コーポレートガバナンス、M&A、企業価値、IRなどに関する実務ニュース

コーポレートガバナンス、M&A、企業価値、IR等の新聞記事について、投資銀行・東証1部事業会社での実務経験を通じて気づいた観点を踏まえて分かりやすく解説していきます

議決権行使助言会社に対する規制の強化の動き

先日、議決権行使助言会社について記載をしましたが、その後に引き続き、日経新聞によれば、米国では、議決権行使助言会社に対する規制の強化の動きがあるということのようです。

米国議会で、金融選択法案というものの審議が進んでいるようです。良く分かっていませんでしたので、ネットなどの公開情報でざっと調べたところ、米国では、ドットフランク法(金融規制改革法)という法律が2010年7月に制定され、金融規制に関して規定しているようですが、この金融選択法案では、金融機関の経営自由度を大きく高める内容のようです。しかし、金融選択法において、規制緩和の中、議決権行使助言会社については、規制が強化される流れに向かっているということです。

報道によれば、議決権行使助言会社の組織体制などの開示が助言会社に要請されるようですが、企業にとって好ましい点は、分析対象となる企業に、株主総会議案に議権行使助言会社の発行するポートを見せて、意見を述べる機会を与えるというようなことになるとのことです。

議決権行使助言会社であるISSやグラスルイスの発行するレポートは、私自身も目にしますが、たしかに現状は発行したレポートを目にするだけで、事前に会社に対して内容について確認をとるということは行われていません。

実際には、過去に自社のレポートを見た際、記載内容について、「誤解しているのでは?」と思った箇所があったこともあります。議決権行使助言会社は、5月、6月の時期に数千社の会社について株主総会の招集通知を見てレポートを作成するので、一定の時間の範囲内で機械的に判断せざると得ないため、場合によっては、見誤りがあることがあるかも知れませんし、また企業サイドの開示内容が分かりにくかったり、企業の意図が文字として十分に明記されていない場合には、企業の考えと異なる解釈をされる可能性も十分あると思います。

このため企業の実務担当者は、助言会社のレポートの内容について、「これは違うのでは?」と思ったこともあったかと思います。

その点では、この金融選択法案が可決されれば、事前に意見を述べる機会を企業に与えることにより、企業サイドの意見もレポートに反映され、実質を踏まえた議決権行使が期待できることにつながるかも知れません。

不利益を受ける場合には、「告知聴聞の機会を与える」、つまり事前に内容を知らせて、弁解の機会を与えるというデュープロセスという大原則がありますが、これと同じような考え方と思います。

ISSなどの基準に必ずしも準拠しない海外機関投資家も最近は増えていますが、そうはいっても依然として今後もこれまでどおりISSやグラスルイスのレポートは機関投資家の議決権行使に大きな影響を持つかと思います。その点では、この法案が成立した場合には、企業にとっては、より好ましい方向に向かうのでははないでしょうか。

議決権行使助言会社とは?

先日の日経新聞で「総会の黒子の正体」ということで議決権行使助言会社である米国のISSについて記載されていました。

ISSとはインスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズというのが正式名称で、業界最大手ですが、他には同業ではグラスルイスという議決権行使助言会社があります。

上場企業のIR部門の方、株主総会での議決権行使関連業務の方にはISS、グラスルイスのことは良くご存知のことと思いますが、そもそも議決権行使助言会社とは何であるのか、また、企業への影響について基本的なことを書いてみたいと思います。

1.議決権行使助言会社とは?

株主総会の際に機関投資家が議決権を行使する際に、賛否を推奨する議決権行使の助言をする会社です。

株主総会の際には、機関投資家がその所有する株式について株主総会で議決権を行使しますが(実際には、総会場に来場するのではなく、事前に書面で議決権行使するのがほとんどです)、この会社のこの議案には賛成又は反対かを機関投資家に推奨します。具体的には、議決権行使助言会社がレポートを発行し、機関投資家がそれを購入するということになると思います。

つまり、ある上場企業の取締役選任議案としてA氏という方が候補者になっているときに、機関投資家がA氏に賛成又は反対のいずれを投じるかを判断する際に、ISSなどの議決権行使助言会社の判断基準に従って判断します。機関投資家には、海外投資家と国内投資家がありますが、海外の機関投資家ISS、グラスルイスの基準をそのまま遵守するケースが多いと思います。

2.企業サイドに与える影響は?

端的にいいますと、助言会社の基準を充たしていない場合、議案の反対票が増えということになります。

では、企業としては、どうするかといいますと、まずは自社の議案が助言会社の基準を充足するかどうかを株主総会に先立ち確認をする必要があります。助言会社の基準を満たさない場合には、その議案について反対票が増えることになり、反対率が高くなると総会で議案が否決されることになります。

従って、外国人(法人)保有比率が高い会社は注意が必要になります。何故ならば、外国法人(=海外機関投資家)は先に書きましたようにISSなどの基準をそのまま採用するケースが多いからです。

一方、個人株主は議決権助言会社の基準を見ることは普通はないので(個人株主ではあるが、「私はISSの基準に沿って判断する」といったマニアは別ですが)、株主構成上、外国人比率が小さく、個人株主比率が高い会社は特に心配する必要はありません。もっとも、個人比率が高いということは、安定株主も低いということになるので、個人の賛否が全く読めないという別の問題が生じてはきます。

以上が概要になりますが、新聞にも書かれていましたが、議決権行使助言会社には批判も多いところでもあります。

それは何かといいますと、議決権行使助言会社は投資家の意向を踏まえて各国・地域ごとに賛否基準を作成していますが、その国・地域のある企業の個別事情はあまり考慮していないと点です。例えば、「ROEが5%以上でないと議案に反対」といったように一定の基準を設定しており、機械的に判断しているといわれています。

経営が順調で十分に利益が蓄積されている企業であれば、利益を還元して、ROEを高めよという主張は分かるのですが(=配当や自社株で利益還元することで純資産が減りますので、ROEは高まります)、資本を増強する必要があったり、将来の大型投資やM&Aに向けて資本を厚くしておききたい会社もあります。こういった企業の個別事情があまり考慮されず、基準を形式的に適用しているのではないかという批判です。

一方で、これはある意味では仕方ないという側面もあるかと思います。判断基準を作るには、一律の基準を設定する必要もあり、個社別の基準を作ると収拾がつかなくなるという現実もあります。実際に議決権行使助言会社の人的リソースもあると思います。

では、こういった環境下で企業としてはどうすべきかといいますと、積極的に議決権行使助言会社に自社を理解してもらえるよう努めるということになるか思います。

日本を代表するような一部の巨大企業・有名企業でない限り、自分から黙っているとまず理解はして貰えないのですから、なるべく対話をする機会を持って自社の事情を理解して貰うということがあるように思えます。転職の際と同じですね。

前職の証券会社時代に、日本の大手化学メーカーに勤務後にマサチューセッツ工科大学(MIT)でMBAをとってから、転職してきた同僚がいましたが、こういう一流の米国の大学でMBAを取得した方は何故か、時々、エグゼクティブ採用専門の人材会社から高待遇での転職のお誘いが頻繁にあるようですが(本人はMBA卒業リストが出回っているのではといってましたが)、そうでない大多数の一般の方は、転職したいとすれば自らプロフィールを作成して、現職より少しでも高い給料が貰えるよう、自分の成果やポテンシャルを売り込んでいく努力をしないと転職できないのと全く同じ考えです。

少し脱線しましたが、私の知る限りですと海外の機関投資家の中には、ISSなどの基準に必ずしも準拠することなく、自社独自の基準を設定する機関投資家もありますが、以前として大多数はISSの基準によるところが多いと思います。

とすると、企業サイドとしては、転職の場合と同じで、自社の業績や取り組み、今後のビジョンなどについて積極的にISSなどとの対話の機会をつくっていくことが大事だと思います。

ちなみに、少し前にグラスルイスの米国担当者のセミナーに参加したことがありますが、同社は日本では拠点は設けていないということでISSよりも日本では活動は小さいようです。

ESG投資が日本でも増える可能性

先日の報道によれば、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)がESG投資の運用を開始し、6月末までに約1兆円をESG銘柄に投資するとのことです。
GPIFは日本国内株式を約30兆円保有しており、これまで大部分を東証株価指数TOPIX)で運用してきましたが、今回約1兆円をESG投資にまわし、今後は、3兆円に増やす考えとのことです。
ESG投資とは、環境、社会、企業統治への取り組み姿勢を判断に投資することで、最近、良く報道されているかと思います。

GPIFでは、次の3つのESG指数を選定して、この指数に応じた株主指数を増やすようです。

・ETSE Blossom Japan Index(ESG総合型)
MSCIジャパンESGセレクト・リーダーズ指数(ESG総合型)
MSCI日本株女性活躍指数(テーマ型・社会)

なお、MSCI日本株女性活躍指数(テーマ型・社会)のホームページを見たところ、次のような記述があります。

時価総額上位500銘柄(MSCIジャパンIMIトップ500指数)を対象とする。
MSCI が新たに開発した性別多様性スコアに基づき、業種内で性別多様性に優れた企業を選別して構築される
MSCI ESG リサーチが非常に深刻な不祥事を起こしている、あるいは人権や労働者権利において深刻な不祥事を起こしていると評価する企業は対象外となる
 
簡単にいうと時価総額(=発行済株式数×株価)の大きい企業の中から、女性の活用などに優れている企業を投資対象として選別していくということかと思います。
 
以前にESG投資は非財務情報を重視するものであり、あくまで投資の前提は企業の業績であるので、ESG投資がどこまで広がるのかかなり疑問というような内容でブログで書きました。しかし、先日、偶々あるシンクタンクのレポートで偶然ESG投資に関する統計値を見たところ、これまで知りませんでしたが、2016年のESG投資額は、グローバルで約23兆米ドルあり、うち欧州が12兆米ドル、米国が9兆米ドルになっているようです。ちなみに、日本は5,000億米ドルでグローバルの投資総額の中に占める比率は、わずか3%との結果でした。ちなみに、2014年との比較では、グローバルでの総投資額は20%以上増えているようです。

このように欧州や米国では、ESG投資がだいぶ進んでいます。日本では今現在は、まだまだですが、基本的に欧米で主流の事項は確実に数年遅れて日本でもスタンダードになっていくと思います。社外取締役の設置、コーポレートガバナンス・コード、スチュワードシップコード、今後詳細が決まるフェアディスクロージャー制度などを見れば分かりますが、欧米のスタンダードが日本でも時期が遅れて適用されるというのがこれまでの流れです。各国での事情などを考慮せず、単純にこの流れだけを見ますと、日本でもESG投資は、スタンダードになっていくような気がします。

先日まで懐疑的にESG投資を見ていましたが、日本はまだESG投資の歴史が浅く、投資ついてもまだ緒についたばかりの印象を持ちますが、今後、大きく増えていくのではないでしょうか。企業としは、ESGの各項目についてグローバルスタンダード(欧州)と自社の現況を比較して、グローバルスタンダードより遅れているのであれば、改善し、既に充足しているか遜色ない程度にあるのであれば、それが正しく外部から評価されるよう積極的に対外的に公表していくということが大切になってくるように思います。

今後はESG投資もキーワードの1つとして継続して注視したいと思います。


出光興産による公募増資についての分かりやすい解説

出光興産が昭和シェル石油との合併による経営統合を目指している件に関して、出光の創業家が反対していることは、だいぶ以前から新聞報道されていますが、先日の報道で、出光の経営陣が公募増資を決定し、これに対して出光の発行済株式の約33%を持つ創業家が、公募増資は創業家保有する持分の議決権の稀釈化となり、合併を容易にするものであるため反対しているとの報道がありました。
 
この件に関して、公募増資の意味と併せて説明をしたいと思います。
 
上場企業が資本市場から資金調達を行う手法としては、公募増資、第三者割当増資、株主割当増資の3つがあります。最初の2つが一般的で、簡単に違いを説明しますと次のとおりです。
 
<公募増資>
現在の株主や特定の第三者に限らず、広く一般の投資家を対象に株主を募集し、新株の割り当てを受ける権利を与えて行う増資
 
<第三者割当増資>
発行会社と関係のある特定の第三者に限定して新株の割当を行う方法

第三者割当増資は、業務提携先との関係強化や資本提携を行う場合、また、発行会社の経営状態が悪く株価が低いため普通の増資ができない場合の事業支援や会社再建の際に利用されることが多いです。

要するにひらたく言いますと、公募増資は不特定多数を相手に増資するケースで、第三者割当増資は、特定の第三者相手に増資をするケースです。いずれの場合にも既存の株主の持株比率は低下をすることになります。
ちなみに株主割当増資は、全ての株主に保有比率に応じて均等に新株を発行するものであり、株主の持分比率の稀釈化は生じません。既存の株主に不利益を与えずに資金調達が出来る増資です。
ところで、増資をしますと、バランスシートの資産の部の現金が増えて、純資産の資本金(場合によっては資本準備金も)が増えますね。
 
今回、出光が公募増資を行いますと、新株があらたに発行され、発行済株式数が増えますので、創業家の持株比率は稀釈化(比率が低下する)することになります。

出光は昭和シェルと合併するに当たっては、出光の株主総会で合併議案の承認を得る必要があり、これは会社法上の特別決議事項になりますので、2/3以上(=66.7%)以上の賛成が必要になります。つまり、創業家の33%の反対があると株主総会で合併承認の議案は否決され、合併はできないことになります。そこで、出光の創業家と対立関係にある経営陣は、創業家株主総会で議案に反対して合併が阻止されないよう、創業家保有比率を低下させようとして公募増資を決定したということのようです。

ただし、問題は、特定の株主の持分を稀釈化するための増資は法的に課題がある点です。
 
増資には、あくまで資金の使途(例:設備投資など)が必要であり、これがない場合、例えば特定の株主の持分比率の低下を主目的とする増資であるといった場合には、会社法上、新株の発行について差止請求が提起され、裁判で会社側が敗訴する可能性があります。過去(たしか2005年頃)のニッポン放送のフジテレビに対する新株予約権の発行のケースで、これはライブドアによる買収の防衛策として持株の希釈化を目的としたものですが、裁判所はこの新株予約権の支配権維持が主目的としたものであり、不公正発行に当たると判断しています。
ちなみに、新株予約権とは、新株を取得できる権利で、新株予約権を持つ者はその権利を行使することにより、会社の株式の交付を受けることができます。従って、最終的に新株の交付を受けることができるという点では、最初から新株を交付する第三割当増資と同じような効果を持つことになります。
 
報道では、出光は、資金目的であることを主張しているようですが、これに対して創業家は、創業家の持株比率の低下を目論んだ公募増資であるとして争う姿勢を見せているようです。

この点、今後どのように進んでいくのか、または裁判になった時に興味深いところでありますが、一方で、仮にも上場会社でありながら、裁判沙汰に発展する可能性があるほどまでにサラリーマン経営陣とオーナーである創業家との関係がこじれているのも不思議なところです。

2017年の株主総会を振り返って

 

6月も終わり、多くの3月決算企業の定時株主総会も終わったと思います。

本年の株主総会を振り返りますと、連日、株主総会の議決権行使に関連する記事が日経新聞では報道されていました。本年の総会関係の話題についてまとめると、スチュワードシップ・コードの改訂による機関投資家の「議決権行使結果の個別開示」をキーワードに次のような話題が印象的でした。

1.物言う株主(アクティビスト)による株主提案の増加
2.相談役、顧問制度の廃止
3.買収防衛策議案の反対率の増加

既にブログで色々と個別に書いていることですが、おさらいの意味で簡単に説明したいと思います。

まずは相談役、顧問制度の廃止ですが、これは東芝の例が典型で、社長経験者として退任後も経営に隠然たる力を及ぼしておきながら、報酬や役員の人事権などへの関与が不透明ということによるものです。日清紡ホールディングスJ・フロントリテイリング阪急阪神ホールディングスが本年相談役制度を廃止しているようで、今後、相談役を持ち続ける企業は、その意義、報酬体系、経営への影響などを明確にして公表することが必要になってくるのではないかと思います。

次に買収防衛策ですが、最近は廃止の風潮も高いですが、経営陣の保身と受け取られるケースが増えています。

以前は物言う株主が会社の株式の過半数を取得して経営権を取得するという動きがあり、そういう場合には、企業価値、ひいては既存株主の利益を確保するスキームとして買収防衛策が市場で一応の評価を得ることが出来ました(そうはいっても、2007年頃でも議案の賛成率が80%を超えるような企業は極めて少なかったと思います)。

しかし、最近はそのようなアクティビストは減り、マイノリティーの株式(数パーセント)を取得して「理にかなった」提案を企業に行い、他の一般株主の賛同を得て目的を達成するタイプに変わってきています。

とすると、買収防衛策の当初の導入の意義はなくなり、物言う株主の提案に賛成するか否かは、株主の判断に委ねるべきだということが昨今の批判の背景にあります。また、買収防衛策は15%、20%といった株式を大量に取得する場合に適用されるルールであり、大量の株式を取得されるケースは、現在はあまり想定できないので、そもそも不要ということです。

本年は、大手信託銀行、生保・損保では反対を投じたところがあったとは私は聞いてはいませんが、信託銀行でも来年から相当に厳しい判断をするところも出てくると思われますし、実際にある大手信託銀行からそのように聞いています。

特にROEが低い、収益が悪化しているような企業は経営陣の能力が低いと市場で評価される中、買収防衛策はそのような経営陣を守るためのものと見なされるので、そのような企業は買収防衛策議案については来年も多くの反対が出ると思われます。

企業サイドとしては、ROEの改善策や中期経営計画を説明し、その絡みで買収防衛策の必要性を投資家に納得して貰うなど、今後は、機関投資家との対話により多くの時間を割く必要が生じるものと思われます。

本年は投資家・株主との対話をするという外部環境の大きな変化が現れた株主総会でありましたが、本年の8月頃には議決権の個別開示結果が一斉に開示されます。

企業サイドとしては、開示結果を見て、特に賛成率の低い議案については、9月に入ったら、来年の株主総会を見据えて、機関投資家や株主との積極的な対話を開始する必要が出て来るかと思います。

9月以降に投資家・株主との対話を充実させた企業とそうでない企業とは、来年の株主総会で議案の賛成率に確実に大きな開きが出てくることになると思います。

 

機関投資家の株主総会への出席の可能性

先日、株主判明調査について書きましたが、実質株主である国内海外機関投資家は、会社の株主総会に参加できるのかについて書きたいと思います。

株主が会社に対して株主であることを主張するには対抗要件を備えている必要があり、この対抗要件とは、株主名簿の名義上の株主であることが必要になります。従って、実質株主は名義株主ではないため、当然に会社に対して株主であることを主張し、株主総会に出席するこことはできないと思います。

次に議決権の代理行使ができるという観点でも問題になるように思います。つまり通常は、会社の定款において、議決権を代理行使する際には、代理人は株主に限定すると規定しています。これは株主でない者が株主総会に出席することで、株主総会が荒れるのを防止することが趣旨といわれています。

とすると、実質株主は、会社にその地位を対抗できる名義株主ではないので、この定款規定によれば、実質株主は「株主」とまでは言えず、名義株主の代理人として総会で議決権は行使できないということになるようにも思えます(なお、この点は私見ですので、企業法務に精通した弁護士の意見を確認する必要はあります)。

だいぶ以前にJ.フロントリテイリングが、機関投資家などの実質株主が株主総会に出席できるよう定款変更するとの新聞報道がありました。同社は今年の5月に定時株主総会が開催されたようで、同社のホームページで株主総会の招集通知を見ると、代理人による議決権行使に関する定款規定を次のように変更しており、株主総会で議案は承認可決されています。


「第18条 ~前項の規定にかかわらず、取締役会において定める株式取扱規定に定めるところにより、信託銀行等の名義で株式を保有し自己名義で保有していない機関投資家は、株主総会に出席してその議決権を代理行使することができる。」

このように株主名簿上、株主となっていない機関投資家も名義株主の代理人として議決権を行使できると改訂をしています。

では、機関投資家株主総会に出席できるとなると会社側はどうなるでしょうか。

まず株主総会の出席者が増えることになり、さらに株主総会での質問も格段に増えると思います。人数だけ増えるのであれば良いのですが、機関投資家は、金融のプロフェッナルなので質問も会社の本質をつく鋭い質問になります。

素人の個人のオジサン、オバサンのしょうもない質問とは質問の質・鋭さが全く異なります。

会社としては、自社をより深く理解していただくには機関投資家に直接株主総会に来て頂きそこで真摯に対話をすることがより企業価値を高める上では有効であるとは思いますが、一方で、下手をすると機関投資家から突っ込まれて、大きなマイナス影響を受けることもあります。

そういう意味で、J.フロントの判断は、今後の大きな潮流に乗ってはいると思いますが、他社に先駆けての思いきった勇気のある判断であっかと言えると思います。これがきっかけになり、他社でも機関投資家株主総会の参加を許容する会社も増える可能性もあるかも知れません。J.フロントの来年の株主総会ではどういう質問が出るのか大変興味深いところです。

株主判明調査とは?

先日のある新聞記事で「株主判明調査」との言葉がありました。時々耳にする方もいるかとは思いまし、IRご担当の方などは十分に理解されていますが、基礎的事項についてポイントを説明したいと思います。

会社の株主は通常は会社の株主名簿に記載されています。つまり名義上の株主=実質株主(真の株主)です。従って当然ですが、一般法人である〇〇株式会社や個人である山田 花子さんなどはそのままの名称で株主名簿に記載されます。

しかし、国内機関投資家や海外機関投資家については、自らが株主名簿上の株主となることは一般に少ないのが現状です。理由は、管理コストの観点などからであると言われています。彼らの保有分は、株主名簿上は〇〇信託銀行(〇〇口)などと記載されています。

つまり、この〇〇信託銀行(〇〇口)が10,000株と株主名簿に記載されている場合、この背後には実質株主である〇〇アセットマネジメント㈱が5,000株、〇〇投資信託㈱が3,000株、〇〇キャピタル㈱が2,000株といった具合に隠れているのです。

では、実質株主が判明しないとどういうことになるのでしょうか。

会社が、定時または臨時の株主総会で会社議案を提案する場合に、機関投資家の賛否の表読みが出来ないことになります。つまり、会社提案議案に対する機関投資家の賛否の考えを聞きたいとしてしても株主名簿を見ただけでは誰が該当する機関投資家であるのか分かりません。

つまり、株主名簿上の名義は〇〇信託銀行(〇〇口)であっても、議決権行使の賛否を指図するのはその背後にいる実質株主であるので、票読み(=議案に賛成・反対のいずれを投じるかの予想を行うこと)が出来ないことになります。票読みが出来ていれば、株主総会の賛成が得られないと予想される場合には議案を提案しませんし、また、機関投資家の賛成するように議案の内容を修正できますが、これらが出来ないことになります。最悪は、議案を株主総会に提案したが、否決されたということになります。

企業は、3月決算企業であれば、通常は3月末と9月末に株主判明調査を行うことが多いと思います。3月末であれば、判明した実質株主である機関投資家を訪問して、株主総会の議案への賛否に意思を確認したりします。ただし、株価が大きく変動したような場合には、期中で株主判明調査を行うようなこともあります。また、臨時株主総会を開催する場合には、期中で株主判明調査を行うこともあるかと思います。

なお、株主判明は企業サイドでは困難ですので、通常は名義書換代理人である信託銀行などを起用することになります。ただし、実質株主の背後には、資金提供者(アセットオーナー)が存在しますが、ここまでは判明しません。

私は社会人になって間もない頃、業務で「株主判明調査」という言葉を聞いたときには、3月末で株主名簿が確定するのに更なる判明とは何を調査するのだろうか、素性の良い株主か悪い株主かを興信所のように調査するものなのだろうと真面目に思っていたことがありました。

今後はスチュワードシップ・コードの影響もあり、企業サイドも、定期的に四半期に1回といった頻度で実質株主を把握して、実質株主との対話を行うような機会も場合によっては増えるのかも知れません。

次回は、実質株主の株主総会での参加の可能性について書いてみたいと思います。

「物言う株主」に対する企業の積極的な対応活動と専門部署

企業の株主総会のシーズンが本格化しており、今週株主総会を迎える企業も多いと思います。
そういう中、6月24日の日経新聞で「物言う企業の逆襲」という記事がありました。要するに、物言う株主に対して企業サイドも従前のように黙っているのではなく、積極的に企業の考えを発信していくことを「物言う企業」と呼んでいるようです。ネットで、「物言う企業」を調べたところ、この日経新聞の記事でしか言葉が出ておらず、大変良く出来た表現であるなと思いました。今後、物言う株主の単語と同じように市民権を得ていくのではないでしょうか。
 
議決権個別開示などの外部環境の変化の中、今年の株主総会では株主提案件数が過去最高であったようです。しかし、ふたをあけてみると、たしかにアクティビストが企業の株式を取得したり、株式を買い増すケースはそれなりにあったものの、会社提案が株主総会で否決されたり、株主提案が可決された様子は今のところないようです。専門商社の蝶理株主総会では、ストラテジックキャピタルが出した政策保有株式の売却などに関する株主提案も否決されたようです。
 
株主提案が否決された理由の1つは、企業サイドが投資家との対話の機会を積極的に行ったことによるものです。
 
しかし、今回はひとまず会社側の勝利で終わったといえますが、来年からは難しくなるのではないでしょうか。今回は議決権行使の個別開示の初年度ともいえますが、来年以降は会社提案に対する機関投資家の判断もより厳しい目が向けられるはずです。現に蝶理のケースでは、株主提案は否決されたものの賛成率が10%を超えていたようです。
 
株主提案が否決されたからといって企業は必ずしも安心はできません。
アクティビストは、アセットオーナーから資金を預かり運用しているプロフェッショナルであり、株主総会に土産目的や過去の勤務した自社の経営状況を何となく懐かしく見たいという社員OBなどのファイナンスなどの知識のない素人株主・投資家とは全く異なるものであり、株主提案が「残念ながら提案が否決されたので、引き下がります」ということにはなりません。現に、新聞報道などによると、パナホームでは、香港のヘッジファンドが株主提案が総会で否決された後、少数株主の利益が損なわれたとして訴訟の提起することを宣言したという記事がありました。このように株主提案が否決されても訴訟という手段を講じることもあるのです。
 
以前からブログに同じようなことを書いておりますが、企業サイドとしても、自分たちが対峙するのは、ファイナンスコーポレートガバナンスに精通したプロフェッショナルであるという認識を強く持ち、企業サイドも企業価値・株式価値の算定はじめ投資銀行と同程度のファイナンス知識を持ち、かつ、会社法コーポレートガバナンスなど数値以外の専門知識も併せて持ち、全体を包括して理解できる人材を配置した専門部署が有事の時の対応部署として、または平時の時には株主・投資家に自社をPRする部署として大切になってくるのではないでしょうか。

社内カンパニーと分社化

2017年4月24日付の東芝のプレスリリースによれば、東芝の社内カンパニーであるインフラシステムソリューション社、ストレージ&デバイスソリューション社などを会社分割により分社するということのようです。

 

ここで、今回は、社内カンパニーと分社化の基本について少し説明したいと思います。

社内カンパニーとは、私の記憶ですと平成9年の少し前頃から日本では流行りはじめたように思えます。といいますのも私が最初に勤務していた化学素材メーカーで、この頃にソニーオリンパスの社内カンパニーのケーススタディーを行い、社内カンパニーや持株会社の形態への変更を社内検討していました。

社内カンパニーとは、端的にいいますと擬似会社です。社内カンパニーの話をする時には、事業部制の話と比較すると分かりやすいと思います。

事業部制は多くの会社で採用しており、顧客別、製品別、地域別など切り口は様々ですが事業をいくつかの単位に分けて、各事業部長に一定程度の権限を持たせて損益責任を負わせる制度です。

では、社内カンパニーとはどこが違うのでしょうか。


事業部も社内カンパニーも独立した法人ではないという点では共通しています。大きな違いは、①社内カンパニーはバランスシートまであること、②社内カンパニー長は事業部長より大きな権限と責任を負う点かと思います。

①に関して、は社内カンパニーは擬似会社ですので、1rつの法人と同じように損益計算書だけでなく、カンパニーのバランスシートがあることが多いと思います。つまり、そのカンパニーを1つの会社と同じに考えて、資産・負債・純資産を持つことになります。一方、事業部では事業毎の損益は把握していても、事業毎のバランスシートは作成していないことが多いのではないでしょうか。私の経験では、バランスシートの資産の部に入る受取手形売掛金棚卸資産、有形固定資産、負債の部に入る買掛金などは社内管理の観点から事業部毎に作成・管理していても、それ以外のバランスシートの勘定科目を事業毎に細かく分けている会社は少ないように思われます。

次に②に関しては、これは①と絡むのですが、損益だけでなく、事業の資産・負債まで責任を負う以上、カンパニー長はいわば独立した法人の社長と同じことになりますので、バランスシートに関する権限とともに責任も負うという点ではないでしょうか。つまり、ROA、ROIC(=営業利益÷投資資本(%))、総資産回転率など資産に対する収益との観点の経営責任を負うことになります。ただし、社内カンパニーの運用は企業によって様々ですから一概にこのように言えるわけではありません。

では、次に社内カンパニーが分社化する狙いはどこにあるのでしょうか。

一番大きな点は、事業の売却など再編がしやすくなるという点かと思います。

社内カンパニーは、法的にはあくまでも会社の中の事業部門に過ぎませんので、売却の際には事業譲渡という煩雑な手続きを経る必要があります。一方、分社化して子会社にしておけば、売却の際には株式を売却するという簡単な手続きで足りるのです。そもそも社内カンパニーでなくても、社内の事業部門を切り離して、別法人とする例も沢山見られますが、これらは多くのケースで将来において、売却も選択肢の1つに入れているはずです。

ちなみに、東芝の社内カンパニーの分社化(会社分割)に関するプレスリリースを読みますと、3点ほど書いてありますが、新規事業展開を含めて事業価値最大化に集中する、事業責任を明確化するため直接子会社とすることでガバナンスを強化するなどとあります。

新規事業展開というキーワードに着目すると、新事業に関してアライアンス等を行う際に分社化して、独立した法人としておくことが迅速に出来るということが背景にあるのかも知れません。

民事再生法と会社更生法(タカタの報道を受けて)

既に新聞などで大きく報道されていますが、エアバック等の自動車部品メーカーのタカタが民事再生法の適用申請を検討しているとのことです。

経営難に陥った企業の再生方法としては、法的には民事再生法会社更生法がありますが、この2つの制度の大まかな概要について簡単にポイントのみを説明したいと思います。

他に私的整理といって金融機関などの大口債権者と個別に協議して再生を図る手法もありますが、これは特にルールに則るものではないので説明は省略いたします。

結論からいいますと、民事再生法の方が再建を目指す会社の経営陣には有利ということになりますが、大きな違いは、次のとおりになります。


① 管財人の選任

民事再生法では、管財人を選任することなく会社の経営陣が主導的に再建にあたります。一方、会社更生法では、管財人が選任され、管財人が主導して再建にあたります。

② 再生計画の承認

 民事再生法では、再生計画について、債権者の人数の過半数(数の過半数)と債権額の合計の過半数(金額の過半数)の債権者の賛成を得る必要があります。一方、会社更生法では、金額の過半数の賛成で足りることになります。

要するに、会社が主導的に会社再建を進めるには、会社サイドは民事再生法を採用したいということになります。破産管財人とは裁判所が選任する弁護士になりますが、面倒な裁判所が絡むし、またそもそも管財人である弁護士は、当然ですがビジネスは素人ですので、再建についての手続が煩雑になるという点でデメリットがあります。

ただし、民事再生法は、債権者数の過半数の同意が必要になりますので、特定の大口債権者だけでなく、債権額の小さい債権者も含めた多くの同意を得る必要があるので、会社に都合のよい再生手法である代わりに、多くの債権者の了解を得なければなりません。

タカタのケースでは、今後再建計画を作成して債権者の承認という手続きを経ることになっていくと思いますが、債権者の承諾が得られない場合には、民事再生法を適用できないという事態もあり得ますので、今後どうなるのか関心のあるところです。

スチュワードシップ・コードとは?

2017年5月29日に金融庁からスチュワードシップ・コードの改訂版が出ました。

2014年2月に金融庁がスチュワードシップ・コードを制定して3年後に改訂を行うということで、今回改訂版が出たことになります。

スチュワードシップという言葉はここ数年新聞等でよく出てきますので、目にする方も大変多いと思います。ではスチュワードシップ・コードとは何でしょうか?

スチューワードシップ・コードとは上場企業に投資をする機関投資家に対する行動規範を纏めたもので、具体的には、機関投資家はアセットオーナーから金を預かり、それを上場企業に投資して運用していますが、投資しっぱなしではなく、積極的に企業サイドと対話をして投資先企業の中長期的成長を支え、ひいては、アセットオーナーの利益を図るようにしなさいというものです。

今回の改訂の大きなポイントは次のとおりです。
①運用機関のガバナンス強化
②パッシブ運用における企業との対話の充実
機関投資家の議決権の個別開示の充実

①は、運用機関は大手の金融機関のグループ会社であるケースも多いのですが、その場合、親会社である金融機関と企業との関係を考慮して(借入先金融機関は企業の安定株主となります)、株主総会の議決権行使に当たって会社提案になんでも賛成するのではなく、機関投資家のアセットオーナーの利益を考えて、適切な議決権行使をするよう機関投資家のガバナンス体制を強化すべきというものです。要は企業との馴れ合いを防止するということです。

②は、機関投資家はパッシブ運用においても企業との対話をきちんと行うようにしないというものです。パッシブ運用とは、株価指数に連動させて投資を行う運用です。反対言葉にアクティブ運用があります。

③は以前にブログでも何度か書いていますが、議決権の行使結果を個別企業毎に開示しなさいというものです。

最近、3月期決算企業の株主総会が近づいていることもあり、機関投資家の議決権の個別開示の記事がかなりの頻度で新聞に掲載されていると思います。本日の日経新聞でも三菱UFJ信託銀行の個別開示の記事が出ていました。

スチュワードシップ・コードは投資サイドである機関投資家に要求されるものですが、結局は発行体である企業と対話する必要があるのですから、企業としても積極的な対話が求められることになります。

積極的な対話を行うことで自社を良く理解してもらい、これが場合によっては株価の向上につながりますし(ただし、株価の変動はあくまでも基本は業績です)、また、最近話題のアクティビストが会社に提案をした時に、その内容が株主の利益を毀損するものである場合には会社がそれを説明して、会社側に立つ味方の株主を増やすという観点からも非常に大事になってきます。

資本市場との対話を行う部署としては、多くの上場企業ではIR部門がありますが、IR部門の主たる業務は、アナリストを対象にしての決算説明が中心になります。今後はIR活動において、従来の数値説明に加えて、より幅広い企業全体の情報を提供することが求められるように思われます。

つまり製品やサービスを顧客に説明して購入して貰うのと同様に自社をアピールして投資家に理解してもらうという一種の宣伝・PRを行う業務が今後は益々重要になってくると思われます。

企業のネットキャッシュが増加

6月9日の日本経済新聞によれば、企業のネットキャッシュが増加しているとのことです。ネットキャッシュとは、純現金で、次のとおり算出されます。

ネットキャッシュ = 現預金+短期保有有価証券-有利子負債

ざっくりといいますと、現預金は、バランスシート(BS)の資産の部又はキャッシュフロー計算書にある「現金及び現金同等物」、「有価証券」であり、有利子負債とはバランスシートの負債の部にある「短期借入金」「長期借入金」「社債」などになり、有価証券報告書の後ろの箇所に借入金等明細表があるので、そこの数値になります。要するに保有する現金(キャッシュ)から借金を引いた数値ということです。

ネットキャッシュが増加するということは現預金が増えたということで、新聞報道によれば、増加したことにより、配当や自社株取得に踏み切る企業が多くなるということです。ちなみに自社株取得とは株主が保有する自社の株式を買取ることで、対価として株主に金銭を支払うことになりますので、配当と考え方は同じです。


この記事に関連して配当の基本的な事項について、少し考えてみたいと思います。

 

配当を行うには、基本的にはバランスシートの純資産にあります繰越利益剰余金がその上限になります。この繰越利益剰余金は、毎期の損益計算書(PL)の当期純利益がここに蓄積されることになります。この繰越利益剰余金のことを内部留保といいます。

では、内部留保が100あったとした場合、これは全て配当できるのでしょうか。

ここで、現預金との関係を考える必要が出てきます。実際に配当として株主に支払われるのは現金になります。従って毎期の利益が蓄積して繰越利剰余金が仮に100となっても、現金が30の場合には100の配当はできません。利益が蓄積して繰越利益剰余金が100となり、一旦現金が100となっても企業が、例えば設備投資をして70で有形固定資産を購入した場合には、現金は30となります(現金勘定が減り減った部が有形固定資産勘定に移ります)。このように「繰越利益剰余金=現金」ではないのです。

内部留保を取り崩して配当を増やせ」という新聞・雑誌記事を見かけ良く理解をしていない方は、「この企業はこんなに内部留保があるのか。これは配当して貰う必要があるな」と考える人もいるかも知れませんが、この話の前提には上の議論があることを理解しておく必要があります。

なお、今回の新聞報道では、純粋に現金が増えたということですので、当然増えた分は、繰越利益剰余金を上限としてその範囲内で配当はできます。ただし、現預金が100、繰越利益剰余金が50となった場合(あまり想定し難いかも知れませんが借入をして現金が増えたような場合でしょうか)には50が配当の限度になります。

以上、財務・経理やIR部門の方にとってはイロハのイのような初歩的な内容ではありますが、数値を扱わない部門の方は理解されていない方も多いと思いますので書いてみました。

米英投資家による日本企業向けの集団的エンゲージメント活動

6月9日の日本経済新聞で、米国最大の公的年金と英運用3社が日本企業への統治改革への働きかけで共同歩調をとり、社外取締役の数を全体の3分の1以上にすることを要請し、これに応じない企業には、株主総会での役員選任議案に原則反対票を投じるという記事がありました。


東証の方針では「2人以上」の社外取締役を要請していますが、日本国内の機関投資家も3分の1以上の社外取締役の設置を要請するところも多いです。なお、今回、この海外4社の日本株保有額は4兆円を超えるとのことで、企業にとっては関心の高い話題かと思います。

上場企業の中で、外国人比率が30%を超えていくような企業は、今後、社外取締役を3分1以上選任しておかないと、取締役及び監査役の選任議案の海外投資家家の反対が増え、この動きに他の国内機関投資家も賛同するということになりますと、議案の賛成(50%以上の賛成率)の確保も難しくなる懸念があります。

とすると、単純に考えると3分の1以上になるように社外取締役を選任しておくということが必要になります。

もう1つ考えられることは、現在の社外取締役の員数はそのままで、社内取締役の員数を減らすということがあるかと思います。

そもそも、売上高が数百億円から2,000~3,000億円程度の規模しかないのに、取締役の数が売上高数兆円規模の超大企業と同等の員数の取締役がいるという会社も見たことがあります。しかし、現実には、この規模の企業であれば、取締役の員数は一定数減らしても業務にはまず支障はないとい言えます。

より具体的にいうと、そもそも取締役の員数がどうして多いのかということは(会社法上は最低3名いればよいとされています)、取締役の椅子をある程度用意して、頑張ればこの椅子に座れるということで従業員に業務に邁進するインセンティブを与えることが目的の1つであり、実のところはある程度減らしてもまったく業務には支障はないと思います。ただし、あまりに減らすとインセンティブが働かなくなり、業務に邁進する力が弱くなるという懸念はあります。

さて、話が少し脱線しましたが、記事によれば、日経平均株価を構成する225社の企業のうち、3分の1以上の社外取締役を充たす企業は40%ということです。したがって、残り60%の企業は今後対策必要になってくるかも知れません。

6月12日週前半に日本の企業統治改革に向けた具体的要請内容を共同公表するということですので、その内容を見て気になる箇所があれば継続して見ていきたいと思います。

M&Aによるデータ集中も企業結合審査の対象になる

6月7日の日本経済新聞で、公正取引委員会公取委)がM&Aの企業結合審査においてこれまでのように市場シェアの観点の審査をするだけでなく、企業活動に有益なデータが過度に集中しないかもチェックする考えを指針に盛り込むとの記事がありました。

まずは、そもそもどうして市場シェアが高くなるM&Aは規制されるのでしょうか。日本のみでなく各国ともM&Aの際には、同様の規制があります。

市場シェアが高くなると当該企業の市場での地位が強くなり、結果、市場競争が働かなくなり、顧客が高い値段で製品・サービスの供給を受けることになるのが許容されないということです。

要するに同じ市場シェアの企業が競争していれば、各社とも市場競争をすることになり、製品・サービスを受ける顧客にとってよいことなのですが、M&Aという手法で圧倒的に市場シェアの高い企業が出現することになると(M&Aでなく通常の市場競争で他社シェアを奪い、シェアが高くなった場合は当然に許容されます)、市場競争が働かなくなり、結果、顧客が不利益を被るので許されないというものです。

今回、これにプラスしてM&Aによって特定企業のデータが集積する場合も規制されることになる模様です。

昨今、人口知能(AI)によって膨大なデータが分析できるため、大量の情報を保有する企業は、それを簡単に分析しビジネスに繋げて市場での優位性を確保できます。

とすると、市場シェアが高まる場合と同様に、市場での圧倒的な勝者となり、つまり市場シェアが高まることと結局は同じことになり、顧客が不利益を被る可能性が出てしまうので規制しようということが趣旨かと思います。

公取委のHPを見たところ、方針が掲載されておりましたので、後で読んで気付いたところがあれば、また後日書いてみたいと思います。

アクティビストにとってプラス材料となる機関投資家の議決権個別開示


数日前の日経新聞金融庁機関投資家向けの議決権の個別開示の規範を決めたという記事がありました。

議決権行使の個別開示とは、国内機関投資家は株式を保有する会社の株主総会の議案に対して賛否表示をした結果について、会社別及び議案別に賛否の開示しなければならないというものです。

議決権個別開示が企業サイドに及ぼす影響は色々とあるかと思いますが、留意すべき事項の1つは、個別開示がいわゆる株主アクティビストにプラスに働くように思えます。
つまり、アクティビストとは、新聞報道で良く目にするオアシスマネジメントやサードポイント、エフィッシモキャピタルマネジメントなどがこれに該当しますが(勿論これ以外にも沢山存在します)が、要するに、少数の株式を取得して他の一般株主の賛同を得て、役員選解任、増配、事業売却、他社とのアライアンスなどを会社に積極的に提案する株主のことをいいます。最近の例ですと、村上ファンド系のエフィッシモキャピタルマネジメントが東芝の株式を取得したケースが記憶に新しいかと思います。

ここでどうしてプラス材料になるかといいますと、まず株主総会の議案は、通常は取締役会が決定する会社提案がほとんどですが、会社法上は、一定比率の株式を保有する株主も議案を提案できます。株主提案といいます。アクティビストも当然に株主提案を行うことになります。


単純な例をあげますと、株主総会において会社サイドは、議案として「1株5円の配当」を提案するとします。一方で、アクティビストは、「1株10円の配当」を株主提案したととします。これに対して、株主総会において、株主である機関投資家はいずれかの議案に賛成をすることになり、この結果が開示されます。
これまでは、個別開示はなかったので会社との付き合いもあり、会社との関係を考慮して会社提案に賛成票を投じることもあったかも知れません。しかし、今後は個別開示という「見える化」の中、仮に会社提案に賛成した場合、何故少ない配当の議案に賛成票を投じたのかをアセットオーナーに説明することが求められます。

会社が繰越利益準備金及びバランスシートの現預金が十分になり、手元流動性比率(現預金÷月商)も数ヶ月ある、いわゆる「キャッシュ・リッチな企業」であれば、1株10円の配当議案に賛成しないとアセットオーナーは納得ししないと思います。このため、機関投資家は、株主提案に賛成をすることになるのです。このように、個別開示は、理論的な要求を行ってくるアクティビストにとっては追い風となるので、日本企業としては、株価の低い企業などはアクティビストの要求に応じざるを得なくなるケースが今後はこれまで以上に高くなるようにも思えます。

では企業サイドはどうすれば良いかですが、株価を上げるということも言われますが、アクティビストは数パーセントの株式取得にとどまるケースも多いので株価を上げたところで、資金の潤沢なアクティイストの出現防止にはあまり効果はないと思います。また、買収防衛策の導入ということもありますが、通常は発動の条件を15%~20%以上の株式取得をしているケースがほとんどで数パーセントの株式を取得して、会社に要求してくるアクティビストには発動できません。

となると、自社が市場からどのように見えているかをきちんと認識して、市場の考えにそぐわないようであれば訂正する、または市場の評価と異なる事項についてきちんと理論武装をして(キャッシュリッチであればそれは買収や将来の成長投資の資金である等を明確にする)常日頃からしておくことがいざという時の対応として大事になってくるように思います。