極的と思います。いずれにせよ、日本も欧米にならう方向に向かっていることは確実です。

では、集団的エンゲージの効果は何でしょうか。

単独で企業と対話をするのではなく、機関投資家が複数で企業との対話を行うことで企業への発言力が高まるということになります。企業としても、運用機関各社と個別に対話をするより、纏めて対話をすることで対話の労力が減り、効率が高まるということはプラスの側面かと思います。

一方、企業には留意すべき点があります。それは、運用機関が企業に要求する事項が共通する内容であれば、その要求内容を充足しない企業は、株主総会での議案の反対率が増えるということになると思われます。

統一的な基準を機関投資家が要求するのであれば、それを充足する企業にはプラスに働き、それを充足しない企業にはマイナスに働くということです。

報道では、株主総会の議決権行使は各社が独自に判断し、共同の株主提案はしないということのようですので、これだけ読むと、各社独自の基準により総会で議決権は行使するということですが、集団で企業との対話に臨む以上は、各社とも考えのベースは同じになると理解すべきかと思われます。

今回の集団的エンゲージメントは、日本では初めての試みのようですが、企業にとっては、機関投資家との対話をこれまで以上に充実させ、対話を踏まえて企業統治を見直すなどの改善が必要になります。