コーポレートガバナンス、M&A、企業価値、IRなどに関する実務ニュース

コーポレートガバナンス、M&A、企業価値、IR等の新聞記事について、投資銀行・東証1部事業会社での実務経験を通じて気づいた観点を踏まえて分かりやすく解説していきます

「投資家と企業の対話ガイドライン(案)」における政策保有株式の扱い

「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」が開催されており、2月15日に第14回会議が開催されました。

ここ数回の議論では、本年の株主総会シーズンまでに投資家と企業との対話ガイドラインを策定すること、コーポレートガバナンス・コードの見直しの検討が行われていますが、第14回会議では、対話のガイドライン案が提示されております。

金融庁のHPにガイドライン案が掲載されていますが、上場企業各社の関心の高い政策保有株式に限定して、ガイドライン案を要約しますと次のような内容になります。

<投資家と企業との対話ガイドライン案>

1.政策保有株式の適否の検証

・ 保有目的がステークホルダーに理解できるよう分かりやすい説明

・ 保有に伴う便益が資本に見合っているか具体的勘案の上、取締役会での意思決定

・ 保有銘柄の異動含む保有状況の分かりやすい説明

・ 政策保有株式に係る議決権の行使についての適切な基準の策定

・ この 基準に基づく適切な議決権行使

・ 方針の開示において、政策保有株式の縮減に係る方針・考え方の明確化 など

2.政策保有株主との関係

・ 売却申入れをした場合、取引縮減を示唆する等の売却を妨げられることの有無

・ 取引の経済合理性の十分な検証ないまま取引の継続の有無

 

 ガイドライン案によれば、上記内容が今後の機関投資家と企業との対話のポイントになり、つまり投資家はこのような内容について企業に意見を求めていくということ、これらを反映したコーポレートガバナンス・コードの改訂を検討するということです。

勿論、これは第14回会議で事務局が提出したガイドライン案であり、これをベースに第14回会議でどのような討議がなされたかは分かりません(会議の議事録は金融庁のHPに必ず掲載されるのですが、このブログ掲載時点ではまだ掲載されてはいません)。

しかし、大きく方向性は変わることはないと思いますので、上場企業の実務担当者は政策保有について今後実務対応をどうするか関心を払う必要があるようです。

ところで、おさらいになりますが、政策保有株式の問題のポイントですが、大きく次の点になります。

1.企業に対するエクイティガバナンスを効かせることができない

政策保有株主が安定株主として存在するため、少数株主の意見を投資先企業の経営に反映させることができないということです。つまり政策保有株主が「企業を守る岩盤」となってしまっており、投資先企業の経営陣を交替させたいと少数株主が提案してもこの提案を通すことができず、結局、エクイティガバナンスを効かせることが出来ないということです。

2.資産効率の悪化によるROEの低下

政策保有株式を潤沢に持つということはバランスシートの資産が膨らむということになります。とすると、資産効率が悪化します。ROEは分解すると、当期純利益率 × 総資産回転率 × 財務レバレッジであるところ、資産が重くなることで総資産回転率が悪化し、ROEの低下の要因になります。

3.配当性向の向上の制限

政策保有株式を解消して売却すれば現金になります。そうすると、この現金を成長に必要な設備投資やM&A投資に使い、残りを配当として株主に還元できます。一方、政策保有株式として保有していると株主は還元を受けられません。

以上が大きなポイントになります。

しかし、上場企業は日本で約3700社程度あると思いますが、こういった政策保有株式の話をしてもピンと来ない企業が圧倒的に多いのが現実と思います。上場しているものの、時価総額が数十億円から数百億円程度の企業は(非常に多いと思います)、アナリストがカバーしておらず(アナリストレポートが発行されていない企業ということ)、当然にアナリスト説明会も開いておらず、上場はしているものの、資本市場との対話などとは縁のない企業です。

先日のブログで書いた、教育関連企業、今のところ学習塾の上場企業の数社の財務分析しか出来ていませんが、教育産業業界は中小型銘柄しかありませんので、この規模の企業は、「コーポレートガバナンス改革って何?」の意識しかない企業も多いのではないかと想像します。

そのため、物言う株主が本気になって攻めていけば、教育関連銘柄企業などはいくらでも突っ込まれどころの「宝の山」がある業界の気もいたします(推測です)。

以上が政策保有株式の議論ですが、今後、金融庁は、コーポレートガバンス・コードの見直しに入ると思いますので、またブログでアップデートして行きたいと思います。

「人づくり改革」と学習塾・幼児教育・介護・学習補助・リカレント教育関係の銘柄

新しい経済政策パッケージが昨年12月8日に公表され、その中でコーポレート・ガバナンスについて記述があることは以前にブログでも書きましたが、本日は、同パッケージの中の目玉の1つであります「人づくり革命」について紹介します。

新しい経済政策パッケージよりますと「人づくり革命」として次の点が挙げられています。

1 幼児教育の無償化
  2020年4月から全面実施予定
2 待機児童の解消
3 高等教育の無償化(「貧困の連鎖を打ち切り、格差の固定化を防ぐ」)
  2020年4月より実施予定
4 私立高校の授業料の無償化
5 介護人材の処遇改善
  2019年10月より実施
6 リカレント教育(「いつでも学び直し、やり直しのできる社会」)
  2018年夏に向けて検討開始 

以上になります。「 」の箇所は経済政策パッケージで記載の文章の引用になります。

詳細は、インターネットで「新しい経済政策パッケージ」ということで検索をすると出てきますので、是非一度読んで頂ければと思います。

さて、ここから、何が言えるかですが、この経済政策によって、株式投資に目を向けると事業拡大のチャンスとして、保育所・介護・学習塾・学習補助・リカレント教育関係
の銘柄の株価が伸びているということです。

私も、たまたま偶然に学習塾関連の銘柄を持っているのですが、今後は少しこの分野で企業分析をして行きたいと考え、新聞から記事を拾うなどの情報収集を始めました。

学習塾関連の上場企業の2、3社の有価証券報告書を眺めますと、少子化が今後の事業上のリスクと記載しております。いずれも事業領域が日本国内というドメスティックでありますが、日本の市場が少子化で縮小するのであれば、この企業は、「海外に活路を見出すことは考えないのか?」と思いました。

一方、学研ホールディングス時価総額600億円(2018年2月9日時点))は、海外に活路を見出し、ミャンマーでの学習塾を約2倍に増やすとの記事がありました。

学習塾業界の上場企業は、売上高数百億から数十億の中規模銘柄で、しかも、外国人比率も10%以下とあり、グローバル化とは無縁の業界のようです。今後、海外展開を進めないと生き残りは難しい業界の最たるものではないでしょうか。まだ勉強していませんので、単なる個人的印象ですが。

私は、これまでは特に教育関連ビジネスに関心があるわけでもなく、知織も持っていませんでしたが、今後の株式テーマとして保育所・介護・学習塾・学習補助・リカレント教育関係の関連企業銘柄を重点的に分析するとともに、少しこの分野の株式投資をして行きたいと思います。

仮に自分が、「物言う株主」に立った場合、投資先企業に株主としてどういった様々な要求をつきつけることが出来るかといった観点で、学習塾・保育所リカレント教育関連業界のマクロ分析、各社の財務分析、コーポレートガバナンス分析をこの先数ヶ月をかけてじっくりと進めたいと思います。都度気付いた点は、ブログで掲載する予定です。

ESGアクティビズムの動き

2月6日付の日本経済新聞で「ESGアクティビズム」の記事がありました。
 
ESGアクティビズムとは、特に正式な法律用語などではなく、ESG情報をベースに上場企業にアクティビズム活動、つまり物言う株主として提案をすることをいいます。
 
記事によれば、米アップルの取締役会に「子供がスマートフォンをしすぎて勉強しないので規制などの対策が必要」との提案をしたとのことです。そして、この提案をしたのが、物言う株主であるジャナ・パートナーズとカルフォルニア州教職員退職年金基金のカルスターズとのことで、公的年金とアクティビストが歩調を揃えている点が非常に注目すべき事項とのようです。

公的年金は、ヘッジファンドと異なり長期で企業の株式等を保有することになりますが、長期保有においては、単に目先の業績だけでなく長期に亘って企業の成長を見る必要があります。「ESG投資」はリターンとの関連性はないというのが多くの機関投資家の意見であるかと思いますが、一方、「ESG情報」自体は企業の長期での成長においては、土台となる非財務情報になります。公的年金は超長期で資金を運用する機関投資家ですので、超長期の株式運用では、ESG情報に当然ながら関心があります。
 
要するに、アクティビストに運用資金を委託するアセットオーナーである公的年金は長期での運用を志向しており、アクティビストは、この公的年金の後ろ盾もあり、ESGに関する要求をしながら、この「要求の箱」の中に事業のカーブアウトや株主還元など色々と企業をつつくネタを入れてきて、要求を通すということになるかと思います。さらにESG投資をさらに後押しするのが、ミレニアム世代といわれています。
 
ミレニアム世代とは1980~2000年生まれの世代をいいますが、この世代は物事を金銭価値の側面だけで見るのではなく、企業に透明性をより強く求める傾向が強いと言われています。企業の透明性を見る上では、ESG情報といった非財務情報はベースの情報になり、ミレニアム世代はESGの考えに親和性をもっているので、公的年金のいうESGの意見とベクトルがあっています。

ESGという言葉を懐疑的に見ており、「ESG情報の開示など関心なし」と見ている企業も大変多いと思います。しかし、この点はあらためて、きちんと考え直す必要があります。
ESG情報の開示とは何も新しい取り組みをする必要はなく、企業で日常当然のこととして扱っている非財務情報を開示すればよいのではないでしょうか。これらの情報は、社内では当り前の情報ですが、社外の投資家から見た場合には、分からないのです。つまり情報の非対称性が大きいということです。
 
このあたり前の情報を開示しないと、アクティビストが変な要求をしてきて、企業で想定していないような社会問題・環境問題対応を企業は迫られるリスクがあります。
以前には、米エクソンモービルに対するアクティビストによる「気候変動の規制の業績に対する影響を開示せよ」との株主提案に対して、株主の62%の賛同を得たということもあります。
 
この事例の詳細まではわかりませんが、ここから言えることは、投資家が必要とする情報を開示していない場合、株主から提案があると他の株主も何も情報がないため、勢い賛成にまわってしまうということが言えるのではないでしょうか。「何だか分からないけど、とりあえず『環境について開示せよ』との株主提案であるので、とりあえず賛成しておくか」ということです。
アクテビストの意見に株主が賛同する前に、企業は資本市場で求められていることを察知し、アクティビストに先んじて必要な情報を日常から開示しておくのが大事になると思います。
 
ESG情報の開示に過度に力を入れる必要もないのですが、上場企業は、ESGといった非財務情報についてどのような開示や取り組みが資本市場で求められていることをきちんと把握し、この資本市場での要求を充足する必要最低限の開示対応をしておくことは、必須になるのではないでしょうか。

最後の岩盤である政策保有株式の解消のゆくえ

先日の日本経済新聞に「最後の岩盤を崩すのは投資家」との記事がありました。

要するに、政策保有株式の弊害は大きく、これを崩すことを投資家に期待するという記
事です。

政策保有株式については、昨年12月20日にもブログで「新しい経済政策パッケージの下での政策保有株式の解消の予想」というタイトルで簡単に書いていますが、日経新聞の記事もありましたので、あらためて書いてみます。

政策保有株式に対する資本市場・国による批判が高い理由は何でしょうか?

企業は、政策保有株式として投資・保有する投資先規企業の株主総会においては、これまでの取引関係から、適切な議決権行使をしてこなかった、つまり会社提案議案に対しては100%「賛成」とするのが暗黙の了解となっています。

結果、機関投資家や個人株主が、投資先企業の株主総会の議案に対して、反対を表明してもがっちりと安定株主で固められているため、過半数の株式を有する株主の賛成を得ることができず、少数株主の意思が経営に反映されないことが問題とされています。つまりエクイティ・ガバナンスを効かせることができないということです。

より具体的にいいますと、政策保有株式として仮にA社の株式を取引先であるⅩ社が2%保有し、同じく機関投資家Y社もA社の株式を2%保有するとします。

この場合、A社の株主総会での取締役選任議案において、不適任者が取締役候補者として提案され、これに対してY社が株主総会で反対票を投じても、それが可決される可能性は低いのです。何故ならば、A社の株式を保有する取引関係のある事業会社は、X社以外にも多く存在し、仮に2%を保有するA社の取引先企業が15社いるとすると、30%(=2%×15社)が安定株主として、A社の株主総会議案には確実に賛成する株主としてY社に立ちふさがります。

極端な話、A社に不祥事があり資本市場からの退出が要求されていても、A社は決して反対されない安定株主でがっちりと固められているため、A社は安泰ということで、これが問題ということです。

昨年12月8日に内閣府が公表した「新しい経済政策パッケージ」によれば、コーポレートガバナンス改革として、現在進められている「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」での検討を踏まえて、2018年6月の株主総会シーズンまでに、「政策保有株式を持たせている側の理解」の取り組みを促すためのガイダンスを策定するとともに、必要なコーポレートガバナンス・コードの見直しを行うとされています。

昨今の政策保有株式に対する批判の高まりを考えますと、大きな改正に向かうような印象も持ちますが、一方で、政策保有株式には日本的な商慣習もあり、この短期での解消には色々と課題もあり、大きな解消にはまだ進まないのではないかという声も一部聞こえてきたりします。

しかし、短期での解消を国が強制的に促すことまでは難しいとしても、中長期的には解消する方向にあるというのが多くの機関投資家の意見でもあると思いますので、この動きは止まることはないはずです。

ちなみに、政策保有株式の多い企業は売上債権も増加するとも一部では言われています。結果、運転資本が増加するためフリーキャッシュ・フローにマイナス影響となり、また、バランスシートも膨らむので資産効率性も悪化し、ROEも悪化ということになります。

将来的には、上場企業は、政策保有株式については、①その保有する理由をコーポレートガバナス報告書でより説得的に開示し、②機関投資家が議決権行使に当たって、賛否の行使基準を設けていますが、同様に企業にも投資先企業に対して、自社の議決権行使基準を設けて適切な議決権行使をするようなことまで必要になってくるかもしれません。

企業にも機関投資家と同様に、投資先企業に対する議決権行使結果の開示を求めるべきという意見もありますが、ここまでの要請が法律やガイドラインで規制されるとは思えませんが、少なくとも投資先企業に不祥事があったような場合には、これまでは100%賛成としてきたところ、CEOに反対するなどの公正な議決権行使が求められていくのではないでしょうか。

一方で、企業は、政策保有株式の解消により、経営の安定度がなくなるわけですから、安定株主対策をあらためて見直すか、そもそも株主から横槍をいれずに経営するには上場を廃止するということを真剣に検討することもあるかと思います。

新聞記事によれば、有名な経営共創基盤の富山氏が持ち合い株式について、「日本の株式市場に残った最大の岩盤」とのコメントが書かれていますが、この岩盤がどのタイミングでどこまで崩れるのかは不明ですが、今後の重要課題と思います。

カゴメが個人株主向けに決算説明会を開催

1月27日付の日本経済新聞によれば、カゴメが本年2月中旬に、初めて個人株主向けの決算説明会を開催するとのことです。

通常、上場企業であれば4半期決算の開示後に、年に複数回はアナリストを集めて決算説明会を開催することが多いですが、同様の決算説明会を個人株主相手に行うということで珍しい取り組みかと思います。

カゴメはじめ食品メーカーは、一般消費者向けのビジネスを行っているため、個人の認知度も高く、よって個人株主比率が高いケースも多いと思います。

新聞報道によれば、カゴメは、2001年に株主優待を導入したり、単元株を引き下げたりして、個人株主増加の取り組みを増やしてきたようです。

具体的な個人株主比率は、新聞記事に記載がなかったので、カゴメの2016年12月期の有価証券報告書を見てみると(カゴメは12月期決算のようです)、所有株式数比率で「個人その他」が約66%となっており、たしかに個人株主の比率がかなり大きいと思います。一方、外国人がわずか6%程度となっております。

なお、カゴメは、買収防衛策を導入しており、本年が更新期限のようですが、外国人比率がわずか6%で導入する意味はどこにあるのでしょうか。恐らく、2007年前後に食品業界のブルドックソースが、海外ファンドによる買収ターゲットとされたので、その時期に同じ食品業界であることから導入し、その後は同業他社の状況などを見ながら、継続更新してきたことと思います。しかし、カゴメの国内機投資家比率は不明ですが、現在6%程度の外国人比率しかないのであれば、国内機関投資家からも風当たりの強い買収防衛策は、本年は更新を非継続とすることがあるかも知れません。

話は戻りますが、カゴメに関わらず、日本の上場企業各社は、個人株主を長期の安定株主と位置付けようという動きを検討していると思います。理由は、政策保有株式に対する世間の風当たりが強くなり、政策保有株式の規制の流れにあることです。とすると、自社の株式を政策保有株式として保有してくれていたメインバンクや取引先の自社株式の保有分が市場に流れ、その取得先を個人にしたいという企業も多いと思います。あらたな個人株主を増やすか、または既存の個人株主がさら買い増すということです。

最近は、個人株主も企業の決算数値に関心を持つ方も増えていると思います。そもそも、株式投資というものは、リターンを求めて投資するものですので、対象企業の業績はじめ決算数値については個人株主も精通しているべきですものではありますが。

企業と投資家・株主との対話重視の最近の流れの中で(ちなみに、スチュワードシップコードは機関投資家に適用されますが、個人株主には適用されません。念のため)、株主を自社の事業所に招いて製品・事業所の説明をする株主説明会以外に、アナリストと同様に決算数値を個人株主に説明するという今回のカゴメのような動きをとる上場企業も今後増えてくるように思います。

 

 

 

社外取締役を取締役会議長にする上場企業が増加する傾向

1月18日の日本経済新聞社外取締役を取締役会議長にする上場企業が増えているとの記事がありました。

JPX日経インデックス400構成企業のうち、社外取締役を議長にしている企業は、14社となり、前年より3%増加したとあります。

まず、社外取締役を議長にする必要はどこにあるのでしょうか。

現状、経営トップである社長が取締役会議長を兼務している企業が圧倒的に多いかと思います。

しかし、この場合の課題として良く言われていることは、取締役会の議長は議題の決定、議事進行などを行う役割があるところ、社長が議長を行うと社内の論理優先で判断されてしまう恐れがあるという点です。

取締役会で議事の討議を継続しようとしても、議長である社長が議事が十分つくされたと判断すれば「採決に移ります」と決定できます(現実には、社長が法的には必要とされる採決をとっている企業も少ないかとは思いますが)。これでは、本来取締役会に求められる戦略策定機能やモニタリング機能が十分に果たされず、活発な議論が阻害され、ひいては株主の利益に反する結果をもたらす可能性もあります。そこで、活発かつ公正な議論が出来るよう、社外取締役を議長にすべきというのが、分離を要求する理由かと思います。

ちなみに、コーポレートガバナンス改革の動きの中、取締役会議長と社長(CEO)の分離は議論にも出ているところでもありますし、野村アセットマネジメントの2017年11月1日改訂の日本企業に対する議決権行使基準でも、社外取締役を取締役会議長にすることの定款変更に関する株主提案については、原則「賛成」との考えを示しています。

一方、社外取締役を議長にすることの理想は分かりますが、実務上は、この対応は骨の折れることになるかと思います。

社外取締役が議長となり議事進行をするわけですから、基本的に議案の内容について、精通している必要があります。

このため、企業によっては、事前に社外取締役である議長に十分に説明する必要があり、また、議長にも多くの時間を割いてもらう必要が出てきます。社長であれば、社内用語や暗黙の了解で認識していることも、社外取締役にはそれは通用しません。

ただし、これは最初に相当程度の時間を割けば、解決する問題のようにも思われます。それより、社外の方の意見を入れることで、これまで気付かなかった視点を戦略策定に取り入れることができ、市場に目を向けた議論をすることに繋がるという点で有益なのかも知れません。

ちなみに、私が最初に勤務していた某化学素材メーカーでは、私は一時期、秘書室に勤務していた時に取締役会の議事メモ係として列席していたこともあり、取締役会自体が経営会議、要務会、常務会といった社内会議で決定した事項の追認という形式的な会議体になっていました。

社外取締役=お客様との扱いで、社外取締役も2、3の簡単な質問をして、それに対して議長である社長と、その議題を説明する担当取締役のみが発言し、会は終了となっていました。前にもブログに書いたこともありますが、取締役会とは厳かな雰囲気の中で行われる儀礼なのだなと当時は認識していました。

しかし、コーポレートガバナンス改革がその後大きく進む中、このような考えは古く、今では、機関投資家などは、投資先企業の実体を知る上で、社外取締役の果たしている役割を重視しており、戦略策定機能やブレーキ機能としての社外取締役の具体的な貢献度合いを知りたいというのが大多数かと思います。

今後は、日本企業では取締役会の構成員のダイバーシティはじめ、大きく変わることと思いますが、その流れの中で、5年後、10年後には社外取締役が議長というのが一般的な企業のスタイルになる可能性があるかも知れません。

物言う株主であるオアシス・マネジメントによるGMOインターネットに対する株主提案

この1週間は業務が非常に多忙で、ブログの更新の時間が全くありませんでしたが、少し時間が出来ましたので、久しぶりに更新します。

1月18日付の新聞報道によれば、香港の投資ファンドで、物言う株主であるオアシス・マネジメントがGMOインターネットに対して株主提案を提出し、買収防衛策の廃止等を求めているということのようです。

GMOインターネットは、12月期決算で、3月下旬に定時株主総会が開催されるので、その総会に向けての議案の株主提案ということになります。

オアシスのホームページに行くと、株主提案の詳細が掲載されています。その目的は、当然ですが、自分の提案を他の株主にも示し、他の株主の賛同を得て株主総会で自己の提案内容の可決を狙うことにあります。

ざっと見ると、①買収防衛策の廃止②定款一部変更(買収防衛策の導入方法)③定款一部変更(指名委員会等設置会社制度への移行)④定款一部変更(取締役社長と取締役会議長の兼任禁止)などです。

①と②は矛盾するようにも読めますが、GMOは取締役会決議で発動できる買収防衛策を導入しており、オアシスは、買収防衛策は廃止を求めるが、仮にこの株主提案が否決された場合を想定して、②で買収防衛策を現状のまま継続するとしても、株主総会の決議が必要なスキームにすることを求めているということになります。

オアシスの株主提案に賛同する株主がどの程度いるかですが、外国人株主が30%程度いるようですが、これらは基本的にオアシスの提案に賛同するような感じがします。

では、国内の機関投資家はどうでしょうか。この点は、国内機関投資家保有比率や名称が一切不明のためなんともいえませんが、買収防衛策には、国内機関投資家も厳しく判断する風潮のため、オアシス側に賛同する投資家も多いのではないでしょうか。

ここで最近の機関投資家の議決権行使基準の中で、野村アセットマジメントの昨年11月1日に改定した議決権行使基準が非常に特徴的です。

同社では、株主提案に原則として賛成するケースを具体的に定めており、次のいずれかに該当する「定款変更議案」であり、かつ明確で具体性を備えている場合には、原則「賛成」としています。

・役員選任議案における重要情報開示を求めるもの
・社外取を取締役会議長とすることを求めるもの
・CEOと取締役会議長の兼任禁止を求めるもの
・相談役・顧問等の廃止を求めるもの
役員報酬の個別開示を求めるもの
企業価値向上と持続的成長の観点から問題と見られる保有株式の売却を求めるもの
・政策保有株式に係る議決権行使方針の策定及び開示又は議決権行使結果の開示を求
めるもの など

野村アセットがGMOの株式を保有しているか否かは不明ですが、野村アセットの基準によれば、形式的には野村アセットは賛成するということになります。

今回のオアシスの株主提案は、①を除いて全て定款変更のため、株主総会の特別決議事
項のため、2/3以上の賛成が必要でありハードルは高いですが行方は大変気になるところです。ちなみに株主提案(日本語)を見ると、極めて法的な内容のため、恐らく、オアシスは日本の大手の法律事務所を使っているかと思われます。

なお、最近の報道を見て思うのですが、一般サラリーマンなどの個人株主も少額の投資をして、微々たる配当やキャピタルゲインで一喜一憂しているのではなく、会社法ファイナンスの知織を駆使すれば、企業に対して、株主提案をして他の賛同を得るということも手段としては考えることも出来るのではないでしょうか。

時価総額数十億円程度の企業で、PBRが1倍を下回る、つまり割安株を取得して、企業の財務分析やコーポレート・ガバナンスの分析をして、それを株主提案という形で提案すれば、自己の提案に賛同する株主もおり、キャッシュリッチや同族経営の企業に一定の圧力をかける道も一応あるように思えます。

資金力の乏しい一般の個人も知恵を絞れば、自己の提案を企業に要求できる道があるのではないでしょうか。ただし、自分の勤務先が判明したり、ましてや、投資先企業と自社の勤務先が何らかの取引関係があったなどということが判明した際には、社内で変わった人間扱いされ、最悪、左遷候補になってしまう可能性も十分にあるので、この点は注意が必要です。

自社の勤務先とまずもって全く関係のない業界について時間をかけて調べ、割安株の分析をしてキャッシュリッチの程度、事業分離による不採算の程度を分析すると面白いかも知れません。

私も、株式投資の経験はそこそこあり、一定程度の会社法ファイナンスの知識もあるのですが、自分の投資先企業に対して「物言う株主」としてのアクションなどは、さすがに日中に真面目にサラリーマンをやっている以上、起こすような時間もなく、また起こそうと思ったこともないのですが、自分であれば、この企業に対しては、このような株主提案をするというシミュレーションをして今後、差し障りのない範囲でブログで掲載したいと思います。

米国の議決権行使助言会社であるグラスルイスの取締役会の多様性に関する要求

1月8日付の日本経済新聞で米国の議決権行使助言会社であるISSジャパンの日本法人代表の石田猛行氏とグラスルイスのシニアディレクターである上野直子氏の企業の取締役会の多様性に対するコメント記事が掲載されていました。

議決権行使助言会社とは、株主総会株主総会には定時株主総会、臨時株主総会の2つがあります)において、提案議案に対して賛成又は反対のいずれかを機関投資家に推奨する会社になります。

ISSの石田氏の意見は、雑誌等でも良く見かけるのですが、グラスルイスの上野氏のコメントはそれほど見かけない(1年以上前にセミナーに参加した時は上野氏は米国在住ということでした)のですが、上野氏のコメントは次のような内容です。

・グラスルイスは議決権行使基準を改定し、女性の取締役・監査役が1人もいない企業では、原則として、経営トップの取締役選任議案に反対を推奨することにし、対象企業は2019年2月よりTOPIX100の構成企業

・但し、形式的に線引きするのではなく、反対推奨前に必ず検証し、例外を設ける

・今回の改定基準でも、「今後女性取締役を登用する予定」などの開示を行う企業には反対推奨しない。企業の情報開示がカギになる。情報を積極的に公開する企業ほど正 確に判断できる

グラスルイスの今般の改定基準は、企業でIR部門、経営企画部門、総務・法務部門はじめ株主総会に関連する部門の方にとってはご存知の内容かとは思いますが、上野氏のコメントによれば、「反対推奨前に必ず検証し、例外を設ける」という点が女性役員の少ない多くの日本企業各社にとって関心ある事項かと思います。

例外の具体的基準は記事では書かれていませんので、不明ですが、現実には個社別の状況に照らして判断されることと思いますので、基準がないのも当然かも知れません。女性活用は、取締役会の多様性の1つの考えでありますが、まずは、多様性についてあらためて考えてみたいと思います。

まずは取締役会の重要な機能には、企業の中長期的な観点から戦略を討議することにあります。このため、中長期的な戦略を立案するに適したメンバーで取締役会は構成される必要があるというのが多様性の前提にあります。

一方、事業領域や顧客が誰であるかは企業によって全く異なります。例えば、売上高の多くが海外に依存しているグローバル企業であれば、グローバルに精通した外国人のマネジメントが必要になるかも知れませんし、また、このグローバル企業が女性向けの製品を販売しているのであれば、女性の外国人のマネジメントが必須になるかも知れません。例えば、グローバル展開をしている女性向けアパレル専業メーカーが、中高年の男性マネジメントで構成される取締役会で中長期戦略を策定しているということは、見方によっては少しおかしな話と思います。

また、企業が既存の事業領域を広げて新規事業に軸足を移すことを考えているのであれば、この新規事業に精通したマネジメントが必要になるかも知れません。このように、事業領域と顧客が誰であるかによって、企業に必要となるマネジメントの多様性は異なるのです。

とすると、画一的に女性取締役を起用ということは少し話が飛躍している気がします。そもそも女性の母集団が少ない中、その中から無理やり取締役を選定するとなると、能力のない者が取締役につくことになります。

勿論、企業社会では、これまで女性がマイノリティーであったということも現実であり、男女の昇格機会の平等という観点から一律に女性取締役を起用するという社会的観点からの議論もあるかも知れません。これはこれでたしかに重要と思います。

しかし、一方、企業はあくまで営利集団であるので、中長期的に亘って「お金を儲ける」という観点から、各企業の経営戦略立案のメンバーとしてどういう人材が適切であるのかを明確にすることがまず重要であり、その上で、エンドユーザー向けのビジネスを行う企業であれば、当然に女性の目線が必要になるので、女性取締役が必要という議論に発展していくべきものと思います。

グラスルイスは、女性取締役の起用が企業の中長期的成長の上では重要と判断して、基本となる基準を設定したことになりますので、もし、その原則の例外をグラスルイスに認めてもらうには、女性を起用しないことの明確な理由を、企業は開示することが求められることになると思います。

株主資本コストの意識の重要性

先日の日本経済新聞で、株主資本コストの意識に関するKPMGの企業への意識に係る調査結果の記事がありました。

この記事によれば、資本コストを意識している企業は4社に1社で、企業の資本コストに対する意識は希薄で、資本コストを巡り企業と投資家の間で意識格差があるということでした。

記事の表現では、「資本コストは企業に対する株主の期待収益率を示す。企業は資本コストを上回る収益率を出せば投資家の期待にこたえていることになり、株価上昇につながる。」とのことですが、本日はあらためて資本コストの意義について書いてみたいと思います。

資本コストとは、会社の経営陣が「投資家」に対して負っている資本調達に関するコストのことをいいます。ここで「投資家」とは、会社債権者である「金融機関」と「株主」を示し、資本コストは、金融機関に対する「負債コスト」と株主に対する「株主資本コスト」の2つで構成されます。

この中、分かりやすいのは負債コストであり、これは金融機関からの借入金のコストであり、PL上は支払利息として営業外費用に計上されますので、会社の経営陣も負債コストは当然のこととして意識しています。金融機関からの借入利息を知らない経営陣はいませんよね。

問題は、株主資本コストです。

何が問題かというと、企業のPL上は株主資本コストが数値となってあらわれないため、経営陣にとっては馴染みが薄いということになります。なお、日本経済新聞の記事では、「資本コスト」と記載されていますが、正確には「株主資本コスト」に焦点が当てられているかと思いますので、以下は「株主資本コスト」について書きます。

まず、株主資本コストとは、株主に対して経営陣が負担するコストですが、株主から見た場合、株式資本コストとは投資の期待収益率(期待するリターン)と言い換えることができます。

期待収益率であるリターンとは、何かを得るために投資した資本の比率になり、具体的には、例えば、400円で市場で株式を購入して、株価が500円に上昇した段階で株式を売却した場合、リターンは100円(500円-400円)÷400円(%)=25%となります。

では、「期待収益率である株主資本コストはどのようにして算定されるの?」ということですが、これには算定式があり、CAPM(キャップエム)という方式が一般的で、次の算式になります。ファイナンスの書籍を見ると大抵この算定式が記載されています。

 

株主資本コスト=リスクフリーレート+ベータ(β)×マーケットリスクプレミアム

 

これについて解説しますと、まずリスクフリーレートですが、これは、投資家が国債への投資で期待するリターンをいいます。日本国債(10年)の直近の過去3ヵ月平均ですと0.06%程度かと思います。

次にマーケットリスクプレミアムですが、株式市場全体のリターンとリスクフリーレートの差です。株式市場全体とは、TOPIXなどの市場全体の株価の動きを表す指数のことをいいます。Ibbotson Associatesのデータ(有料)を使うことが一般的かと思いますが、参考までに東京ガスの2018年3月期の第2四半期決算の説明会資料を見ると、同社では2017年度見通しとして「マーケットリスクプレミアム=5.5%」としています。

最後にベータ(β)ですが、これは株式市場全体の変動に対してその会社の株式の変動を示します。つまり、株式市場全体の収益利益率が10%上昇した場合、ベータ=1の場合には、この企業の株式の収益率も市場全体と全く同じく10%上昇するところ、ベータ=1.5の場合には、収益率が15%になることをいいます。つまり、ばらつきの程度になります。ベータ(β)はブルームバーグが有料で提供しています(少し前までは無料で提供していました)。

以上のとおりまずは用語について説明しましたが、要するに、投資家である株主はハイリスク・ハイリターンを求めるところ、株式は国債よりもリスクは大きいため、株式に投資する株主は高いリターン(収益率)を求めます。そして、投資先の企業によって収益率にばらつきがありますので、市場全体の動きより値動きが大きい企業、つまりβが大きい企業に投資する株主はそのリスクに見合ったリターンを要求するということになります。これが株主資本コストということになります。

ところで、「株式は何故国債よりリスクが大きいのか?」というのは、株主は確実に配当を受けられることは確約されておらず、企業が赤字の場合には配当を受けられなかったり、また、配当が減る(減配といいます)こともあり、この点でリスクが大きいということです。

繰り返しになりますが、株主資本コストは、負債コストと異なり会社の財務諸表には一切現れてこない数値のため、企業経営者は意識をしていない方が多いということが記事の内容であり、これは従前より言われていることです。

通常の事業会社では、総合商社のように日常的に投資を行っている企業は別ですが、株主資本コストの話がでるのは、M&A企業価値算定でDCF法で価値算定をする際の将来キャッシュフローの割引率の時に出てくるようなケースで、通常の業務では頭では意識していても使うことは少ないのが現実かと思います。また、そもそもM&Aなどは、普通は5年~10年に1回程度の頻度でしか普通の企業では行われず(ちなみに、グループ会社の再編は通常はM&Aとはいいません)、DCF法すら使うことは稀かとは思います。

では、株主資本コストは何と比較すべきで、そしてこれが低い場合には、企業にはどいういう影響が出るのでしょうか?

まず比較する対象ですが、ROE株主資本利益率)になります。

ROEは株主が投資した資本に対してどの程度の利潤を上がられたかを意味し、株主の持分に対する投資収益率を表すことになります。これが株主資本コストを上回る場合、株主が期待する収益率以上の利潤を企業は上げていることになります。

一方、これを下回る場合、この企業は株主の期待収益率にこたえることが出来ていないことになります。

では、このように期待する利潤をあげていない場合には、どういう影響が出ることになるでしょうか。

この点は、「ざっくり分かるファイナンス(経営センスを磨くための財務)」(石野雄一 / 光文社新書)に分かりやすく書いてあるのですが、期待収益率を上げられないということは、この企業に投資することは儲からないため、株主は期待する収益率を得られる他の企業の株式を購入した方が得と考え、株式を売却することになります。

株価は株式の需給バランスにより決まるものであるため、株式の売却が進むと、株価が下落し、結果、株式時価総額が低下します。となると、この企業は「お買い得」ということになり、買収のリスクにさらされることなります。

以上、少し長くなりましたが、資本コストについて今回は書いてみました。

株主資本コストとは、機関投資家は当然に意識している一方で、企業サイドでは意識が希薄です。しかし、今後、機関投資家と企業との対話が進む状況下にあって、株主資本コストが分からないでは十分な対話ができません。資本コストは対話の前提になると思います。

伊藤レポート2.0の影響もあり、株主資本コストを意識する企業は今後は増えるものと思われますが、事業会社の経営企画部門(数値を扱う経営企画部門です)やIR部門の方が理解すべきは当然ですが、数値について縁のない法務部といった管理部門の方であっても一度ファイナンスの入門書を読むなどして理解されるとよいと思います。

ちなみに、初歩的なファイナンスの教科書としては、「コーポレートファイナンス
門(第2版)」( 砂川伸幸 / 日経文庫)、先ほどあげた「ざっくり分かるファイナンス(経営センスを磨くための財務)」(石野雄一 / 光文社新書)が、非常に良書と思います。

入門書のため、投資銀行ファイナンスを専門に扱いそれをサービスとして事業会社に提供するプロの方にとっては内容は全然物足りないと思いますが、事業会社にいて投資銀行の方と話をする立場の方であれば、この書籍に書かれていることを理解すれば(ただし、入門書ですが内容はそれなりに難しいです)、十分であると思います。

前提としてやはり財務会計の知織が必要になりますが、財務会計をある程度理解され
ている方であればこの2冊両方とも手にとって、じっくりと読むととても勉強になると思います。

 

2017年のグローバルでの新規株式公開に関連する数値

2018年1月3日の日本経済新聞で、2017年の世界の新規株式公開(IPO)が10年ぶりに高水準であったとの記事がありました。

マクロの数値は、常にアップデートをし、なるべく頭に入れておくことが重要であるということは周知のとおりですが、今回は、この記事に書かれている数値を拾ってみたいと思います。

・2017年の世界のIPOの件数は1700件で前年より45%増

・中国、アジア企業の上場が全体をけん引

・国別では、中国(香港含む)が554件でトップで50%増加で、2000年以降で最高。インド市場は76%増の164件で、保険・銀行などの金融分野でのIPOが多かった。モディ首相の進める経済改革による市場環境が改善

・日本は94件と前年並み

・米国上場企業数は1996年のピーク時から半減し、現在は約3650社。M&Aにより非上場化する企業が増加

・2018年もIPO市場は好調との見方が多い。中国ではIT関連の上場が、インドでは国営企業の民営化が検討されている

 

以上が新聞記事に書かれていた主な数値になります。

グローバルでも株式市場は好調の中、IPOが好調であったであろうとは容易に想像はつきますが、実際に数値で見るとあらためて「なるほど」と思いました。私が初めて知ったのは、米国の上場企業数が1996年の約7300社から半減しており、現在の上場企業数は日本の上場企業数とあまり変わらない点です。米国で上場企業の廃止が増えているのは、アクティビストがM&Aを迫ることも背景にあると思います。

一方で、株式時価総額を見ると米国市場は日本市場の5倍程度と米国企業と日本企業の間に大きな開きがあります。日本企業のPBRの低さは、伊藤レポート2.0でも指摘されているところではあります。

今回は新年の最初のブログになりましたが、本年は、コーポレートファイナンスコーポレートガバナンスに加えて、新聞などで公表されたマクロの数値などもブログで拾って行きたいと思います。

 

企業の環境・社会問題に対する機関投資家目線での考え方

年末を迎えるに当たり、これまでに切り取った新聞記事を整理していましたが、11月30日の日本経済新聞に、本年5月に米エクソンモービル株主総会で、「気候変動規制の業績への影響を詳しく開示せよ」との株主提案があり、この議案への賛成率が60%を超えたとの記事がありました。

ニューヨーク州退職年金基金などが提案をしていたようで、これに、ブラックロックやバンガードなどの米国有力運用会社が賛成票を投じたようです。

物言う株主の提案は、従来、増配要求、自己株式の取得といった比較的単純な要求が多かったのですが、最近は低収益事業の分離といった事業面について精緻な分析を行い、企業に提案を行うケースも増えているのは認識していましたが、環境や社会問題の提案にも幅を広げているようです。

ESG投資に関しては、欧州を中心とした運用会社の関心が高い中、環境や社会問題に対する合理的な提案をする場合には、これに賛同する運用会社が増えているということかと思います。ブラックロックは運用資産も巨額で、670兆円あり、同社はESG投資で長期的投資を志向するファンドであるので、こういった環境関連の株主提案にも賛同をしたということかと思います。

ここで考えなければならないのは、単純に環境問題や社会問題について企業に提案、賛成するだけでは物言う株主には、メリットはないということです。彼らは株式を取得し、その後、企業に色々と提案をして、株価を上げ、その後に保有株式を売却して投資回収を図る、つまりキャピタルゲイン(売却益)を得ることを狙いとしています。

とすると、純粋な環境問題や社会問題には関心はなく、それを改善することで、株価が上昇するということが予測されることではじめて賛成票を投じることになります。

ESGの改善が株価にどの程度の影響を与えるのかは、まだ分からないところがありますが、これが企業価値、ひいては株式価値である株価向上に結びつくということであれば、提案に対する賛成票が増えるのかも知れません。

なお、企業価値と株式価値の理解が出来ていない方も多いと思いますが、株式価値とは、ファイナンス上は「企業価値-ネットデット」で算定され、これを発行済株式数で割ったものが理論株価(現実には市場株価と一致はしません)になります。

また、記事によれば、環境・社会問題の専門家でないファイナンスのプロである機関投資家が、専門外の分野で企業に方向転換を促すのはリスクが高いというある運用会社のコメントもありました。

ここで上場企業として何をなすべきかということですが、環境問題や社会問題について外部からつつかれるというリスクを想定して、自社の環境・社会問題について、「株価に影響を与える」課題を把握し、それに対する理論武装をするということが重要になるのではないでしょうか。

企業規模にもよりますが、CSR部門といった部門をおいて環境・社会問題に取り組んでいる企業もあるかと思います。とすれば、より詳しい情報を持つ企業が予め環境・社会問題を認識して、分析しておけば、それを株主提案として形で提案されても、きちんとした反論をすることができます。

ただ、環境・社会問題となると非常に幅広いこともあり、企業としてはどこに手をつけてよい分からず、とりあえず世間で関心のある環境・社会問題に取り組んでそれを開示している企業も多いかと思います。しかし、機関投資家対応という点では、それは本質から大きく外れていると思います。

機関投資家は、慈善事業に投資している訳ではなく、あくまで投資先企業がもうかって株価が上昇することに関心があるので、株価への影響の極めて乏しい事項には関心は示しません。

私は環境や社会問題には疎いのですが、社会活動として地域のゴミ広いを取り組んでいるといったことを全面的にPRしている企業も見たことがありますが、慈善事業としては大変に素晴らしいことと思います。個人の社会活動にはどうしても限界があるところ、企業でなければこういう問題に取り組めないので、こういった社会奉仕活動は、企業が率先して行うべき活動と思います。しかし、その一方で、機関投資家は全く関心を示さない活動でもあります。

上場企業は、自社の業績、ひいては株価に影響を与える環境・社会問題は何であるかをきちんと把握して、物言う株主対応という視点から、きちんと対策を事前準備することが環境・社会問題のリスク対策として重要になってくると思います。

企業の資金調達手段としてのグリーンボンド

グリーンボンドという言葉は最近時々みかけますが、聞いたことはありますでしょうか。

ボンドとは社債のことで、グリーンボンドとは日本語というと環境債といいます。社債とは企業の資金調達手法の1つですが、グリーンボンドとは、環境へ配慮した事業に資金の用途を絞った社債の発行であり、最近では、野村総合研究所戸田建設が発行しています。

ちなみに企業の資金調達手段としては、他に金融機関からの借入、コマーシャルペーパーエクイティファイナンスなどもあります。

グリーンボンドと通常のボンド(社債)との違いはどこにあるでしょうか?

詳細まで正確に把握している訳ではありませんが、格付が高くない企業でも低い利率で社債を発行できるという点で違いがあります。

社債を発行すると企業は、社債権者に定期的に利子である社債利息を支払う必要があります。格付けの低い企業、つまり信用の低い企業は利息が高くなります。結果、営業費用が増えることになり、PLの最終利益が減るということになります。

ちなみに報道によれば、戸田建設の格付けはR&Iでは「BBB+」(トリプルBプラス)で5年債の利率は0.33%であるところグリーンボンドでは0.27%と低いようです。

勿論、グリーンボンドは、環境関係の投資案件に資金を使うことが必要になりますの
で、このように通常の社債と異なり資金の使途が限定されているという違いもあります。

一方で、グリーンボンドの発行には、第三者機関の認証の取得などあらたに費用・時間がかかるようでもあります。

欧州中心にグリーンボンドの発行が増えているようですが、欧州はESG投資も大きいため、この流れと方向はあっているようです。

日本企業でも今後環境関連の投資は増えると思いますが、格付けの高くない企業にとっては、資金調達手段として今後グリーンボンドなども選択肢の1つに入ってくるのかも知れません。

米ブラックロックのラリー・フィンク会長のコメント

12月20日付の日本経済新聞の記事に米ブラックロックのラリー・フィンク会長のコメントがありました。

ブラックロックは、運用資産670兆円のうち、日本企業株式は26兆円を保有しておりますが、日本経済新聞でのラリー氏の発言をピックアップしますと次のとおりです。

・ 記録的な低金利環境の中、日本企業は投資すべきである
・ 適切な企業価値向上を行うべきである
・ 取締役会の役割が高まっている。長期的な利益は短期的な利益に勝る
・ 一部企業の不祥事をみると、取締役会の機能が一層強化されることが望ましい
・ 日本企業は努力はしているものの、ガバナンスを十分に進化させているとまではまだ言えない。
・ 最高益を上げているいまこそ改革のベストタイミング


コーポレートガバナンスというと単に取締役会の構成、メンバーの多様性、会社の機関設計だけを思い浮かべる方もいるかも知れません。しかし、ブラックロックは、事業戦略に即した形でのコーポレートガバナンスに関心があるように思えます。

つまり、事業ポートフォリオの転換が出来るようにガバナンス体制を構築し、また必要に応じて進化をさせていくべきといった意味です。勿論、これはラリー氏のコメントにはないため、私見にはなります。

経産省のコーポレートガバンス改革では、日本企業は無形固定資産への投資を増やし、中長期的な企業価値の向上を図るべきとの考えは周知のところですが、ブラックロックは従前より、企業の中長期的成長を志向して投資を行うとの姿勢の機関投資家ですので、あらためてこの点を踏まえた発言であったということになります。

今後は、2018年の早い時期に上場企業に対話に関する書簡をブラックロックは送付するということのようです。

経産省CGS研究会がスタート

昨年7月に、経産省がコーポレート・ガバナンス・システム(以下「CGS」といいます)研究会を立ち上げ、2017年3月にCGSガイドラインを策定しましたが、コーポレートガバナンス改革を「形式から実質」へ深化させるべく、CGS研究会の第2期を経産省が立ち上げました。

中長期的な企業価値の向上を図るには、グループ全体としての経営戦略を描き、経営資源を適切に配分する事業ポートフォリオマネジメントを積極的に行うことが、これまで以上に重要になってくるというものです。

2017年12月8日にCGS研究会の第1回検討会を開催していますが、経産省のホームページにある配布資料の趣旨によれば、次の記述があります。

「グループを構成する事業ポートフォリオを最適化するための組み換えをいかに機動的に行うかといった『グループガバナンス』の在り方について、ベストプラクティスの検討を行うとともに、CGSのフォローアップを行う」

CGSのフォローアップとしては、CGSガイドラインを踏まえた、企業の取り組み状況の
フォローアップを行い、結果を公表するようです。来年1月にかけて上場企業2500社に対してアンケートを行うようです。

また、グループガバナンスに関しては、事業ポートフォリオの最適化を行うとあります。先日の内閣府が公表した新経済政策パッケージなどの動きを見ても、事業ポートフォリオの最適化は、最近頻繁に出るキーワードです。。

伊藤レポート2.0において、PBR(株価純資産倍率)の向上が今後の日本企業の課題との指摘があります。要するに、営業利益率の低迷している事業は、スピンアウトし、コア事業の更なる強化を図ることを税制面、コーポレートガバナンスの両面から企業に促すのが狙いのような気がします。

政策保有株式の売却・解消の促進の動きとあいまって、日本企業はコーポレートガバナンスの大きな見直しが今後迫られることになります。

CGS研究会の第1回検討会の議事録はまだ公表されていませんが、先日のブログで書いた新経済政策パッケージと併せて、CGSの動きは、ウォッチし、このブログにもサマリーを随時掲載して行きたいと思います。

「新しい経済政策パッケージ」の下での政策保有株式の解消の予想

先日、「新しい経済政策パッケージ」についてブログで簡単に触れましたが、本年12月8日に閣議決定された「新しい経済政策パッケージ」の全文について確認をしました。

人づくり革命、生産性革命の2つに大きく分かれていますが、生産性革命について少し触れたいと思います。

生産性革命の中で、いくつか項目がありますが、「企業の収益性向上・投資促進による生産性革命」の項目があり、さらにその中で「コーポレート・ガバナンス改革」があります。

2018年6月の株主総会シーズンまでに、投資家と企業の対話の深化を通じ、企業による次の取り組みを促すためのガイダンスを策定するとともに、必要なコーポレートガバナンス・コードの見直しを行うというものです。

1.経営環境の変化に応じた、事業からの撤退・売却を含む、事業ポートフォリオの機動的な組替えなどの果断な経営判断(事業ポートフォリオの見直しに関する方針や実効的な見直しプロセスの確立・説明の促進)
2.企業が保有する現預金等の資産の設備投資、研究開発投資、人材投資への有効活用
3.独立した指名・報酬委員会の活用を含め、CEOの選解任・育成、経営陣の報酬決定
に係る実効的なプロセスの確立、並びに、経営陣に対する独立社外取締役による実効的な監督・助言
4.政策保有株式の縮減に関する方針の明確化及び政策保有株式の縮減・売却に対する「保有させている側」の理解
5.年金基金のアセットオーナーとして期待される機能を発揮及び母体企業による支援

この中でも、注目すべき事項は4にある政策保有株式と思います。

政策保有株式とは、いわゆる持ち合い株式であり、投資収益ではなく、自社との取引の維持・拡大の関係強化等を目的に保有するものです。投資先企業の会社提案に反する議決権行使を行うことはなく、投資先企業から見ると安定株式といえます。

政策保有株式に関する最近の課題意識は、政策保有株式が多いと安定株主が多いことにつながり、投資先企業が株主からの圧力や脅威に晒されることなく、株式市場が本来求められる機能を果たしていないのではないかということです。

要するに、政策保有株式についても、投資先企業の会社提案議案に対して、中立的な観点から賛成・反対票を投じれば問題ないのですが、そうでなく、「常に賛成票」を投じる結果、市場の健全性を損うものとされていることです。

政策保有株式については、コーポレートガバナンス・コードでは、保有企業は方針を開示して、保有するねらい・合理性についての説明が求められています。これに従い、各社保有する目的をコーポレートガバナンス報告書などで開示していますが、文言が画一的であるのが現状と思います。

今回の提案では、政策保有株式を「保有させている側」の理解とあります。つまり、実際には、政策保有株式は、投資先企業からの要請があり保有することがほとんどですが、実態に即して、「保有させている側」である投資先企業が、どうしてそうしているのかその理由について明確にせよという流れになると思います。

保有している側」がいくら理由を開示したところで、実態は「持たされている」のだから、「保有させている側(投資先の企業のことです)」がその理由を明示せよという趣旨と思います。

政策保有株式は、投資先企業の株式を1%以下保有するケースが多いですが、この程度の保有比率では投資先企業には何ら会社法上の有効な権利行使は出来ません。このため、取引上の関係から保有するということは「どういうこと?」と前から感じていました。

最近の政策保有株式の議論を見ると、今後数年で政策保有株式の解消は確実に進むように思えます。

とすると企業では何が困るかということですが、安定株主が減少するわけですから、不透明な経営や一般株主に十分な説明のつかない会社提案を株主総会で提案した場合、その提案が通らなくなる、または反対意見が多く出るということになります。

来年6月の総会シーズン前にガイダンスが出るということですので、企業のコーポレート部門の方は、今後注視すべき事項と思います。